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著作権制度、文化と
クリエイティブ・コモンズ・
ライセンス
情報演習II
慶應女子高
2017.11.30.
今日は何を学ぶのか?
1.著作権制度と文化の根本的な関係
2.著作権制度の主要な特徴
3.クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの役割と利用例
本日の課題
Q.1. 著作権制度の主な特徴として印象に残ったものをいくつか
挙げてください
Q.2. その特徴について賛否や長所・短所について述べてくださ
い(個別に述べても、まとめてでも、その組み合わせなどでも構
いません。)
Q.3. 現行の著作権制度について変更した方がよい点があれば、
その理由と共に述べてください
Q.4. 著作権や文化の支援制度についてもっと学びたいと思った
点があれば、その理由と共に述べてください
分量はA4で1-2ページ分、メールで提出してください。
自己紹介
・IT政策の研究
・ITと社会変動の研究
・SFCの大学院 政策・メディア研究科に所属(特任准教授)
・授業ではITと社会・人間関係についてのディベート(ただし英語)
・デジタルモノづくりに関するプロジェクトに従事(3Dプリンター
と社会変動、政策など)
・他にAI、ウィキペディア、なども研究対象
1.著作権制度を考える
「文化」について考える
Q.1. 好きな「文化」の分野をひとつ選んでください。
部活、趣味、習い事、余暇時間の過ごし方、授業、などから考えると見
つかるはず
Q.2. あなたの楽しみ方はどちらにウエイトがある?
・他の人の活動や作品を鑑賞する
・自分(達)で活動したり作品を制作する
・どちらも重要過ぎてひとつには絞れない
「表現」の文化を考える
Q.3表現の文化は、豊かな社会や豊かな人生にとって、重要?
その主な理由をひとつ挙げるとすると?
文学(出版)、美術、音楽(録音)、演劇、舞踊、建築、映画、学術、
テレビ、ラジオ(放送)、…「表現活動」と呼ばれるような諸分野を想
定してください
Q.4.豊かな社会・人生にとって重要なのは…?
・優れた才能を持った人の活動や作品を鑑賞すること
・自分(達)で活動したり作品を制作すること
・どちらも重要過ぎてひとつには絞れない
Q.5. 豊かな文化を支える制度づくり
・新しい国ができた
・あなたは雇われ政策アドバイザー
・クリエイターを支援する制度を作りたい
・ゼロから作るので、現状のことはあまり気にしなくていい
どんな文化を実現したいかは、いろいろ迷いがある
・凡庸な作品、駄作が増えたらどうしよう
・低俗な作品が増えたらどうしよう
・自由な表現を許容するべき? 暴力、性、ヘイト、嘘、宣伝、噂、
人の私生活の暴露、などを制限・処罰するべき?
あなたのおススメは…? その理由は?
1. クリエイターみんなに生活費を支給
2. コンテストを開催して国民か審査委員会の支持を得た入賞者に賞金
を授与
3. クリエイターに自分の作品を勝手にマネされない権利を授与
4. 国民が作品を買ったり、展示・上演・演奏会に行ったりする時の料
金を国が割引
5. 義務教育の中で表現文化に触れてもらう
…それとも? (自由に、簡潔に、考えてください。)
理由とあわせてメモ書きを作成。(5分)
グループ討議 25分
・4-5人のグループ
・Q.1, Q.2. への回答をシェア(自己紹介の代わり)3分
・Q.3, Q.4. への回答をシェア(ある程度の意見の幅を意識)5分
・Q.5.の案をシェア、
それぞれの案の長所・短所はどこかを議論
一番優れたものをひとつだけ選ぶ。17分
※どうしても選べなければ、悩みどころを特定する。
クラス全体討議 15分
・まとまったグループ 2つ 発表 (おススメの政策・制度)
・まとまらなかったグループ 2つ 発表(悩みどころ)
・質問、コメント
10分休憩
本日の課題
Q.1. 著作権制度の主な特徴として印象に残ったものをいくつか
挙げてください
Q.2. その特徴について賛否や長所・短所について述べてくださ
い(個別に述べても、まとめてでも、その組み合わせなどでも構
いません。)
Q.3. 現行の著作権制度について変更した方がよい点があれば、
その理由と共に述べてください
Q.4. 著作権や文化の支援制度についてもっと学びたいと思った
点があれば、その理由と共に述べてください
分量はA4で1-2ページ分、メールで提出してください。
2.著作権制度の輪郭
現状の著作権制度の輪郭
・クリエイターは自分の創作物を他人にコピーされない権利などを付
与されている
・対象になるのは「思想や感情の創作的な表現」
・権利は期間限定(永続はしない)
・権利の制限もある
(クリエイターに無断でコピーしていい場合もある)
著作権法の原則:他人の創作的表現を勝手に利用してはいけない
Q.6. この制度は問題があるのでは!? と思う部分
Q.7. うまく行くのだろうか!? と思う部分
主な帰結
・政府は直接お金を使わず、多くのクリエイターに収益の機会を
提供できる
・売れないクリエイターは、権利があっても、生活に困る
・維持にお金がかかる活動は、安上がりなオルタナティブに競争
で圧迫されることもある(e.g. オーケストラ)
・政府の意向にかなり左右されにくい
・特定少数の富裕層のパトロンの意向にも左右されにくい
・昔話のように、みんなで作り、みんなで使う、という文化に
とってはやや面倒
参考:その他の制度との分担
・言論の規制については、著作権法以外の法律で
(名誉毀損、プライバシー侵害、わいせつ、など)
・学校教育などにおける鑑賞・表現活動はまた別の法・制度で
・トップクリエイターへの支援は表彰や助成金 *1
・アマチュアの活動支援と伝統文化の保存・継承も助成金で *2
・文化系団体への寄付に、税制上の優遇を認める場合あり
*1 文化庁の政策<http://www.bunka.go.jp/seisaku/geijutsubunka/jutenshien/index.html>
芸術文化振興基金<http://www.ntj.jac.go.jp/kikin/about/1865.html#anchor-02>
*2 芸術文化振興基金 <http://www.ntj.jac.go.jp/kikin/about/1865.html#anchor-05>
著作権制度の不都合なところ
他人の創作的表現を勝手に利用してはいけない
= 簡単に著作権侵害になってしまう
・町で見かけたポスターを写真に撮ってインスタで公開する
・気に入った画像をTwitterでシェアする
・入場料金か出演者謝金のあるコンサートで他人の曲を演奏する
・仕事のためにウェブサイトをプリントアウトする
・避難訓練や防災についての近隣の話し合いでネットから地図を
プリントアウトして配る
Q.8. 著作権でコピーを禁じるべきはど
れ?
