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『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』第14号(2016年2月)

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『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』第14号(2016年2月)

  1. 1. ライブラリー・リソース・ガイド 第14号/2016年 冬号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 Library Resource Guide 司書名鑑 No.10 佐藤潔(図書館総合展運営委員長) 特集 ふじたまさえ 図書館100連発4 連載 嶋田学 図書館資料の選び方・私論 ∼その1∼ 特別寄稿 岡部晋典 図書館は「利用者の秘密を守る」 その原点と変遷
  2. 2. LRG Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 第14号/2016年 冬号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 特別寄稿 岡部晋典 図 書 館 は「利 用 者 の 秘 密 を 守 る」 そ の 原 点と変 遷 ── 大 学 図 書 館 デ ータの 利 活 用 の 可 能 性 特集 ふじたまさえ 図書館100連発4 連載 嶋田学 図書館資料の選び方・私論 ∼その1∼ 司書名鑑 No.10 佐藤潔(図書館総合展運営委員長)
  3. 3. 「目となり、耳となる」。 この言葉は、図書館のプロデュースを手掛けるアカデミック・リソース・ガイ ド株式会社(以下、弊社)の姿勢を説明するうえで、私が講演をする際に、最近 よく使っているものです。弊社は、特に地方での仕事を重視していることもあ り、私を含めて、合計7名のスタッフが日本全国をめぐり、各地の図書館整備に 関わっています。このような出張の日々において重視していることが、「目となり、 耳となる」ことです。 具体的には、各地に足を運ぶ際には、オフィスと出張先の往復にただ終わるの ではなく、できる限り出張先の街に身を置くこと、そして行程途中の周辺の街々 にも足を延ばすことを心がけています。あえて一泊し、夜の街にも繰り出すと、 昼間とは一転してにぎわう街の姿を発見することがあります。早朝に街中を散歩 することで、日中では見かけない若者の姿を目にすることがあります。 当然、図書館やそれに類する施設にも足を運びます。たとえば、私の場合、 2015年は43都府県の417施設に足を運びました。昨年1年間の国内移動距離は 11万7,036キロになります。そして、訪問する先は必ずしも世評に名高い施設ば かりではありません。むしろ世評にまだのぼっていない施設にこそ、宝が眠って いるかもしれないという意識を持って訪ね歩きます。 こうやってコツコツと足を運び、現地の関係者に話をうかがいます。それが私 たちの仕事の足腰を鍛え、「目となり耳となる」コンサルタントをするうえで、私 たちの血となり肉となっています。もちろん、数や量がすべてではないことはい うまでもありません。 これは昔話になってしまいますが、かつて在職したYahoo! JAPANで「Yahoo! 知恵袋」を立ち上げた10数年前も、実は同じことをしていました。2004年4月7 日にYahoo!知恵袋のベータ版を世に出し、最終的に「Yahoo!知恵袋」がQ&Aサー ビスにおけるナンバーワンになるまで、一貫して重視していたのは、質という考 えに捉われずに、まずは質問・回答の量を追い求めることでした。なぜならば、 「質量転化の法則」という仮説を立て、量をこなすことで初めて質を語れる領域に 達することができるという、一種の思い込みにも似た確信を持っていたからです。 この思い込みに基づく確信があればこそ、「Yahoo!知恵袋」の成功があったと初 巻頭言 学び得た知を社会へ──その実践としての雑誌づくり 002 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 巻頭言
  4. 4. 代Yahoo!知恵袋プロデューサーとして、いまでも信じています。 図書館という新たな領域に挑戦するうえで、圧倒的に欠けている経験を補うの は、日々の座学に加え、フットワークを生かしたフィールドワークにほかなりま せん。こうやって学び得たことを社会に還元・還流させていくことが、図書館プ ロデュースにおける私たちの責務です。そして、そのプロデュースの場は必ずし も具体的な図書館整備事業の現場に限られません。そう、この雑誌もまたその場 なのです。これまでの数々の特集記事は、まさにその証明となるでしょう。そし て、今号では、私たちの日々のフィールドワークの還元・還流の最たるものの一 つである「図書館100連発」の第4弾をみなさまに届けます。主に去年1年間に私 たちが日本各地で学んだ珠玉の取り組みをぜひご覧ください。 なお、ここ1、2年で本誌が生んだ大きなムーブメントとしては、創刊号、第4 号、第9号で特集した「図書館100連発」に刺激を受けた日本各地の図書館が、そ の地域の「図書館100連発」をつくろうというイベントを開催したことが挙げられ ます。北海道、東北、関東甲信越、近畿、中国、九州・沖縄と幾多の地域に私た ちをお招きいただき、小さくてもキラリと光る事例の共有に努めようとする図書 館関係者の真摯な姿を目の当たりにしてきました。その場で学んだ取り組みも一 部収録しています。開催にご尽力いただいた関係者の方々には、心から御礼申し 上げます。 そして、今回の第14号では、「論文」と評して問題がないほどのクオリティー である岡部晋典さん(同志社大学)による「図書館は『利用者の秘密を守る』その原 点と変遷」を書き下ろし論考として掲載します。また、司書名鑑には図書館総合 展運営委員会委員長の佐藤潔さんをお迎えしました。図書館と出版の世界のつば ぜりあいが再び聞かれなくもない昨今、大手出版社の敏腕営業職であった佐藤さ んの図書館にかける思いにぜひふれてください。そして前号で予告したとおり、 嶋田学さん(瀬戸内市図書館準備室)による連載「図書館での本選び・私論」が始ま ります。期待に胸を膨らませたまま、ページをめくっていっていただければ幸い です。 編集兼発行人:岡本真 003ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 巻頭言
  5. 5. 巻 頭 言 学び得た知を社会へ── その実践としての雑誌づくり[岡本真]……………… 002 特別寄稿 図書館は「利用者の秘密を守る」その原点と変遷[岡部晋典]…………………… 005 特  集 図書館100連発4[ふじたまさえ] ……………………………………………………………… 043 資料収集の工夫 ………………………………………………………………………………………… 044 資料提供の工夫 ………………………………………………………………………………………… 049 資料展示の工夫 ………………………………………………………………………………………… 059 PRの工夫………………………………………………………………………………………………… 089 環境の改善 ……………………………………………………………………………………………… 131 地域連携の試み ………………………………………………………………………………………… 140 連  載 図書館資料の選び方・私論 ∼その1∼[嶋田学]………………………………………… 144 LRG CONTENTS Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 第 1 4 号 / 2 0 1 6 年 冬 号 司書名鑑 No.10 佐藤 潔(図書館総合展運営委員長) アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告 定期購読・バックナンバーのご案内 次号予告 ………………………………………………………… 157 …………………………………………………… 164 ……………………………………………………………………………… 172 …………………………………………………………………………………………………………… 175
  6. 6. 図 書 館 は「利 用 者 の 秘 密 を 守 る」 そ の 原 点と変 遷 ── 大 学 図 書 館 デ ータの 利 活 用 の 可 能 性 岡 部 晋 典
  7. 7. 006 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 1. 問題の所在 本稿では、大学生の学習実態分析におけ る図書館利用データの活用の可能性につい て論じる。具体的には、大学図書館の持つ 読書履歴データを利活用することは、「図 書館の自由に関する宣言」(以下、自由宣 言)にある「図書館は利用者の秘密を守る」 の文言に抵触するのかどうかについて論じ る。なお公共図書館や学校図書館等におけ る図書館利用データについての議論は本稿 では行わない。 本稿では主として、「図書館は利用者の 秘密を守る」という文言が、現代までどの ような経緯をたどってきたのかを追跡する 作業を行う。「利用者の秘密」の文言をめ ぐっては図書館とプライバシーの話題が巻 き起こるたびにしばしば議論が行われるも のの、一気にこれらの論点を捉えるような まとめは行われていない。 だからだろうか、たとえば近年の図書館 業界における一大イシューである図書館の 貸出履歴データとポイントカードをめぐる 話題のなかで、なぜか警察の捜査令状の議 論が取り上げられるなどの混乱が生じてい ることなどは記憶に新しい。 そこで本稿では大学図書館におけるデー タの利活用の方策を探ることを主たる目的 としつつ、自由宣言における「利用者の秘 密を守る」をめぐる文言がどのような変遷 をたどってきたかを同時に把握できるよう 試みる。よって、「利用者の秘密」の文言の 変遷を先に追う場合においては、第3章か ら先に読んでいただきたい。 2008年(平成20年)の中央教育審議会答 申「学士課程教育の構築に向けて」、いわゆ る「学士力答申」および、2012年(平成24年) の答申「新たな未来を築くための大学教育 の質的転換に向けて」いわゆる「質的転換答 申」以降、大学は自らの「質保証」を強く問 われるようになってきた。 これらの答申を経て、大学は学生に「何 を教えたか」ではなく、学生が「何ができ 図書館は「利用者の秘密を守る」 その原点と変遷 ──大学図書館データの利活用の可能性 岡部晋典(おかべ・ゆきのり) 1982年愛知県生まれ。筑波大学大学院図書館情報 メディア研究科博士前期課程修了、同後期課程退学。 博士(図書館情報学)。複数の大学の司書課程の専任 教員を経たのち、現在、同志社大学 学習支援・教 育開発センター助教。ラーニング・コモンズ担当。
