＜問題＞小平・いとう（2012）は、精神障害の体験の語りをメディアの種類に着目して7つに分類し、本研究の分析対象であるメンタルヘルスマガジン『こころの元気＋』（NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ出版）を「定期刊行物」に位置づけた。そして、表紙に当事者が素顔で登場し、豊富な体験談から病名や発症の経過を語ることは、病いと共に生きるお互いの姿が見え、病いの経験がどう語られるか知るきっかけになったと意義づけた。やまだ（2015）は、生涯発達心理学において、人生と病いの語りをめぐって、「三項関係ナラティヴ」の場を作る重要性と、「人生ナラティヴ医療学」を提案した。笠井（2015）は、回復には、「本人と支援者が理解を共有するプロセスが重要」で、「脳科学や発達疫学の手法だけでは限界があり、（略）リカバリーのプロセスを歩んだ体験者の語り（ナラティブ）から学ぶことが必要」とし、発達心理学と精神医学の双方向的発展の重要性を述べた。病名や自分の素顔の開示は勇気のいることだが、本雑誌では当事者が表紙のモデルである。その経緯を記したページも掲載されており、モデルになる動機や理由と本人のリカバリーが密接に関連することが読み取れる。 ＜研究1：モデル動機理由分析＞【目的】当事者がモデルになる動機と理由を分析し、リカバリーを達成した人の語りの特徴を明らかにする。【方法】『こころの元気＋』2007年3月号（通巻1号）～2015年7月号（通巻101号）を対象とし、毎号掲載の記事「私モデルになっちゃいました！」100記事を分析した。創刊100号記念である通巻100号（2015年6月号）には本記事の掲載がなく、通巻101号までを分析対象とした。100記事のうち28記事にはモデルになった当事者の動機や理由の明確な記述があり、この記述内容を分析の対象とした。28記事から動機や理由の記述部分を抽出し、意味内容を読み取りながら意味の類似性に沿ってカテゴリー化を行い質的に分析した。分析にあたり共同研究者間で検討を重ねて分析結果の厳密性を高めた。【結果】28記事の中からモデルになった動機や理由は30の記述が得られ、以下のように、10のサブカテゴリーで構成され、さらに2のカテゴリーに集約された。『勇気・希望を持って前向きに生きてほしい思いを伝えたい』『自分が関わっている当事者活動について知ってもらいたい』が＜人のためになりたい＞に、『自分の笑顔を見てもらいたい』『学んでチャレンジして参加すること』『回復した姿を見てもらいたい』『新しい自分になる』『感謝の気持ちを伝えたい』『あこがれと夢を実現する』『誇りと自信』『生きた証し』が＜自分を知ってもらいたい＞、である。 ＜研究2：特集タイトル分析＞【目的】特集タイトルを分析し、リカバリーを支える本雑誌の特徴を明らかにする。【方法】分析対象である101号までの特集タイトルに対して量的分析にはテキストマイニング分析としてText Mining Studio Ver.5.2を用い、単語の出現回数の多い表現を集計した。加えて前述の記事分析と同様の方法でカテゴリー化を行った。【結果】特集タイトル101は、21のサブカテゴリーで構成され、これらは8のカテゴリー＜病いの経験＞＜知識・情報＞＜人との関係＞＜回復・リカバリー＞＜働くこと・生活のこと＞＜偏見をなくすために＞＜夢や希望を語る＞＜居場所や役割＞に集約された。テキストマイニング分析の結果で、出現頻度の多かった上位単語（名詞一般）は、「薬」（7）「世界」（4）「気持ち」（3）「人」（3）「プラス」（2）「リカバリー」（2）「家族」（2）「元気回復行動プラン」（2）「精神科医療」（2）「体」（2）「仲間」（2）「夢」（2）であった。 ＜総合的考察＞モデルになった動機や理由の分析で得られたカテゴリー＜人のためになりたい＞と＜自分を知ってもらいたい＞は、人に伝えたい自分がある、ということであり、向谷地生良（2015）が「自分の言葉で語ることができた時に回復がはじま」るとしたことに通じる。言葉で語る行為を通して社会に発信することは、当事者・支援者の境界を越え、社会が多様なリカバリーを理解し共有することを可能にする。特集タイトルの分析結果より、「本人と支援者が理解を共有するプロセス」（笠井,2015）には何が必要であるかも明確になったと言えよう。『こころの元気＋』が、このような場やきっかけを作ることで、当事者と社会とを結びつけている。やまだ（2015）の「三項関係ナラティヴ」のモデルを拡張して、その意義を考察したい。 ※本研究はJSPS科研費15K11827の助成を受けた。

