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2017年日本図書館情報学会発表スライド
1.
1 大学での情報リテラシー教育をめぐる 論点および課題についての一考察 京都大学大学院教育学研究科 博士後期課程1回生 飯尾 健 2017年11月4日 第65回日本図書館情報学会研究大会(椙山女学園大学)
2.
本日の発表内容 2 背景と目的 情報リテラシー教育をめぐる論点の検討 1.大学教育の動向 2.情報・メディア環境の変化 3.情報リテラシー教育の理論的・実践的蓄積の動向 論点の整理 情報リテラシー教育の課題 今後の課題
3.
本日の発表内容 3 背景と目的 情報リテラシー教育をめぐる論点の検討 1.大学教育の動向 2.情報・メディア環境の変化 3.情報リテラシー教育の理論的・実践的蓄積の動向 論点の整理 情報リテラシー教育の課題 今後の課題
4.
背景と目的 4 大学における情報リテラシー教育は、 取り組みとしては定着したと考えられる(井上, 2012) 平成28年度学術情報基盤実態調査(文部科学省, 2017)より発表者作成 全国の大学の94.7%で何らかの情報リテラシー教育を実施 実施大学数
母数 実施率 国立大学 85 86 98.8% 公立大学 83 88 94.3% 私立大学 569 604 94.2% 計 737 778 94.7% 実施大学数=いずれかの内容の情報リテラシー教育について「全学生に対して 実施」した数+「一部・希望者に対して実施」した数
5.
背景と目的 5 しかし、情報リテラシー教育の実施主体は大学図書館のみ ではない(坂本, 2017) 情報処理 関係施設 学部・研究科 研究所
図書館 その他 複数組織で 実施 国立大学 51 45 1 26 34 47 公立大学 8 56 0 8 28 15 私立大学 38 147 2 30 37 49 計 204 491 11 128 189 229 割合 26% 63% 1% 16% 24% 29% 平成28年度学術情報基盤実態調査(文部科学省, 2017)より発表者作成 情報リテラシー教育は、すでに大学図書館の範囲を超えて 全学的に取り組むものとなっている
6.
背景と目的 6 これからの情報リテラシー教育は、全学的な取り組みの中で 大学図書館が自身の役割を明確にした上で 他の部局との分担・協働をふまえ計画・実施するものへ 大学で求められる情報リテラシー教育とは何か?を あらかじめ大学図書館も考え、提言する必要がある 現在、大学図書館は資料の貸し出しと自主学習のスペースと してしか機能していない? (飯尾, 2017b) 存在感を示すためにも、大学図書館がイニシアチブを 47 31 74 96 0 50 100 150 1
2 3 4 自習をする 37 48 93 70 0 50 100 150 1 2 3 4 図書の貸し出し 158 47 37 6 0 50 100 150 1 2 3 4 レファレンス 133 53 42 20 0 50 100 150 1 2 3 4 IL講習会への参加
7.
背景と目的 7 本研究では、この 大学で求められる情報リテラシー教育とは何か? を考える上での示唆を与えるため、 3つの視点から情報リテラシー教育に関する論点を 提示・整理することを通じて、 情報リテラシー教育の課題を提示することを試みる 大学で 求められる 情報 リテラシー 教育 情報 リテラシー 教育の 課題1 課題2 課題3… 情報 リテラシー 教育に関する 論点1 論点2 論点3… 情報 リテラシー 教育 視点Aからの論点 視点Cからの論点 視点B からの 論点
8.
背景と目的 8 大学の情報リテラシー教育の課題を考えるための3つの視点 1. 大学教育の動向 (1)汎用的能力としての情報リテラシーの要請 (2)アクティブラーニングの積極的導入 (3)高大接続 2. 情報・メディア環境の変化 (1)情報を用いたコミュニケーションの重要性と情報モラル (2)インターネット上にある情報の信頼性の低下 3.
