データのCCライセンス提供を扱う入門的な資料

1. 研究データ共有：著作権
とライセンシング
渡辺智暁
慶應義塾大学／コモンスフィア／
オープンナレッジファウンデーション・ジャパン
2016.8.3. 於:筑波大学

2. 自己紹介など
・3Dデータ
・オープンデータ
・クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
・ウィキペディア
・ICT政策と情報社会論
※個人の見解なので所属する組織の公式見解とは異なる場合があ
ります。
※弁護士・法学者ではありません

3. 本日の構成
１．著作権とライセンス
２．CC（クリエイティブ・コモンズ）ライセンス
３．データと著作権
４．よくある質問

4. １．著作権とライセンス

5. 著作権は「原則利用禁止」のルール
・他人の著作物は、原則として利用してはいけない。
・利用：複製、翻訳、翻案、公衆送信など…無断でするのは原則
違法（権利侵害）

6. 例外はあるが、細かい規定に制限される
・報道や研究のための他人の著作物の引用（公表された著作物で、公
正な慣行に沿ったものであれば）
→学生の試験の答案は「公表」されていないからだめ。アンケート調
査の自由記述欄も微妙か。
・教育目的の複製（生徒または教師が、非営利の教育機関の、授業内
などであれば）
→塾や授業アーカイブ、オンライン公開授業、サークル活動などはNG
などなど。
→利用したければ、許諾をもらうのが原則

7. パブリック・ライセンスによる許諾
・権利者（著作者か著作権者）が許諾を与える
・公衆の誰でも著作物を使ってよい、という意思表示／許諾行為
・個別の連絡などが不要になる
・どのような利用形態を許容するか、条件を課すかなどはライセ
ンスに書いておく
※フリーソフトウェアが1980年代に開発したライセンスの仕組み
がきっかけに様々な領域に拡大を続けている。

8. ２．CCライセンス

9. CCライセンスと普通のライセンス
許諾対象者 内容の決め方 作成者 対価 期間
CCライセンス 公衆（誰でも） 予め決まっている クリエイティ
ブ・コモンズ
求めない 権利が
続く間
通常のライセンス 契約当事者
（特定少数）
個別交渉で決める 契約当事者や
その法務・顧
問弁護士など
求める 有限
※許諾対象を公衆にする、予めライセンス内容
を決める→個別交渉不要に
※自由な利用を認め、あまり制約を課さないも
のにする→個別交渉不要に

10. 幅広い利用
オープンな情報資源のために広く使われている
（ソフトウェアを除く）
・ウィキペディア (数百万項目の百科事典)
wikipedia.org
・Flickr (3.5億枚以上の写真)
www.flickr.com/creativecommons/
・日本政府のオープンデータカタログ (1.5万点以上のデータ)
data.go.jp
・ MITオープンコースウェア（3000程度のクラスの資料）
・PLoSジャーナル群

11. データ向けのデファクト・スタンダード
・豪州などで採用
・Open Government License（英）、License Ouverte（仏）など独
自のライセンス
→CCライセンスとの互換性を確保するような作りに
・日本政府の政府標準利用規約2.0も同様

12. 学習コスト
・新しいライセンスを読んで理解するコスト
少なくない
・既に多くの人が馴染んでいるライセンス
コストが減らせる場合がある
cf. ライセンス増殖問題

13. 組み合わせ利用のコスト
・2種類の資源を組み合わせることができるか？
・組み合わせたものを第三者にどのように提供できるか？
→2種類のライセンスを読み合わせ、両方を同時に満たせるかを
検討 = 非常に難しい作業

14. 3種類の選択要素
3つの要素について選択する：
・商業目的の利用は許諾範囲から外すか？（NC）
・改変を許諾範囲から外すか？（ND）
・翻案物を作った人が公表する場合は、元の作品と同じように、
誰でも自由に使えるようにするべきか？（SA）
（・著作者へのクレジットを表示するべきか？（BY））
※BY要素は当初は選択しないこともできたが、選択しない人が非
常に少なかったため固定された。

