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Chapter 20
Three approaches to individual
differences in affect regulation
:Conceptualizations, measures,
and findings.
Oliver P. John & Joshua Eng
Handbook of Emotion Regulation (2nd)
pp. 321-345.
小林亮太 (2018.9.16作成)
◆小林亮太
・広島大学教育学研究科D1
・感情制御勉強会をふんわりと開催しています
➡http://rkoba1993.wp.xdomain.jp/research/hoer/
◆専門 (といいたいもの)
・感情制御
・内受容感覚と感情
・心のゆとり
先日開催された
学会のついでに
撮影した写真→
2
Section 1) 感情制御の基礎について
・ ・
Section 2) 感情制御の個人差を測定する尺度について
・感情制御の個人差
・感情制御の個人差の尺度の区分
Section 3) その他の感情制御の個人差測度について
Section 4) 対人的感情制御の個人差の尺度について
(簡単にまとめると…)
感情制御の「個人差」を測定する方法についてふんわりとまとめています
※Handbook of emotion regulation (2nd Ed.) 20章を参考にしてはいますが,
最近の論文に基づき内容を入れ替えたり,個人的好みが反映されていたりします。
結果的に20章とは大きく異なっているところもありますので,ご注意ください。
※コーピング研究,情動コンピテンス研究は調べが特に浅いです…。 3
▶ Readme ◀
こうした灰色背景の部分には,
現時点の小林の個人的な意見
や感想を書いています。間違
いがあるかもなので,参考程
度に見てやってください。
section1の内容である感情制御の基礎については,
Handbook of emotion regulation 1章に基づき,別の資料にまとめてあります。
詳細は,小林のサイトなど (http://rkoba1993.wp.xdomain.jp/hoer1/) をご覧ください。
Emotion regulation refers to shaping which emotions one has,
when one has them, and how one experiences or expresses
these emotions (Gross, 1998).
・ポジ / ネガ感情を強めたり,弱めたりすること
・感情制御の対象には,強度だけでなく,
感情の持続時間や生起も含まれうる
・自分だけでなく,他者の感情も対象になる (cf., section4)
・・・・・ ・・ ・・
➡(研究の比率を踏まえ) ネガティブ感情の強度を低減する
感情制御について言及していきます
(一部,ポジティブ感情の増大なども含みます)
5
Gross, J. J. (1998). The emerging field of emotion regulation: An integrative review. Review of General
Psychology, 2, 271–299.
◆
6
◆プロセスモデル
青林 2011 「感情制御の自動性」 を基に日本語訳を追加
◆distraction (気晴らし,気逸らし)
ネガティブでない対象に注意を移行する方略 (ネガティブ感情の場合)
e.g., 嫌な気分なので,散歩に出た
e.g., 仕事や課題に没頭する
◆cognitive reappraisal (認知的再評価)
感情や思考,刺激などの捉え方を変える方略
e.g., この失敗から学べることがあると考えなおす
e.g., ネガティブな出来事を客観的な視点で捉えようとする
◆expressive suppression (表出抑制)
感情的反応 (感情体験,生理変化,行動表出) を制御する方略
e.g., 不合格で落胆したが,それを表情に出さないようにした
e.g., プレゼントをもらって嬉しかったので,笑顔を (ある種誇張して) 示した
7(詳細は次のスライドにまとめています: https://www.slideshare.net/RyotaKobayashi2/1-87154652)
※まとめていく中で,個人的に少しわかりにくいなと感じたため,20章での個人差尺度の区分とは
異なる区分を用いています (20章では,個人差尺度をprocess measure, competence
measure, coping measureの3つに区分しています (Fig20.1, p323))。
◆感情制御の個人差
(A) 感情制御 の個人差 (tendency, frequency)
:どのくらい感情制御をするか?
e.g., ネガティブ感情体験時に,再評価を好む人もいれば,
抑制方略をより多く実施する人もいる
(B) 感情制御 の個人差 (competence, efficacy, ability)
:どのくらい上手に感情制御をできるか?
e.g., 認知的再評価をするにしても,上手く別の解釈をできる人と
苦手な人が存在する
(C) その他
・感情制御のレパートリー,柔軟さの個人差
cf., Heiy, J. E., & Cheavens, J. S. (2014). Emotion, 14, 878-891.
cf., Quoidbach et al. (2010) Personality and individual differences, 49(5), 368-373.
・感情制御の組み合わせの個人差 9
◆感情制御の個人差の尺度
(1) (20章ではprocess measureと記載されている)
:感情制御の方略ごとに検討を行うための尺度
e.g., ERQ: 再評価と抑制の使用傾向を方略ごとに測定する
(2) (20章,およびPreece et al. (2018) では,competence measureと記載されている)
:方略に拘らず,感情制御の結果に焦点を置く尺度
:(尺度が利用される研究領域の影響もあり) 感情の意識,認識などの間接的に
感情制御に影響する側面に関する下位尺度を含むことも
e.g., DERS: 感情制御の困難さを尋ねる
※この2つの区分はどちらかというとPreece et al. (2018) に近しい。
ただし,どこまでが方略尺度でどこからが包括尺度かについては明記されていない。
また,包括尺度は小林が適当に名前を付けてしまっています
Preece, D. A., Becerra, R., Robinson, K., Dandy, J., & Allan, A. (2018). Measuring emotion regulation ability across negative and positive emotions:
The Perth Emotion Regulation Competency Inventory (PERCI). Personality and Individual Differences, 135, 229-241. 10
◆感情制御の個人差の尺度
(1) (20章ではprocess measureと記載されている)
:感情制御の方略ごとに検討を行うための尺度
e.g., ERQ: 再評価と抑制の使用傾向を方略ごとに測定する
▼メリット
・方略ごとに使用傾向などを測定できるため,どのような方略が
適応的か,あるいは非適応的かを考えるときに有用
→基礎研究の知見を日常応用や介入に繋げやすい
▼デメリット
・方略尺度が作成されていない方略が無数に存在する
→この点を考慮しうるのが包括尺度
11
◆感情制御の個人差の尺度
(2) (20章,およびPreece et al. (2018) では,competence measureと記載されている)
:方略に拘らず,感情制御の結果に焦点を置く尺度
▼メリット
・方略に縛られないため,
日常的に利用されるちょっとした感情制御方略も考慮できる
・感情制御全体を捉えるため,その人が感情制御をよくするか,
あるいは得意とするかを把握するのに有用
(方略尺度では方略ごとにしか理解できず,個人の全体像は把握が難しい)
→介入するかどうかの判断にも使うことができる
▼デメリット
・包括尺度得点が高い or 低い場合,それが使用する方略に
よるのか,あるいは別の要因によるのかがわからない
→方略尺度と包括尺度の下位尺度によりいろいろ考えられる
※尺度がどこに区分されるかは,20章やPreece et al. (2018) にある程度基づいています。
それらに記載されていないものなどは小林が勝手に区分しています。ご了承ください。 13
方略尺度
包括尺度
傾向 能力
・ERQ
・WCQ
・TAC-24
・RSQ
・HFERST
・CERQ
・COPE
・RSS
・ERP-R
・ERQ追記版
・ERI
・DERS
・PERCI
・メタ・ムード尺度
・情動コンピテンス尺度
・RESE
・ESES
ERQ
◆Emotion Regulation Questionnaire (ERQ)
・Gross & John (2003) が作成した認知的再評価 (6項目) と
表出抑制 (4項目) の使用傾向を測定する尺度
・数多くの感情制御研究で使用されているという実績がある
・吉津他 (2013) により日本語版も作成されている
【項目例】
・私は,否定的な感情をあまり感じたくないときは,
その状況についての考え方を変える (再評価)
・私は自分の感情を表には出さない (抑制)
15
傾向×方略尺度
Gross, J. J., & John, O. P. (2003). Individual differences in two emotion regulation processes: implications for affect, relationships, and
well-being. Journal of personality and social psychology
吉津潤, 関口理久子, & 雨宮俊彦. (2013). 感情調節尺度 (Emotion Regulation Questionnaire) 日本語版の作成. 感情心理学研究
ERQ
◆Emotion Regulation Questionnaire (ERQ)
▼注意点
・表出抑制については,性差や文化差が確認されている
・再評価の下位区分 (e.g., 肯定的再評価positive reappraisal,距離化distancing)
が考慮されていない (cf. 榊原・石井, 2013, 榊原, 2014)
▼追記
・子どもや青年を対象とした Emotion Regulation Questionnaire for
Children and Adolescents (ERQ–CA) が作成されている
→日本語版は2018年現在では作成されていない (?)
個人的には,suppressionを測定するのには使いやすい尺度だと感じています。一方で,reappraisalの測定について
は広く測定したい場合には有用ですが,(現在の潮流のように) より詳細にreappraisalを測定していきたい場合には
CERQも視野に入るように思っています。また,ネガティブ感情項目とポジティブ感情項目が混在している点にも留意すべ
きだろうと感じています。
16
傾向×方略尺度
榊原良太. (2014). 再評価の感情制御効果と精神的健康への影響. 感情心理学研究, 22(1), 40-49.
榊原良太, & 石井悠. (2013). Emotion Regulation Questionnaire の再評価尺度 (ERQ-R) を再考する. 東京大学大学院教育学研究
科紀要, 53, 135-142.