  8. 8. 007ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 るようになったか」という学生の学習成果 (learning outcome)を主眼とする、成果に もとづく教育(outcome-based education) を行うことが重視されるようになった。 このようなアウトカムを重視する潮流 に呼応するように、大学 IR(Institutional Research)の動きが加速しつつある。詳細 については後に述べるが、大学IRとは「最 も狭義には、IRは単なる調査データの収集 分析、報告といった活動を指すが、より広 義には、全学レベルの財務計画や戦略的 計画(strategic plan)の策定まで、きわめ て幅広い活動を指す」★1 ものである。つま り、現在、大学は社会のなかで活動する際 の説明責任を果たすと同時に、業務の改善 を行うために大学内部の活動について調査、 分析し報告することが重視され始めている。 これらは大学教育の質の保証のテーマと セットで語られる。「質保証」というターム は米国や欧州、国際機関によって使われ始 め、日本に導入されてきたという背景があ る。 また、日本においては「質保証」はしばし ば大学の変遷とセットで議論される。米国 の社会学者マーチン・トロウによると、高 等教育への進学率が15%を超えると 高等 教育はエリート段階からマス段階へ移行す るという。トロウはこのモデルを1970年 代に提出している★2 。我が国の高等教育の 進学率は1960年代前半に15%を超え、そ こから急激に上昇した。1970年代には大 学進学率が3割を超え、教育環境の悪化が 指摘されるようになった。そして現在、大 学は「ユニバーサル段階」にあるといわれて いる。大学進学率がほぼ50%に達してい る現在、本当に大学生は学んでいるのだろ うか? 本当に大学教育はきちんと機能し ているのだろうか?大学はこういった問い に対して否応なく答えざるを得ない状況に 晒されており、それゆえ「質保証」という考 え方がクローズアップされるようになって きた。 学生の学びの代表的な測定方法として、 間接評価と直接評価がある。間接評価とは、 学生調査等を用いて学生の自己認識といっ たことを評価するものである。直接評価は 学生の成果を直接評価するもので、GPA(グ ローバル・ポイント・アベレージ:学生が 履修した科目の成績を平均した数字で表し たもの)などがそれにあたる。 我が国においては直接評価についてはい まだ大学ごとに温度差がある。一方で、間 接評価については、キャンパスライフアン ケートといった形で、各大学の高等教育開 発センターなどの部署において分析および 報告が進んでいる。 本稿は学生の学びの評価についての論考 ではないため、評価そのものや評価の意 義、評価の持つ困難といった議論に立ち入 るのは控える。ただし、現代の高等教育の なかでは、学生がどのように学んでいるか の実態を可視化することは重要視されてお り、これらが高等教育にまつわるイシュー になっていることは指摘できる。 たとえば、京都大学FD(ファカルティ・ ディベロップメント:授業内容・方法を改 善し向上させるための組織的な取組の総 称)研究検討委員会・高等教育開発推進セ ンターでは、『京都大学自学自習等学生の 学修生活実態調査報告書』を刊行し★3 、肯
  9. 9. 008 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 定的な結果はもちろん、否定的な結果、た とえば大学の授業自体よりもむしろサーク ル活動等が、結果として学生の学びには資 している部分もあり、学生の予習復習時間 は短いといった事実も公表している。この ことによって、必要に応じて全学・各学部 の教育改善の資料としている。 これらは主としてFDに関連する活動と して行われている。ただし、学生の実態調 査はFDによるもののみに限らない。たと えば教育社会学の領域では、学生らの経年 的な生活実態調査が行われている。教育社 会学者の武内清は、最近の学生調査の結果 から、大学生は学業を中心とした生活を 送っているという。また、武内は近年の学 生の特性として大学や授業に満足し、従順 であるものの、向学心に乏しいという結果 も論じている★4 。最近の大学生はしっかり 授業に出てくるが、自らによって学びを組 み立てることをせず、緻密なカリキュラム を大学側に要求したり、向学心が不足した りしているという嘆きをしばしば耳にする ところである。大学生の「生徒化」について は、教育社会学の領域では議論が行われる など、知見の蓄積がなされている。ほか、 全国大学生活協同組合連合会(大学生協)が 1963年から実施している「学生生活実態調 査」は、一部欠損もありつつも大学生の読 書時間や書籍費などの時代的変遷といった 貴重なデータを提供している。 以上、近年の大学は、情報を公開するこ とや、データをオープンにすることが求め られていること、ほか、大学生の学生生活 の実態調査等が教育社会学といった領域で は、非常に重要な研究となっていることに ついて述べてきた。翻って、大学のなかに それらの流れからは距離をおいている部局 がある。図書館である。 大学図書館界の議論で「学生の学び」の記 録そのものにフォーカスをあてて論じてい るものはそれほどない。これは、自由宣言 の文言にある「図書館は利用者の秘密を守 る」の条件が大きく関わってくるものであ ると推察できる。つまり利用者の秘密を守 るがゆえに、学生の読書データの活用やそ の分析が進まないと想定される。たしかに 読書履歴等はプライバシーにも関連する 重要な情報であり、安易には分析の対象と しづらい。しかしながら、それだけでよい のかという微妙な引っ掛かりは残る。たと えば筆者が高等教育関係の学会に出向く と、そのなかの質疑応答で「図書館がデー タの提供を拒むために多層的な分析ができ なかった」という苦渋の発話がたびたびみ られることを報告しておきたい。 現在、世界的に研究のオープンデータ化 が進んでいる。たとえば、読書履歴よりも はるかにセンシティブに捉えられる情報を 扱うライフサイエンスの領域であっても、 「知のめぐりを良くする」★5 ために、個人 情報保護とデータの公開の意義の兼ね合い をはかりつつ、オープンデータ化が進ん でいる★6 。オープンデータ化の潮流のそれ を支えるプレイヤーの一人たる図書館自身 が、実のところ、自らの持っているデータ をオープンにはしていないという状況が現 前している。 ある大学図書館では学生の図書館利用 データを分析し、エビデンス・ベースドの 姿勢で次の業務改善のために手を打ってい
  10. 10. 009ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 る一方、ある大学では図書館利用データの 利活用などはそもそも考えたこともない、 というところもある。学生の学びのありか たを捉える基礎データとして、図書館利用 データは非常に重要な位置を占めるはずで あるが、このデータの利活用に対して、各 大学の方針はまちまちなのである。これが 要因だろうか、図書館利用と学生の学びに ついての研究は散発的なものにとどまって おり、他大学との比較や全国調査を困難に している。 また別の面を見てみると、歴史社会学や 教育社会学といった領域が生み出している 知見として、筒 つついきよただ 井清忠や竹 たけうちよう 内洋の手による 教養主義の変遷や没落といった研究がある ★7 。これらは各時代の学生等の実態と、そ の歴史的変遷をたどるものである。彼らの 研究は読書史研究とも多く重なりがあるが、 学生の図書館利用のデータを用いたもので はない。後世の研究者にとって、いま現在 の学生像を捉えるための基礎データとして 学生の図書館利用データは有効であるはず である。さらに別方向から指摘すると、現 在、いくつかの大学で既に行われている可 能性がある「なし崩し的」に学生の図書館利 用データを分析対象として研究する行為は、 結果的には自由宣言を内部から蚕 さんしょく 食させて いるとも捉えうる。 このような状況で、学生の図書館の利用 データと「利用者の秘密を守る」という文言 の二者の衝突に対し、「読書の秘密は守ら なければならない」という図書館員の倫理 をとなえる論説は多いものの、実際の折り 合いについて、正面から検討を加えた研究 は見当たらない。 公共図書館を対象としているものでは あるが、国立国会図書館の渡 わ た な べ た だ し 邉斉志によ る「知的自由の陥穽:利用情報保護思想が 公立図書館に及ぼす影響の分析」★ 8 があ る。渡邉は、教条主義的な思想から一旦距 離をおいた立場に立脚し、「利用者の秘密 を守る」ことは、パラドキシカルな結果を 招いていることを指摘している。具体的に は、これまでの公立図書館関係者の利用情 報保護の取り組みは、現在の情報技術の水 準に照らし合わせると、図書館員の威信向 上、専門職として社会から認められるとい う目標とは非整合的であるという。本稿も 渡邉の問題意識と共通項を多く持つ。ただ し渡邉の原稿は公共図書館を主眼としたも のであるし、また短報という性質上、必要 な文献は押さえつつも限界があるといえる。 そこで、本稿では大学生の学習実態分析 における読書行動履歴の活用の可能性を探 り、かつそれと「利用者の秘密を守る」の文 言の折り合いについて考察する。具体的に は、自由宣言の成立過程および1979年改 訂に立ち返り、これらに対し検討を加える。 その上で、学生の読書行動といったデータ が、高等教育における学生実態分析につい て、実際に利用可能なのかどうかについて 議論する。 本稿の結論は以下のようになる。「自由宣 言」にあった「利用者の秘密を守る」の文言は、 学生の学習行動分析の潮流に対する堡 ほうさい 砦足 り得ない。というのも、利用者個々人の読 書傾向ではなく、匿名化したデータをもっ て分析した場合、自由宣言の想定していた 秘密を守る条件の想定外と考えられる。 なお、本研究は自由宣言の第三、「利用
