API Economy

1. APIエコノミーにおけるモジュール戦略について 2017年3⽉25⽇ NTTコミュニケーションズ株式会社海野⼤

2. M.UNNO API Economy APIとは 12017/3/25 APIの呼び出し戻り値 l API※とは，コンピュータシステムなどにおける複数のプログラム間の呼び出し規約（プロトコル）を仕様としてまとめたもの．アプリケーションプログラム（API公開元） • API仕様に従いコマンド等を送信してプログラムを呼び出し，機能（サービス）やデータ等の提供を受ける • 受信したコマンド等に従い処理を実⾏し，機能（サービス）やデータ等を提供する API アプリケーションプログラム（API利⽤者） ※ Application Program Interface

3. M.UNNO API Economy API公開の活発化 22017/3/25 l 通信やITの分野では以前からAPIが公開されていたが，公開先は限定されるのが⼀般的（元々はクローズドなシステム間の相互接続仕様だった）． l 近年は⼀般の事業会社も⾃社製品やデータベース等のAPIを積極的に公開． l 2000年代になって，eBay，Amazon，Google，Yahoo!，Saleforce.comなどのネットサービス事業者がwebAPIを⼀般に広く公開． l API公開の理由は，他企業がAPIを活⽤した新たなサービスを提供し，それらが⾃社の製品／サービスの付加価値となり，多くの顧客を引き付けることができるから．

4. M.UNNO API Economy （事例）寺⽥倉庫「minikura」 32017/3/25 l 預けたものを1点ごとweb上で管理し，出し⼊れできるサービス． l 多様な企業とのコラボレーションによりminikuraを拡販するためAPIを公開．モノや場所に縛られない生活モノや場所に縛られない生活月森氏は「クラウド収納という新しい文化を作りたい」と語る。「クラウド収納であれば、いつでもどこにでも収納物を届けられます。この文化が根付連携先・・・

5. M.UNNO API Economy （事例）みずほ銀⾏「⼀⽣通帳 by Moneytree」 42017/3/25 l FinTechベンチャーのマネーツリー社と提携し，「みずほダイレクトアプリ」にマネーツリー社の個⼈資産管理（PFM）アプリ「Moneytree⼀⽣通帳」の機能をシームレスに組み込み． l 登録したユーザは，以降の⼊出⾦明細を無期限で照会可能．

6. M.UNNO API Economy （事例）プジョーシトロエン「Car Easy Apps」 52017/3/25 Automotive embedded system: the way for automated driving My documents (0) My alerts Diary Home Featured Content Connected car PSA Peugeot Citroën on the road toPSA Peugeot Citroën on the road to connected cars of the futureconnected cars of the future Print page Share Add to cart Connected vehicle City Park Full Automatic Self-driving cars Qeo Car Easy Apps CO2 Cruise Assist Access and hands-free boot via a smartphone The digital revolution is barely beginning in the automotive industry. Today ca automotive embedded systems. Over the next few years, they will gradually b 2016/08/15 10:08 Car Easy Apps, software platform for creating a secure ecosystem of applications that can be connected to the user's vehicle ne apps. ps ependent developers to design apps compatible with kBerry, Windows Phone). It also includes a simulator reproducing on-road driving conditions. The aim of s with a view to bringing drivers the broadest choice service respects a comprehensive set of rules on Home Featured Content Connected car Car Easy Apps A software platform for creating anA software platform for creating an ecosystem of vehicle-connected appsecosystem of vehicle-connected apps Print page Share Add to cart Connected vehicle City Park Full Automatic Self-driving cars Smart Antenna Qeo Car Easy Apps CO2 Cruise Assist Looking for a parking space using the smartphone application Easy Car Apps Car Easy Apps is a software platform enabling software publishers to design an ecosystem of l スマートフォンアプリ開発者向けにコネクテッドカー実現のためのソフトウェア・プラットフォーム Car Easy Apps を提供． l センサーが集めた⾃動⾞の状態データ（燃費，運転パターン，アクセルやブレーキの操作等）をAPIを通じて収集可能． l 収集したデータを⾃動⾞のメンテナンス会社や保険会社などに提供し，新たなサービスを実現可能．

7. UBERが API公開元 UBERが API利⽤者 M.UNNO API Economy （事例）Uber（⽶国の配⾞サービス事業者） 62017/3/25 地図通話・SMS レストラン予約 API 旅⾏プラン⽐較配⾞サービスの呼び出し配⾞サービス提供配⾞サービスの呼び出し配⾞サービス提供 API API API API 決済呼び出しサービス提供

