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『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』創刊号(2012年11月)

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『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』創刊号(2012年11月)

  1. 1. 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 LRGライブラリー・リソース・ガイド 創刊号/2012年 秋号 特別寄稿 長尾真 未来の図書館を作るとは Library Resource Guide ISSN 2187-4115 図書館100連発特集 嶋田綾子
  2. 2. 3ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  創 刊 の 辞 『ライブラリー・リソース・ガイド』創刊の辞  私が「図書館」というものに関わりだして、まもなく10 年を迎えます。思えば、2003 年 12 月に『現代の図書館』(日本図書館協会)に寄稿させてもらい、その 1 年後の 2004 年 12 月に国立国会図書館 東京本館で講演させてもらったのが、「図書館」と私の 本格的な関係の始まりでした。以来、約 10 年が経ちました。  この間、「図書館」を巡ってはさまざまな出来事がありました。その出来事の中には、「図 書館」に大きな打撃を加えるものもあれば、「図書館」に力強い応援を送るものもありました。 その 10 年の歴史の中で、ひときわ痛感するのは、順風も逆風もあるが、それでも時代は「図 書館」とともにあったということです。これまでの 10 年の間、確かに「図書館」には厳し い風が吹きました。そして、その風はいまも吹いています。しかし、同時に「図書館」のイメー ジと実態は、かつてないほどに深まり広がりました。  それまでの常識ではとらえきれない「図書館」が、各地に生まれています。そして、そ のような野心的な「図書館」の担い手となろうとする動きは、公共・民間を問わず、広がっ ています。こう思えるのは、私は「図書館」を情報と知識がさまざまな形で集約される場、 交換される場、そして再生産される場ととらえているからです。  「巨人の肩に乗る」という言葉があるように、過去から受け継いだ情報や知識を現在に生 かし、そして未来へと引き渡していける限り、「図書館」という営みが消え去ることはありま せん。  ひとつ根拠を示しましょう。それこそ、「図書館」で歴史をひもとけばわかることですが、 現在私たちの社会を席巻しているウェブも、考えてみれば、「図書館」の系譜のひとつです。 また、そのウェブの歴史の幕を開けたディレクトリーサービスも、現在隆盛を誇る検索エン ジンも、その発想を「図書館」に負っています。  情報化の時代になればなるほど、「図書館」が築いてきた情報と知識が活用されるのは、 むしろ当たり前のことでしょう。まだ、いや、むしろいま、「図書館」の可能性は示されてい るのです。  この可能性への期待を確信に変えるために、ここに新たな雑誌を創刊します。これまで繰 り返し「図書館」という言葉で表現してきたものを、さらに前に進めるべく、『ライブラリー・ リソース・ガイド』という名を与えて……。 2012 年 11 月 20 日 岡本真
  3. 3. 6 巻 頭 言   ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 巻頭言 図書館の未来を考えるために  第 1 号となる『ライブラリー・リソース・ガイド』は、大きく以下の 2 つの記事からなっ ています。 ● 長尾真「未来の図書館を作るとは」 ● 嶋田綾子「図書館 100 連発」  本誌をお手に取られる方で、長尾真さんをご存知ない方はいないと思いますが、2007 年から 2012 年まで国立国会図書館の 14 代目の館長を務められた方です。  今回は本誌の創刊にあわせ、長尾さんが国立国会図書館長を退任する直前におまと めになり、ごく一部の関係者に配布された「未来の図書館を作るとは」を収録しました。 300 部限定の私家版として流通している貴重なテキストを、創刊したての本誌にご提供い ただいたことに心から感謝申し上げます。  