  11. 11. 010 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 者の秘密を守る」とその関連に絞って議論 する。その理由として、他の文言の重要性 は当然十二分に認めるが、それらを対象と することは本稿の議論の筋を歪めるからで ある。たとえば「知る自由」については、こ れは福井佑介によって上梓された労作『図 書館の倫理的価値「知る自由」の歴史的展 開』★9 を参照されたい。また、本稿では大 学図書館を対象とし、公共図書館や専門図 書館、学校図書館は対象としない。いうま でもなく公共図書館においてのサービスは、 それは行政が行うものであり、多種多様な 住民へのサービスが求められるため、個人 情報保護については別の理路も当然立ち現 れてくるためである。 更に(こういう原稿を書くと、よく「では 全面的に貸し出し履歴データをあちこちに バラ撒くのが望ましいのか」といった極論 を言われることがあるので、予防線を張っ ておく)、本稿は大学図書館外の部署が データ分析を行っているので図書館も行う べきだといった「バスに乗り遅れるな」式の 議論でないことについてもここで触れてお きたい。あくまでも、我々(ないしは、図 書館関係者)の常識はどのような形で構築 されてきたのか、これを明らかにしていき たいという意図で本稿は記されている。 以下、各章では以下の構成をとる。第2 章では、大学IRを始めとした学生の実態調 査についての潮流、および大学図書館にお ける貸出履歴データの活用を用いた研究に ついて紹介する。よって第2章は先行研究 の系列の素描という性質を持つ。第3章は 図書館における秘密を守るという議論がど のように成立したのか、経緯をたどる。第 4章は第3章を受けて議論を行う。第5章 では結論と今後の課題をまとめる。 2. 高等教育におけるエビデンス・ベースド  による分析評価の潮流 1章で触れたが、現在の高等教育の世界 では、学生の学びを可視化し、どう捉える かということが「大学の質保証」としてさか んに言われている。 たとえば、大学教育学会課題集会の統一 テーマを抜き出すと、第28回(2006年)「評 価時代を迎えた大学の在り方」、第 33 回 (2011年)「大学教育の質とは何か-ふた たび大学のレゾンデートルを問う-」、第 35 回(2013 年)「教育から学習への転換」 というものがみられる。ほかにも、第18 回FDフォーラム(2013年)は「学生が主体 的に学ぶ力を身につけるには」がテーマで ある。さらに第20回大学教育研究フォー ラム(2014年)のテーマは「学生の学びをど うデータ化し、どう利用するか?」である。 このように、現在、高等教育では学生の学 びの可視化、大学の質保証についての議論 が盛んに行われている。しかしこのなかで、 大学図書館が主たるプレイヤーとして議論 している場はそれほどない。 大学の学生の学びについては、たとえば ポートフォリオ、ルーブリックによった評 価といった、さまざまな議論や手法が提出 されている。本稿はこれらがどの程度の成 果を挙げているかの詳細に立ち入ることは 避けるが、ともあれ現代では学生の学習成 果の可視化が求められており、そのための ツールが開発されている。 また、2011年度から教育情報の公表は
  12. 12. 011ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 社会への説明責任であるという視点によっ て、大学の教育情報の公表が義務化された。 これと呼応するように大学IRという動きも 始動・加速しつつある。たとえば、2014 年に『大学におけるIR(インスティテュー ショナル・リサーチ)の現状と在り方に関 する調査研究報告書』が、文部科学省大学 改革推進委託事業を受けて東京大学より刊 行されている★1 。このなかでは、米国のIR はいまだ発展中であり定義が困難であるこ と、また、日本に直輸入してもそのままは 根付かないと断りつつ、 成績や履修科目など学生の様々なデー タ(学務データ)を分析し、入学から卒業 まで修学を支援するために、IRは重要な 役割を果たしている。学生調査について も、IRの重要なツールとして位置づけら れている。とくに、学生調査が氏名や学 生番号などを記入する記名式の場合、学 生の成長や変化を追跡する調査が実施で きるだけでなく、学務データと学生調査 の結果を紐付けることができ、このこと が様々な教学の改善に寄与する貴重な分 析を提供している。こうした様々なデー タを収集することにより、大学間のベン チマーク(相互比較)が可能となっている こともIRの大きな特質である。特にア メリカでは大学間でデータ交換コンソー シアムが発展している。また、学生調査 についても、大学間でベンチマークをす ることが可能となるような発展が見られ る(p.ix)。 と述べられている。 大学IRについての定義等については、い まだ研究者や大学関係者のなかでも一定 の共通の理解があるものではない。同報 告書の中で浅野茂らは、IRの業務について Tab.1(p.014)のとおり整理している。 以上のように、現在の大学は自らの持つ データを分析し、それを報告することが説 明責任として求められる。 ただしここでは「評価」には困難が付いて 回ることを指摘しておきたい。たとえば、 人文社会系には自然科学系で用いられる研 究の評価指標があてはめにくいことはよく 言われている。あるいは評価において適切 ではない指標を用いることが広まってしま うと、それを訂正することには膨大な手間 がかかるという指摘もある。IRを批判対象 としたものではないが、グローバル化と いった現代の社会的な要請に高等教育が即 座に(あるいは無自覚的に)呼応することに 対する疑義もある。たとえばビル・レディ ングズ『廃墟のなかの大学』における「エク セレンス」の概念を手がかりにしながら、 大学の現在を考察する研究などがそれにあ たる★10 。加えて、評価は即座に競争的資 金等の議論といったものにスライドしうる。 鈴鹿医療科学大学の学長である豊田長康 は、2002年以降の国立大学の論文数の停 滞・減少と国際競争力の低下をもたらした 主因として、基盤的研究資金の削減、およ び重点化(選択と集中)性格の強い研究資金 への移行があると2015年に指摘している ★11 。同志社大学の濱嶋幸司は2003年の段 階で、大学生の生徒化に関連し、「イリイ チの「脱学校化社会」に反し、「学校化社会」
  13. 13. 012 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 は着実に浸透している。学校の打ち出した 目標(課業)を黙々と遂行することが生徒の 目的となり…(略)…やがては身体化され ていく。諸制度からの逸脱は自他ともに許 されないものとなる」★12 と論じている。 このような「評価」が、管理、それもやや もするとネガティヴな形の管理につながり かねない批判的視座に立った論考があるこ とには軽重なく目配りする必要はある。以 上を踏まえた上で大学図書館の状況を鑑 みると、高等教育の質的転換に関しては、 ラーニング・コモンズの設置といった仕 組みで反応しつつあるものの、IRや評価と いった視点から見ると、反応は慎重、ない しは乏しいといえる。 ただし、数少ないながら大学図書館の貸 出履歴データと学生のGPAを紐付けて分 析するような研究は現れ始めている。東北 学院大学の片瀬一男は、ブルデューのハビ トゥスの概念を踏まえ、「ただちに図書館 利用行動が学業成績の向上をもたらすとい う結論は導き出すことはできない」と断っ ているものの、3年次、4年次とも図書館 利用頻度の多い大学生ほど、おおむね大学 での成績が良好であり、かつ大学生の図書 館利用頻度は、3年生については多くの学 科で、4年生では特定の学科で成績と関連 していると結論している★13 。また、立命 館大学の木下祐子らは、大学図書館の課題 は利用者である教員と学生の「学術研究」・ 「学びと成長」をどのように支援できるのか であると指摘し、貸出冊数とGPAの相関 を検討し「各学部の特色により若干強弱は あるものの、貸出冊数と成績には強い相関 通常業務 臨時業務 学 内 業 務 ・在学者管理の分析 ・学習成果の測定・分析 ・Cohort(入学年次別)分析 ・財務分析及び収支予測 ・Retention(継続在籍率)分析 ・教員の配置及び給与に係る分析 ・卒業率に係る分析 ・戦略(事業)計画 ・履修コースの設定及び登録状況 ・教育プログラム(コース)の評価 ・学生の満足度調査 ・外部評価 ・学内調査の設計・実施 ・内部コンサルティング ・ベンチマーク 外 部 へ の 説 明 責 任 ・学生納付金に係る情報収集・分析 ・補助金団体への報告書 ・大学年鑑 ・大学ランキング・データ ・主要業績評価指標 ・その他の機関情報 ・クラスサイズ分析 ・機関報告書 ・認証評価報告書 ・連邦の高等教育機関情報 ・NFS データ収集 Tab.1 アメリカのIRの主要な業務
  14. 14. 013ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 関係があることが判明した。特に、1回生 ほど強い相関性」があると報告している★14 。 浦川らは大学図書館の貸出数を学生の学び の代理変数として捉え、私立大学等経常費 補助金等と図書貸出数は正の相関があるこ と等を明らかにしている★15 。千葉大学の アカデミック・リンク・センターでも「情 報利用行動定点観測」として学生アンケー トを実施し、個人を特定できる番号に一方 向性の暗号化を施し、図書貸出記録や成績 情報等との連動分析を行っている★16 。成 果との兼ね合いではないが、T大学の貸出 履歴データの分析については筑波大学の松 野渉ら★17 、また貸出履歴データを用いた 協調フィルタリングの研究については筑 波大学の辻慶太ら★18 の研究がある。また、 公共図書館を対象としたものであるが、佐 浦、辻は図書館の利用者からは貸出履歴を 保存し、活用することは概ね容認されてい ることを報告している★19 。 社会的背景が異なるものの、海外の事 例 と し て は Soria ら に よ る University of Minnesotaの図書館利用とGPAについての 報告が目を引く★20 。Soriaらは以下のよう に論じている。従来、図書館では利用者の プライバシー保護によってデータ収集が困 難であり、図書館利用と学生の成果の研究 はこれまでなされなかった。しかし、現在 の大学図書館は他の部門と同様に自らの価 値を証明するように求められている。そこ でSoriaらは統計的処理の上、図書館利用 とGPAの関係を分析し、初年次の図書館 利用にはGPAと高い相関があることを明 らかにした。この分析をもとに、Soriaら は学内外に対して図書館の価値や設置意義 を訴える議論を行っている。