ERQ
◆Emotion Regulation Questionnaire (ERQ)
17
傾向×方略尺度
cf., 20章
CERQ
◆Cognitive Emotion Regulation Questionnaire (CERQ)
・9つの認知的感情制御方略の使用傾向を測定する尺度 (各4項目)
→肯定的再評価 (reappraisal):私はその状況には前向きな側面もあると考える
→肯定的再焦点化 (distraction)
:私は経験したことに比べ,より好ましいことについて考える
→計画への再焦点化:私は自分にできる最善の策について考える
→受容:私は起きたできごとを受け入れなければならないと考える
→大局的視点:私はそのことがもっとひどい状況になったかもしれないと考える
→反すう:私は経験したできごとに対する感情についてたびたび考える
→自責:私は起きたできごとは自分に責任があると感じる
→他者非難:私は起きたできごとは他の人に責任があると感じる
→破局的思考:私は自分の経験したことがどれほどひどいものであるかについて考え続ける
※日本語版は榊原 (2015) から引用しています。
18
傾向×方略尺度
Garnefski, N., Kraaij, V., & Spinhoven, P. (2001). Negative life events, cognitive emotion regulation and emotional problems.
Personality and Individual differences, 30(8), 1311-1327.
榊原良太. (2015). 認知的感情制御方略の使用傾向及び精神的健康との関連. 感情心理学研究, 23(1), 46-58.
CERQ
▼注意点
・「私は…考える」という項目のため,下位尺度間の相関が強い
・下位尺度などはCOPE (後述) などに基づいている
・自責などを感情制御方略と捉えてよいのかという疑問が残る
・(項目を見ればわかるように) 精神的健康との間に正の相関を有する
適応的方略 (e.g., 肯定的再評価,気晴らし) と不適応的方略 (e.g., 反すう,
破局的思考) に区分される
▼追記
・短縮版が作成されている (各下位尺度2項目)
→日本語版については,榊原 (2017) が参考になります
reappraisalを測定するために「肯定的再評価」下位尺度,distractionを測定するために「肯定的再焦点化」下位尺
度をよく用いています。前者はreappraisalのうちポジティブに解釈し直す側面を切り取れていていいなと感じています。
後者についてはdistractionの認知的な側面だけになってしまうというデメリットはありますが,項目数も少なく使い勝手が
いいと感じています。他の尺度も頑健に精神的健康と正 or 負の関連が認められるため,適応的,不適応的感情制御を
広く測定したいときに有用だと思います。しかし,他者非難のようなあまり感情制御としてはメジャーではない方略を含ん
でいたり,下位尺度間の相関係数が大きいといった気になるところもあります。
19
傾向×方略尺度
榊原良太. (2017). 認知的評価は認知的感情制御と精神的健康の関連をいかに調整するか. 社会心理学研究, 32(3), 163-173.
CERQ
※精神的健康とCERQの関連については文化差あり
20
傾向×方略尺度
cf., 榊原 (2015)
適応的方略
cf., Omran, M. P. (2011). Relationships between cognitive emotion regulation strategies with depression and anxiety. Open Journal of Psychiatry
cf., Zhu, X., Auerbach, R. P., Yao, S., Abela, J. R., Xiao, J., & Tong, X. (2008). Psychometric properties of the cognitive emotion regulation
questionnaire: Chinese version. Cognition & Emotion, 22(2), 288-307.
◆自己の情動調整行動尺度
・野崎 (2013) による肯定的再評価,気晴らし,感情表出の3方略
を使用する傾向を測定する尺度
・面接に基づいて項目を作成している
【項目例】
・ネガティブな感情を和らげるために,その出来事をいい経験
だと思うようにする (肯定的再評価)
・ネガティブな感情を和らげるために,気晴らしになることを
する (気晴らし)
・ネガティブな感情を和らげるために,自分のネガティブな
感情を表に出せることをする (感情表出)
21
傾向×方略尺度
野崎優樹. (2013). 定期試験期間の自他の情動調整行動が情動知能の変化に及ぼす影響. 教育心理学研究, 61(4), 362-373.
▼注意点
・感情表出下位尺度を逆転処理して,表出抑制の尺度として取り
扱うことができそうだが,妥当なのだろうか?
・気晴らし,および感情表出尺度と精神的健康の関連が不明瞭
(小林が測定,N=167 (大学生,院生) の場合 ↓)
この尺度を使う利点の1つとして,野崎 (2013) では他者の感情を制御するための方略の使用傾向を測定する尺度も作成
しており,その尺度との対応付けがしやすいということが挙げられます。まだ使用研究が少ないので,今後データが重な
る中でERQやCERQとの差別化が可能になるのではと感じています。
22
傾向×方略尺度
肯定的再評価 気晴らし 感情表出
気晴らし .131 +
1.000
感情表出 .152 *
.255 **
1.000
K6 (精神的苦悩) -.250 **
-.103 -.032
SWLS (well-being) .306 **
.088 .101
**
p < .01,
*
p < .05,
+
p < .10
WCQ
◆Ways of Coping Questionnaire (WCQ)
・LazarusとFolkmanにより作成された尺度であり,
下位尺度として,Confrontive, Distancing, Self-Controlling,
Seeking Social Support, Accepting Responsibility, Escape-Avoidance,
Planful Problem Solving, and Positive Reappraisal (Folkman & Lazarus, 1988)
が存在する
▼注意点
・Positive Reappraisal には,項目 を見るとわかるように,
ストレス体験により (結果的に) 変化した評価 (を受け入れる
こと) も含まれている
→Grossのreappraisal (i.e.,出来事の意味を (積極的,能動的,意図的に) 変えようと
する) とは一致していない可能性がある
近年の感情制御研究では見かけない尺度。感情制御領域では,COPEが使用されることが多いように感じます。
23
傾向×方略尺度
“I was inspired to do something creative”; “I changed or grew as a person in a good way”
“I came out of the experience better than I went in”; “I found new faith”
“I rediscovered what is important in life”; “I changed something about myself”
COPE
◆COPE inventory
・ Carver et al. (1989) が作成したコーピング尺度
・日本語版 (短縮版含む) は大塚 (2008) で作成されている
・下位尺度: Planning, Active Coping, Mental Disengagement, Seeking Social Support—Instrumental,
Seeking Social Support—Emotional, Positive Reinterpretation and Growth,
Turning to Religion, Focus on and Venting of Emotion, Denial, and Alchol_Drug など
▼注意点
・reappraisal: Positive Reinterpretation and Growth下位尺度では,
肯定的再評価が測定されていると考えられる。
・distraction: Mental Disengagement (心理的諦め) 下位尺度。
ただし,睡眠が気晴らしに含まれている点は留意する必要あり
→飲酒,薬物下位尺度もdistractionに含まれる可能性あり
・2つのソーシャルサポート下位尺度には,
感情表出や感情焦点化 (気晴らしの逆) の項目が混在している
24
傾向×方略尺度
Carver, C. S., Scheier, M. F., & Weintraub, J. K. (1989). Assessing coping strategies: a theoretically based approach. Journal of
personality and social psychology, 56(2), 267.
大塚泰正. (2008). 理論的作成方法によるコーピング尺度--COPE. 広島大学心理学研究, (8), 121-128.
COPE
◆COPE inventory
▼追記
・個人差尺度では,一般的に,日常生活における普段の感情制御
傾向 (≒ 特性) を測定することが多い。
→COPEでは日本語の場合,教示文を変更することで,過去一定
期間内の実施傾向や過去のある時点から現時点までの実施傾向
を測定することも可能 (大塚, 2008)
COPEは,reappraisal,特に肯定的再評価を測定する場合には利用しやすい尺度だと思います。一方で,distraction
を測定する場合には少し考える必要があると思っています。というのも,distractionについては精神的健康を促進すると
する立場というか考え方 (こっちが感情制御的には主流) とむしろ精神的健康を阻害するという考え方が存在します。この
違いはおそらくdistractionをどう捉えるかというところによると考えています。前者の促進派はdistractionを意図的にネガ
ティブなものから意識を逸らすような積極的な方略と捉えますが (cf., Webb et al., 2012),後者の阻害派はdistractionを
回避的方略として捉えているようです。COPEはどちらかといえば回避的な方略としてdistractionを捉えているように感じ
ています。そのため,私は,distractionの測定にはCOPEではなく,CERQや野崎尺度を用いています。
25
傾向×方略尺度
大塚泰正. (2008). 理論的作成方法によるコーピング尺度--COPE. 広島大学心理学研究, (8), 121-128.
Webb, T. L., Miles, E., & Sheeran, P. (2012). Dealing with feeling: a meta-analysis of the effectiveness of strategies derived from the
process model of emotion regulation. Psychological bulletin, 138(4), 775.
TAC-24
◆Tri-axial Coping Scale (TAC-24)
・神村他 (1995) が作成し,鈴木 (2004) で妥当性が検討されている
(※神村他 (1995) の原著が確認できなかったため,
心理測定尺度集3巻を参考にしています)
・コーピング方略を
2 (問題–情動焦点) × 2 (接近–回避次元) × 2 (行動–認知次元)
の合計8種類に区分し測定する尺度。
→肯定的思考がreappraisalに相当し,気晴らしがdistractionに相当
▼注意
・肯定的思考下位尺度の項目 (e.g., 悪いことばかりではないと楽観的に考える) は
肯定的な「再解釈」だけでなく,楽観的思考の要素を含んでい
る点に注意
26
傾向×方略尺度
村栄一・海老原由香・佐藤健二・戸ヶ崎泰子・坂野雄二 1995対処方略三次元モデルの検討と新しい尺度(TAC-24)の作成
筑波大学教育相談研究, 33, 41-47.
鈴木伸一. (2004). 3 次元 (接近-回避, 問題-情動, 行動-認知) モデルによるコーピング分類の妥当性の検討. 心理学研究, 74(6),
504-511.