さて、このテキストは、きわめて論争的です。図書館の世界では、長尾さんは国立国会 図書館のお立場で知られていますが、数十年前自然言語処理や画像処理を専門とする情 報工学者でもあります。その頃から、電子図書館を構想し、研究し、実践してきた長尾さ んの現時点での思考の集大成がここにあります。  このテキストを世に問われてから、すでに 9 ヶ月近くが経過しています。おそらく、長尾 さんの思考はさらに先に進んでいると思いますが、いまこのテキストをできる限り広く共有 することで、長尾さんをひとつの軸にした知的な論議と行動の足がかりにしてほしいと願っ ています。そして、そのための時間と空間の提供に、本誌も尽力していきます。
  4. 4. 7ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  巻 頭 言  嶋田綾子による「図書館 100 連発」は、本誌の創刊のために書き下ろされました。なお、 本誌の内容に基づくライブの場として、第 14 回図書館総合展で主催する同名フォーラムを 実施しています。  さて、本誌の特集とも言うべきこの企画は、嶋田の「図書館を良くしていくには、どうす ればいいのだろう?」ではない!良い事業、良い工夫を実践している図書館は、すでにた くさんある。その良い事業や工夫を実践している図書館を、幅広く紹介していくことがいま、 求められている。という強い思いから、始まりました。  100 の事例を一気に紹介するという形式は、本誌発行元であるアカデミック・リソース・ ガイド株式会社が事務局を担う、ニコニコ学会βシンポジウムに触発されたものです。同 シンポジウムのみなさまには、大きな刺激と想像力を与えてくださったことに感謝します。  紹介している図書館の 100 事例は、すべて嶋田と本誌編集・発行人である岡本真がこ の数年間、日本各地を訪ね回り、実際に見聞したものです。手間暇をかけて集めた事例 を囲い込むのではなく、広く共有する意義をご理解いただき、ご活用いただければと思い ます。そして、ぜひ、新たな事例を提供する図書館が日本各地に現れ、次に特集を組む 際は「図書館 1000 連発」にせざるを得なくなれば、これに勝る喜びはありません。 編集兼発行人:岡本真 責任編集者:嶋田綾子
  5. 5. 10 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 未来の図書館を作るとは   Ⅰ 読書と創造 1. 思想が形成される過程  人間は考えていないように見えてもいろん なことを考えている。しかし頭の中で考えて いることは不安定であって、考えている本人 もなかなか理路整然としているわけではな い。考えていることを書くという行為によっ て外部に出し、客観化することによって他人 にも自分にも考えていたことが明確化する。 そして、この外在化されたものを土台にする ことによって次のさらに深いことを考えるこ とができる。このように内部のものを外部に 客観化して出し、それを元にしてまた内部の 世界を深くまた広くしてゆくというサイクル が大切である。このサイクルにおいて自分が 外部に出したものと共に、他の人が考えて客 観化したことも取り込むことによって自分の 考えをより豊かにし、また他人にとっても説 得力のあるものを作りあげてゆけるのであ る。そういった意味で他人の書いたものを読 んだり、他人と議論をすることは新しい概念 や思想の形成にとって必須のことであるとい えよう。  思想といわれるものは、基本的な考え方か ら出発してその考え方をより深くより精密なも のにすると共に、より広くし1つの大きな体系 としたものを指すといってよいだろう。先人の 考え方の上に立ち、またこれを批判的に受け 入れ、自分の物の考え方、おかれた立場、ま たその時の社会の状況等から新しい考え方を 展開してゆくことによって新しい思想が形成さ れてゆく。したがって先人の思想の現れである 著作物を網羅的に集めて自由に利用できるよ うにすることが大切である。これを社会的な 1 つの組織体として保証するシステムが図書館、 図書館システムであるということが出来るだろ う。個人がぼう大な数の書物を集めて自分の 思想形成のために使うという場合にくらべて 図書館には 1 つの本質的な違いがある。それ は知の共有のシステムであるという所にある。 