さらにSoria らは、大学図書館の有用性の説明責任のた めに他大学でも同様の調査を行うことを 勧告している。ほか、Hong Kong Baptist University では図書館ワークショップと GPAの関係を★21 、University of Wisconsin で は ILL 利 用 と GPA の 関 係 を★ 22 、Kent State Universityでは深夜の図書館の利用と GPA等を★23 それぞれ関連付け分析してい る。 ここでは先述のSoriaらの指摘をもう一 度振り返っておきたい。Soriaは以下のよ うに論じる。これまでの(アメリカの)大学 図書館はプライバシー保護のみを優先とす る方針であったが、プライバシー保護と同 時並行で統計的処理を行った上で自らの持 つデータを利活用する方向に舵を切った。 その背景として、図書館は自らの持つ価値 を大学執行部等にきちんと説明する必要に 迫られたことがあるという。 しかし、日本においては自由宣言をもと に、貸出履歴データを研究・分析対象とす ることに対して、強い忌避感を持つ大学図 書館や研究者らは依然として存在する。 となると、筆者の興味はおのずと以下の ようになる。われわれが自明だと信じてい る図書館のルールというものは、どのよう に構築されてきたのだろう。構築されてき た図書館の常識はどのような変遷をたどっ てきたのだろう。 そこで次章からは、「自由宣言」の成立過 程および1979年改訂の経緯をたどり、「利 用者の秘密を守る」の文言について検討し ていきたい。 なお、予め断っておくと、自由宣言に関
  15. 15. 014 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 する資料は膨大なものがあり、なおかつ 個々人の立場によってはそれらに対する言 及状況には大きな差がある。極力資料は渉 猟したものの、それでも主として『図書館 雑誌』(日本図書館協会の機関誌。1907年 に創刊)等を中心とした点は本稿の限界と してあらかじめ断っておきたい。 3.「利用者の秘密を守る」から見た自由宣言   成立過程、および1979年改訂 本章では図書館の自由宣言における「利 用者の秘密を守る」の文言の変遷について 検討する。これまで図書館の自由宣言につ いての経緯等は、日本図書館協会 図書館 の自由委員会の作業を中心にまとめられて きた。しかしそれらは図書館の自由宣言を 全体的に捉える性質上、どうしても総花的 な記載とならざるを得ない。そこで本章で は「利用者の秘密を守る」の文言を縦糸とし て絞り、時代的変遷を追う。 3.1 成立過程前史 以下、『図書館雑誌』を当時の記載に倣っ て『雜誌』と記述する。また原文ママの個所 については(sic)を付与する。 自由宣言は1954年、全国図書館大会お よび日本図書館協会総会によって採択され た。全体的な採択の経緯については日本図 書館協会常務理事、京都大学教育学部教授 などを歴任した森耕一がまとめている★24 。 本節は森のまとめを参考にしつつ、しかし 森が議論の主眼としていない「利用者の秘 密」に関わる点のみを絞って記述する。全 体像の把握については森のまとめを参照さ れたい。 自由宣言の採択の前哨戦として、図書館 の中立性論争があるといえる。自由宣言の 成立の発端には1952年の九州図書館大会 において、破防法反対の決議を行おうとい う「内々交わされていた」議論がある(『雜 誌』、1952年7月)。有 ありやまたかし 山崧(後の日野市長、 後年、前川恒雄の後ろ盾となった)はその 動議に反対し、Editorial Forumの欄で「然 し図書館界が「破防法」について直接発言す ることは、厳々戒むべきことであると信ず る。図書館が本当にinformation centerと して、客観的に資料を提供することを以つ てその本質とするならば、図書館は一切の 政治や思想から中立であるべきである」と いう。すなわち、有山は図書館は情報を提 供するための場であり、図書館が積極的に 政治にコミットすることを忌避する意見を 提示する。 これに対して、反発するような意見と して、編集部から「図書館の中立性につ いての討論を提案する」(『雜誌』、1952 年8月)という提示が行われた。この討論 を企画したのは、当時26歳であった石井 敦と、武田虎之助の息子であり、のちに 『紀伊国屋文左衛門』で直木賞候補となっ た武 た け だ や す み 田八洲満(当時25歳)の二名であった。 編集部は、この提案について 8 月 15 日を 意識したという。討論は主として『雜誌』の 「自由論壇」欄において行われた。この欄に は多くの図書館員が積極的に投書を行って おり、まるで現代の我々がソーシャルメ ディア上で議論を交わすがごとき百家争鳴 の論争が行われていた。のちに「中立性論 争」と呼ばれるこの論争のなかで、「利用者 の秘密」につながる閲覧票の議論が現れて
  16. 16. 015ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 くる。以下、「図書館の中立性についての 討論を提案する」本文中から抜粋する。 本誌別欄の投稿にあるように、閲覧票 を官憲により、法的な根拠なくして提示 を要求された場合、明らかに閲覧票に書 き込まれている事実が本人に不利益にな る場合には、これの提示を拒否すべきで あろうか。基本的人権の侵害になるよう な行為を図書館がなすべきであろうか。 これは戦時中特高警察が思想調査のため、 往々利用したケースであるという。この 場合図書館員は断乎として拒否せねばな らないか。(『雜誌』、1952年8月、p.214) 「本誌別欄の投稿」とは、後に図書館問題 研究会の発足呼び掛け人となる中村光雄 (豊橋市立図書館)による投書を指す。「自 由論壇」欄における記事はこのようにある。 先日私達の図書館で大きな問題が討議 され未解決に終つたので、ここにその大 要を発表し皆様の御批判をいただきたい と思います。それは閲覧証の問題です。 偶然な話から若し思想問題について警察 が閲覧証調べに来ればどうするかという 言うことでした。…(略)…その前に何 故警察が閲覧証を調べるか、これはすぐ 分ることです。太平洋戦争の中で直接経 験された方も居る筈です。まさか図書館 4 4 4 4 4 4 の統計を取るために調べるなんて考えら 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 れますか?ナンセンスです 4 4 4 44 4 4 4 4 4 4 4 (傍点筆者)。 …(略)…要するにこの問題は「見せるか、 見せないか」の問題から「合憲か違憲か」 の問題になつて来るのです、だから一層 討議された上ではつきりすべき問題なの です。私はこう思います「絶対見せては いけない、(sic)若し見せたとすれば私 達は職権を乱用して基本的人権を侵した という罪を負うのです。(『雜誌』、1952 年8月、p.230-231) これに対する反応はいくつかあるものの、 すぐさま、貸出記録の廃棄の発想に極め て近い投稿が片山良爾「閲覧証をめぐる問 題の解答」に現れてくる。しかし、奇妙な ことに(あるいはふざけているからだろう か)、『図書館の自由に関する成立 図書館 の自由・1《復刻版》』には採録されていな い。片山はこう書く。 それならば閲覧証を保存しなかつたら どうなるかを考えていただきたい。ポリ 公が来ようが、家出息子の父親が来よう が、ボスが来ようが、無いものは無いの で見せようがない。ちょうど私に借金す る時みたいに無いものは貸せないのです。 至つて簡単なことです。(『雜誌』、1952 年10月、p.287) 他にもいくつかの誌上論争が行われた ものの、これらの議論の後、図書館憲章 (委員会案)が提示される。『雜誌』1953年 2 月号には、前年の 11 月に埼玉県図書館 大会で図書館憲章(仮称)の制定を決議し て、日本図書館協会に申し入れを行ったこ とが記されている。この点について、森は 「図書館の自由に関する宣言−成立までの 経過−」の文中では、「埼玉県大会の決議が、 なにか具体的な事件にもとづいてのこと
  17. 17. 016 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 かどうかは不明」と断り書きを行っている ★25 。当時の不明点については、後年、三 苫 みとままさかつ 正勝は1952年2月、埼玉県秩父市立図 書館にて、進歩的文化人であった中島健蔵 の座談会を企画した際に、その数日前に担 当司書の机の中を警察が調査するという事 件があり、それがきっかけであると言及し ている★26 。 図書館憲章の素案づくりは、埼玉図書館 大会の申し入れを受けた上で行われた★27 。 委員は図書館法改正委員および、中立性論 争に投稿したものから理事長が指名してい る(『雜誌』、1953年8月、p.30)。そこにお ける委員会案は以下の通りである。 基本的人権の一つとして、知る自由を 持つ民衆に、資料と施設を提供すること は、図書館のもつとも重要な任務である。 われわれ図書館人は、その任務を果す ため、次のことを確認し実践する。 1. 図書館は資料収集の自由を有する。 2. 図書館は資料提供の自由を有する。 3. 図書館はすべての検閲を拒否する。 図書館の自由がおかされる時、われわれ は団結して抵抗し、関係諸団体との協力 を期する。(『雜誌』、1953年10月、p.298) このなかには「利用者の秘密を守る」を直 接的に反映している文言はない。ただし、 委員会案と同ページに委員会報告という記 事が配置されている。図書館憲章委員会議 長は佐 さとうただよし 藤忠恕であり、委員会長名での報告 には、以下の記載がある。 館界にあつては「警察側が閲覧者名を 書いた閲覧カードの調査に来たり」「購 入図書の種類に対して県教育委員会から 干渉があつたり」等の具体的事例があっ たという(Ibid.)。 すなわち、図書館憲章の文言そのものに は現れてこないものの、利用者の秘密を守 るという観念を、図書館憲章の委員会は意 識していたと推察される。また、当時の 『雜誌』の編集部は一定の編集方針をもって 記事を構成していることがわかる。たとえ ば編集部の手によって朝日新聞の投書が特 別に『雜誌』に転載されていることがそれに あたる。岩手県の農業従事者によるこの投 書は以下のようになっている。 先日私は町の書店に行つて「平和」とい う雜誌の予約購読をしようとしました。 すると書店の主人は「その本なら止めと いたほうがいよ(sic、ただし元の新聞記 事(1952年12月25日朝日新聞東京版朝 刊3頁)には誤字なし)ですよ。一昨日も 国警の警察が來て平和、世界、新世界、 ソヴエトグラフ等の予約者の名前と調査 をして行つたばかりですから」というの です。(略)昔の思想警察みたいな行動は 愼んでもらいたいと思います」。(『雜誌』、 1953年3月、p.78) 以上より、図書館はインフォメーション センターであるから、中立的に情報を提供 するのみにとどまるべきであるという立場 と、積極的に活動することで、中立性を守 ろうという二つの立場の衝突が、自由宣言 の成立前史にはあったといえる。
