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最近のオープンデータ政策の
動向とデジタルアーカイブ
渡辺智暁
国際大学GLOCOM/ 慶應大学/ OKFJ/ CCJP
デジタルアーカイブ学会公開セミナー
ミュージアムとジャパンサーチ:その可能性と課題
2020.02.20 於:東大本郷キャンパス
自己紹介とお断り
・ICT政策と情報社会の研究者
・オープン化は長年取り組んでいる切り口のひとつ
従来よりも多く・多様な主体が対象に関われるようになる
・百科事典の編纂、投稿型サイト、ネットワーク上でのサービス提供、
ボカロ音楽、データ利用、モノづくり…
・オープンデータには2012年頃から研究・政策アドボカシー両面で関
与。(OKFJ共同設立者・副理事長、オープンデータ伝道師、地域情
報化アドバイザー)
・クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの母体であるNPO法人コモン
スフィアの理事長
・法曹資格者ではありません
・発表・発言内容は所属・関連組織の公式見解などではありません
ODのこれまでの主な達成
• (経済効果推計・海外の取り組みなどを学ぶ)
• 重点的に取り組む領域を決める(データ利用価値が高いと想定される領域)
• レポジトリをローンチ(オープンデータ・カタログ)
• ライセンスをオープンなものにする(クレジット表示義務はある)、CCライセンスと互換性を持たせる
• 政府の全ウェブサイトはほぼ全てオープンに
• ODの案内・手引き資料の整備・公開、データを利用するツール(サイト)も公開
• 利用事例収集と紹介、利用されやすい具体的なデータと推奨フォーマットの紹介
• 政府CIOなどによる自治体首長への働きかけ
• データの利用(希望)者とデータを保有する政府のラウンドテーブルシリーズを開催
• 人材育成の各種施策も
• 都道府県には推進計画策定を義務付け(官民データ活用推進基本法)
• 市町村にも策定努力を義務付け
• 他にハッカソンなどにも多数関与
※かなり独断によるまとめです
日本のODの特徴
• 地域ごとの活動が強い
• International Open Data Dayは、世界屈指の参加地域数
• Open Knowledge Foundation Japan は、とりまとめはしているが、も
はや「牽引役」は各地に存在している
• 市民によるOD作りも強い
• ウィキペディア、オープンストリートマップなど市民がオープンデー
タを作るような活動ともつながっている
• データ活用社会を追及する一環として政策的にも継続的に努力
が重ねられている
OD政策の最近の動向(1):
全自治体の取組みの追求
• 全自治体がODに取り組むことが大きな目標
• 古くて新しい問題:
• 効果がわからないと、実践の輪が広がらない
• 懐疑派の人は非常に特定性の高い効果を求める
オープン化一般 オープン化はリスクよりもベネフィットが大きいことが多くあるようだ
オープンデータ オープンデータは経済や行政や市民セクターに様々に役立つようだ
特定分野のデータ 観光系データのオープン化も社会で活用されるようだ
更に特定性の高いデータ 小規模自治体のデータであってもxはオープン化が有益であるようだ
… …
オープン化の価値をめぐる考え方
• 懐疑が強いと「申請ベースのデータ提供」になる
• 「特定のデータについて用途と見込める効果を述べてオープン化を依頼する人が登
場したら提供すればよいのでは?」
• 「隣の自治体で利用された例はあるが、それは自分のところにはあてはまらないか
も知れない。」
• データは、価値がわからなくてもオープン化しておくことにも意味はある
(特にコストがかからない場合)
• 保有者が想像もつかない価値がしばしばある
• 大都市の街路樹のデータ、トラックの運行データ(NZ)、ウィキペディアのデータ
• 文化資産のデータ(→ゲームの舞台に利用)→修復に利用 といった例も
• 規模や網羅性が価値を生むこともある
ODの効果とその(利用例の)捕捉
• データをオープン化すれば、すぐに利用され、すぐに成果が生まれ
るか?