TAC-24
妥当性を横に置けば,わかりやすいモデルに基づいているため,説明がしやすいという利点があると思っています。ただ
上述のように reappraisalの下位尺度には楽観性的要素が混在しています。Shift-and-Persist Strategiesのような考え
方に基づけば,それらは (組み合わさることはあっても) やはり別物であり,区別すべきだと考えられます。そうであれば,
reappraisalをこの尺度で測定するのは理由がない限り推奨されないかもしれません。ちなみに,distractionについては
COPEほどではないものの,回避的方略としての側面を測定することが可能だと思われます。
傾向×方略尺度
▼反応スタイル理論: 抑うつの持続を説明するためのもの
・考え込み型反応: 抑うつ症状や原因,意味などへの注意の反復
・気晴らし型反応: 抑うつ症状などから一時的に注意を逸らす
→反すう方略,気晴らし方略の尺度として利用できる
◆Response Style Questionnaire (RSQ)
・考え込み (反すう),気晴らし傾向を測定する尺度
・日本語版 (名倉・橋本, 1999) においては,
気晴らし傾向と抑うつや精神的健康の間の相関がかなり弱い
ため,気晴らし尺度としての利用には注意が必要
・考え込み型反応,気晴らし型反応ともに下位区分の存在が
指摘されているものの,測定できていないという問題 (cf., 次スライド)
※子ども用尺度については村山他 (2014) があるようです
28
傾向×方略尺度
名倉・橋本 1999 考え込み型反応スタイルが心理的不適応に及ぼす影響について
村山他 2014 小学高学年・中学生用反応スタイル尺度の開発.
▼考え込み型反応の下位区分
・reflection: 気分や結果を具体的に考える。抑うつを低減する
・brooding: いわゆる反すう。抑うつ傾向などを高める
▼気晴らし型反応
・(一時的な) 感情緩和のための気晴らし (i.e., 一時的気晴らし)
・直面している物事や感情から逃げるための気晴らし (i.e., 回避)
◆ (松本, 2010)
◆Response Style Scale (RSS: 島津, 2010)
・いずれも上記下位区分を測定できる尺度
・松本尺度は回避的気晴らしが,島津尺度は一時的気晴らしが
抑うつと無相関である点を考慮する必要がある
CERQのpositive refocusing因子で測定されるdistractionは「認知的」なものであるが,上記2尺度では「行動的」
なdistractionを測定できる点が強みだと思います。また,両者に共通し,特に松本 (2010) で考察されているように,
distractionを回避を目的とした漠然としたものと,一時的な感情の緩和を図ることを目指した (比較的注意移行対象の明
確な) ものとに区分できている点はdistraction研究において重要だと思われます。
29
傾向×方略尺度
松本 2008 拡張版反応スタイル尺度の作成
島津 2010 反応スタイル尺度の作成と信頼性・妥当性の検討
◆Heidelberg Form for Emotion Regulation Strategies (HFERST)
・rumination, experience suppression, expressive suppression,
avoidance, activity and social support, reappraisal,problem solving,
acceptance の使用傾向を測定する尺度
・日本語版はまだ作成されていない
・他の尺度には含まれない方略やsuppressionを2種類測定できる
◆Emotion Regulation Profile-Revised (ERP-R)
・シナリオを提示し,どのような方略を用いるかを尋ねる測度
・フランス語版しか存在しない (?) ためシナリオが把握できない
・かなり多くの方略 (マイナー含む) を測定できるのが強み
30
傾向×方略尺度
Izadpanah et al 2017 Development and Validation of the Heidelberg Form for Emotion Regulation Strategies (HFERST): Factor
Structure, Reliability, and Validity.
Izadpanah et al 2017 Development and Validation of the Heidelberg Form for Emotion Regulation Strategies (HFERST): Factor
Structure, Reliability, and Validity.
※「能力」の前に (一応) とついているのは,その「能力」の測定が尺度によってなされているためです。 つまり,尺度では
能力そのものの測定が困難であるので,自身の能力に関する信念,あるいは感情制御の自己効力感を測定しています。
この点を踏まえ,(一応) と表記しています。
3232
ERQ
◆Goldin et al 2012
◆Kivity & Huppert 2016
・傾向を測定する尺度 (上記研究ではERQ) の文章に少し手を
加えることで,能力 (というか自己効力感) を測定する
【イメージ】
・ERQそのままの項目
→I control my emotions by changing the way I think about the situation I’m in.
→When I want to feel less negative emotion, I change the way I’m thinking about the situation.
・ERQ_自己効力感version項目
→How capable you are of using reappraisal when you want to control my emotions by changing the way I think …(略) ?
→How capable you are of using reappraisal when you want to to feel less negative emotion, I change … (略) ?
この方法は手軽に利用できるのがメリットです。また,既存の尺度を用いることができるので,reappraisal,
distraction,suppressionなどを狙い撃ちできるのも魅力です。しかし,一方で,先に述べたような既存の尺度の問題
点がそのまま指摘できてしまうので注意が必要だと考えています。
Goldin, Gross et al 2012 Cognitive reappraisal self-efficacy mediates the effects of individual cognitive-behavioral therapy for social
anxiety disorder.
Kivity & Huppert 2016 Does cognitive reappraisal reduce anxiety? A daily diary study of a micro-intervention with individuals with
high social anxiety.
(一応) 能力×方略尺度
3333
ERI
◆Emotion Regulation Interview (ERI)
・スピーチ課題,あるいは参加者が不安を感じる場面において,
プロセスモデルで想定される方略をどの程度行うか (傾向,頻度),
どのくらい不安を制御できたか (自己効力感)を尋ねる測度
・ERIによるreappraisal傾向,効力感とERQreappraisal下位
尺度の間には r = .30 程度の相関が認められている
・ERIによるdistraction傾向とRSQによるdistraction傾向の間
には, r = .25 の相関が確認されている
・reappraisal,suppressionの効力感ともに,健常者と比較
すると,不安障害者において小さいことも示されている
感情制御に関する自己効力感をスピーチ課題,自己関連不安場面において測定するものです。プロセスモデルで想定さ
れている方略を測定できるのは魅力だと思っています。また,傾向と(能力) を一度に測定することが可能であるため,そ
の両者を比較したいときにも有用だと感じています。
(一応) 能力×方略尺度
Werner, Goldin, Gross et al 2011 Assessing emotion regulation in social anxiety disorder: The emotion regulation interview
※傾向尺度と違い,能力と傾向に区分していないのは,包括尺度においてそうした区分が難しいためです。
この資料で包括尺度に区分されている尺度は,20章,およびPreece et al 2018では,(傾向ではなく) 能力尺度と想定さ
れているものがほとんどです。しかし,「(一応) 能力×方略尺度」のところでも書いたように尺度では,能力そのものを測定できず,
むしろ信念や効力感を測定していること,実際の尺度の項目や教示文を確認すると曖昧な表記があることを踏まえ,
この資料では,包括尺度については,傾向と能力の区分をしていません。
3535
DERS
◆Difficulties in Emotion Regulation Scale (DERS)
・Gratz & Roemer 2004 が作成,日本語版は山田・ 杉江 2013
・感情制御と精神的健康 (精神障害) の関連を検討するために作成,
「感情制御の困難さ (不全)」を測定する尺度
・感情制御そのものだけでなく,感情制御に間接的に影響する
要因 (e.g., 感情の認知) についても測定できる
【項目例】
・動揺しているときは,そうした状態が長く続くと思う (感情制御困難)
・動揺しているときに,気分を良くするためにできることは何もないと思う
(感情制御困難)
・自分の気持ちを理解するのは難しい (感情自覚困難)
包括尺度
Gratz & Roemer 2004 Multidimensional assessment of emotion regulation and dysregulation: Development, factor structure, and
initial validation of the difficulties in emotion regulation scale.
山田・ 杉江 2013 日本語版感情制御困難性尺度の作成と信頼性・妥当性の検討.
3636
DERS
◆Difficulties in Emotion Regulation Scale (DERS)
▼注意点
・ Gratz & Roemer 2004 は感情制御に重要な能力として,
1) 感情の認識,2) 感情の受容,3) 感情制御方略の利用,
4) 目標志向的行動 を想定している
→しかし,実際には6因子構造の尺度となっている
→一方で,日本語版については4因子構造となっている
包括尺度全般にいえることですが,大局的に,大枠で,感情制御と他の変数 (e.g., 健康,成績,友人) の関連を検討
する際に非常に有用だと思われます。また,感情制御に間接的に促進 or 阻害的影響を及ぼす要因を同時に測定できる
というのも効果プロセスを考える際に有効だと思っています。一方で,ある人が感情制御に優れる,あるいは劣ることが
示され,かつそれが間接的影響要因で説明できなかったときには,やはり方略にも目を向ける必要が出てくると思ってい
ます。介入の効果指標として包括尺度を用いることがもちろんできますが,そのときは方略尺度とどちらが適しているのか
を考える必要があると感じています (e.g., うつ病の規定因として感情制御困難を想定し,その困難さがCBTによって解消さ
れるかを検討する場合であれば,包括尺度 (e.g., DERS) が適している)。
包括尺度
Gratz & Roemer 2004 Multidimensional assessment of emotion regulation and dysregulation: Development, factor structure, and
initial validation of the difficulties in emotion regulation scale.
山田・ 杉江 2013 日本語版感情制御困難性尺度の作成と信頼性・妥当性の検討.
3737
PERCI
◆Perth Emotion Regulation Competency Inventory (PERCI)
・ERQなどの方略尺度では測定できる方略が限られるため,
感情制御の全体像の理解が難しい
・従来の包括尺度 (e.g., DERS) では,ネガティブ感情に焦点を
当てており,ポジティブ感情には目が向けられていない
→これらの点を踏まえ,作成した尺度
・ちなみに,Introductionが感情制御尺度のreviewとして便利です
【項目】
・When I'm feeling bad, I don't know what to do to feel better.
・When I'm feeling bad, I do stupid things.
・When I'm feeling good,
I don't have any useful ways to help myself keep feeling that way.