  18. 18. 017ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 これと同様の構図は現代の図書館でもし ばしば繰り返されるものである。たとえば ビジネス支援に関して、図書館がサービス に対し差をつけることは是なのかといった 異議申し立てがなされたこともこの構図と 類似型であろう。 ともあれ、「中立性論争」を基底としつつ、 利用者の閲覧票の保持等を問題としていた のが、自由宣言成立前史といえるだろう。 以上をまとめると、 (1) この段階では「自由宣言」という文言 ではなく「図書館憲章」という名前 だった (2) 利用者の秘密は、特に戦前の検閲と セットで議論されていること、まし てや統計の発想ではなかった (3) 図書館憲章の委員会案では、現行の 「自由宣言」にある「利用者の秘密を 守る」の文言は出現していない という点の3点が指摘できる。 3.1 自由宣言の成立 「中立性論争」という、『雜誌』の「自由論 壇」コーナーを主戦場とした2年間にわ たった議論を経た後に、1954年の全国図 書館大会および日本図書館協会総会が行わ れた。Tab.2が日程である。 5 月 26 日の全体会議の議長は、小野則 秋(同志社大学図書館)および小林重幸(奈 良県立図書館)であった。議事録の発言か ら、自由宣言についての議論はおそらく全 日にわたって行われたと推定できるものの、 『雜誌』掲載の議事録として確認できるもの は、5月26日の午前、および5月28日午前、 午後と思われるものに限られる。 3.1.1 5月26日午前 このタイミングで、有山らによって「図 書館憲章」ではなく「図書館の自由に関する 宣言」という名前に変更されたものが提示 される。さらに、有山らによる副文の加 筆のため、原案から10倍ほどに分量が増 加していた。有山らによる変更を事前に聞 かされていないものも多く、無断で原稿が 変更されたという意見がなされるなど、議 事録には混乱の跡がうかがえる。ここでは、 この過程についてのやりとりを要約して示 す。 有山:憲章はさまざまな意味に解される ので「図書館の自由宣言」とした。図書館 憲章は法三章的で短いが、それを解説し たものを付与した(副文)。三つの問題に ついて解説したので本質的には憲章と同 じものである 裏田(東京大学):図書館憲章の委員を引 き受けたが法三章の文言を検討しただけ であり、今回の案はどう関係あるのか 有山:図書館憲章委員会のなかに小委 5月26日 午前 全国図書館大会開会式 午前 〃 全体会議 午後 〃 各部会 5月27日 午前 〃 午後 〃 研究発表 5月28日 午前 全国図書館大会全体会議 午後 日本図書館協会総会 Tab.2 自由宣言採択までの日程
  19. 19. 018 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 員会を作り、埼玉県立図書館の韮塚★26 、 武蔵野市立図書館の佐藤、有山の三人で 作った。(『雜誌』、1954年7月、p.224-225 を参考に構成) 法三章とは漢の高祖が始皇帝の定めた厳 しい法律を廃し、殺人・傷害・窃盗の三つ を罰するとした三か条の法律のことで、転 じて簡略な法律のことである。よって、こ こでいう法三章とは(1)資料収集の自由 (2)資料提供の自由(3)すべての検閲を拒 否する、の3つの文章のことを指す。 ここでは主文と副文(解説)について確認 しておきたい。ただし、全ての項目を転記 することは煩瑣であるので、抜粋して引用 する。ボールドを主文とし、標準書体を副 文として記す。 3 図書館はすべての不当な検閲に反対 する。 (一)〜(三) (筆者注. 略) (四)更に図書館の一般的利用状況につい ては別であるが、利用者個人の読書傾向 など個人的自由を侵すような調査の要求 は、法律上正当な手続きによる場合の外 は拒否する。(Ibid. p.220-221) 「利用者の秘密を守る」という文言は「憲 章」で存在しなかったが、自由宣言の3-4 の副文で現れてくることがわかる。ただし、 有山らの案では、個々人の読書傾向につい てではない、一般的な利用状況についての 調査を許可している。 議事録を確認する限り、この日の配布資 料は図書館憲章から「図書館の自由に関す る宣言」という名前に変更された上、副文 が加筆されていたことから、全体会議に混 乱をもたらしたと見受けられる。事実、自 由宣言を読んだことのない参加者がいるた め、朗読はしたものの28日最終日の全体 会議まで十分研究し検討するという意見が 見られる。 3.1.2 5月26日午前 この議事録を読むと、副文に対する違和 感を表明するものが増えてくることがわか る。協議に先立って「この草案は憲章委員 会から小委員会に附託され、時間的な余裕 のなかつたせいか、副文にいたるまでは実 際に委員会のほうでも了知していなかつた ようです。それで副文に関しては皆様の御 意見もあると思いますので、主文に対し てこの大会で決議していただきたく、主 文を主として決議していただくように会 議を進めていただきたいと思います(Ibid. p.236)」という発話が見られる。 この時間帯では、主として「抵抗する」の 文言についての議論がなされていた。百家 争鳴で、原案そのものを差し戻そうとしよ うとする動きすら見られる。ただし、原案 を差し戻すことについては、このような発 話が見られる。「われわれは叡智を持つた 図書館人の集まりであります。…(略)… 差戻すということは、大会の性格上否決す ることです。(「そうだと」(sic)言う者あ り)図書館人の出したものを、図書館人に よつて否決したに等しい結果になる(Ibid. p.238)」。 また、議長の「お諮り致しますが大多数 の方は趣旨に賛成である。しかしその主文
  20. 20. 019ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 のなかに、主文もこれを修正しなければな らない問題がある。副文には更に検討を要 する問題があり(Ibid.)」という発話を受けて、 その後の処理は当日の午後に行われる日本 図書館協会総会を開催する主体である日本 図書館協会に移すと決定する。その際の条 件として、自由宣言を全国図書館大会の名 のもとで出すというものであった。これら の決定の後、全国図書館大会は閉会する。 3.1.3 5月28日午後 5月28日午後は、第八回日本図書館協会 総会であった。ここで自由宣言は採択され ることになるが、採択までに至るには大幅 な紛糾があったといえる。さまざまな文献 でも確認できるが、この紛糾の原因につい ては、 ・「関係所団体との協力…」という表現 ・「抵抗する」という表現 の二点が主たる理由であった。 なお、自由宣言の成立にあたって、総会 自体が成立するかどうか自体にまで疑義が 挟まれていることがわかる。森による司会 の発話として、以下が認められる。 森司会:只今の出席は120名でござい ます。先程申上げましたように、記名 委任状が出ておりまして、その数が158、 白紙委任状が115、従つて現在の会員数 は1,864名、この総会は団体会員は構成 メンバーになつておりませんから、十分 の一、186名で、この会は十分に成立し ていると認められると思います。(拍手) (『雜誌』、1954年7月、p.255) 議論が紛糾した理由について、森はこのよ うに書いている。 宣言の問題が、このように紛糾した のは、賛成派がある一方、「雉も鳴かず ば撃たれもすまい」という考え方をとる 図書館員が相当に多かったからである。 (略)きびしい状況に直面していたのであ る。国の方針がそうであれば、これまで 以上に困難さを増す地方の財政当局との 折衝において、「抵抗する」という表現を 含む自由宣言が障害にならないかという ことをおそれたのである。(『図書館の自 由に関する成立《復刻》』、p.15) 議論の紛糾について、各論者の見解を逐 一紹介することは難しいが、おおまかにま とめると、中央―地方、若手−ベテランと いう構造が看取できる。すなわち、中央の 勤務でありかつ若手の図書館員は自由宣言 に賛成をし、そうでない図書館員は二の足 を踏んでいたという構図がある。たとえ ば、地方の図書館員(蒲 か ま ち ま さ お 池正夫:徳島県立 図書館長)が、「抵抗」という文言がどのよ うな響きを持つものか、東京周辺で仕事を している人にはそれがわからないと批判 し、およそ10分以上も演説していること がそれを表している。蒲池以外にも「抵抗 という文字については相当な抵抗がありま す。(笑)これは都会と田舎では余程違うの であります。(『雜誌』、1954年7月、p.255)」 という発話もある。 このようにベテランと思われる図書館員 から慎重論が出る一方で、たとえば、「自 分も若いので原案に賛成したいと思います
  21. 21. 020 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 けれども(Ibid. p.254)」といった若手によ る積極的な採択への発話が散見される。 議論の結果、主文のみが採択されること となり、自由宣言は以下のように採択され た。 基本的人権の一つとして、「知る自由」 をもつ民衆に、資料と施設を提供するこ とは、図書館のもっとも重要な任務であ る。 図書館はこのような任務を果すため、 我々図書館人は次のことを確認し実践す る。 1. 図書館は資料収集の自由を有する 2. 図書館は資料提供の自由を有する 3. 図書館はすべての不当な検閲に反対す  る 図書館の自由が侵される時、我々は団 結してあくまで自由を守る。 差分をまとめると、以下のTab.3のとおり となる。 ここでは (1) 二文目の冒頭「われわれ図書館人」 の書き出しが「図書館は」になって いる (2) 抵抗・関係諸団体についての連携 という表現が削除された (3) 検閲が不当な検閲という文言に変 更されている (4) 副文が採択されなかったため、「利 用者の秘密」に関する記述も同時 に採択されなかった 以上の点を確認しておく。なお、現在の 自由宣言は「不当な検閲」という文言ではな く、「すべての検閲」になっている。余談な がら、有川浩の『図書館戦争』においては 「不当な検閲」という文言が主たる柱となっ ている。よって、有川浩は『図書館戦争』を 執筆するにあたって、過去の文献をおさえ ていることがうかがえる★28 。 図書館憲章 自由宣言 1954採択版 基本的人権の一つとして、知る自由を持つ民衆に、資 料と施設を提供することは、図書館のもつとも重要な 任務である。 われわれ図書館人は、その任務を果すため、次のこと を確認し実践する。 1. 図書館は資料収集の自由を有する。 2. 図書館は資料提供の自由を有する。 3. 図書館はすべての検閲を拒否する。 図書館の自由がおかされる時、われわれは団結して抵 抗し、関係諸団体との協力を期する。 基本的人権の一つとして、「知る自由」をもつ民衆に、 資料と施設を提供することは、図書館のもっとも重要 な任務である。 図書館はこのような任務を果すため、我々図書館人は 次のことを確認し実践する。 1. 図書館は資料収集の自由を有する 2. 図書館は資料提供の自由を有する 3. 図書館はすべての不当な検閲に反対する 図書館の自由が侵される時、我々は団結してあくまで 自由を守る。 Tab.3 図書館憲章と1954年版自由宣言差分        ※差分取得はdifff《デュフフ》(http://difff.jp/)による