1. 精神障害当事者の自己開示とリカバリー
メンタルヘルスマガジン『こころの元気+』
表紙モデルの動機と理由および特集タイトルの分析
小 平 朋 江（聖隷クリストファー大学）
いとう たけひこ（和光大学）take@wako.ac.jp
2017年3月27日（月）
ポスターP7-49 10:00～12:00（在席責任時間10:00～10:50）
日本発達心理学会第28回大会
広島国際会議場
Ｃ１会場
1

2. 問題
• 小平・いとう（2012）は精神障
害の体験の語りをメディアの
種類に着目し、7つに分類し
た上で統合失調症の闘病記
217冊のリストを作成した。
• 『こころの元気＋』は、
（３）「定期刊行物」 ⇒
に位置づけた。
• 表紙に当事者が素顔
で登場し、その語りから
病いの経験を知ること
ができると意義づけた。 2

3. 問題
• やまだ（2015）
生涯発達心理学において、人生と病いの語りをめぐって、
「三項関係ナラティヴ」の場を作る重要性と、
「人生ナラティヴ医療学」を提案した。
• 笠井（2015）
回復には、
「本人と支援者が理解を共有するプロセスが重要」
「脳科学や発達疫学の手法だけでは限界があり、（略）リカ
バリーのプロセスを歩んだ体験者の語り（ナラティブ）から学
ぶことが必要」とし、発達心理学と精神医学の双方向的発
展の重要性を述べた。
3

4. 問題
• 病名や自分の素顔の開示は勇気のい
ることだが、
• 『こころの元気＋』
当事者が表紙のモデルで、その経緯を
記したページも掲載されている。
• モデルになる動機や理由と本人のリカ
バリーが密接に関連することが読み取
れる。
4

5. • 【倫理的配慮】本研究の分析対象は一般に出
版・公開されている雑誌であり、著作権に配慮
し著者の表現や言葉などを改変せず、引用部
分を明示し、出典を明記した。
• 本発表においてメンタルヘルスマガジン『ここ
ろの元気＋』の表紙や記事は、NPO法人コン
ボのホームページおよび雑誌本体より引用し
ました。
5

6. 研究１：表紙モデルの動機と理由の分析
【目的】
• 当事者がモデルになる動機と理由を分析し、リカバ
リーしている人の語りの特徴を明らかにする。
6

7. 研究1：表紙モデルの動機と理由の分析
【方法】
●分析対象
『こころの元気＋』
2007年3月号（通巻1号）～2015年7月号（通巻101号）
※通巻100号（2015年6月号＝創刊100号記念）には本記事の掲載がなく、
通巻101号までが分析対象
毎号掲載「私モデルになっちゃいました！」100記事
中、28記事からモデルになった当事者の動機や理由
の明確な記述部分を抽出
●分析方法
• 意味の類似性に沿ってカテゴリー化を行い質的に分
析した。
• 共同研究者間で検討を重ねて分析結果の厳密性を高
めた。
7

8. 研究1：表紙モデルの動機と理由の分析
【結果】 表1参照
• 28記事（男性:11,女性:16,男性+女性:1,統合失調症の記述有:12）から30の記
述が得られ、10のサブカテゴリーで構成され、さらに2
のカテゴリーに集約された。
＜人のためになりたい＞
『勇気・希望を持って前向きに生きてほしい思いを伝えたい』
『自分が関わっている当事者活動について知ってもらいたい』
＜自分を知ってもらいたい＞
『自分の笑顔を見てもらいたい』
『学んでチャレンジして参加すること』
『回復した姿を見てもらいたい』
『新しい自分になる』
『感謝の気持ちを伝えたい』
『あこがれと夢を実現する』
『誇りと自信』
『生きた証し』 8

9. 研究2：特集タイトルの分析
【目的】
• 特集タイトルを分析し、リカバリーを
支える本雑誌の特徴を
明らかにする。
9

10. 研究2：特集タイトルの分析
【方法】
●分析対象と方法
• 通巻1号～通巻101号の特集タイトル101件
カテゴリー化による分析を行った。
• 加えて、
通巻1号～通巻111号の特集タイトル111件
Text Mining Studio Ver.5.2を用いて
テキストマイニング分析を行った。
10