これは考え方の違う人達が知識を共有し、そ の違いを議論を通じて明らかにすると共に、 新しい知識・思想を作り出してゆく場を意味し ており、これが図書館の真のあり方だと言え るのではないだろうか。  これを実現したのが、古代アレクサンドリ ア図書館であった。これは紀元前3世紀半ば 頃に作られ徐々に発展して、古代ギリシアや その周辺諸国の書物(主にパピルスに書かれ た巻物)がプトレマイオス朝の歴代の王など の力によって当時の国際都市アレクサンドリ アに集められた。そしてそれらの国の知識人 長尾真 1936 年生まれ。工学博士。 専門は自然言語処理、画像処理、パターン認識、電子 図書館。京都大学工学部電子工学科卒業、京都大学総 長(第23代)、独立行政法人情報通信研究機構理事長 を経て、2007年4月から2012年3月まで国立国会図 書館長。
  6. 6. 11ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は を集めて居住させ、書物を自由に利用させ、 文献学を中心としていろいろと研究させた。 これらの人達の間では自由な議論が行われ、 大きな成果をあげたのである。  アレクサンドリア図書館は何度か火災を受 けたりして紀元後2、3世紀して滅亡してし まったが、その精神は今日の最先端研究を 行っている大学の研究室に生き残っていると 思われる。たとえばマサチューセッツ工科大 学の人工知能やマルチメディアに関係した研 究所には世界各国から優秀な研究者が集ま り、それぞれの関心のあるテーマの研究をや りながら、お互いに意見を交換し切磋琢磨し ている。そこには物理的な形での大きな図書 館はないが、目に見えないネットワークを通 じて世界中の同じ分野の研究者の成果が利用 できるようになっており、毎日いろんな機会 に関心を共にする人達が議論し、それを栄養 としてまた自分の研究を進めている。すなわ ち今日では目に見えないヴァーチュアルな世 界でいわば専門分野の世界図書館が形成され ているのである。  今日ではまだ研究者同士の議論がヴァー チュアルな世界で十分に機能するところまで は行っていないために、図書館機能のもう1 つの要素である議論の場は生身の人間が、随 時アイディアが浮び上った時に適切な相手と 議論するという場が必要となり、研究者が集 まることになるのである。思想の形成、新し い創造のための議論というのは言葉の世界だ けでなく、それを発信する人の全人格が相手 に伝わることが大切で、これは設定された会 議の場でない普段のコミュニケーションにお いて最もよく機能するから人が集まるのであ る。このような環境を図書館に作ることがこ れからの図書館の生きてゆく1つのキーとな るだろう。将来ヴァーチュアル世界でほんと うの意味でのヒューマンコミュニケーション ができるようになれば、議論の場の提供とい う図書館機能が達せられ、物理的な形での図 書館は無くてもよいということになるかもし れない。  こういった場の萌芽が今日ないとは言えな い。これまで参考業務といわれていた機能は 人を適切な資料に案内する役目である。これ を一歩すすめて一部の公共図書館では人が起 業をするため、あるいは職業上の困難を解決 するためや、生活上の法律にかかわる問題、 医療問題などの参考のために、これらに関す る資料を強化し、相談に乗る試みが行われ始 めているが、これはその例とみてもよいだろ う。そこでは対等の形での議論というところ までは行かないが、資料を基にしたコミュニ ケーションを密にすることによって利用者が 具体的な判断を下し、方向性を見出すところ まで案内をすることが目的とされ、これが実 行されている。将来は利用者のもつ問題の解 決のために対等の立場での議論ができるよう にする方向が望まれるが、これを図書館司書 が受け持つことには限度がある。そこで近隣 の大学の研究者に参加を求め、類似の課題を 集めて会合を開き、それらを解決したいとい う人達と研究者、そして図書館司書のグルー プが種々の角度から資料をもとに議論し、課 題の解決に努力するという、一種のフォーラ ムを形成することが考えられる。これに類す ることは米国の幾つかの大学で行われはじめ ている。図書館にセミナー室をもうけ、学生 はそれぞれの課題を解決するために資料を調 べるとともに、そのセミナーをリードする教