  22. 22. 021ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 本節をまとめる。1953年までの流れと して、「利用者の秘密を守る」は、国家権力 による検閲に対抗する手段としてその必要 性が議論されつつも、委員会案の図書館憲 章には出てこなかった。この文言が現れる のは有山らが裏田らに断らずに加筆した自 由宣言の原案の3-4、検閲に反対する箇所 である。ただし、それは副文であったため、 採択の段階で棄却された。 3.2 1979年改訂前史 1954年の成立時を扱うことも難しいが、 1979年以降の自由宣言改訂以降を研究対 象として扱うことは更にむずかしい。とい うのも、この時期に実際に第一線で活躍し ていたライブラリアンは多く存命しており、 資料以外の、たとえばオーラルヒストリー 等も多く存在しうる。本節以降は検証可能 性を容易にするため「公式」の文献を重視し て執筆されるが、これらの文献に現れない エピソードが多くあったことは容易に推測 できる。ぜひ、この点について、先賢のご 意見を仰ぎたい。 自由宣言は1979年に一度、改定されて いる。本節ではその改訂の前史をたどる。 改訂に至った理由として、三苫正勝は 1963年『中小レポート』、1965年の日野市 立図書館開館、図書館問題研究会の方針 (貸出しを伸ばすことを改善の目標とする)、 東京都の図書館振興策(1970 年、図書館建 設費や図書費の補助)、1970年『市民の図 書館』刊行、1973年の山口図書館図書隠匿 事件、1975年「図書館の自由に関する調査 委員会」という、図書館界の流れを紹介し ている★25 。 渡邊は「公立図書館関係者を利用情報保 護に向かわせてきた要因を特定することは、 文献にその動機が明記されているわけでは ないため、たやすい作業ではない」と断っ ている。その上で、渡邊は1960年代の後 半以降、公共図書館の職員が利用情報を安 易に漏示するような描写を含む小説やテレ ビドラマが度々発表され、「図書館関係者は、 こうした作品に描かれた図書館員像は実態 を正しく反映したものではないことを社会 に対してアピールするとともに、図書館関 係者に対して啓蒙活動を行う必要に迫られ た」と論じている★8 。 また、三苫、渡邊は言及していないもの の、当時の社会的な背景として「国民総背 番号制」が自由宣言の改訂に影響を与えた 可能性は高いと推察される。国民総背番号 制は佐藤栄作内閣が1960年代後半に提出 し、野党の反対によって頓挫したものであ るが、これに関する動向が人々のプライバ シー保護の機運の醸成に強く関係した形跡 がある。たとえば、朝日新聞1972年11月 16 日朝刊 22 頁には「総背番号制反対へ国 民運動 学者・文化人ら旗揚げ私権侵害防 ぐ法規制も」、同じく朝日新聞1975年4月 7日朝刊11頁には「情報化社会とプライバ シーを考えるために 国民総背番号制 礼 賛薄れ警戒強まる」といった記事が確認で きる。また、社会学者の稲葉三千男は「「国 民総背番号制」への異議申し立て」(『潮』、 p.156、1974年12月)を執筆している。学 術雑誌にかぎらず、たとえば大宅壮一文庫 目録を調査すると『平凡パンチ』、『サンデー 毎日』、『週刊ポスト』といった雑誌であっ ても、国民総背番号制に対する危惧の記事
  23. 23. 022 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 が盛んに認められる。たとえば『週刊ポス ト』では「秘かに進行中、国民総背番号制は “性体験”まで管理する」(1974年7月26日 p.32)といった、いささかセンセーショナ ルな記事すら現れている。すなわち高度経 済成長期と図書館数の増大、プライバシー 保護の機運、小説やテレビドラマにおける 誤った図書館像の流布といったさまざまな 状況が、1970年代には存在したといえる だろう。 この時期は、いわば図書館の発展期と して捉えることができる。図書館界では 1963 年の『中小レポート』、1970 年の『市 民の図書館』によって、日本の図書館界の 発展は行われたという言説が多く存在する。 しかしそれらは図書館界の内情のみに焦点 を絞った議論の可能性がある。たとえば、 1960年の池田内閣の所得倍増計画がある。 この計画は1961年から10年間で国民所得 を倍増させることを狙ったものだが、実際 は計画以上の成長がなされた。したがって、 ここでは『中小レポート』や『市民の図書館』 だけが原因ではなく、高度経済成長という 要因も図書館の成長に大きく関係した可能 性を指摘しておきたい。 ともあれ1954年採択時に比較し、図書 館数も増大し、実際の図書館の運用上自由 宣言が実質的に必要になってきた時期であ るといってよいだろう。事実、三苫、塩見 らは、1970年代までの図書館活動が未成 熟であったため、1950年代〜 70年代に関 しては、自由宣言に関する議論は抽象的な ものに留まらざるを得なかった、と指摘し ている★25 。 ただし、自由宣言成立後20年間の「無風 状態」については、違う視点を匂わせる指 摘もある。たとえば、先に触れたように、 蒲池は自由宣言の採択の際に、図書館員が 自らの理念を宣言することに対し「キジも 鳴かずば撃たれもしまい」と反対論を訴え た。蒲池を偲んで新 しんこういち 孝一は以下のように書 いている。 宣言成立後の日本図書館協会の理事会 は、四国・九州の役員が欠席したり、さ らに土岐善麿理事長の辞意表明なども あって混迷する。その後松山市で蒲池ら 有志の館長が集い関係修復を図っている。 この時期、蒲池は理事ではなかったが、 松山市の会合のあと開催された日本図書 館協会理事会にも出席して積極的に発言 している。しかし、蒲池をはじめ役員一 同何故か「図書館の自由宣言」の取り扱い には一切触れていない。 松山市で何が話し合われたか具体的記 録はないが、おそらく自由宣言が話題に なったであろうことは十分に想像がつく。 蒲池はその後ますます図書館界で発言力 をましていくがそのことと自由宣言成立 後の無風状態と関連があるのか定かでは ない★29 。 以上、新は「定かではない」と匂わせるに 留まっているがこのように図書館界の趨勢 は一枚岩ではなかったことは指摘できよう。 「利用者の秘密を守る」に関するきっか けとして、練馬図書館テレビドラマ事件 (1967年)および、東村山市が制定したプ ライバシーに関する条例が先行研究ではし ばしば指摘される。ここでは主として東村
  24. 24. 023ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 山市の条例について触れる。1974 年 3 月 30日に条例第18号として制定された、 利用者の秘密を守る義務 第6条 図書館は、資料の提供活動を通 じて知り得た利用者の個人的な秘密を漏 らしてはならない。 というものである。しかし、本条例が制 定された経緯についてはほとんど紹介がな されていない。そこで本稿では、この経緯 について紙幅を割いて紹介する。なお結論 を先に述べると、東村山の図書館のこの条 例の制定背景には、いわば現代の公共図書 館の方向性を決定づけたプレイヤーらが陰 に陽に見られることが指摘できる。 東村山市図書館の成立の過程については、 日本図書館協会の理論誌『現代の図書館』 (vol.11, No.4, p.149-181、1974 年)におお まかな経緯が記されている。なお、この記 事が記載されていた『現代の図書館』当該号 の編集委員長は、現代の公共図書館の方向 を決定づけたといわれる前川恒雄である。 1953年7月、東京都立立川図書館のブッ クモービル「むらさき号」が、東村山町(当 時)役場の駐車場を巡回拠点として設定し た。また、同時期には、日野市における都 電図書館が刺激となり、電車図書館等が開 館された。 1970年となると、移動図書館の漸減が 東京都の方針に現れてくる。そこで文庫活 動等を行っていた人々を中心に、市立図書 館建設の動きが進み始める。 1972年3月、定例市議会で「図書館設置 準備室」設置の陳情が採択された。市民の 意思を反映した図書館をつくるために、専 門委員制度を設置し、そこにおける議論を 図書館づくりに反映することが狙いであっ た。専門委員は(1)バスおよび電車図書館 などで実際に図書活動に携わっている団体 関係者、すなわち文庫関係者7名(2)小中 学校の関係者2名(3)学識経験者3名で構 成されていた。 学識経験者としては、図書館資料整備セ ンターの中 な か ね じ ょ せ ふ 根恕世夫、日野図書館長の前川 恒雄、日本図書館協会総務部長の菅 すがわらたかし 原峻の 名が見られる。前川、菅原は文部省図書館 職員養成所の同窓であり、菅原は前川を当 時の一番親しい仲と発言している。図書活 動に携わっている団体関係者の合計7名に は、主に文庫活動を行っていたり、電車図 書館に携わっていたりした人々が含まれて いる。この電車図書館とは、1967年に廃 車になった西武鉄道の車両を譲り受け、団 地住民の手によって開かれた「くめがわ電 車図書館」のことである。 この時期の直前の動きとして、1965年、 有山崧が日野市長となる。よく知られてい るように、有山は前川の後ろ盾的存在だと される。たとえば、有山が日野市長になる 直前に、前川を図書館づくりのために招聘 したことはよく知られている。塩見は「有 山、前川という、この『中小レポート』を中 心になってやってきた二人が、市長と図書 館長という関係の中でつくった図書館が日 野市立図書館である」と述べている★30 。 もちろん日野市立図書館の以降、各地の 公共図書館は多かれ少なかれ日野の影響を 受けているとはいえ、東村山は他の図書館 よりも日野の影響を一層強く受けていると