11. 研究2：特集タイトルの分析
【結果】
• 特集タイトル101 表2参照
21サブカテゴリーで構成され8カテゴリーに集約
＜病いの経験＞＜知識・情報＞＜人との関係＞
＜回復・リカバリー＞＜働くこと・生活のこと＞
＜偏見をなくすために＞＜夢や希望を語る＞
＜居場所や役割＞
• テキストマイニング分析
出現頻度の多かった上位単語（名詞）
「薬」（7）「世界」（4）「気持ち」（3）「人」（3）
「プラス」（2）「リカバリー」（2）「家族」（2）
「元気回復行動プラン」（2）「精神科医療」（2）「体」（2）
「仲間」（2）「夢」（2） 11

12. 研究2 ：特集タイトルの分析
テキストマイニング分析基本情報
（＝タイトル数）
（＝文字数の平均）
12

13. 研究2 ：特集タイトルの分析
• 名詞（2回以上出現）
13

14. 総合的考察
• モデルになった動機や理由の分析で得られたカテゴリー
＜人のためになりたい＞
＜自分を知ってもらいたい＞
⇒人に伝えたい自分がある
• 向谷地生良（2015）
「自分の言葉で語ることができた時に
回復がはじま」るとしたことに通じる。
・言葉で語る行為を通して社会に発信することは、当事者・支
援者の境界を越え、社会が多様なリカバリーを理解し共有す
ることを可能にする。 14

15. 総合的考察
・笠井（2015）
「本人と支援者が理解を共有するプロセス」
には何が必要であるかも明確になったと言えよう。
• 『こころの元気＋』が、このような場やきっか
けを作ることで、当事者と社会とを結びつけ
ている。
• やまだ（2015）の「三項関係ナラティヴ」のモデルを
拡張して、その意義を考察したい。 15

16. 謝辞
• このような貴重な研究の機会を下さ
いましたNPO法人地域精神保健福祉
機構・コンボの丹羽大輔さんに記し
て感謝いたします。

17. 【これまでの関連研究】（www.itotakehiko.comからダウンロード可能）
●R130 小平朋江・いとうたけひこ・大高庸平（2010）．統合失調症の闘病記の分析：古川奈都子『心
を病むってどういうこと？：精神病の体験者より』の構造のテキストマイニング 日本精神保健看護学
会誌 19(2), 10-21.
●小平朋江・いとうたけひこ (2013) 『こころの病を生きる：統合失調症患者と精神科医師の往復書
簡』の当事者と医者の語りのテキストマイニング 第33回日本看護科学学会学術集会講演集,p639.
●G222 小平朋江・いとうたけひこ (2014) 『当事者が語る精神障害とのつきあい方』の5人の統
合失調症を持つ人たちの回復の語りのテキストマイニング第34回日本看護科学学会学術集会
●G232 小平朋江・いとうたけひこ (2015)当事者研究の可視化：テキストマイニングによる探求 第12
回当事者研究全国交流集会 浦河大会
●G239 小平朋江・いとうたけひこ (2015)ある統合失調症闘病記のリカバリーとヘルパー･セラピー
原則 西純一『精神障害を乗り越えて：40歳ピアヘルパーの誕生』の内容分析およびテキストマイニン
グ 日本心理学会第79回大会
●G244 Kodaira, T.,& Ito, T. (2016, March)Visualization of Tojisha Kenkyu studies: A text mining
approach to recovery (and discovery). Poster session presented at the 19th East Asian Forum of
Nursing Scholars (EAFONS 2016), Chiba, Japan.
●G247 Kodaira, T., & Ito, T. (2016, July) Psychological approach to Tojisha Kenkyu studies of people
with mental illness. Poster session presented at ICP2016,Yokohama.
●G259 Ito, T., & Kodaira, T. (2016, October) Soul and science unite in Tojisha Kenkyu studies of people
with mental illness. Poster Session presented at Global Human Caring Conference Wuhan, China
●小平朋江・いとうたけひこ(2017)浦河べてるの家の当事者研究の語りとリカバリー：テキストマイニ
ング分析 心理科学 38(1) （印刷中）
●G263 小平朋江・いとうたけひこ (2017)精神障害をもつ人々の回復の語りのテキストマイニング：メ
ンタルヘルスマガジン『こころの元気+』100の表紙モデル記事における話題の特徴 第12回日本統
合失調症学会←おととい3/25（月）米子コンベンションセンターBiG SHiPでポスター発表してきました。17

18. ありがとうございました
• 本研究はJSPS科研費15K11827の助成を受けた。
• ご自由にお取りください。おととい3/25統合失調症学会発表。↓
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