  7. 7. 12 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 員や支援をする図書館職員と議論しながら、 自分の考え方を確かなものとし、課題を解決 してゆくというスタイルの演習科目である。  公共図書館などではこういった場は毎日、 随時というわけにはゆかないので週に1回、 あるいは月に 1、2 回などの頻度で行うよう にすれば、社会が一層活性化されてゆくこと になるだろう。その場合、単なる議論でな く、過去の知識の上に立った議論をすること が必要であり、そのための図書館資料の活用 が大切である。自然科学、工学、医学におい ては特に学術雑誌が大切となる。こうして図 書館のもつ確実な知識にもとづいた議論に よって新しい創造活動が行われることが望ま れ、図書館は今後そういった方向についても 十分な配慮をしてゆくことが期待される。こ うして図書館は知識を見つける場であるだけ でなく、知識とともに知を共有し新しい物事 を創造する場となってゆくだろう。これは古 代アレクサンドリア図書館の追求して来たこ との現代版である。インターネットの世界で は SNS、ブログ、ツイッター等で既に知識共 有の場が作られているが、理想的な意味での 深い議論をする場という意味では、やはり人 びとが出会う現実のフォーラムが必要である ことは明らかであろう。  知識は共有されるべきである。そうでなけ れば新しい知識、有用な知識の発展、蓄積は ありえない。そこで問題となるのは知識共有 の範囲であろう。一子相伝といった秘密の世 界から、1 企業の 1 部門、あるいは 1 国の中 だけ(特許などはその例)ということもある が、世界がますます一体化しつつある今日、 その範囲は世界全体ということになるだろ う。即ち知識は 1 つの社会、国、あるいは世 界全体における公共財的な位置づけとなる。 それを保障するのが、とりあえずは図書館と いうことになるだろう。知識をかくすという 時代はすぎたのであり、新しい良い有用な知 識を創造し、それが社会資本となり世界に広 く認められ評価されるという面に価値を認め る時代になって来ているのである。 2. 著作とそれを表現する媒体  動物は全て大なり小なり自己を表現する手 法をそれなりに持っているが、人間の持つ言 葉はその最も強力なものであろう。昔から人 は自分の思うことを言葉にして発話し、また 身振りその他の手段で表現して来た。そして 多くの人が共感する内容は口承されて来た。 古事記がそうであったし、万葉集の多くの歌 はそうであったろう。  文字が発明されるにおよんで、これらの口 承は文字化され記録媒体に固定化されるよう になった。古く中国では亀の甲羅や鹿の骨な どに刻まれた。また時代が下るにつれて石に 刻まれたり、竹簡、木簡などに墨で書かれる ようになった。古代メソポタミアでは粘土板 に刻まれたし、古代エジプトなどではパピル スに描かれた。  中国で発明された紙は長年の歴史をもって 世界に広まり今日に到っている。西欧では羊 皮紙が使われていたが、作るのに手間がかか るし量的にも限定されていたから紙が大きな 福音であったことは間違いないだろう。  このように表現しようとする内容を定着さ せる媒体は歴史的に変遷して来た。その概略 を表1に示す。記録する媒体に応じてそこに 書き込む道具は鋭利な鑿や箆のようなものか ら、筆と墨、ペンとインクといったものに変
  8. 8. 13ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は わってきた。安く大量に作れ、書きやすく安 定して何年も変わらないもの、読む時に簡単 に取り扱うことが出来て、持ち運びも楽であ るという条件を満たすものとして紙は断然の 強みを発揮する。そして巻物の形態だったも のが頁単位の形で綴じられるようになって途 中からでも簡単に見ることができるように なった。  今日電子媒体という、言葉を固定させる新 しい媒体が出現した。これが長年の歴史を持 つ紙媒体に取って替わる媒体になりうるかど うかが今日競われているのである。電子媒体 においては書くという動作はキーボードを打 つという動作に取って変わられた。昔の日本 人はすべて筆で書いていたのが近年ではペン になり鉛筆になった。欧米と違ってタイプラ イターのキーボードを打つという習慣のな かった日本ではあるが、パソコンが普及し、 今日作家を含めて多くの人は手で書くより キーボードを打って入力する方が良いといっ ている。