8. M.UNNO API Economy APIエコノミーとは 72017/3/25 l 公開されたAPIの利⽤が活発化するにつれ，単に⾃社サービスの付加価値のためだけでなく，API公開によって収益を上げようとする動きが活発化（公開したAPI⾃体が価値の源泉となる，という認識が拡⼤）． l APIエコノミー • APIの公開と利⽤という関係によって形成されたビジネス・エコシステムのこと． l 当初は無料で公開していたAPIを有料化する動き（Amazon，Google，Yahoo!等） l API連携を通じてキャッシュフローが回り始める

9. M.UNNO API Economy 82017/3/25 APIエコノミー内では多様なビジネスモデルが出現 l パターンA：サービス連携型（⾃社データの収益化） API公開元 API利⽤企業（サービスプロバイダー）ユーザサービス提供サービス提供利⽤料⽀払い利⽤料⽀払い l パターンB：サービス補完型（新サービスの開発・提供） l パターンC：レベニューシェア型（新規ユーザの獲得）レベニューシェア利⽤料⽀払い API公開元 API利⽤企業（サービスプロバイダー）ユーザサービス提供サービス提供補完サービス提供利⽤料⽀払い API公開元 API利⽤企業（サービスプロバイダー）ユーザサービス提供利⽤料⽀払い：API

10. API公開元 (サービス提供者) API公開元 (サービス提供者) M.UNNO API Economy （事例）Walgreens（北⽶のドラッグストアチェーン） 92017/3/25 l Walgreens（API公開元）とアプリ開発者（API利⽤者）間でレベニューシェア Developer Portal レベニューシェア API公開/SDK提供アプリ開発者（デベロッパー）アプリ開発アプリ提供アプリ利⽤，購⼊・・・顧客店舗（写真など）

11. M.UNNO API Economy ビジネスエコシステムとしてのAPIエコノミー 102017/3/25 動的平衡：APIキーストーン：API ：API接続：API利⽤企業キーストーンと少数のサービスプロバイダ⽴ち上げ期 APIキーストーン (API公開元) サービスプロバイダ (API利⽤者) 競争と淘汰サービスプロバイダが増加し，競争と淘汰を繰り返すキーストーンにとって必要なサービスブロック群が出揃うが，ブロック内ではプロバイダ間の競争が継続

12. M.UNNO API Economy モジュールとしてのAPIエコノミー 112017/3/25 l APIエコノミーのサービス群は，ユーザからは統合された⼀体的なサービスに⾒える．ユーザ APIエコノミー個別のサービス群の集合全体が1つのサービス l API連携されたサービス群は，モジュール構造を形成している考えることができる． l APIキーストーンはモジュール戦略をとっていると⾔える．

13. M.UNNO API Economy APIキーストーンのモジュール化戦略 122017/3/25 l モジュール化戦略の特徴 • システム全体の構造を変えることなく局所的な変⾰が可能 • 個々のモジュール専業企業による創意⼯夫が可能 • システム全体として最適なモジュールの組み合わせが可能 • 事業環境の不確実性が⾼いときに，環境変化に対するシステム全体の柔軟性が⾼まる l APIキーストーンが属する市場は，技術⾰新/ ビジネスモデル⾰新が活発で，事業の不確実性は⾼い • APIエコノミーを形成し，外部のサービスプロバイダに⾃社経営資源を活⽤したサービス開発を促す • 事業リスクを抑えつつ，多様なサービスの開発・提供が可能 • ビジネスチャンスは多いが，事業リスクも⾼く，⾃社開発のサービスが成功するとは限らない

14. M.UNNO API Economy APIキーストーンは事業の不確実性に伴うリスクを抑制できるが，⼀⽅で別のリスクに晒される 132017/3/25 ：APIキーストン企業：サービスプロバイダ：ユーザ：新たなキーストーン企業に変⾝：ユーザインタフェース l ⾃らのAPIエコノミー内のサービスプロバイダが有⼒なキーストーン企業に成⻑し，新たなAPIエコノミーが形成されて，⾃社のエコシステムが衰退・乗っ取りされるリスク．

15. M.UNNO API Economy APIエコノミー乗っ取りリスクへの対応 142017/3/25 l キーストーン企業の打ち⼿の1つは，将来脅威となり得るプロバイダのサービスを（脅威が顕在化する前に）⾃ら開発・提供すること．オプション1 事業の不確実性が⾼い期間は，APIを公開し，⾃社をキーストーンとするAPIエコノミーを形成オプション2 事業の不確実性が低下し，APIエコノミー乗っ取りへの脅威が⾼まり始めたら，⾃社の経営資源を活⽤して⾃らサービスを開発・提供 l これらの戦略オプションを数理モデルを⽤いて評価したい． l キーストーン企業には2つの戦略オプションがある．