包括尺度
Preece et al 2018 Measuring emotion regulation ability across negative and positive emotions: The Perth Emotion Regulation
Competency Inventory (PERCI).
3838
◆Trait Meta-Mood Scale
(TMMS; Salovey, Mayer, Goldman, Turvey, & Palfai, 1995)
◆自己と他者に関する (鈴木他 1999)
・メタムード: 感情をモニタリングしたり,評価したり,
制御したりする過程
・鈴木尺度では,ネガティブ感情の認識,
ネガティブ感情を持つことへの不快感,
ネガティブ感情の制御という3因子が見出されている
→自己領域だけでなく,他者領域に関する項目も設けられている
【項目例】
・落ち込んだときでも,いいことを考えるように努める (制御)
・自分の不快な気持ちについて考えることがよくある (認識)
・不快感情を感じている自分はみじめだ (不快感)
包括尺度
Salovey et al 1995 Emotional attention, clarity and repair: exploring emotional intelligence using the trait meta-mood scale.
鈴木他 1999 自己と他者に関するメタ・ムード: 不快感情の調整過程に焦点を当てて.
3939
▼情動コンピテンス:自己と他者の情動を適切に同定および理解
した上で,情動を表現し,調整し,利用する能力 (野崎・子安, 2015)
→情動コンピテンス尺度の感情調整下位尺度が感情制御の
「包括尺度」として利用できる
情動コンピテンスについては,
この本を参考にしています→
◆情動コンピテンス尺度
→Profile of Emotional Competence 日本語短縮版 (野崎・子安, 2015)
→Emotional Intelligence Scale (WLEIS) 日本語版 (野崎, 2012)
→WLEIS 中学生版 (豊田・桜井, 2007)
→MSCEIT
包括尺度
野崎優樹, & 子安増生. (2015). 情動コンピテンスプロフィール日本語短縮版の作成. 心理学研究, 86(2), 160-169.
野崎優樹. (2012). 自己領域と他者領域の区分に基づいたレジリエンス及びストレス経験からの成長と情動知能の関連.
パーソナリティ研究, 20(3), 179-192.
豊田弘司・桜井裕子(2007).中学生用情動知能尺度の開発 教育実践総合センター研究紀要,16, 13–17
4040
▼情動コンピテンス:自己と他者の情動を適切に同定および理解
した上で,情動を表現し,調整し,利用する能力 (野崎・子安, 2015)
▼特徴 & 注意点
・上述のように感情制御だけでなく,感情認知や感情利用なども
測定することができる
・尺度によっては,「他者の感情」に関する下位尺度 (e.g., 共感,
対人的感情制御) も含まれている
情動コンピテンス尺度の利点の1つは↑のような感情に関連する広い領域を自己他者問わずに,少ない項目で測定でき
ることだと思います。一方で,情動コンピテンス尺度で「感情制御」や「共感性」,「感情の認識」のみを測定したい
ときには,なぜ,情動コンピテンス尺度で測定する必要があるのか? を考える必要があると思っています。というのも,感
情制御,共感,感情認識ごとにより多くの項目でもって測定を試みる尺度が豊富に存在するためです。情動コンピテンス
の強みは感情の認識や共有,制御といった感情に関する幅広い概念を包括的に理解できることだと思うのですが,その
強みは感情制御だけを検討するというときには活きてこないとも考えられます。情動コンピテンス尺度は幅広い範囲を網
羅するがゆえに,一点特化した尺度の方がよいのではないか? という批判をどのように回避するかを想定する必要がある
なと感じています。
包括尺度
4141
RESE
◆Regulatory Emotional Self-Efficacy Scale (RESE)
・感情制御に関する自己効力感を包括尺度的に測定する尺度
・ドイツ語版,トルコ語版はあるものの,日本語版はない (?)
・下位尺度
→ポジティブ感情の表出に関する自己効力感
e.g., Express joy when good things happen to you?
→怒り系ネガティブ感情の制御に関する自己効力感
e.g., Get over irritation quickly for wrongs you have experienced?
→distress系ネガティブ感情の制御に関する自己効力感
e.g., Keep from getting dejected when you are lonely?
包括尺度
Caprara et al 2008 Assessing regulatory emotional self-efficacy in three countries.
Gunzenhauser et al 2013 Self-efficacy in regulating positive and negative emotions.
Totan 2014 The regulatory emotional self-efficacy scale: Issues of reliability and validity within a Turkish sample group.
4242
ESES
◆Emotional Self-Efficacy Scale (ESES)
・情動コンピテンス (感情の認識,理解,利用,制御) に関する
自己効力感を測定する尺度
・上記4下位区分が想定されているものの,1因子尺度として
発表されている
・情動コンピテンス尺度のため,他者に関する項目も多い
【項目例】
・Change your negative emotion to a positive emotion (制御)
・Help another person to regulate emotions when under pressure (制御)
・Correctly identify your own positive emotions (認識)
・Generate the right emotion so that creative ideas can unfold (利用)
包括尺度
Kirk et al 2008 Development and preliminary validation of an emotional self-efficacy scale.
※尺度がどこに区分されるかは,20章やPreece et al. (2018) にある程度基づいています。
それらに記載されていないものなどは小林が勝手に区分しています。ご了承ください。 44
方略尺度
包括尺度
傾向 能力
・ERQ
・WCQ
・TAC-24
・RSQ
・HFERST
・CERQ
・COPE
・RSS
・ERP-R
・ERQ追記版
・ERI
・DERS
・PERCI
・メタ・ムード尺度
・情動コンピテンス尺度
・RESE
・ESES
reappraisal
能力測定課題
reappraisal
◆ McRae et al 2012
45
能力×方略尺度
McRae et al 2012 Individual differences in reappraisal ability: Links to reappraisal frequency, well-being, and cognitive control.
ネガティブ画像
(IAPS)
ニュートラル画像
(IAPS)
LOOK条件
(感情をそのまま
自然に感じながら
画像を見る)
DECREASE条件
(ネガティブ感情
を低減できるよう
に試みながら画像
を見る)
リラックス
時間
How negative
do you feel ?
1) not at all
5) somewhat
9) very negative 7秒
4秒
7秒
・ニュートラル×LOOK
・ネガティブ×LOOK
・ネガティブ×DECREASE
➡各15試行
reappraisal
◆ McRae et al 2012
▼reappraisal能力の指標
ネガティブ×DECREASE条件のときの感情得点
- (マイナス) ネガティブ×LOOK条件のときの感情得点
= reappraisal ability (RA)
▼他の指標との関連
・RA×ERQ_Reappraisal傾向: r = .24
・RA×Well-being: r = .34
46
能力×方略尺度
McRae et al 2012 Individual differences in reappraisal ability: Links to reappraisal frequency, well-being, and cognitive control.
reappraisal
◆ Troy et al 2010; Troy et al 2013
(1),ニュートラル映像 (3分)
→感情測定 (この研究では悲しみをターゲット感情としている)
(2),悲しみ映像A:注意深く映像を見るように教示 【統制教示】
→感情測定 (BASELINE)
(3),悲しみ映像B
→感情測定
(4),悲しみ映像C
→感情測定
47
能力×方略尺度
Troy et al 2013 A person-by-situation approach to emotion regulation: Cognitive reappraisal can either help or hurt, depending on
the context.
Troy et al 2010 Seeing the silver lining: cognitive reappraisal ability moderates the relationship between stress and depressive
symptoms.
(3),(4) のいずれかでは,
ネガティブ感情を低減するために,
状況をreappraisalしながら
映像を見るように教示 【reappraisal教示】
もう一方では,【統制教示】
reappraisal
◆Troy et al 2010; Troy et al 2013
▼reappraisal能力の指標
【reappraisal教示】映像を見たあとの悲しみ感情評定
- (マイナス) 悲しみ映像A後のBASELINE感情評定
= cognitive reappraisal ability (CRA_SAD)
【reappraisal教示】映像時のskin conductance response (Z得点)
- 悲しみ映像A時のskin conductance response (Z得点)
= cognitive reappraisal ability (CRA_SCR)
▼他の指標との関連 (Tab1)
・CRA_SAD×ERQ_reappraisal傾向: r = .12
・CRA_SCR×ERQ_reappraisal傾向: r = .21
48
能力×方略尺度
Troy et al 2013 A person-by-situation approach to emotion regulation: Cognitive reappraisal can either help or hurt, depending on
the context.
Troy et al 2010 Seeing the silver lining: cognitive reappraisal ability moderates the relationship between stress and depressive
symptoms.