• そうとも限らない
• データの不在・利用制限だけがボトルネックになっている領域では、
オープンデータが提供されれば成果につながる
• 既にデータを利用している業界・職種
• リスト営業、広告・案内用観光地データ、等
• それ以外の領域では、データ以外の条件が揃わないことで利用に時
間がかかることがある。(人材不足、ICTがあまり普及していない、
関連サービスも併せて提供する必要がある、等々)
• 新技術の発明が、即事業化や経済効果創出を意味しないことと似ている。
5年程前のOERの場合
• 教材や学習用資料をオープン化(Open Educational Resources)
• MITが全コースのオープン化を実施するなどして知られる
• 数万点規模の資料は主要レポジトリに登録されている
• 教材開発プロジェクトなどでは頻繁に使われる。オンライン教育などでの活用例
もある。
• 個々の教師が授業準備に使うようには、なかなかならない。
• キーワード検索したら対象学年の違う資料に行きあたる
• 加工しにくいPDFに行きあたる
• 質は玉石混淆
• そもそもレポジトリを知らない、ウィキペディアのように検索エンジンからたどりつく
こともない
• 他人の資料を使うことをよしとしないマインドがある
…等々
メタデータ、知名度、詳細検索などを通じて利便性を向上することが課題に
オープン化だけでは不十分だった
OD政策の最近の動向(2):組織改革など
• データをデジタルで持っている、使っている組織へ
• 権利関係の処理・管理もしている
• オープン化の手間はかからない
• 時間をかけて取り組む課題
• OD達成度などの評価
• OD Index, Barometer, など既に世界に複数の取り組みがある
• 自治体や府省別の取り組み状況を理解、比較する手段のひとつとなる
• 中国に優れた取り組みがある
「最近」の関心事ではなくなっている事
項
• 原則論として、商業利用、改変を認めるか
• 公序良俗違反の禁止等、何らかの制約条件を課すか
• オープン化の取り組みがしばしばそうであるように、オープン化す
る側が懸念するのは望まれない者の関与・参加。
• ストレートな対策は、オープン性を下げて、制約条件を加えること
• オープン化の難しさは、むしろ、参加が乏しいこと。オープン化が
足りないこと。
→制約条件の導入などよりも、アウトリーチやニーズとデータのマッ
チング、キャパシティビルディングなどに力を入れているというのが
最近の動向であるように思われる。
文化資源系の例から
• https://www.nicovideo.jp/watch/sm29725872
• 「鳥羽僧正最大の誤算」というタグもついている。
• 作品の価値は著者にもわからないもの
• ちなみに鳥羽僧正が著者であるかは未確定
• (時間としては原作から活用(動画公開)まで1000年位?)
• MMD鳥獣戯画というタグから他の動画もいくつも見られる
• もっと手をかけて作られた動画もある
• MMDは3Dモデルに振付データなどを与えて踊らせることができるソフトウェア。背
景なども導入できる
• ウィキペディアにもMMDの記事がある(英語版にもある)
• 元々は初音ミクをミュージックビデオに使うために作られたソフトウェア
• 初音ミクに代表されるボーカロイドのジャンルからは、米津玄師のような才能も生まれた
文化としての深みや広がりが感じられる領域(群)
文化資源系の例から
• 様々な人が、素材やツールや技法やインスピレーションとなる
作品を提供し、それが次の作品につながる
• デジタル技術があるからこそ、幅広い人が参加できている
• 文化が受動的に鑑賞するものではなく、作り手として参加する
ものになっている
• (つまり、「文化形成」にもオープン化が起きている)
• (「著作権フリー」なオープンコンテンツはその一助に)
文化資源系の例から
幾つかの条件が豊かなジャンルを可能にしているように見える
• 著作権等の制約が緩い/ない資源があること
• その魅力が新たに発見されることもある。
• 蛙は「セクシー」だとコメントされている
• 有名コンテンツの、よく知られた魅力であることもある。
• コラボレーションのプラットフォーム
• 多様な才能の関与
• 「その道の専門家」でなくてもよいが、
• 面白がり・称賛するコミュニティ
• ※多くの人の貢献で成立しているので権利関係の把握はかなり大変
本資料のライセンス
・この資料はCC BY 4.0 国際 (creativecommons.org/licenses/by/4.0/)で提供され
ています。
・著作者名:渡辺智暁
なお、著作権表示、無保証を参照する表示はありません。
「本パブリック・ライセンスを参照する表示」にあたるのは上の一文だけです。
そこで、この資料を利用して別の資料を作成した場合などには、たとえば、以下
のような表示をすればよいことになります。(加えて、合理的に実施可能な場合
にはこの資料のURLも記載します。)
「この資料の一部は、渡辺智暁による資料を改変の上利用しています。
利用した資料のライセンスを参照する表示:『この資料はCC BY 4.0 国際
(creativecommons.org/licenses/by/4.0/)で提供されています。』

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