情報リテラシー教育の理論的・実践的蓄積の動向 (1)大学生の情報リテラシーの実態 (2)学生の「文脈」にもとづく情報リテラシー教育の重要性 (3)情報リテラシー概念の再検討
9.
本日の発表内容 9 背景と目的 情報リテラシー教育をめぐる論点の検討 1.大学教育の動向 2.情報・メディア環境の変化 3.情報リテラシー教育の理論的・実践的蓄積の動向 論点の整理 情報リテラシー教育の課題 今後の課題
10.
1. 大学教育の動向 10 (1)汎用的能力としての情報リテラシーの要請 情報リテラシーがこれからの社会を生きる上で分野を超えて 必要な能力と捉えられ、大学教育での育成が求められている 大学で身につけるべき学習成果に情報リテラシーが含まれる 例:「学士力」(中教審, 2008) 「教養を身に付けた市民として行動できる能力」 「知的活動でも職業生活や社会生活でも必要な技能」 「分野横断的に,我が国の学士課程教育が共通して目指す学習成果」 大学教育における学習成果の重視
(中教審, 2008) 「多様化・複雑化する課題に直面する現代の社会に対応し得る自立した市民」の 育成を目指す 知識基盤社会・情報社会、産業構造の変化や雇用の流動化に対応できる
11.
1. 大学教育の動向 11 (2)アクティブラーニングの積極的導入 認知プロセスの外化の重視 情報探索だけでなく、 活用・表現、 コミュニケーション能力 の育成も重要となる 授業外での調査・探究活動 も求められる 学習成果の達成に 必要な能力としての 情報リテラシーの必要性 定義(溝上, 2014) 一方向的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を 乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。 能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への 関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う
12.
1. 大学教育の動向 12 (3)高大接続 高校までの教育から大学教育へ一貫した形での能力育成 (中教審, 2014) 情報活用能力 知識・技能 思考力・判断力 表現力等 学びに向かう力 人間性等 情報リテラシー 高校までの情報活用能力と大学での情報リテラシーの接続、 大学での情報リテラシー教育も「資質・能力の3つの柱」 からの整理が求められる可能性
13.
2. 情報・メディア環境の変化 13 SNSの急速な普及 「人と人との協働を 媒介し」 「問題を解決」する可能性 (総務省, 2011) 情報モラルにおける課題 20代のインターネットでの 情報発信のマナーが低い (1)情報を用いたコミュニケーションの重要性と情報モラル 情報の発信・コミュニケー ション能力の育成は重要に 職業・市民生活の向上 自己実現につながりうる 20代が多数在籍する大学 での情報モラル教育の責任 0 10 20 30 40 50 20代
全体平均 正確な内容にする 人の感情を害さない 内容にする 人に非難されない内 容にする 責任が持てる内容に する 他人や企業に迷惑を かけない内容にする 情報処理推進機構(2016)より発表者作成
14.
2. 情報・メディア環境の変化 14 (2)インターネット上にある情報の信頼性の低下 Stanford History
Education Group(SHEG)の調査(2016)では、 ウェブ上の情報の真偽を見抜く若者の能力は低いという結果 フェイクニュース・まとめサイト等 SNS等で拡散されるのが特徴(藤代, 2017) 自分自身が翻弄されるだけでなく、拡散に加担してしまう 活字資料だけでなく、様々な形で遍在する情報を扱う能力、 とくに評価能力の育成は重要な課題
15.
3.情報リテラシー教育の 理論的・実践的蓄積の動向 15 (1)大学生の情報リテラシーの実態 情報の評価・活用能力に 困難を感じる(飯尾, 2017) 検索・引用 評価・活用 専門的な調査 単純な情報探索方略 (Warwick et
al., 2009) Google等、少数の情報源に 依存 容易に入手できる情報に 頼り、詳細な探索をしない 学習が専門的になるにつれ、成果達成の障害となる可能性 情報の評価・活用能力に加え、現在の学生の情報探索方略を 踏まえた情報リテラシー教育が必要
16.