◆reappraisalの個人差
・ERQ_reappraisal
・CERQ_positive reappraisal の2つが利用が多い印象です
◆distraction
・RSQ,RSSなどの尺度が使われているのを見かけます
(ただし,行動的distractionに限定される点に注意です)
・CERQ_positive refocusing
(認知的なdistractionの測定に利用できると考えています)
◆suppression
・ERQ_suppression が用いられることが多いと思っています
◆今後の予定 (今回できなかったこと)
・感情制御レパートリーに関する尺度の概観
・対人的感情制御 (interpersonal emotion regulation) 尺度の概観 49
▶コーピング
:ネガティブな感情を低減する制御に焦点を当てている
▶感情制御
:ネガティブ感情を低減することから,ネガティブ感情,
ポジティブ感情を増大することまで含む
➡感情制御の方が研究対象の範囲が広い
(Grossの述べている差異はこの点のみ)
➡かなりの方略が重複していることもあり,積極的に両者を区別
しようとする研究を見かけない (意義も微妙だと思われる)
※こうした研究範囲,およびプロセスモデルの守備範囲の広さ (感情生起過程の入力部
から出力部まで網羅している) ことが,感情制御研究の増大と,「感情制御」という
用語の曖昧さに繋がっているように感じる。
50
最後までご覧いただき,
ありがとうございます。
ご質問などありましたら,お気軽に小林
(rkoba1993 [@] gmail.com) までお問合せください。

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感情制御の個人差の測定方法 (第2回感情制御勉強会資料)

  • 1. Chapter 20 Three approaches to individual differences in affect regulation :Conceptualizations, measures, and findings. Oliver P. John & Joshua Eng Handbook of Emotion Regulation (2nd) pp. 321-345. 小林亮太 (2018.9.16作成)
  • 3. Section 1) 感情制御の基礎について ・ ・ Section 2) 感情制御の個人差を測定する尺度について ・感情制御の個人差 ・感情制御の個人差の尺度の区分 Section 3) その他の感情制御の個人差測度について Section 4) 対人的感情制御の個人差の尺度について (簡単にまとめると…) 感情制御の「個人差」を測定する方法についてふんわりとまとめています ※Handbook of emotion regulation (2nd Ed.) 20章を参考にしてはいますが, 最近の論文に基づき内容を入れ替えたり,個人的好みが反映されていたりします。 結果的に20章とは大きく異なっているところもありますので,ご注意ください。 ※コーピング研究,情動コンピテンス研究は調べが特に浅いです…。 3 ▶ Readme ◀ こうした灰色背景の部分には, 現時点の小林の個人的な意見 や感想を書いています。間違 いがあるかもなので,参考程 度に見てやってください。
  • 4. section1の内容である感情制御の基礎については, Handbook of emotion regulation 1章に基づき,別の資料にまとめてあります。 詳細は,小林のサイトなど (http://rkoba1993.wp.xdomain.jp/hoer1/) をご覧ください。
  • 5. Emotion regulation refers to shaping which emotions one has, when one has them, and how one experiences or expresses these emotions (Gross, 1998). ・ポジ / ネガ感情を強めたり,弱めたりすること ・感情制御の対象には,強度だけでなく, 感情の持続時間や生起も含まれうる ・自分だけでなく,他者の感情も対象になる (cf., section4) ・・・・・ ・・ ・・ ➡(研究の比率を踏まえ) ネガティブ感情の強度を低減する 感情制御について言及していきます (一部,ポジティブ感情の増大なども含みます) 5 Gross, J. J. (1998). The emerging field of emotion regulation: An integrative review. Review of General Psychology, 2, 271–299.
  • 7. ◆distraction (気晴らし,気逸らし) ネガティブでない対象に注意を移行する方略 (ネガティブ感情の場合) e.g., 嫌な気分なので,散歩に出た e.g., 仕事や課題に没頭する ◆cognitive reappraisal (認知的再評価) 感情や思考,刺激などの捉え方を変える方略 e.g., この失敗から学べることがあると考えなおす e.g., ネガティブな出来事を客観的な視点で捉えようとする ◆expressive suppression (表出抑制) 感情的反応 (感情体験,生理変化,行動表出) を制御する方略 e.g., 不合格で落胆したが,それを表情に出さないようにした e.g., プレゼントをもらって嬉しかったので,笑顔を (ある種誇張して) 示した 7(詳細は次のスライドにまとめています: https://www.slideshare.net/RyotaKobayashi2/1-87154652)
  • 9. ◆感情制御の個人差 (A) 感情制御 の個人差 (tendency, frequency) :どのくらい感情制御をするか? e.g., ネガティブ感情体験時に,再評価を好む人もいれば, 抑制方略をより多く実施する人もいる (B) 感情制御 の個人差 (competence, efficacy, ability) :どのくらい上手に感情制御をできるか? e.g., 認知的再評価をするにしても,上手く別の解釈をできる人と 苦手な人が存在する (C) その他 ・感情制御のレパートリー,柔軟さの個人差 cf., Heiy, J. E., & Cheavens, J. S. (2014). Emotion, 14, 878-891. cf., Quoidbach et al. (2010) Personality and individual differences, 49(5), 368-373. ・感情制御の組み合わせの個人差 9
  • 10. ◆感情制御の個人差の尺度 (1) (20章ではprocess measureと記載されている) :感情制御の方略ごとに検討を行うための尺度 e.g., ERQ: 再評価と抑制の使用傾向を方略ごとに測定する (2) (20章,およびPreece et al. (2018) では,competence measureと記載されている) :方略に拘らず,感情制御の結果に焦点を置く尺度 :(尺度が利用される研究領域の影響もあり) 感情の意識,認識などの間接的に 感情制御に影響する側面に関する下位尺度を含むことも e.g., DERS: 感情制御の困難さを尋ねる ※この2つの区分はどちらかというとPreece et al. (2018) に近しい。 ただし,どこまでが方略尺度でどこからが包括尺度かについては明記されていない。 また,包括尺度は小林が適当に名前を付けてしまっています Preece, D. A., Becerra, R., Robinson, K., Dandy, J., & Allan, A. (2018). Measuring emotion regulation ability across negative and positive emotions: The Perth Emotion Regulation Competency Inventory (PERCI). Personality and Individual Differences, 135, 229-241. 10
  • 11. ◆感情制御の個人差の尺度 (1) (20章ではprocess measureと記載されている) :感情制御の方略ごとに検討を行うための尺度 e.g., ERQ: 再評価と抑制の使用傾向を方略ごとに測定する ▼メリット ・方略ごとに使用傾向などを測定できるため,どのような方略が 適応的か,あるいは非適応的かを考えるときに有用 →基礎研究の知見を日常応用や介入に繋げやすい ▼デメリット ・方略尺度が作成されていない方略が無数に存在する →この点を考慮しうるのが包括尺度 11
  • 12. ◆感情制御の個人差の尺度 (2) (20章,およびPreece et al. (2018) では,competence measureと記載されている) :方略に拘らず,感情制御の結果に焦点を置く尺度 ▼メリット ・方略に縛られないため, 日常的に利用されるちょっとした感情制御方略も考慮できる ・感情制御全体を捉えるため,その人が感情制御をよくするか, あるいは得意とするかを把握するのに有用 (方略尺度では方略ごとにしか理解できず,個人の全体像は把握が難しい) →介入するかどうかの判断にも使うことができる ▼デメリット ・包括尺度得点が高い or 低い場合,それが使用する方略に よるのか,あるいは別の要因によるのかがわからない →方略尺度と包括尺度の下位尺度によりいろいろ考えられる
  • 13. ※尺度がどこに区分されるかは,20章やPreece et al. (2018) にある程度基づいています。 それらに記載されていないものなどは小林が勝手に区分しています。ご了承ください。 13 方略尺度 包括尺度 傾向 能力 ・ERQ ・WCQ ・TAC-24 ・RSQ ・HFERST ・CERQ ・COPE ・RSS ・ERP-R ・ERQ追記版 ・ERI ・DERS ・PERCI ・メタ・ムード尺度 ・情動コンピテンス尺度 ・RESE ・ESES
  • 14.
  • 15. ERQ ◆Emotion Regulation Questionnaire (ERQ) ・Gross & John (2003) が作成した認知的再評価 (6項目) と 表出抑制 (4項目) の使用傾向を測定する尺度 ・数多くの感情制御研究で使用されているという実績がある ・吉津他 (2013) により日本語版も作成されている 【項目例】 ・私は,否定的な感情をあまり感じたくないときは, その状況についての考え方を変える (再評価) ・私は自分の感情を表には出さない (抑制) 15 傾向×方略尺度 Gross, J. J., & John, O. P. (2003). Individual differences in two emotion regulation processes: implications for affect, relationships, and well-being. Journal of personality and social psychology 吉津潤, 関口理久子, & 雨宮俊彦. (2013). 感情調節尺度 (Emotion Regulation Questionnaire) 日本語版の作成. 感情心理学研究
  • 16. ERQ ◆Emotion Regulation Questionnaire (ERQ) ▼注意点 ・表出抑制については,性差や文化差が確認されている ・再評価の下位区分 (e.g., 肯定的再評価positive reappraisal,距離化distancing) が考慮されていない (cf. 榊原・石井, 2013, 榊原, 2014) ▼追記 ・子どもや青年を対象とした Emotion Regulation Questionnaire for Children and Adolescents (ERQ–CA) が作成されている →日本語版は2018年現在では作成されていない (?) 個人的には,suppressionを測定するのには使いやすい尺度だと感じています。一方で,reappraisalの測定について は広く測定したい場合には有用ですが,(現在の潮流のように) より詳細にreappraisalを測定していきたい場合には CERQも視野に入るように思っています。また,ネガティブ感情項目とポジティブ感情項目が混在している点にも留意すべ きだろうと感じています。 16 傾向×方略尺度 榊原良太. (2014). 再評価の感情制御効果と精神的健康への影響. 感情心理学研究, 22(1), 40-49. 榊原良太, & 石井悠. (2013). Emotion Regulation Questionnaire の再評価尺度 (ERQ-R) を再考する. 東京大学大学院教育学研究 科紀要, 53, 135-142.
  • 17. ERQ ◆Emotion Regulation Questionnaire (ERQ) 17 傾向×方略尺度 cf., 20章
  • 18. CERQ ◆Cognitive Emotion Regulation Questionnaire (CERQ) ・9つの認知的感情制御方略の使用傾向を測定する尺度 (各4項目) →肯定的再評価 (reappraisal):私はその状況には前向きな側面もあると考える →肯定的再焦点化 (distraction) :私は経験したことに比べ,より好ましいことについて考える →計画への再焦点化:私は自分にできる最善の策について考える →受容:私は起きたできごとを受け入れなければならないと考える →大局的視点:私はそのことがもっとひどい状況になったかもしれないと考える →反すう:私は経験したできごとに対する感情についてたびたび考える →自責:私は起きたできごとは自分に責任があると感じる →他者非難:私は起きたできごとは他の人に責任があると感じる →破局的思考:私は自分の経験したことがどれほどひどいものであるかについて考え続ける ※日本語版は榊原 (2015) から引用しています。 18 傾向×方略尺度 Garnefski, N., Kraaij, V., & Spinhoven, P. (2001). Negative life events, cognitive emotion regulation and emotional problems. Personality and Individual differences, 30(8), 1311-1327. 榊原良太. (2015). 認知的感情制御方略の使用傾向及び精神的健康との関連. 感情心理学研究, 23(1), 46-58.
