More Related Content More from Yuto Takei (20) ブロックチェーンの不動産登記への応用に関する検討3. 竹井 悠人
株式会社 bitFlyer
ブロックチェーン開発部 部長 兼 最高情報セキュリティ責任者
情報処理安全確保支援士 / 宅地建物取引士 / 測量士
東京大学 理学部を 2011、同大学院 情報理工学系研究科を 2013 に修了
在学中ソフトウェア エンジニアとして Google, PFN, パリ南大学でインターン
卒業後、情報処理推進機構 (IPA) による未踏事業 クリエータとして活動
複数ベンチャー創業するが資金調達に至らず。原告として本人訴訟し和解など
その後、開発コンサルティングを行ううち、顧客だった bitFlyer に就業
2018 より東京工業大学 情報理工学院 博士課程に在籍
@yutopio_ja
6. ブロックチェーンとは
分散台帳技術 (DLT) のひとつ
● ネットワークの参加者であれば誰でもいつでも、一定の様式を満たす情報を書き込
むことができ、別の参加者から読み出すことができるようになる
● 様式に外れた書き込み要求 (不正なデータ等) は、却下される
● 一定数 (理論的には全体の 1/3 未満)、不当な参加者がいても動作する
技術的には
● 任意の情報を「ブロック」と呼ぶ単位に含めて、それらどうしを要約してチェーン状に
つないだデータ構造
● 上記のデータを効率よくコンピュータ間で同期し、また正当
であるか検証するための技術の総称
8. 要約
ブロックチェーン概略図
Block
100002
Block
100001
前のブロック
000000000003ba27aa200b1c…
(ブロック 100000 の要約)
日時
2010/12/29 12:06:44
取引データ ID
● bb28a1a5b3a02e76…
● fbde5d03b027d2b9…
● 8131ffb0a2c945ec…
● …
前のブロック
00000000000080b66c911bd5…
(ブロック 100001 の要約)
日時
2010/12/29 12:17:31
取引データ ID
● ef1d870d24c85b89…
● f9fc751cb7dc3724…
● db60fb93d736894e…
● …
中身
参考: https://chainflyer.bitflyer.jp/v1/block/height/100001
入力 出力
Tx ID: 1112… の 3 番目の
出力を使う
署名
0
アドレス 1ABC… に
30 コイン送ります
公開鍵
Tx ID: 2142… の 2 番目の
出力を使う
署名
1
アドレス 1BCD… に
10 コイン送ります
公開鍵
⋮ ⋮
ブロックチェーンの目的によってトランザク
ションのデータ構造は任意
10. 前のブロックの要約が、次のブロックの冒頭に記載。ブロックチェーンの完全性の検証
には、要約の正しい連なり (ハッシュ チェーン) および合意形成の証憑の確認で足りる
過去のブロックを改竄するには、一貫性を保つため最新ブロックまで
改竄が必要。ブロックごとに合意形成が必要な仕組みなので、
合意の改竄も必要。総合すると現実的には著しく困難
前ブロック …
日時 2009/1/3 …
取引 ID
…
前ブロック …
日時 2009/1/3 …
取引 ID
…
前ブロック …
日時 2009/1/3 …
取引 ID
…
前ブロック …
日時 2009/1/3 …
取引 ID
…
前ブロック …
日時 2009/1/3 …
取引 ID
…
技術的背景 (1) - ハッシュ チェーン
0 1 2 3 4
改竄! 後続ブロックすべての
要約の変更が必要
11. ba71e921497a45cb09b98a0f…
要約
技術的背景 (1) - ハッシュ チェーン
前のブロック
000000000003ba27aa200b1c…
日時
2010/12/29 12:06:44
取引 ID
● …
前のブロック
00000000000080b66c911bd5…
日時
2010/12/29 12:17:31
前のブロック
000000000003ba27aa200b1c…
日時
2010/12/29 12:34:56
取引 ID
● …
齟齬が生じる
ブロック 100001 ブロック 100002
ブロックを改竄すると要約が変化。ハッシュ関数の性質よ