3.情報リテラシー教育の 理論的・実践的蓄積の動向 16 (2)学生の「文脈」にもとづく情報リテラシー教育の重要性 情報リテラシー教育の内容・タイミングを学生の課題解決の 文脈に沿ったものにすることが重要 これまでの情報リテラシー教育への指摘 個別的・単発的(井上, 2012) 図書館業務の観点にとどまる(茂出木, 2014) 野末
(2014) 大学・学部・授業の文脈 によって必要な情報 リテラシーは異なる 達成すべき成果を 見据える必要がある 長澤 (2012) 学生の課題に応じて 内容をカスタマイズ 「教える好機」により 動機づけ・学習効果を 高める
17.
3.情報リテラシー教育の 理論的・実践的蓄積の動向 17 (3)情報リテラシー概念の再検討 ACRL『高等教育における情報リテラシーの枠組み』(2015) これまでの理論的な研究成果を反映 『能力基準』(ACRL, 2000)から大きく変化 関係論的アプローチ (e.g. Bruce,
1997) 情報リテラシーの文脈依存性を強調 メタリテラシー (Mackey & Jacobson, 2011) 情報リテラシー概念の拡張 主な特徴 能力指標ではなくコンセプトとして示す(小田, 2016) 情意面の強調(小田, 2016) 研究・調査の文脈を強調⇔生涯学習の側面がやや後退 情報リテラシー概念の大きな変化、日本にも影響しうる
18.
論点の整理 18 これまで提示された情報リテラシー教育の各論点は、 以下3点に整理されうる ①情報リテラシー概念に関する論点 汎用的能力としての情報リテラシーへの要請 学習成果を達成する能力としての情報リテラシー… ②情報リテラシー教育の範囲についての論点 情報活用能力との接続 図書館にとどまらないオンライン上の情報の利活用… 例: SNSでの情報発信・コミュニケーション ③情報リテラシー教育の内容に関する論点 評価・活用能力の重視 学生の文脈にもとづく情報リテラシー教育…
19.
本日の発表内容 19 背景と目的 情報リテラシー教育をめぐる論点の検討 1.大学教育の動向 2.情報・メディア環境の変化 3.情報リテラシー教育の理論的・実践的蓄積の動向 論点の整理 情報リテラシー教育の課題 今後の課題
20.
情報リテラシー教育の課題 20 情報リテラシー概念に関する論点 ①情報リテラシーをどのように捉えるか 情報リテラシーは2つの立場に分けられると考えられる これまでの情報リテラシーと『枠組み』が提示したもの これらをどう調停・両立させるか 汎用的な能力としての情報リテラシー 文脈に応じて異なる能力としての 情報リテラシー 市民生活・社会生活に必要な 情報リテラシー 調査・研究に必要な情報リテラシー 一連のプロセスとしての 情報リテラシー 情報へのアプローチの仕方としての 情報リテラシー これまでの情報リテラシー概念 『枠組み』による情報リテラシー概念 能力指標として示される (個別具体的な)情報リテラシー コンセプトとして示される (ホリスティックな)情報リテラシー
21.
情報リテラシー教育の課題 21 情報リテラシー教育の範囲に関する論点 ②どのような能力を情報リテラシー教育に含むか 情報リテラシーに含まれていなかった部分についても 類似する概念と比較検討していく 情報活用能力 ICTリテラシー等の「技術リテラシー」(山内, 2003) メディアリテラシー… 山内 (2003)を 発表者一部変更 情報リテラシー メディアリテラシー
技術リテラシー
22.
情報リテラシー教育の課題 22 情報リテラシー教育の内容に関する論点 ③どのように情報リテラシー教育を計画・実施・評価するか どの側面を重視するか 情報の評価、活用、発信・コミュニケーション能力… どのように計画・実施するか 学生の「文脈」をどう把握し、カスタマイズするか カリキュラムの把握 教員・学部とのつながり、協働するための仕組み作り
学生の情報探索行動の把握 どのように評価するか 日本での情報リテラシーの評価事例は少ない(飯尾, 2016) 多様な評価方法を開発し、実践することが必要 とくにパフォーマンス評価は今後重要となる
23.