O 写真
O 31字の俳句
O ニュースの見出し
O ジュースのペットボトル
O 家具のデザイン
O 学校の校舎
O 日記や手紙
O 服や服装
O 顔の表情やメイク
O 流行語・新しい言葉
O 昔話
O スポーツやゲームのルール
O 料理のレシピ
O 物理法則を表す数式
O 手品のトリック
O 政府の報告書
O 法律の条文
O 株価情報、気象情報
O 申請書類の空のフォーム
O 香水の香り
O 料理
O 字体・フォント
著作権でコピーを禁じるべきはどれ?
O サルが自撮りした写真
O AIが自動生成した音楽
O 誘拐やテロ事件の犯行声明
O 独自のスクープ報道
O 全く売れない曲
O 下手な絵
O 将棋の棋譜(対戦記録)
O テニス選手の動き
情報や知識でも、クリエイターに独占的な権利を認めると、社
会的に不都合になるものがある。
現状の著作権制度
・思想や感情の創作的な表現 について著作者の権利を認める
・思想や感情そのものは 独占できない
・事実そのものは 独占できない
・表現している人がいない自然現象は 独占できない
・視聴覚の表現に何故か集中している
・「創作性」の基準は低い
・実用性がある物品については「創作性」の基準が高く設定されてき
た。が、近年揺れている
Q.9. 著作権で禁じるべき利用行為はど
れ?
O 買った本を知人に貸す
O 買った本を人に有料で貸す
O 買った本を知らない人に貸す
O 図書館が貸す
O レンタルショップが貸す
O 有料のマンガカフェが貸す
O 自分で使うために本をコピー
O バイトで自分が使うために
O 知人とシェアするために
O 家族とシェアするために
O 授業で使うために
O 部活で使うために
O ボランティアでお世話してい
る子どもたち/お年寄りたちに
音楽の練習・演奏だったら…?
著作権の不都合を解消したい
・「コピーは自由」「拡散希望」の場合もある
・自由に使ってもらう方がクリエイターに得になることも
・自由に使ってよい素材があれば、それを楽しむ手段は増えてい
る。= 広い範囲の人(アマチュアや受け手)にとって得
…法律を改正した方がいい? が、かなり難しい。
3.クリエイティブ・コモンズ・ライセ
ンス
そこでライセンス
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの場合
・「誰でも使ってOK」という作品にクリエイターがライセンス
をつける
・法律家が設計に多く関与。「拡散希望」「コピー自由」よりも
明確な意味(法律的効果)を持つようにする
・共通の利用ルールを設けることで、いろいろなコンテンツが同
じ条件で使える
(簡単、確認の手間を省く)
・ただしライセンスは基本6種類
(1種だと、採用してくれるクリエイターが少なくなるため)
無断で使ってもらう方がお得
初音ミク
大崎一番太郎
Nine Inch Nails Ghosts I-VI
ミッションのためにむしろ使ってもらい
たい
ウィキペディア
各国政府のオープンデータ
例えば< http://www.data.go.jp/ >
未来へのキオク(Googleによる震災アーカイブ)
<https://www.miraikioku.com>
自由に使える資源を増やす
Flickr 4億点強の画像 <http://flickr.com/creativecommons/>
青空文庫 著作権保護期間が終了した文学作品等のアーカイブ
<http://www.aozora.gr.jp>
ウィキペディア (投稿者から見た)
本日の課題
Q.1. 著作権制度の主な特徴として印象に残ったものをいくつか挙げて
ください
Q.2. その特徴について賛否や長所・短所について述べてください(個
別に述べても、まとめてでも、その組み合わせなどでも構いませ
ん。)
Q.3. 現行の著作権制度について変更した方がよい点があれば、その理
由と共に述べてください
Q.4. 著作権や文化の支援制度についてもっと学びたいと思った点があ
れば、その理由と共に述べてください
分量はA4で1-2ページ分、メールで提出してください。
ヒント
・あなたが好きな文化の分野(授業中のQ.1.の回答)や、その楽
しみ方(授業中のQ.2. の回答)は著作権制度でどう扱われてい
ますか? それをベースに考えると、現行の制度はあなたにとっ
てよい制度になっていますか? 意見があれば意見を、解消した
い疑問があれば学びたいことを、課題のQ.3.、Q.4.への回答とし
て書く手がかりになるかも。
・著作権のような制度がどういう対象に適用され、どういう利用
行為を規制するべきか、(授業中のQ.8., Q.9. )意見を持てました
か?意見は持てないけれど知りたいと思えることがありました
か? これも課題のQ.3.、Q.4.への回答として書けるかも。

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