ただそれによって昔の書き手の手書 き原稿の持つ個性が文字表現の世界から失わ れてしまうという問題はある。しかし頭の中 にあることを表現媒体に固定する過程は複雑 なもので、書き手はかならずしもそれを他人 に詮索されることを望んでいるわけではない だろう。作者は表現によって勝負しているの であって、原稿の手書き文字の上手下手、味 わいによって作品が解釈されることを望んで いるわけではない。  次は記録されるものを取り出して読む時の 便利さの比較ということになる。紙の本は軽 くてどの頁も自由にめくって見ることが出来 る。電子世界の表示媒体(以下簡単に電子端 末と称する)は現在のところ少し重いが、数 百頁の本とくらべるとむしろ優位にあるとい えるだろう。決定的にちがうのは電子端末の 場合は何百冊もの本が同じ重さの電子端末の 中に入るという利点があることである。今後 電子端末の機能がいろいろと強化されてゆく 時代 内容 媒体 道具・手段 量 形 特徴 古代 文章 石板、粘土板 のみ、へら 1枚 板 1∼2次元 表現〈グーテン ベルグ〉 文章 図 竹簡、木簡、パ ピルス、羊皮紙 筆と墨 筆写 1組 巻物 版木 多数冊 紙 冊 子 (頁という概念) 文章、図、写真 活字印刷 ぼう大な 冊数 本 (目次、索引) ディジタル 時代 (フェーズ1) 文章、図、写真 音、動画像、イ メージ 電子読書端末 キーボード スキャナー 電子表示 任意冊数 電子読書端末に ぼう大な数の本 が入れられる 任意の本の欲し い部分を取り出せ る検索機能 3∼4次元 表現ディジタル 時代 (フェーズ2) 著者と読者の 間のやりとりの 出来る機能を もった電子読書 端末 電子ペンや音 声による入力 機能 表1 本の形態の歴史
  9. 9. 14 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 だろうから、本の途中を開いたり、栞を入れ て次の日に続きを読んだり、また好きなとこ ろに下線をひいたりできるようになって来て いるし、コメントを本の欄外に入れたりする ことも出来るようになるだろう。そういった ことの詳しいことは次節に述べるが、紙の本 で実現できていることはほとんど電子端末で 可能となり、電子端末でしか出来なことがい ろいろあるという優位性がある。  ただ、電子媒体のもつ決定的な欠点は、永 続性の問題である。平安時代の書物が今も安 定して残り、見ることが出来るのに対して、 電子媒体における記録は電気エネルギーが供 給されなくなれば数ケ月ももたない。何百年 もの間継続して電気を供給しなければならな いし、記憶媒体が進歩してゆくに応じて新し い媒体に書き写してゆかねばならない。した がって保存にぼう大な手間とコストがかか る。エネルギーを供給せずに千年もつ電子記 憶媒体の研究開発が必要であるが、それは始 まっている。  紙媒体には現時点でも文字以外に図や絵、 写真といったものを書き込むことができる。 人間が表現したいと思うことは言葉だけでな く図や絵、そしてカメラという新しい情報の 入力手段が出て来て写真も入れられるように なって来た。現在は表現手段がもっと広がり、 動画像、音楽、音声などマルチメディアの世 界に拡がり、これらを固定する技術も出来て、 これらを電子媒体に書き込み、またそれを電 子端末を通じて再現・表現することが出来る ようになって来た。これらは紙媒体の世界で は表現不可能なものである。人間が表現した いと思うことと、それを実現できる手段・媒 体とは相互関係にある。表現手段や媒体が豊 富になれば、それに伴って人間が表現したい と思うことが拡大してゆくのである。表1は このような書物についての歴史的発展をまと めたものである。  記録媒体に書き込む道具もいろいろと変遷 して来ている。グーテンベルグの活字の導入 という革命によって、いろんな作品をすばや く版に組むことが出来るようになり、印刷も 1枚づつの刷りから、機械的に高速に印刷が 出来るようになり、大量の本が安く作られ、 社会に広く受け入れられるようになったわけ である。今回の電子書籍の革命は紙という媒 体から電子という媒体に移るという革命のほ かに、表現できるものが文字や図、写真から、 音や動画像にまで拡大したという点で、印刷 技術の革命とは質の違った革命となっている のである。すなわち表現できる内容が広がっ たということであり、グーテンベルグの革命 よりもっと驚くべき革命であると考えられ る。  そして記録媒体に対して読者が電子ペンや 音声で働きかけができ、これに対して媒体側 が反応するというダイナミックな著作物にも なってゆく。また無線通信回線を経て著者と の対話もありうる世界が開けるわけで、これ まで想像できなかったことが実現するだろ う。さらに後に述べるように読者あるいは利 用者が取り出せる対象は書籍1冊の単位では なく、書籍の中の章や節、あるいはパラグラ フの単位など、利用者の望む単位となる可能 性が出て来たということにも注目しなければ ならない。こういったことの詳細を以下に順 次述べてゆく。