  • 19. CERQ ▼注意点 ・「私は…考える」という項目のため,下位尺度間の相関が強い ・下位尺度などはCOPE (後述) などに基づいている ・自責などを感情制御方略と捉えてよいのかという疑問が残る ・(項目を見ればわかるように) 精神的健康との間に正の相関を有する 適応的方略 (e.g., 肯定的再評価,気晴らし) と不適応的方略 (e.g., 反すう, 破局的思考) に区分される ▼追記 ・短縮版が作成されている (各下位尺度2項目) →日本語版については,榊原 (2017) が参考になります reappraisalを測定するために「肯定的再評価」下位尺度,distractionを測定するために「肯定的再焦点化」下位尺 度をよく用いています。前者はreappraisalのうちポジティブに解釈し直す側面を切り取れていていいなと感じています。 後者についてはdistractionの認知的な側面だけになってしまうというデメリットはありますが,項目数も少なく使い勝手が いいと感じています。他の尺度も頑健に精神的健康と正 or 負の関連が認められるため,適応的,不適応的感情制御を 広く測定したいときに有用だと思います。しかし,他者非難のようなあまり感情制御としてはメジャーではない方略を含ん でいたり,下位尺度間の相関係数が大きいといった気になるところもあります。 19 傾向×方略尺度 榊原良太. (2017). 認知的評価は認知的感情制御と精神的健康の関連をいかに調整するか. 社会心理学研究, 32(3), 163-173.
  • 20. CERQ ※精神的健康とCERQの関連については文化差あり 20 傾向×方略尺度 cf., 榊原 (2015) 適応的方略 cf., Omran, M. P. (2011). Relationships between cognitive emotion regulation strategies with depression and anxiety. Open Journal of Psychiatry cf., Zhu, X., Auerbach, R. P., Yao, S., Abela, J. R., Xiao, J., & Tong, X. (2008). Psychometric properties of the cognitive emotion regulation questionnaire: Chinese version. Cognition & Emotion, 22(2), 288-307.
  • 21. ◆自己の情動調整行動尺度 ・野崎 (2013) による肯定的再評価,気晴らし,感情表出の3方略 を使用する傾向を測定する尺度 ・面接に基づいて項目を作成している 【項目例】 ・ネガティブな感情を和らげるために,その出来事をいい経験 だと思うようにする (肯定的再評価) ・ネガティブな感情を和らげるために,気晴らしになることを する (気晴らし) ・ネガティブな感情を和らげるために,自分のネガティブな 感情を表に出せることをする (感情表出) 21 傾向×方略尺度 野崎優樹. (2013). 定期試験期間の自他の情動調整行動が情動知能の変化に及ぼす影響. 教育心理学研究, 61(4), 362-373.
  • 22. ▼注意点 ・感情表出下位尺度を逆転処理して,表出抑制の尺度として取り 扱うことができそうだが,妥当なのだろうか? ・気晴らし,および感情表出尺度と精神的健康の関連が不明瞭 (小林が測定,N=167 (大学生,院生) の場合 ↓) この尺度を使う利点の1つとして,野崎 (2013) では他者の感情を制御するための方略の使用傾向を測定する尺度も作成 しており,その尺度との対応付けがしやすいということが挙げられます。まだ使用研究が少ないので,今後データが重な る中でERQやCERQとの差別化が可能になるのではと感じています。 22 傾向×方略尺度 肯定的再評価 気晴らし 感情表出 気晴らし .131 + 1.000 感情表出 .152 * .255 ** 1.000 K6 (精神的苦悩) -.250 ** -.103 -.032 SWLS (well-being) .306 ** .088 .101 ** p < .01, * p < .05, + p < .10
  • 23. WCQ ◆Ways of Coping Questionnaire (WCQ) ・LazarusとFolkmanにより作成された尺度であり, 下位尺度として,Confrontive, Distancing, Self-Controlling, Seeking Social Support, Accepting Responsibility, Escape-Avoidance, Planful Problem Solving, and Positive Reappraisal (Folkman & Lazarus, 1988) が存在する ▼注意点 ・Positive Reappraisal には,項目 を見るとわかるように, ストレス体験により (結果的に) 変化した評価 (を受け入れる こと) も含まれている →Grossのreappraisal (i.e.,出来事の意味を (積極的,能動的,意図的に) 変えようと する) とは一致していない可能性がある 近年の感情制御研究では見かけない尺度。感情制御領域では,COPEが使用されることが多いように感じます。 23 傾向×方略尺度 “I was inspired to do something creative”; “I changed or grew as a person in a good way” “I came out of the experience better than I went in”; “I found new faith” “I rediscovered what is important in life”; “I changed something about myself”
  • 24. COPE ◆COPE inventory ・ Carver et al. (1989) が作成したコーピング尺度 ・日本語版 (短縮版含む) は大塚 (2008) で作成されている ・下位尺度: Planning, Active Coping, Mental Disengagement, Seeking Social Support—Instrumental, Seeking Social Support—Emotional, Positive Reinterpretation and Growth, Turning to Religion, Focus on and Venting of Emotion, Denial, and Alchol_Drug など ▼注意点 ・reappraisal: Positive Reinterpretation and Growth下位尺度では, 肯定的再評価が測定されていると考えられる。 ・distraction: Mental Disengagement (心理的諦め) 下位尺度。 ただし,睡眠が気晴らしに含まれている点は留意する必要あり →飲酒,薬物下位尺度もdistractionに含まれる可能性あり ・2つのソーシャルサポート下位尺度には, 感情表出や感情焦点化 (気晴らしの逆) の項目が混在している 24 傾向×方略尺度 Carver, C. S., Scheier, M. F., & Weintraub, J. K. (1989). Assessing coping strategies: a theoretically based approach. Journal of personality and social psychology, 56(2), 267. 大塚泰正. (2008). 理論的作成方法によるコーピング尺度--COPE. 広島大学心理学研究, (8), 121-128.
  • 25. COPE ◆COPE inventory ▼追記 ・個人差尺度では,一般的に,日常生活における普段の感情制御 傾向 (≒ 特性) を測定することが多い。 →COPEでは日本語の場合,教示文を変更することで,過去一定 期間内の実施傾向や過去のある時点から現時点までの実施傾向 を測定することも可能 (大塚, 2008) COPEは,reappraisal,特に肯定的再評価を測定する場合には利用しやすい尺度だと思います。一方で,distraction を測定する場合には少し考える必要があると思っています。というのも,distractionについては精神的健康を促進すると する立場というか考え方 (こっちが感情制御的には主流) とむしろ精神的健康を阻害するという考え方が存在します。この 違いはおそらくdistractionをどう捉えるかというところによると考えています。前者の促進派はdistractionを意図的にネガ ティブなものから意識を逸らすような積極的な方略と捉えますが (cf., Webb et al., 2012),後者の阻害派はdistractionを 回避的方略として捉えているようです。COPEはどちらかといえば回避的な方略としてdistractionを捉えているように感じ ています。そのため,私は,distractionの測定にはCOPEではなく,CERQや野崎尺度を用いています。 25 傾向×方略尺度 大塚泰正. (2008). 理論的作成方法によるコーピング尺度--COPE. 広島大学心理学研究, (8), 121-128. Webb, T. L., Miles, E., & Sheeran, P. (2012). Dealing with feeling: a meta-analysis of the effectiveness of strategies derived from the process model of emotion regulation. Psychological bulletin, 138(4), 775.
  • 26. TAC-24 ◆Tri-axial Coping Scale (TAC-24) ・神村他 (1995) が作成し,鈴木 (2004) で妥当性が検討されている (※神村他 (1995) の原著が確認できなかったため, 心理測定尺度集3巻を参考にしています) ・コーピング方略を 2 (問題–情動焦点) × 2 (接近–回避次元) × 2 (行動–認知次元) の合計8種類に区分し測定する尺度。 →肯定的思考がreappraisalに相当し,気晴らしがdistractionに相当 ▼注意 ・肯定的思考下位尺度の項目 (e.g., 悪いことばかりではないと楽観的に考える) は 肯定的な「再解釈」だけでなく,楽観的思考の要素を含んでい る点に注意 26 傾向×方略尺度 村栄一・海老原由香・佐藤健二・戸ヶ崎泰子・坂野雄二 1995対処方略三次元モデルの検討と新しい尺度(TAC-24)の作成 筑波大学教育相談研究, 33, 41-47. 鈴木伸一. (2004). 3 次元 (接近-回避, 問題-情動, 行動-認知) モデルによるコーピング分類の妥当性の検討. 心理学研究, 74(6), 504-511.