15. 6種類のライセンス
CC BY
CC BY-SA
CC BY-NC
CC BY-ND
CC BY-NC-SA
CC BY-NC-ND
※ND（改変不可）とSA（翻案物の共有義務）は両立しない
※最初の2つは「オープンライセンス」に該当する。
※オープンデータは、オープンライセンスでの提供が要件。

16. ユーザーフレンドリーにする工夫
・名前、略称、アイコンだけでライセンスの種別がわかる
・読みやすいライセンスのサマリーページを用意
・名称は一瞥してCCとわかるもの
・各ライセンスのURLと名称の体系的な関連付け
・各国のチームによるサポート、普及振興活動
・グローバルな意見収集を含む改訂プロセス

17. 機能の担保
・弁護士、法律家による丹念なドラフティングとレビュー
・グローバルな参加
・10年以上をかけた改良
※CCライセンスの効力が問題になった訴訟も（海外）
法廷では有効性が認められてきている

18. ３．データと著作権

19. 著作物とは？
１思想や感情の
２創作的な
３表現
著作物でないもの：
事実のストレートな表現：１、２に該当せず
思想や感情など表現内容：３に該当せず
あいさつなどのありふれた表現：２に該当せず
物理法則、数学の定理：１、２に該当せず
天気や株価情報：１、２に該当せず
著作物でない= 無断で使っても著作権侵害にならない

20. 著作物とは？（２）
創作性：
・著作者の個性が何らかの形で表れていればいい、など低い基準
のことも
・新しい必要はない
新聞記事：事実の取捨選択・配列に書き手の価値観などが反映さ
れる→その部分は「創作的」→著作物
他に交通標語、スナップ写真、匿名掲示板の投稿なども。

21. 数値データは？
・多くの場合著作物ではない
・温度の推移など自然現象を測定し数値にしているものなど
→CCライセンスをつけなくても、かなりの場合、誰でも利用可能
・テクニカルノートの類は著作物になっていることも多そう
※EUではデータベース権という著作権に似た権利がある。CCライセン
スはデータベース権の許諾も含むのでEUでは意味を持つ場合がある。
（日本法でも営利企業の非著作物データがライバル会社に利用され
た場合などは同様かも。）

22. 何故データにライセンスをつけるのか？
・明らかにパブリックドメイン（著作物でないもの）なら意味なし
・著作物なのかどうか不明なものがある
・個別に判別するのが提供者側の負担になる
→
・著作物の場合はCC BY
・著作物でない場合は自由に使える
・どちらなのかの判断は利用者に任せる
…といった方式が合理的な場合がある

23. ４．ライセンスに関するよくある質問

24. 1)ライセンスの撤回や変更は可能か？
・可能
・既にデータをライセンスつきで入手した人は、引き続きそのラ
イセンスで利用可能
・既にデータをライセンスに従って利用した人の利用行為が遡っ
て著作権侵害になることもない
→撤回や変更は、未来の利用者には一定の効果を持つ

25. 2)CCライセンスに条件を付け足したい
・ライセンスの文面を書き変えるのは自由
・ただし、書き変えたものは「CCライセンス」ではない
（クリエイティブ・コモンズの名称は使えない）

26. 3) バージョンがある？
・最新版はversion 4.0
・2015年に日本語版もリリース（英語版など他の言語のものと内
容は同じ）
・おすすめは最新版
データベース権対応、クレジット表示義務の規定の整理など

27. 4) 誰が利用したかわかる？
・クレジット表示の検索などをすればわかる事例もある
・利用者は報告義務などはない
・報告をお願いする（強制はしない）ことはできる
・事情は学術論文のcitation とだいたい同じ

28. 5) データの著作者は誰？
・思想や感情の創作的表現に該当しない：著作者もいない
・データの作成者：著作者がいるとしたら作成者
・データの測定対象となった人：著作者ではない
・データを作成していないが管理・保管している人：これも違う
※カメラマンと被写体、写真の著作者は前者
・ライセンスの選択は、基本的には著作者が行う
・複数いればみんなが合意する必要あり
・著作者から権利を譲渡された者（「著作権者」）がいればその者が
行う場合も