  25. 25. 024 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 判断することができる。なぜならば東村山 は日野と同じ多摩地区に位置し、移動図書 館を自らのルーツに持つという共通項を持 つ。新図書館の企画段階においては、企画 役の専門委員が日野市立図書館等に見学に 行っている、あるいは東村山市立図書の初 代館長の鈴木喜久一は、もともと日野市立 図書館副館長であるといった特徴がある。 東村山市図書館設立に関する記録に、「あ る図書館作りの記録」がある。この資料は 1972年10月〜 1973年7月に行われた会議 録で、『現代の図書館』に再構成した形で転 記されている。この会議録の掲載について 東村山市図書館開設準備室では、会議 記録類が充分でないことから会議の「再 構成」は困難であるとして固辞されたが、 館界にこの種の資料が皆無であることか ら特にお願いした。(p.162) と、編集委員会が『現代の図書館』に会議内 容を転記・記載しようとした意向が強く働 いていたことがうかがえる。ただし、東村 山市の開設準備室がいう、会議記録等が十 分ではないというのは事実ではない。とい うのも、この委員会の記録は厚さ5cm程 度の「市立図書館専門委員会関係綴」として まとめられており、公文書として保存され ている。また、この会議自体にはそもそも 学識経験者として前川恒雄自身が出席して いるのである。 そこで東村山市に対し、情報公開請求制 度を用いてこの記録に対する開示請求を 行った。その結果、プライバシー保護の関 係上、個々人の名前については伏せられた 状態で開示が行われた。なお、前述の『現 代の図書館』の「ある図書館作りの記録」で は、発話者は個人名どころか選出区分も特 定できないようにマスクされている。そこ で本稿では「市立図書館専門委員会関係綴」 を典拠として記す。 鈴木喜久一市立図書館開設準備室長に よって1973年9月6日に起案された、市立 図書館専門委員会会議集約事項によると、 「利用者の秘密を守る」という文言について は、1973年3月の第10回専門委員会会議お よび1973年7月の第4回専門委員会会議に 認めることができる。これらの回では、他 の会議開催日と異なり市長が同席していた。 1973年3月の第10回専門委員会会議の 協議事項は、「東村山市立図書館建設基本 計画」の資料が配布され、図書館計画に対 する要望のとりまとめから始まった。この 回は比較的初期にあたり、いわばどのよう な方向性をもって図書館を設計するかとい う議論の場であった。このなかで、読書履 歴とプライバシー保護についての言及が現 れてくる。 委員(文庫関係者):利用者がどの様な 本を読んだかを調べられては困るので、 そのはどめとして、プライバシーを守る ということを資料(図書館建設基本計画) の中に入れてほしい。 委員(学識経験者):資料選択の自由と 利用者のプライバシーを守るということ は、規則のなかにいれるだろうが、その 前提として計画のなかに入れてもよいと 思う。(1973年3月、第10回専門委員会 会議議事録)
  26. 26. 025ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 ここにおける文庫関係者は不明である。 一方で当該箇所の学識経験者は、前後の文 脈から前川恒雄であると強く推察できる。 次にプライバシー保護についての議論が現 れてくる1973年7月の第4回専門委員会会 議では、この内容を条例に盛り込むかどう かという議論がなされてくる。 室長(準備室長。鈴木喜久一):次にま た大きな問題ですが、「利用者の秘密を 守る」ということを規則か条例の中でと りあげるべきではないかというご指摘が 委員のみなさんからございました。この 点はどうでしょう。 (略)  室長:さきほどの利用者の秘密保持、 具体的にいいますとブラウン式の場合読 書記録は残りませんがある時点での貸出 記録はあります。このほかレクエスト (sic)とかレファレンスの記録がある訳 です。この記録は決して他にもらしませ んという約束を市民にするかどうかとい うことですが(条例に)いれて欲しいとい う意見がある訳です。  委員(文庫関係者):条例に加えて貰っ たほうがよいと思います。  委員(学識経験者):条例や規則は市民 を拘束するだけでなく役所をしばるもの でもある訳ですから利用者のための秘密 保持の保証のため入れたほうがいいと思 います。  委員(学識経験者):それと同時に図書 館の中立ということをいれたらどうで しょう。最近関西では問題になっていま すよ同和資料などで。 委員(学識経験者):それは図書館長が資 料収集の決定権をもつということでよい と思います。  担当:表現の方法は別として、条例中 に秘密保持の条項を設けていきたいと思 います。(1973 年 7 月、第 4 回専門委員 会会議議事録) このように利用者の秘密保持についての 議事録が進んでいくが、同日の会議に欠席 していたと思われる委員(文庫関係者)の手 紙も当日の記録として残っている。ここに はこのような意見が見られる。 何回か強調しました。利用者が資料の 利用にあたって憲法の保証する自由(学 問、思想信教etc)が最大限に保証される ということ、利用者の資料の利用にあ たっての個人の秘密が保証されるという ことをなんらかの形で明記して欲しいと 思います。規則の中で事業の後あたりに 条文を入れてはどうでしょう。また、専 門職としての図書館員が図書を選択肢、 購入するにさいし行政サイドその他から 有形無形の制約を受けず、上記のことを おこなえるような規定も欲しいものです。 当然このことは教育基本法の精神やそ れにのっとった社会教育法の中に明記さ れており図書館がその社会教育のための 機関であることも明記されていますが戦 前からの日本の社会教育が、その独自の 機関を通じて(スポーツなどいまでもそ のおそれを感じます)国家の教化機能を 強制されてきたことを思うと、社会教育 の民間性、自主性のすじを一本通した運
  27. 27. 026 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 営規則にぜひしていただきたいと思うの です。(1973 年 7 月、第 4 回専門委員会 会議議事録添付資料) 以上から、図書館に関して通暁していた 学識経験者以外の専門委員(すなわち「市 民」)が、秘密保護の内容を条例へ盛り込ん でもらう依頼を行っており、その意見に対 し、学識経験者、準備室長らがそれに賛同 している姿がうかがえる。 これらの図書館を設置するための専門委 員の議論を経て、東村山市市議会において、 該当の条例である「第6条 図書館は、資 料の提供活動を通じて知り得た利用者の個 人的な秘密を漏らしてはならない」が取り 上げられるに至る。 1974年3月14日(金)に行われた第3回 東村山市議会(定例会)の会議録を摘要する。 教育長(加藤武吉君):議案の第15案 でございますが、東村山市立図書館設置 条例でございます。この設置条例は法律 の定めるところによりまして、条例化を しなければならないという規定がござい ます。(略)特に運営の面におきまして は、専門職である者を中心とした職員構 成、特に館長の権限については、その資 格を指定して、図書館にとってもっとも 重要な任務である資料の選択、構成に力 を発揮できるように配慮する。また利用 者のプライバシーの保護の関係について も十分配慮する。(略)以上のような内容 で、議案第15号のご提案を申し上げた わけですが、よろしく御審議願いたいと 思います。 議長(根建秀義君):説明がおわりまし たので質疑に入ります。24番。 24番(渡辺徳長君):この6条の問題に ついてちょっと伺っておきたい。 これは、実はわたしがほかのところで 経験した問題なんですけれども、この図 書館を利用された方が、いつの間にか警 察のほうに、どんな本を借りているとい うようなことがいろいろと調べ上げられ ておったということを経験しているし、 それから、ほかに、これは訴えられたと いう形になるわけですけれど、同じよう なケースが、警察のほうで、図書館でな ければわからないはずなのに、いろいろ 調べられておったというふうなことがあ ります。(略)こういう事態が起きた場合 に、どういう形でそういうものに対処し ていくのか。ここらの点の対処の考え方 を明確にしておいていただきたいという ふうに思います。 教育長(加藤武吉君):今回の条例の 中でも、第6条については図書館法にも 載っておりません。しかしいままでの専 門委員会等の意見のなかで、プライバ シーを守るという御意見を尊重しながら、 今回の条例の中に加えてまいったんです が、ただいまの御質問のとおり、具体的 にこれをどのようにする方法がとれるの かということになりますと、これは、現 状では記録に名前を残さない。具体的に はそういう方法で事務を処理していきた い。名前が残るということは、当然あと でその記録が判明できるような事務的に はなるわけですが、そういうものを名前 が残らないようにしよう。そういう配慮