  • 27. TAC-24 妥当性を横に置けば,わかりやすいモデルに基づいているため,説明がしやすいという利点があると思っています。ただ 上述のように reappraisalの下位尺度には楽観性的要素が混在しています。Shift-and-Persist Strategiesのような考え 方に基づけば,それらは (組み合わさることはあっても) やはり別物であり,区別すべきだと考えられます。そうであれば, reappraisalをこの尺度で測定するのは理由がない限り推奨されないかもしれません。ちなみに,distractionについては COPEほどではないものの,回避的方略としての側面を測定することが可能だと思われます。 傾向×方略尺度
  • 28. ▼反応スタイル理論: 抑うつの持続を説明するためのもの ・考え込み型反応: 抑うつ症状や原因,意味などへの注意の反復 ・気晴らし型反応: 抑うつ症状などから一時的に注意を逸らす →反すう方略,気晴らし方略の尺度として利用できる ◆Response Style Questionnaire (RSQ) ・考え込み (反すう),気晴らし傾向を測定する尺度 ・日本語版 (名倉・橋本, 1999) においては, 気晴らし傾向と抑うつや精神的健康の間の相関がかなり弱い ため,気晴らし尺度としての利用には注意が必要 ・考え込み型反応,気晴らし型反応ともに下位区分の存在が 指摘されているものの,測定できていないという問題 (cf., 次スライド) ※子ども用尺度については村山他 (2014) があるようです 28 傾向×方略尺度 名倉・橋本 1999 考え込み型反応スタイルが心理的不適応に及ぼす影響について 村山他 2014 小学高学年・中学生用反応スタイル尺度の開発.
  • 29. ▼考え込み型反応の下位区分 ・reflection: 気分や結果を具体的に考える。抑うつを低減する ・brooding: いわゆる反すう。抑うつ傾向などを高める ▼気晴らし型反応 ・(一時的な) 感情緩和のための気晴らし (i.e., 一時的気晴らし) ・直面している物事や感情から逃げるための気晴らし (i.e., 回避) ◆ (松本, 2010) ◆Response Style Scale (RSS: 島津, 2010) ・いずれも上記下位区分を測定できる尺度 ・松本尺度は回避的気晴らしが,島津尺度は一時的気晴らしが 抑うつと無相関である点を考慮する必要がある CERQのpositive refocusing因子で測定されるdistractionは「認知的」なものであるが,上記2尺度では「行動的」 なdistractionを測定できる点が強みだと思います。また,両者に共通し,特に松本 (2010) で考察されているように, distractionを回避を目的とした漠然としたものと,一時的な感情の緩和を図ることを目指した (比較的注意移行対象の明 確な) ものとに区分できている点はdistraction研究において重要だと思われます。 29 傾向×方略尺度 松本 2008 拡張版反応スタイル尺度の作成 島津 2010 反応スタイル尺度の作成と信頼性・妥当性の検討
  • 30. ◆Heidelberg Form for Emotion Regulation Strategies (HFERST) ・rumination, experience suppression, expressive suppression, avoidance, activity and social support, reappraisal,problem solving, acceptance の使用傾向を測定する尺度 ・日本語版はまだ作成されていない ・他の尺度には含まれない方略やsuppressionを2種類測定できる ◆Emotion Regulation Profile-Revised (ERP-R) ・シナリオを提示し,どのような方略を用いるかを尋ねる測度 ・フランス語版しか存在しない (?) ためシナリオが把握できない ・かなり多くの方略 (マイナー含む) を測定できるのが強み 30 傾向×方略尺度 Izadpanah et al 2017 Development and Validation of the Heidelberg Form for Emotion Regulation Strategies (HFERST): Factor Structure, Reliability, and Validity. Izadpanah et al 2017 Development and Validation of the Heidelberg Form for Emotion Regulation Strategies (HFERST): Factor Structure, Reliability, and Validity.
  • 31. ※「能力」の前に (一応) とついているのは,その「能力」の測定が尺度によってなされているためです。 つまり,尺度では 能力そのものの測定が困難であるので,自身の能力に関する信念,あるいは感情制御の自己効力感を測定しています。 この点を踏まえ,(一応) と表記しています。
  • 32. 3232 ERQ ◆Goldin et al 2012 ◆Kivity & Huppert 2016 ・傾向を測定する尺度 (上記研究ではERQ) の文章に少し手を 加えることで,能力 (というか自己効力感) を測定する 【イメージ】 ・ERQそのままの項目 →I control my emotions by changing the way I think about the situation I’m in. →When I want to feel less negative emotion, I change the way I’m thinking about the situation. ・ERQ_自己効力感version項目 →How capable you are of using reappraisal when you want to control my emotions by changing the way I think …(略) ? →How capable you are of using reappraisal when you want to to feel less negative emotion, I change … (略) ? この方法は手軽に利用できるのがメリットです。また,既存の尺度を用いることができるので,reappraisal, distraction,suppressionなどを狙い撃ちできるのも魅力です。しかし,一方で,先に述べたような既存の尺度の問題 点がそのまま指摘できてしまうので注意が必要だと考えています。 Goldin, Gross et al 2012 Cognitive reappraisal self-efficacy mediates the effects of individual cognitive-behavioral therapy for social anxiety disorder. Kivity & Huppert 2016 Does cognitive reappraisal reduce anxiety? A daily diary study of a micro-intervention with individuals with high social anxiety. (一応) 能力×方略尺度
  • 33. 3333 ERI ◆Emotion Regulation Interview (ERI) ・スピーチ課題,あるいは参加者が不安を感じる場面において, プロセスモデルで想定される方略をどの程度行うか (傾向,頻度), どのくらい不安を制御できたか (自己効力感)を尋ねる測度 ・ERIによるreappraisal傾向,効力感とERQreappraisal下位 尺度の間には r = .30 程度の相関が認められている ・ERIによるdistraction傾向とRSQによるdistraction傾向の間 には, r = .25 の相関が確認されている ・reappraisal,suppressionの効力感ともに,健常者と比較 すると,不安障害者において小さいことも示されている 感情制御に関する自己効力感をスピーチ課題,自己関連不安場面において測定するものです。プロセスモデルで想定さ れている方略を測定できるのは魅力だと思っています。また,傾向と(能力) を一度に測定することが可能であるため,そ の両者を比較したいときにも有用だと感じています。 (一応) 能力×方略尺度 Werner, Goldin, Gross et al 2011 Assessing emotion regulation in social anxiety disorder: The emotion regulation interview
  • 34. ※傾向尺度と違い,能力と傾向に区分していないのは,包括尺度においてそうした区分が難しいためです。 この資料で包括尺度に区分されている尺度は,20章,およびPreece et al 2018では,(傾向ではなく) 能力尺度と想定さ れているものがほとんどです。しかし,「(一応) 能力×方略尺度」のところでも書いたように尺度では,能力そのものを測定できず, むしろ信念や効力感を測定していること,実際の尺度の項目や教示文を確認すると曖昧な表記があることを踏まえ, この資料では,包括尺度については,傾向と能力の区分をしていません。
  • 35. 3535 DERS ◆Difficulties in Emotion Regulation Scale (DERS) ・Gratz & Roemer 2004 が作成,日本語版は山田・ 杉江 2013 ・感情制御と精神的健康 (精神障害) の関連を検討するために作成, 「感情制御の困難さ (不全)」を測定する尺度 ・感情制御そのものだけでなく,感情制御に間接的に影響する 要因 (e.g., 感情の認知) についても測定できる 【項目例】 ・動揺しているときは,そうした状態が長く続くと思う (感情制御困難) ・動揺しているときに,気分を良くするためにできることは何もないと思う (感情制御困難) ・自分の気持ちを理解するのは難しい (感情自覚困難) 包括尺度 Gratz & Roemer 2004 Multidimensional assessment of emotion regulation and dysregulation: Development, factor structure, and initial validation of the difficulties in emotion regulation scale. 山田・ 杉江 2013 日本語版感情制御困難性尺度の作成と信頼性・妥当性の検討.
  • 36. 3636 DERS ◆Difficulties in Emotion Regulation Scale (DERS) ▼注意点 ・ Gratz & Roemer 2004 は感情制御に重要な能力として, 1) 感情の認識,2) 感情の受容,3) 感情制御方略の利用, 4) 目標志向的行動 を想定している →しかし,実際には6因子構造の尺度となっている →一方で,日本語版については4因子構造となっている 包括尺度全般にいえることですが,大局的に,大枠で,感情制御と他の変数 (e.g., 健康,成績,友人) の関連を検討 する際に非常に有用だと思われます。また,感情制御に間接的に促進 or 阻害的影響を及ぼす要因を同時に測定できる というのも効果プロセスを考える際に有効だと思っています。一方で,ある人が感情制御に優れる,あるいは劣ることが 示され,かつそれが間接的影響要因で説明できなかったときには,やはり方略にも目を向ける必要が出てくると思ってい ます。介入の効果指標として包括尺度を用いることがもちろんできますが,そのときは方略尺度とどちらが適しているのか を考える必要があると感じています (e.g., うつ病の規定因として感情制御困難を想定し,その困難さがCBTによって解消さ れるかを検討する場合であれば,包括尺度 (e.g., DERS) が適している)。 包括尺度 Gratz & Roemer 2004 Multidimensional assessment of emotion regulation and dysregulation: Development, factor structure, and initial validation of the difficulties in emotion regulation scale. 山田・ 杉江 2013 日本語版感情制御困難性尺度の作成と信頼性・妥当性の検討.
  • 37. 3737 PERCI ◆Perth Emotion Regulation Competency Inventory (PERCI) ・ERQなどの方略尺度では測定できる方略が限られるため, 感情制御の全体像の理解が難しい ・従来の包括尺度 (e.g., DERS) では,ネガティブ感情に焦点を 当てており,ポジティブ感情には目が向けられていない →これらの点を踏まえ,作成した尺度 ・ちなみに,Introductionが感情制御尺度のreviewとして便利です 【項目】 ・When I'm feeling bad, I don't know what to do to feel better. ・When I'm feeling bad, I do stupid things. ・When I'm feeling good, I don't have any useful ways to help myself keep feeling that way. 包括尺度 Preece et al 2018 Measuring emotion regulation ability across negative and positive emotions: The Perth Emotion Regulation Competency Inventory (PERCI).