29. 6) 第三者の権利が入っている場合は？
・他人の著作物がデータに含まれている場合
→著作者や著作権者にも同意をとっておくのがおすすめ
・同意をとらず、自分の作成分にのみCCライセンスをつける
→事情を知らない・誤解した人による意図せぬ侵害

30. 7) 個人情報が含まれるデータは…?
・個人情報保護法とCCライセンスは基本的に別物
・個人情報保護法上、公開してはいけない情報があれば、公開はNG
・CCライセンスは著作権についての許諾。著作者からの許諾
・データの対象になっている個人について間違った情報（データ）を
流通させて、当人に不利益を与える
→対象になっている個人が問題視する
※ライセンスのお陰で、著作権法上は問題なく利用できるデータでも、
他の法律の影響がある場合には、注意喚起しておくのがよい。

31. 8) 部分的にしか著作物でないデータは？
・ライセンスが何であれ、著作物でない部分は無断で自由に利用
可能
・著作物になっている部分の利用のためには、利用者は許諾が必
要になる

32. 9) おすすめのライセンスは？
・CC BY
・最もシンプル
・社会に対する還元効果が高い
・ウィキペディアなどでも受け入れ可能

33. 10) ライセンス違反があったら？
１．通知＞修正してもらう
２．一定期間修正がなければ、違反者へのライセンスが停止する
→著作権侵害になる
３．ホストしているプロバイダがいれば著作権侵害ということで
削除の要請を出すこともできる
他に訴訟も

34. 11) コピーしていい= 剽窃OK？
CC BY
・クレジット表示は依然として義務
パブリックドメイン（著作物性のないもの、古いもの）
・学術研究の文脈ではcitation の作法に従う必要はある
・プラトンの著作から剽窃しても、学術的にはアウト
（著作権法的には問題ない）

35. 12) 改ざんされたら？
・数値データの改変は、通常、著作権法では禁止されていない。
（思想や感情の創作的表現でないものを改変しているだけ）
・学術コミュニティの規範は法に関係がない
→サンクションはありうる
・世間での炎上なども同じ
・CCライセンスが効果を持つ文脈では、自分へのクレジットを
表示しないように要請できる

36. 13) 自分のデータで他人が儲けてほしく
ない
・データは著作権ではないので、利用を制限しにくいこともある
・著作物の場合、おすすめはCC BY-SA
データ利用の結果できた翻案物は誰でも使えるものになる
→特定の利用者だけがただ乗りすることの防止につながる
・もちろんCC BY-NCもある
※写真を利用して商業出版物にする場合など
※データをコピー、解析して投資判断に活用した場合：
CC BY-SA 問題ない
CC BY-NC 違反

37. 14) バージョン4.0 の特徴は？
・著作権だけでなくデータベース権にも対応
・グローバルに文言を統一（各言語に翻訳中）
※従来は各国・管轄地の著作権法に合わせた移植をしていたが
これは基本廃止
・クレジット表示まわりの規定をわかりやすく
など

38. 本資料のライセンス
・この資料はCC BY 4.0 国際 (creativecommons.org/licenses/by/4.0/)で提供されています。
・著作者名：渡辺智暁
なお、著作権表示、無保証を参照する表示はありません。
「本パブリック・ライセンスを参照する表示」にあたるのは上の一文だけです。
そこで、この資料を利用して別の資料を作成した場合などには、たとえば、以下のような
表示をすればよいことになります。（それに加えて、合理的に実施可能な場合にはこの資
料のURLを記載します。）
「この資料の一部は、渡辺智暁による資料を改変の上利用しています。
利用した資料のライセンスを参照する表示：『この資料はCC BY 4.0 国際
(creativecommons.org/licenses/by/4.0/)で提供されています。』
利用した資料のURL： http://www.slideshare.net/TomoakiWatanabe/researchdatalicensing 」