16. M.UNNO API Economy APIエコノミー形成のオプション価値分析モデルの概要 152017/3/25 オプション1 オプション2 API機能の性能 /キャパシティ 𝐶 𝑡 設備投資によるAPI 機能の増分 𝐼 𝑡 API機能の減耗 𝛿𝐶 𝑡 性能をだけ向上させる費⽤ 𝐼 𝑡 𝜆𝐼 𝑡 API機能への投資にかかる調整費⽤ 𝑔 𝐼, 𝐶 API活⽤サービスの市場価値 𝑋 𝑡 サービス開発努⼒量 𝑎 𝑡 サービス価値の増分 𝑓 𝑎 𝑡 市場の不確実性（ブラウン運動） 𝑍 𝑡 開発努⼒の費⽤ ℎ 𝑎 𝑡 APIエコノミー形成のオプション価値（継続価値） Π 𝑋, 𝐶 サービスの市場価値 𝑋 𝑡 ⾃社開発の投資額 𝐾 ⾃社開発の価値 Ψ 𝑋

17. API機能の性能/キャパシティのダイナミクス M.UNNO Japan MOT Society 2016 Annual Conference APIエコノミー形成のオプション価値分析 162017/3/25 𝑑𝐶 𝑡 = 𝐼 𝑡 − 𝛿𝐶 𝑡 𝑑𝑡 𝐶 𝑡 ：API機能の性能/キャパシティ 𝐼 𝑡 ：設備投資によるAPI機能の増分 𝛿𝐶 𝑡 ：API機能の減耗性能をだけ向上させるのに要する費⽤ 𝜆𝐼 𝑡 𝐼 𝑡 API機能への投資にかかる調整費⽤ 𝑔 𝐼, 𝐶 ≔ 𝜗𝐼2 2𝐶

18. M.UNNO Japan MOT Society 2016 Annual Conference APIエコノミー形成のオプション価値分析 172017/3/25 API活⽤サービスの市場価値のダイナミクス 𝑑𝑋 𝑡 = 𝑓 𝑎 𝑡 𝐶 𝑡 𝑑𝑡 + 𝜎𝐶 𝑡 𝑑𝑍 𝑡 𝑋 𝑡 ：サービスプロバイダがAPI機能を活⽤して開発するサービスの市場価値 𝑎 𝑡 ：サービスプロバイダのサービス開発努⼒量 𝑓 𝑎 𝑡 ：サービスの価値の単位時間当たり増分 𝑍 𝑡 ：標準ブラウン運動開発努⼒に応じたサービス価値の増分市場の不確実性

19. APIキーストーンの最適化問題：APIエコノミー形成のオプション価値の最⼤化 M.UNNO Japan MOT Society 2016 Annual Conference APIエコノミー形成のオプション価値分析 182017/3/25 Π 𝑋, 𝐶 = max 𝑎,𝐼 𝔼 𝑎,𝐼 < 𝑒−𝑟 𝑠−𝑡 𝑓 𝑎 𝑠 𝐶 𝑠 − 𝜆𝐼 𝑠 − 𝑔 𝐼 𝑠 , 𝐶 𝑠 − ℎ 𝑎 𝑠 𝑑𝑠 ∞ 𝑡 subject to サービスプロバイダの開発努⼒に要する費⽤ ℎ 𝑎 𝑡 𝑑𝐶 𝑡 = 𝐼 𝑡 − 𝛿𝐶 𝑡 𝑑𝑡 𝑑𝑋 𝑡 = 𝑓 𝑎 𝑡 𝐶 𝑡 𝑑𝑡 + 𝜎𝐶 𝑡 𝑑𝑍 𝑡 API機能の性能/キャパシティのダイナミクス API活⽤サービスの市場価値のダイナミクス

20. APIエコノミーのオプション価値は以下のHJB⽅程式の解となる M.UNNO API Economy APIエコノミー形成のオプション価値分析 192017/3/25 rΠ 𝑋, 𝐶 = max 𝑎,𝐼 B𝑓 𝑎 𝐶 − 𝜆𝐼 − 𝑔 𝐼, 𝐶 − ℎ 𝑎 + 𝑓 𝑎 𝜕Π 𝑋, 𝐶 𝜕𝑋 + 𝐼 − 𝛿𝐶 𝜕Π 𝑋, 𝐶 𝜕𝐶 + 1 2 𝜎2 𝐶2 𝜕2 Π 𝑋, 𝐶 𝜕𝑋2 E . Π 0, 𝐶 = 0 Π 𝑋∗ , 𝐶 = 𝑋∗ − 𝐾 𝜕Π 𝑋∗ , 𝐶 𝜕𝑋 = 1 APIキーストーンが⾃らサービス開発するオプションが有利となる条件 Ψ = 𝑋 − 𝐾 ≥ 0 ：K は⾃社開発にかかる投資額 subject to