  • 38. 3838 ◆Trait Meta-Mood Scale (TMMS; Salovey, Mayer, Goldman, Turvey, & Palfai, 1995) ◆自己と他者に関する (鈴木他 1999) ・メタムード: 感情をモニタリングしたり,評価したり, 制御したりする過程 ・鈴木尺度では,ネガティブ感情の認識, ネガティブ感情を持つことへの不快感, ネガティブ感情の制御という3因子が見出されている →自己領域だけでなく,他者領域に関する項目も設けられている 【項目例】 ・落ち込んだときでも,いいことを考えるように努める (制御) ・自分の不快な気持ちについて考えることがよくある (認識) ・不快感情を感じている自分はみじめだ (不快感) 包括尺度 Salovey et al 1995 Emotional attention, clarity and repair: exploring emotional intelligence using the trait meta-mood scale. 鈴木他 1999 自己と他者に関するメタ・ムード: 不快感情の調整過程に焦点を当てて.
  • 39. 3939 ▼情動コンピテンス:自己と他者の情動を適切に同定および理解 した上で,情動を表現し,調整し,利用する能力 (野崎・子安, 2015) →情動コンピテンス尺度の感情調整下位尺度が感情制御の 「包括尺度」として利用できる 情動コンピテンスについては, この本を参考にしています→ ◆情動コンピテンス尺度 →Profile of Emotional Competence 日本語短縮版 (野崎・子安, 2015) →Emotional Intelligence Scale (WLEIS) 日本語版 (野崎, 2012) →WLEIS 中学生版 (豊田・桜井, 2007) →MSCEIT 包括尺度 野崎優樹, & 子安増生. (2015). 情動コンピテンスプロフィール日本語短縮版の作成. 心理学研究, 86(2), 160-169. 野崎優樹. (2012). 自己領域と他者領域の区分に基づいたレジリエンス及びストレス経験からの成長と情動知能の関連. パーソナリティ研究, 20(3), 179-192. 豊田弘司・桜井裕子(2007).中学生用情動知能尺度の開発 教育実践総合センター研究紀要,16, 13–17
  • 40. 4040 ▼情動コンピテンス:自己と他者の情動を適切に同定および理解 した上で,情動を表現し,調整し,利用する能力 (野崎・子安, 2015) ▼特徴 & 注意点 ・上述のように感情制御だけでなく,感情認知や感情利用なども 測定することができる ・尺度によっては,「他者の感情」に関する下位尺度 (e.g., 共感, 対人的感情制御) も含まれている 情動コンピテンス尺度の利点の1つは↑のような感情に関連する広い領域を自己他者問わずに,少ない項目で測定でき ることだと思います。一方で,情動コンピテンス尺度で「感情制御」や「共感性」,「感情の認識」のみを測定したい ときには,なぜ,情動コンピテンス尺度で測定する必要があるのか? を考える必要があると思っています。というのも,感 情制御,共感,感情認識ごとにより多くの項目でもって測定を試みる尺度が豊富に存在するためです。情動コンピテンス の強みは感情の認識や共有,制御といった感情に関する幅広い概念を包括的に理解できることだと思うのですが,その 強みは感情制御だけを検討するというときには活きてこないとも考えられます。情動コンピテンス尺度は幅広い範囲を網 羅するがゆえに,一点特化した尺度の方がよいのではないか? という批判をどのように回避するかを想定する必要がある なと感じています。 包括尺度
  • 41. 4141 RESE ◆Regulatory Emotional Self-Efficacy Scale (RESE) ・感情制御に関する自己効力感を包括尺度的に測定する尺度 ・ドイツ語版,トルコ語版はあるものの,日本語版はない (?) ・下位尺度 →ポジティブ感情の表出に関する自己効力感 e.g., Express joy when good things happen to you? →怒り系ネガティブ感情の制御に関する自己効力感 e.g., Get over irritation quickly for wrongs you have experienced? →distress系ネガティブ感情の制御に関する自己効力感 e.g., Keep from getting dejected when you are lonely? 包括尺度 Caprara et al 2008 Assessing regulatory emotional self-efficacy in three countries. Gunzenhauser et al 2013 Self-efficacy in regulating positive and negative emotions. Totan 2014 The regulatory emotional self-efficacy scale: Issues of reliability and validity within a Turkish sample group.
  • 42. 4242 ESES ◆Emotional Self-Efficacy Scale (ESES) ・情動コンピテンス (感情の認識,理解,利用,制御) に関する 自己効力感を測定する尺度 ・上記4下位区分が想定されているものの,1因子尺度として 発表されている ・情動コンピテンス尺度のため,他者に関する項目も多い 【項目例】 ・Change your negative emotion to a positive emotion (制御) ・Help another person to regulate emotions when under pressure (制御) ・Correctly identify your own positive emotions (認識) ・Generate the right emotion so that creative ideas can unfold (利用) 包括尺度 Kirk et al 2008 Development and preliminary validation of an emotional self-efficacy scale.
  • 43.
  • 44. ※尺度がどこに区分されるかは,20章やPreece et al. (2018) にある程度基づいています。 それらに記載されていないものなどは小林が勝手に区分しています。ご了承ください。 44 方略尺度 包括尺度 傾向 能力 ・ERQ ・WCQ ・TAC-24 ・RSQ ・HFERST ・CERQ ・COPE ・RSS ・ERP-R ・ERQ追記版 ・ERI ・DERS ・PERCI ・メタ・ムード尺度 ・情動コンピテンス尺度 ・RESE ・ESES reappraisal 能力測定課題
  • 45. reappraisal ◆ McRae et al 2012 45 能力×方略尺度 McRae et al 2012 Individual differences in reappraisal ability: Links to reappraisal frequency, well-being, and cognitive control. ネガティブ画像 (IAPS) ニュートラル画像 (IAPS) LOOK条件 (感情をそのまま 自然に感じながら 画像を見る) DECREASE条件 (ネガティブ感情 を低減できるよう に試みながら画像 を見る) リラックス 時間 How negative do you feel ? 1) not at all 5) somewhat 9) very negative 7秒 4秒 7秒 ・ニュートラル×LOOK ・ネガティブ×LOOK ・ネガティブ×DECREASE ➡各15試行
  • 46. reappraisal ◆ McRae et al 2012 ▼reappraisal能力の指標 ネガティブ×DECREASE条件のときの感情得点 - (マイナス) ネガティブ×LOOK条件のときの感情得点 = reappraisal ability (RA) ▼他の指標との関連 ・RA×ERQ_Reappraisal傾向: r = .24 ・RA×Well-being: r = .34 46 能力×方略尺度 McRae et al 2012 Individual differences in reappraisal ability: Links to reappraisal frequency, well-being, and cognitive control.
  • 47. reappraisal ◆ Troy et al 2010; Troy et al 2013 (1),ニュートラル映像 (3分) →感情測定 (この研究では悲しみをターゲット感情としている) (2),悲しみ映像A:注意深く映像を見るように教示 【統制教示】 →感情測定 (BASELINE) (3),悲しみ映像B →感情測定 (4),悲しみ映像C →感情測定 47 能力×方略尺度 Troy et al 2013 A person-by-situation approach to emotion regulation: Cognitive reappraisal can either help or hurt, depending on the context. Troy et al 2010 Seeing the silver lining: cognitive reappraisal ability moderates the relationship between stress and depressive symptoms. (3),(4) のいずれかでは, ネガティブ感情を低減するために, 状況をreappraisalしながら 映像を見るように教示 【reappraisal教示】 もう一方では,【統制教示】
  • 48. reappraisal ◆Troy et al 2010; Troy et al 2013 ▼reappraisal能力の指標 【reappraisal教示】映像を見たあとの悲しみ感情評定 - (マイナス) 悲しみ映像A後のBASELINE感情評定 = cognitive reappraisal ability (CRA_SAD) 【reappraisal教示】映像時のskin conductance response (Z得点) - 悲しみ映像A時のskin conductance response (Z得点) = cognitive reappraisal ability (CRA_SCR) ▼他の指標との関連 (Tab1) ・CRA_SAD×ERQ_reappraisal傾向: r = .12 ・CRA_SCR×ERQ_reappraisal傾向: r = .21 48 能力×方略尺度 Troy et al 2013 A person-by-situation approach to emotion regulation: Cognitive reappraisal can either help or hurt, depending on the context. Troy et al 2010 Seeing the silver lining: cognitive reappraisal ability moderates the relationship between stress and depressive symptoms.
  • 49. ◆reappraisalの個人差 ・ERQ_reappraisal ・CERQ_positive reappraisal の2つが利用が多い印象です ◆distraction ・RSQ,RSSなどの尺度が使われているのを見かけます (ただし,行動的distractionに限定される点に注意です) ・CERQ_positive refocusing (認知的なdistractionの測定に利用できると考えています) ◆suppression ・ERQ_suppression が用いられることが多いと思っています ◆今後の予定 (今回できなかったこと) ・感情制御レパートリーに関する尺度の概観 ・対人的感情制御 (interpersonal emotion regulation) 尺度の概観 49
  • 50. ▶コーピング :ネガティブな感情を低減する制御に焦点を当てている ▶感情制御 :ネガティブ感情を低減することから,ネガティブ感情, ポジティブ感情を増大することまで含む ➡感情制御の方が研究対象の範囲が広い (Grossの述べている差異はこの点のみ) ➡かなりの方略が重複していることもあり,積極的に両者を区別 しようとする研究を見かけない (意義も微妙だと思われる) ※こうした研究範囲,およびプロセスモデルの守備範囲の広さ (感情生起過程の入力部 から出力部まで網羅している) ことが,感情制御研究の増大と,「感情制御」という 用語の曖昧さに繋がっているように感じる。 50