り、要約を変えずに内容を変更するのは事実上不可能。
要
約
12. 技術的背景 (2) - 合意形成
参加するサーバ間で、データの書き込み可否を決定する仕組みが存在 (合意形成)
定期的にいずれかのサーバが新規に発生した書き込みデータをブロックにまとめ、
参加ノード間で合意形成を行う (例: Bitcoin は 10 分毎)。各ノードは、データの
様式が正当であれば機械的に受理する。合意が形成されると、
電子的な証憑が付されて容易に検証可能。一定数の違反
ノードが存在してもシステム運営に影響しない
サーバ
サーバ
サーバ
サーバ
ブロック作成の提案
投票
16. 参考: 不動産登記
以下の 3 部からなる
● 表題部
● 権利部 (甲区)
● 権利部 (乙区)
登記が発生すると
● 目的、内容、原因
● 登記者
● 日時
等が追記されていく
引用元: 不動産登記記録例集 : 平成21年2月20日法務省民二第500号
引用元: 民事局長通達. 17ページ
19. システム コストと運用
システム コスト
● 全国の法務局・地方法務局 (50 拠点) にサーバを配備、接続
拠点あたりの機器調達コストは、大きく見積もっても約 1 億円で十分か
● 別途、帯域幅の大きなインターネット回線を複数系統用意すべき
運用方法
● 各地方法務局では、インターネット回線があれば十分
● ブラウザから操作できるような設計がとれる可能性も
● 一般ユーザも、ブロックチェーン データをダウンロードして検証可
(つまり、登記情報サービスが不要になる)
20. 単純な見積りによる 1 拠点の機器構成
サーバ (1 機あたり約 800 万円、計 2 機用意)
● ファミリー Dell PowerEdge R7425
● プロセッサ AMD EPYC™ 7351 2.4GHz/2.9GHz, 16C/32T, 64M cache を 2 基
● メモリ DDR4 32GB RDIMM, 2666MT/s を 32 ユニット
● ストレージ 480GB SSD
● ネットワーク Broadcom 57416, 10Gb 2 ポート
● 電源ユニット 250V 2400W
● サポート 3 年間 4 時間オンサイト
ネットワーク ストレージ (約 5000 万円)
● SSD 2TB を 1000 ユニット
22. 法的な検討事項
不動産登記法から不動産登記事務取扱手続準則まで、すべてに影響が出る
● 登記事項証明書が不要になる (法 第百十九条)
○ ブロックチェーンの情報は誰でも検証可能なので、データ自体を正本として扱える
● 書面を提出する方法での登記の取り扱いが変化する (令 第十五条以下)
○ 登記官などが代理でブロックチェーンに記載する方法を用意する必要がある
● 閉鎖登記という概念がなくなる (準則 第17条)
○ システム開始時点から恒久的にデータが保存される。保管期間の定めが不要
● 受付番号の前後が厳密ではなくなる (準則 第31条)
○ ブロックの生成時間に応じて記録されるので、同一ブロック内での順位は不定。数秒のズレ
● 登記識別情報のシステム上での扱いが難しい (準則 第41条)
○ ブロックチェーンの公開性の秘匿化が難しい。代替の権利証明手段が必要
23. 想定される Q & A
Q 見積りが甘いのではないか?
A はい。単純な検証で、主たる機器の調達費に限る。運用・維持は含まない
Q ブロックチェーンというと、マイニングに莫大な電力がかかるのでは?
A 必ずしもそうではない。電力を消費しない合意形成方法が存在する
Q 取引の電子署名や合意の改竄は想定しなくてよいのか?
A e 文書法で定められた署名方式と同一。既存システムと同程度の低リスク
Q システム全体に波及する障害は想定されるのか?
A ブロックチェーン自体にバグがあれば起こりうるが、どの分散
システムも同様。なお Bitcoin は 2009 年から 24/7 で無停止
25. まとめ
● ブロックチェーンの概要
○ ブロックチェーンとは分散データベースの一種
○ 完全性、可用性、可監査性、認証機能を備える
○ ハッシュ チェーンおよび合意形成の仕組みがその根幹をささえる
○ 完全性が求められ、利害関係の調整が難しいケースに強い
● 不動産登記への応用
○ 高い公共性、データ保護の価値、可用性の要件から、適切なケース
○ 各拠点 1 億円のサーバ装置等を配置。コスト的にはそれでも有利なのではないか
○ 不動産登記法令すべてにおいて影響がでる