public&designという小さなコミュニティのLTで話した、山本鼎の農民美術運動の話です。

1. 100年前の当事者デザイン運動
上 平 崇 仁
「敗者」の精神から学ぶこと
P u b l i c & D e s i g n M e e t u p 2 0 1 8 , 1 2 / 1 8

2. 1993（25年前）のある⽇。
友⼈Y「美術科教育法ゼミの研究テーマ、
農⺠美術にしようと思う。
俺は⻑野出⾝だからさ、興味あったんだよね」
上平 「農⺠美術？ダセー、男なら前衛だろ、
アヴァンギャルドだろ」
友⼈Y「そうか・・・（悲しい⽬）」

3. ⼭本⿍
(1882-1946)
農⺠美術とは
農閑期の農⺠に、ものづくりの技術とものづくり
の喜びを与えることで、⽂化による⽣活の質の向上
と、それを産業にまで発展させていくことを志向し
た、⼯芸振興運動。
信州上⽥市を発祥地として、全国に展開された。
その思想やカリキュラムは、⽇本における草創期の
デザイン教育とも位置づけられている。
運動の創始者である⼭本⿍は、画家/版画家。
「⾃由画運動」「農⺠美術運動」などを牽引した美
術運動家でもあった。

4. ⼭本⿍ 12〜13才の頃の仕事
（ラベルの麒麟マークは彼がデザインしたという⼀説）

5. 農⺠美術 建業之随意書
（1919 / バウハウス設⽴と同年、柳宗悦の⺠芸運動より早い）

9. 教育機関としては、
東京⾼等⼯芸学校（1921設⽴）よりも、
帝国美術学校（1929設⽴）よりも早い！

17. ⽇本農⺠美術研究所 事業
基礎事業
１）内外⼿⼯的副業に関する諸種の調査
２）副業⼯芸のサンプル作成
３）指導者の養成
４）講習会および講演会
５）指導的図書の出版
６）機関雑誌の発⾏
７）副業組合の指導
８）⽣産品・研究品の展覧会
９）これらの⽬的を達成するために
必要となること
応⽤事業
１）意匠図案
２）サンプル製作
３）素材および⽣形材料の供給
４）⽣産品の審査
５）販売の斡旋

18. 農民美術
運動
⼭本⿍
ロシア・北欧の
農⺠⽂化
からのインスパイア
⾦井正
（共同事業者/地元出⾝の⽀援者）
⼭越修蔵
有り余る
⽊材や⾃然環境
都市部への販売
養蚕業で
栄えていた
上⽥周辺
農⺠
（授業料無料）
哲学好きの気⾵
（上⽥⾃由⼤学）
なぜ、上⽥で興ったのか？
副業振興の
国庫補助⾦

22. 外国好みの洋画家が、外国の農⺠美術から美しいと思うもの
を選んで、⽇本の⽥舎の⻘年達に模作させているのである。出
所は都会の洋⾵通な美術家の頭の中にあるので、⽥舎から必然
的に⽣まれてくる農⺠の作品ではないのである。
むしろ、⽇本の⽥舎に伝わる伝統や材料が⼿法を
始めから無視して、遠い異国の百姓がつくった⾯⽩いモノを真
似させているのである。
（柳宗悦「⺠芸と農⺠美術」1935）
⺠芸からは、痛烈な批判。

24. いまは農⺠美術は広汎に⾏き渡って、そして希薄になっ
た。発頭⼈の⼭本⽒から⾒れば、遺憾な点多しと思われ
る。何事も先を駆けていく者は貧乏くじ。スキーでも
ラッセルをするものは⼀番に疲れる。⼭本⽒も此為に物
質精神両⾯の犠牲少なからぬ荷を背負い込んだ。
（「⽩⽺伝」⼩杉未醒）
運動は全国へ普及。しかし・・。

25. 1. 農⺠達が熟練して上⼿くなればなるほど、素朴な「良さ」
が消えていくという⽭盾。
2. ビジネスとして成⽴させるためには、都市部の裕福な顧客
を意識せざるを得なかった。研究所を維持するため、「悪
しき創作より良き模倣品の⽅が数倍価値がある」（⾦井）
と捉えるようになる。
3. ⾼級な⼯芸品でもなく、安価な機械⽣産物でもない価値を
どう⽣み出すか（≒デザイン）の概念を農⺠達に浸透させ
るには、まだ時代が早すぎた。
今に通じる問題を抱えた

26. 戦争が始まり、助成⾦が打ち切られて閉鎖（1935）
⼭本⿍は莫⼤な負債を抱え、脳溢⾎で療養の晩年（1946年没）

33. 上⽥の街では、今でも⽂化として⽣き続けている。

34. 北海道の「⽊彫りの熊」にも、
実は農⺠美術が影響している。
木彫り熊、発祥の地・八雲から北海道内へ：三浦孝一 https://www.frpac.or.jp/about/files/sem2012.pdf

35. 「頭を冷やして、⼼から納得のいく⽣き⽅を探し出す
⼿がかりとして、本書において対象とした⼈達の
モデル（範型）を⾒つめるのは、決して無駄なことではない。
いや、敢えて⾔えば、そうした無駄こそが我々が必要
としているものかもしれない」
（⼭⼝昌男「『敗者』の精神史」1996より）