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デジタルアーカイブと
CCライセンスの「準用」
渡辺智暁
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン年次報告会
2021.06.12. 於:オンライン
• ここ3年ほど、デジタルアーカイブをCCJPの重点活動領域のひ
とつとしている。
• その活動の中で見えてきた現状と課題について共有したい。
デジタル・アーカイブとライセンス
• デジタル・アーカイブの世界でもCCライセンスは使われている
• 日本では、関連するガイドラインで推奨されている例もある。*1
• 著作権切れの資料、デジタルファイルにもCCライセンスが使われて
いることがある
• 例:東寺百合文書はCC BY 2.1 JPライセンス
• 独自ルールよりも「準用」の方が意図が伝わりやすかったことが背景にあっ
たとの解説もある。(岡本, 2016)*2
• デジタル化にあたっては、所蔵者からの許諾なども必要だった
• 世界的にもこうした例は多く存在している。
• Andrea Wallace and Douglas McCarthyのOpen GLAM Surveyは体系的では
ないが、規模の大きな調査。
• https://docs.google.com/spreadsheets/d/1WPS-KJptUJ-
o8SXtg00llcxq0IKJu8eO6Ege_GrLaNc/edit#gid=1216556120
(前頁の参考資料)
*1デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会 「デジタルアーカイブにおける望ましい
二次利用条件表示の在り方について(2019年版)」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/jitumusya/2018/nijiriyou2019.pdf
デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会、実務者協議会及びメタデータのオープン化等検討
ワーキンググループ「デジタルアーカ イブの構築・共有・活用ガイドライン」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/guideline.pdf
*2 岡本 隆明 (2016) 「京都府立総合資料館の東寺百合文書:デジタル化とWeb公開に向けた取り組みを通
じて」 情報管理 59 巻 3 号 p. 181-188 doi: 10.1241/johokanri.59.181
類似のライセンス・利用条件選択事例についての報告として青柳和仁(2020)「島根大学附属図書館デジタ
ルアーカイブのライセンスの改定」カレントアウェアネス-E No.384 2020.01.30.
https://current.ndl.go.jp/e2221
CCライセンスの「準用」の効果
CCにとっては歓迎するべきこと?
• CCライセンスの知名度はあがる
• 役には立っている(だろう)
• 実際には「著作権切れ」の資料につけても効果はないのでは
→CCライセンスは無視してもよいもの、という事例が増える
→CCライセンスの信頼が落ちるのは望ましくない
• 著作権が切れていて自由に使えるはずのものが、そうでなないかの
ような誤解が拡がる
→CCが一般に目指す方向とズレている。
• CCJP内部でも、賛否について議論がある
背景1:著作権法の浸透していない環境
• 著作権法の概要は広く知られているわけではない
• 誤解も生まれる
• デジタル・アーカイブ構築にあたっても、所蔵者の許諾を得た
りしている例があり、その関係の中で、アーカイブデータ(画
像、他)の利用条件も決まることがある
• 寺社仏閣の中には、撮影済み画像についても利用を制限してく
る例がある
(いわゆる「疑似著作権」問題)
背景2:デジタル・アーカイブの事情
• 公的使命と資金でアーカイブ化を進める場合でも、アーカイブ
側には一定のニーズがある
• 利用について報告を受けたい
• クレジット表記をして欲しい
• PD(「著作権切れ」)資料について、「ライセンス」を使うのは
不適切だが、「お願い」として標準化する(+機械判読性を高
める、標準アイコンを設定するなどは可能では?)
参考:大規模データの世界との比較
• 科学研究等の文脈での大規模データベース
• 利用条件についての議論がある
• 意見1:データベースへのクレジット、データベースにデータを登録した
人へのクレジットを是とする意見もある。
• クレジット付与は学術的な世界での基本的規範
• 「格差」「搾取」の影を見る向きもある
• cf 遺伝子情報のデータは、採取・解析した人のもの? 採取・解析対象を提供した国や社会の
もの? (cf 浪曲などの伝統文化・フォークロアの著作権問題)
• 意見2:データベースは条件を課さないべきとの意見もある。
• データ自体に著作権がないことも多い
• 科学研究は広く社会に役立つ(ことを目指している場合も多い)からみんなの得に
なる
• クレジット表記の量が増えすぎて困る
• 著作権や利用規約のような「法」ではなく、「文献を参照したら書誌情報を示すべ
し」といった「規範」で対応する方が便利
本資料のライセンス
・この資料はCC BY 4.0 国際 (creativecommons.org/licenses/by/4.0/)で提供され
ています。
・著作者名:渡辺智暁
なお、著作権表示、無保証を参照する表示はありません。
「本パブリック・ライセンスを参照する表示」にあたるのは上の一文だけです。
そこで、この資料を利用して別の資料を作成した場合などには、たとえば、以下
のような表示をすればよいことになります。(加えて、合理的に実施可能な場合
にはこの資料のURLも記載します。)
「この資料の一部は、渡辺智暁による資料を改変の上利用しています。
利用した資料のライセンスを参照する表示:『この資料はCC BY 4.0 国際
(creativecommons.org/licenses/by/4.0/)で提供されています。』

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