  28. 28. 027ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 をしながら個人のプライバシーを守る。 具体的な内容として、そういう方法をと りたいという内容です。(1974年3月14 日第3回東村山市議会(定例会)議事録) これらの議事の後、本条例は採択される に至る。なお、ここにおいて教育長が紹介 しているプライバシーを保護した貸出方式 とは、ブラウン方式のことを指す。1973 年9月6日、準備室長の鈴木喜久一は各専 門委員に会議録の集約事項を送付している が、その中の鏡文に また、現在準備室では、ブラウン方式 による貸出手続に改良を加えた回数券式 貸出方式を検討中ですので、市役所へご 用の節は準備室までお立ち寄りください まして御意見いただければ幸いです。 との文章が見られる。 市議会の議事を経て、本条例は採択され るに至る。図書館における秘密保護を条例 に盛り込むことができたことは、関係者に とっては随分喜ばしかったようである。東 村山市の電車図書館新聞部発行の新聞であ る『でんしゃ』でもこの話題は取り上げられ ている。ここにおける開館特集においては、 以下のような記事がみられる。 目には立たない(sic)宝の一つに、利 用者のプライバシーを守る配慮がありま す。思想統制の歴史は過去の物語になり ましたが、個人の自由や尊厳は守られな ければなりません。因に婦人は婦人雑誌 を読むとは限らず、婦人雑誌を読めば低 俗とか、何を読めば偉いとか、そのよう な尺度はなくなっていましょう。世間体 を気にしないで、その時必要な本を、自 分の為に読めます(『でんしゃ』、1974年 6月15日、No.12第一面)。 このように、図書館に関する「市民」から の要望が、東村山市の図書館の条例となり、 それが現在の「宣言の利用者の秘密を守る」 ルーツの一つとなっている。図書館関係者 にとって、市民と協同できたことは喜ばし かったことだったようで、『図書館の自由 に関する宣言 1979年改訂解説』において 本事例は以下のように肯定的に取り上げら れている。 この規定(筆者註. 東村山市立図書館設 置条例)が、同館建設のための専門委員 会に参加していた住民代表の強い主張に よって挿入されたという経緯は、住民が 自らのプライバシーを守ることに強い関 心を持っていることを示している(p.28- 29)。 ただし、この箇所の文言に対して全面的 に賛同することには注意が必要である。こ こには嘘は書いていないが、ミスリードの 可能性がある。というのも、一次資料を読 み込んでいくと、住民の強い主張「だけ」で はなく、その主張を積極的に展開した学識 経験者の存在も、同時に存在するプレイ ヤーとして前景化してくるためである。有 山崧は1954年の時点で、「利用者の秘密を 守る」という副文を導入しようとし、棄却 された。その後、1970年代に入ると、有
  29. 29. 028 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 山と関係の深い前川恒雄と、その関係者ら が、東村山のプライバシー条例制定の当時 の関係者として垣間見ることができる。 本節をまとめる。1979年改訂の「利用者 の秘密を守る」の文言には、(本稿ではそれ ほど紙幅はさかなかったものの)練馬テレ ビドラマ事件および東村山市立図書館設置 条例などが深く関連していた★31 。東村山 市立図書館設置条例には、市民からのプラ イバシー保護の希望が背景として存在した。 1954年の自由宣言の当初の採択された段 階で主であった意識は、官憲による検閲に 対する防衛であったが、東村山市立図書館 が設置される年代となると、捜査令状に関 連する発想および、他者に読んでいるもの を知られたくないという考え方として現れ てきたものであった。また、図書館におけ るプライバシー保護意識は「市民」から生ま れたものであった。ただし、確かに出発点 は「市民」からの意見であったが、それに呼 応して学識経験者枠の図書館関係者や室長 がプライバシー保護の意見を積極的に展開 していった形跡が見受けられることも、軽 重なく目配りしておく必要がある。 3.3 1979年改訂 1979 年に自由宣言が改訂されている。 前史については前節で触れたが、これらを きっかけに1976年5月に「図書館の自由に 関する調査委員会」(2002年、「図書館の 自由委員会」に改称)が中心になって行われ た。この改訂について、1954年の採択で は棄却された、「お蔵入りにされていた副 文の採択をも目的にしていた★25 」という発 言が認められる。 1979年改訂が行われるまで、図書館雑 誌を中心に関係者が繰り返し文案を提案、 それを改訂していったことが見受けられる。 そもそもなぜ改訂を行うに至ったかという 理由について、図書館の自由に関する調査 委員会は 1976 年 16 日から 17 日に連絡会 を行い、そのなかでの討議から以下の提案 がなされた。 副文については、当時ほとんど論議さ れることなく、採択のワクから除外され、 以後の扱いは宣言の具現化とともに協会 に委員会を設置して検討することを理事 長に託して終っている。(略)やがて忘れ られた存在となり、今日、一片の資料と して残っているだけである。(略)副文が、 「宣言」の内容を正しく把握するためには 切り離せない重要な文書であり、利用者 の読書記録の公開拒否(利用者のプライ バシー擁護)のように主文だけでは明快 ではない事項も含まれている。(『雑誌』、 1976年6月、p.262) よって、1976 年 9 月号において、まず 案文を提出するのではなく、委員会によっ て検討を要する箇所や論議の余地のある部 分を指摘することで、 かつての中立性論議のように館界の広 範な論議を喚起したい、そしてその上で 近い将来に新しい副文をつくりだし、そ れを含めたものとして「宣言」を再確認で きればと考えている。(Ibid.) と、かつての「自由論壇」のように、幅広い
  30. 30. 029ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 論争が巻き起こることを委員会側が期待し ていたようである。 結論から言うと、1979年改訂は採択に 至るまでに以下の変遷をたどっている。 (1) 検討箇所の指摘(『雑誌』、1976年6月) (2) 副文案(『雑誌』、1977年9月) (3) 副文第二草案(『雑誌』、1977年12月) (4) 副文第2章案(sic)をもとに、検討さ れた意見の総括(『雑誌』、1978年6月) (5) 改訂第一次案(『雑誌』、1978年8月) ※ここで「主文」にも手を付けるという発言 が見られる (6) 1979年改訂案(『雑誌』、1979年2月) (7) 1979年改訂(『雑誌』、1979年8月) 以上を順番に見ていく。9 月号では、 1954年の有山案の加筆修正点および議論 の焦点を取り上げている。ここでは「図書 館の自由に関する調査委員会」が有山案を 非常に高く評価していることがわかる。以 下が委員会による前置きである。 1974年秋、懸案の委員会がついに成 立したことにより、これまた久しい懸案 であった解説文の作成もここにようやく 可能となったのである。(略)ところで 1954年副文案は、これに先立つ“中立性 論争”を経て館界の合意となりつつあっ た問題状況への認識と決意をふまえた立 派な文章で、今日でも十分読むにたえる 生命をもっている。(『雑誌』、1976年9月、 p374-376) もちろん、さきほど見てきたように、「館 界の合意となりつつあった」かどうかにつ いては、文面通り受け止めることには疑問 の余地があるが、いずれにせよ当時の「委 員会」は自由宣言を実質化しようとしたこ とが見てとれる。そのために委員会は開か れた討議を仕掛けたことがわかる。 委員会の指摘箇所は多岐にわたるので、 ここでは前節にならい、「利用者の秘密」に 関連する部分に絞って取り上げる。 まず、1954年の有山案を再度紹介する。 3 図書館はすべての不当な検閲に反対 する。 (一)〜(三) (筆者注. 略) (四)更に図書館の一般的利用状況につい ては別であるが、利用者個人の読書傾向 など個人的自由を侵すような調査の要 求は、法律上正当な手続きによる場合 の外は拒否する。(『雜誌』、1954年7月、 p.220-221) この箇所に対し、「図書館の自由に関す る調査委員会」は以下のように訂正案を出 している。まず、「不当な検閲」ということ は検閲の不当性を強調する意図であろうが、 不当な検閲と妥当な検閲があるようにとれ て紛らわしいので改定する必要があるとい う。また、(四)については、以下のように 訂正案を提出している。 (四)について。 (1)「更に図書館の一般的利用状況に ついては別であるが」を削除。 (2)「法律上正当な手続き」については、 その具体的内容をあげるようにする。
  31. 31. 030 ライブラリー・リソース・ガイド 2016年 冬号 図 書 館 は「 利 用 者 の 秘 密 を 守 る 」そ の 原 点 と 変 遷 (3) 利用者名の調査、複写申込用紙 の調査の例を加える。(『雑誌』、 1976年9月、p374-376) これらをきっかけに、さまざまに討論が なされたが、以下に文言の変遷を見てみよ う。なお、文言についての意見表明につい ては、『みんなの図書館』や、大学紀要等で 行われることも多かったが、逐一引用する のは非常に煩瑣となるので文言の変遷のみ に絞ってここでは紹介する。 [副文案] 3 図書館はすべての不当な検閲に反対 する。 (二)図書館は、利用者のプライバシーを 守る責任を追う。図書館利用者の利用事 実は、職務上知り得た秘密であって、公 務員の場合には守秘義務が課せられてお り、公務員の身分を持たない図書館活動 従事者にも当然道義的責任が課せられる。 したがって、刑事訴訟法第107条による 正式の捜査令状が発せられたことを正式 に確認した場合を除いては、利用者の利 用事実を明らかにしてはならない。 図書館における利用者のプライバシー擁 護は、利用者の図書館への信頼を確立し、 国民的支持を得る機縁になることを銘記 すべきである。(『雑誌』、1977年、9月) [副文第二草案] 3 図書館はすべての不当な検閲に反対 する。 (二)図書館は、利用者のプライバシーを 守る責任を負う。図書館利用者の利用事 実は、職務上知ることのできた秘密で あって、何人もそれを漏らしてはならな い。公務員の場合には守秘義務が課せら れており、また、公務員以外の図書館活 動従事者にも当然道義的責任が課せられ る。 したがって、刑事訴訟法第107条による 正式の捜索状が発せられたことを正式に 確認した場合を除いては、利用者の利用 事実を明らかにしてはならない。 図書館における利用者のプライバシー擁 護は、利用者の図書館への信頼を確立し、 国民的支持を得るための必須の条件であ る。(『雑誌』、1977年12月) [副文第二章案(sic)をもとに、検討された 意見の総括] 3 図書館はすべての不当な検閲に反対 する。 (二)図書館は、利用者のプライバシーを 守る責任を負う。図書館利用者の利用事 実は、職務上知ることのできた秘密で あって、何人もそれを漏らしてはならな い。公務員の場合には守秘義務が課せら れており、また、公務員以外の図書館活 動従事者にも当然道義的責任が課せられ る。 したがって、刑事訴訟法第107条による 正式の捜索状が発せられたことを正式に 確認した場合を除いては、利用者の利用 事実を明らかにしてはならない。 図書館における利用者のプライバシー擁 護は、利用者の図書館への信頼を確立し、 国民的支持を得るための必須の条件であ る。

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