本日の発表内容 23 背景と目的 情報リテラシー教育をめぐる論点の検討 1.大学教育の動向 2.情報・メディア環境の変化 3.情報リテラシー教育の理論的・実践的蓄積の動向 論点の整理 情報リテラシー教育の課題 今後の課題
24.
今後の課題 24 ①→②→③と段階的に解決することが必要 まず、問題となると考えるのは情報リテラシー概念の検討 教育学・情報学等の幅広い知見を活用していくことが必要 ①情報リテラシー概念 の検討 ②情報リテラシーの 範囲の検討 ③情報リテラシー教育 の検討 「学生の学習・研究の文脈にもとづき」かつ 「卒業後の生活における様々な文脈で汎用的に使える」 情報リテラシーとは? 社会的な要請 汎用性 社会生活・市民生活のための 情報リテラシー 研究からの知見
領域固有性(文脈に依存) 調査・研究のための 情報リテラシー
25.
参考文献① 25 ACRL (2000). Information
Literacy Competency Standards for Higher Education. (http://www.ala. org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/standards.pdf) ACRL (2015). Framework for Information Literacy for Higher Education. (http://www.ala.org/acrl/ standards/ilframework) Bruce, C. (1997). The seven faces of information literacy. Adelaide Auslib Press. 中央教育審議会 (2008)『学士課程教育の構築に向けて (答申)(http://www.mext.go.jp/compone nt/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2008/12/26/1217067_001.pdf) 中央教育審議会 (2014)『新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大 学教育、大学入学者選抜の一体的改革について (答申)』(http://www.mext.go.jp/b_menu/ shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2015/01/14/1354191.pdf) 藤代裕之 (2017)『ネットメディア覇権戦争: 偽ニュースはなぜ生まれたか』光文社. 飯尾健 (2016)「大学図書館による情報リテラシー教育における評価の検討--学習評価の構図 に基づいて--」『京都大学高等教育研究』22, 67-76. 飯尾健 (2017a)「大学生における学術情報リテラシーの習得傾向について : 潜在ランク理論を 用いた段階的評価の試み」『大学教育学会誌』39(1), 91-100. 飯尾健 (2017b)「学術情報リテラシーの習得に影響を及ぼす学習経験の検討―質問紙調査の 結果から―」『日本教育工学会第33回全国大会講演論文集』, 999-1000. 井上真琴 (2012)『大学図書館の学習支援』(http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/choken/2012/ 17.pdf)
26.
参考文献② 26 情報処理推進機構 (2016)『「2016年度情報セキュリティの倫理に対する意識調査」報告書』 (https://www.ipa.go.jp/files/000056564.pdf) 溝上慎一 (2014).
『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』東信堂. Mackey, T. P., & Jacobson, T. E. (2011). Reframing Information Literacy as a Metaliteracy. College & Research Libraries, 72(1), 62-78. 茂出木理子 (2014)「学習支援としての情報リテラシー教育: これまでとこれから」『大学図書 館研究』100, 53-64. 文部科学省 (2017)『平成28年度学術情報基盤実態調査 コンピュータ及びネットワーク編』(ht tp://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001086899&cycode=0) 長澤多代 (2012)「大学教育における教員と図書館員の連携を促すカスタマイズ型の学習支援: アーラム・カレッジのケース・スタディをもとに」『日本図書館情報学会誌』58(4), 185 -201. 野末俊比古 (2014)「情報リテラシー教育の「これまで」と「これから」: 図書館におけるいく つかの論点」『情報の科学と技術』64(1), 2-7. 小田光宏 (2016)「動向レビュー: ACRL高等教育のための情報リテラシーの「枠組み」―白熱 する議論に向けて―」『カレントアウェアネス』327, p.24-27. 坂本俊 (2017)「大学図書館における情報リテラシー教育の転換の必要性」『京都女子大学図 書館情報学研究紀要』4, p.17-23.
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