21. M.UNNO Japan MOT Society 2016 Annual Conference APIエコノミー形成のオプション価値分析 202017/3/25 等はC について（1次同次）収穫不変と仮定するΠ 𝑋, 𝐶 𝑖 = 𝜋 𝑥 −𝑥𝜋′ 𝑥 −𝜆 𝜃 𝑥 = 𝑋 𝐶⁄ Π 𝑋, 𝐶 = 𝐶𝜋 𝑥 𝑘 = 𝐾 𝐶⁄ 𝑖 = 𝐼 𝐶⁄ HJB⽅程式は以下のように簡単化できる subject to 𝑟 + 𝛿 π 𝑥 = max 𝑎 𝑓 𝑎 𝐶 + 𝜋 𝑥 − 𝑥𝜋′ 𝑥 − 𝜆 𝜃 − ℎ 𝑎 + 𝑓 𝑎 + 𝛿𝑥 𝜋′ 𝑥 + 1 2 𝜎2 𝜋′′ 𝑥 π 0 = 0 π 𝑥∗ = 𝑥∗ − 𝑘 𝜋′ 𝑥∗ = 1

22. M.UNNO Japan MOT Society 2016 Annual Conference APIエコノミー形成のオプション価値分析 212017/3/25 命題 APIキーストーン企業がAPI機能の提供を停⽌し⾃らサービスの提供を開始する時刻を 𝜏とする． 𝜋 𝑥 は 𝑡 ∈ 0, 𝜏 においてHJB⽅程式及び初期条件を満たし，かつ，時刻 𝜏においてバリュー・マッチング条件及びスムース・ペイスティング条件を満⾜するものとする．また，HJB⽅程式の右辺を最⼤化する開発量 𝑎 𝑡 が 𝑡 ∈ 0, 𝜏 において実⾏可能であるとする．このとき，開発量 𝑎 𝑡 はAPIキーストーン企業の最適化問題の解である． API活⽤サービスの市場価値を最⼤化するサービス開発努⼒量 𝑎 = argmax 𝑎U 𝑓 𝑎U − ℎ 𝑎U + 𝑓 𝑎U 𝜋′ 𝑥 𝑓′ 𝑎U − ℎ′ 𝑎U + 𝑓′ 𝑎U 𝜋′ 𝑥 = 0⟹ の解となる（証明は参考⽂献5などを参照）

23. M.UNNO API Economy 数値シミュレーション 222017/3/25 0 5 10 15 051015 x ValueFunction π(x) x* ψ(x) 𝜋 𝑥 はAPIエコノミーを形成するオプションの価値，ψ 𝑥 はAPIキーストーン企業⾃らサービス提供するオプションの価値， 𝑥∗ は両者が⼀致する点．数値例 𝑓 𝑎 = 𝑎, 𝜃 = 10, 𝜆 = 0.1, ℎ 𝑎 = 0.5𝑎2 + 0.5𝑎, 𝑟 = 0.1, 𝛿 = 0.05, 𝜎 = 1, 𝑘 = 2. ⾃社開発が有利となる領域 APIエコノミー形成が有利となる領域オプション1 オプション2

24. M.UNNO API Economy まとめ 232017/1/30 l APIエコノミーはハブとなるキーストーン企業とニッチ・プレイヤーであるサービスプロバイダからなるエコシステムであり，その内部はモジュール構造をとり，ユーザからはこれらが⼀体となったサービスが提供される． l APIエコノミー形成により，キーストーン企業は，モジュール戦略と同様に，事業リスクを抑制しつつ多様なサービスをユーザに提供できる． l ⼀⽅で，常にサービスプロバイダによってキーストーンのポジションをとって代わられるリスクにも晒される． l APIエコノミーの形成は事業の不確実性に対応する戦略オプションの1つである．

25. M.UNNO API Economy 参考⽂献 242017/1/30 1. Iansiti,M. and Levien, R.; “The Keystone Advantage”, Harvard Business School Publishing Corporation, 2004 2. ⻘⽊昌彦; 「産業アーキテクチャのモジュール化-理論的イントロダクション」, ⻘⽊昌彦，安藤春彦編著「モジュール化」,東洋経済新報社，2002 3. Baldwin,C. and Clark, K.;“Design Rules: The Power of Modularity”, MIT Press, 2000 4. Dixit,A.K. and Pindyck,R.S.; “Investment under Uncertainty”,Princeton university Press,1994 5. 海野⼤，シュウファ;“インターネット市場におけるレイヤ間収益配分とISPの投資インセンティブ”,電気学会論⽂誌Ｃ, vol.131, no.4,pp.918-925,2011

26. M.UNNO API Economy 252017/3/25 ご清聴ありがとうございました

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