  10. 10. 15ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は Ⅱ 知識の表現と組織化 3. 知識の表現形態と電子端末  最近、電子読書端末が話題となっている。 Kindle、Reader、iPad 等がすでに市場に出て おり、最近はスマートフォンも読書に用いら れはじめ、その売れ行きも良いと言われてい る。しかしこれらは電子端末で読むことので きる電子コンテンツが豊富になることと並行 しているわけである。コンテンツがなければ 端末は意味を持たないし、端末がなければコ ンテンツは活用されないで死蔵されたままと いうことになる。資料の電子化が盛んになっ て来ているタイミングに合わせて、今後使用 目的にしたがって種々の機能をもった電子端 末が開発され市場に出廻ることになるだろ う。一般的に望まれる機能としては軽くて広 い表示画面を持つことであろうが、持ちはこ びが簡単にできるよう折りたたみが出来るも のも出てくる可能性がある。画面は十分に分 解能が高くて小さな漢字やルビなどが読める もの、また精度の高いカラー表示が出来てカ ラーテレビも受信できるものが求められ、ま た音の質も良く、音楽が十分に鑑賞できるこ とも必要であろう。  これらの機能は種々の形態のコンテンツを 表現するためのものであるが、もう1つの側 面として利用者が働きかける機能をどこまで 持つかということがある。幾つかの機能ボタ ン、アイコンの選択からアルファベット文字鍵 盤、あるいは指で画面をタッチすることによっ て種々の機能をはたすといったことは既に市 販の電子端末に装備されている。ペンで文字 や図を入力する機能、音声の入力などが出来 るといった種々の機能がこれからのシステムに 期待されるが、これらの多くの機能のうちどれ を選択して電子端末に作り上げるかは利用目 的によって異なってくるわけである。  電子端末がコンテンツを表現するこういっ た能力が紙という媒体とどのように違うかに ついて考えてみよう。これまでの紙の書物は 文章という1次元の文字列を2次元のページ という形に配列したものであった。マンガの 場合は2次元の絵、図が中心になるものであ る。またカラーや写真という新しい手段も取 り入れた美しいカラー写真中心の雑誌なども 出て来た。これらはいずれにしても2次元の 世界の中での表現である。これに対して電子 端末の持つ機能は本質的に異なる。まず人の 声や音楽を表現することができるという点で 時間軸という新しい次元がある。またキャラ クタが動くマンガ、動画像、映像などが著作 物の中に入ってくるという点でいわば3次元 世界が表現できる。したがって表1の右端の 欄に示したように電子端末は3次元、4次元 の世界を表現できる能力を持っている。紙の 時代には人間の表現したいことが2次元世界 に限定されていたが、電子端末の時代には紙 のもつ機能のほかに3次元、4次元にまで人 間の表現できることが広がったというわけで ある。これからはマルチメディア著作物の時 代に移ってゆくだろう。  さらに読者、利用者が声や入力ペンによっ て作品に働きかけるという新しい機能が電子 端末にそなわることになれば、コンテンツを 作る著者がこれにどう対応するかということ も課題となる。このような電子端末は通信機 能をもっているから、読んでいる作品につい て読者が意見をブログやツイッターで発信す
  11. 11. 16 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 ることによって、同じ作品に関心のある人と 意見を交換できるし、難しい書物については ネット上で他の人達と共同の読書会をした り、またその作品の著者との対話ということ もありうる時代となってゆくだろう。このイ ンターラクティブ機能の有無によって表1の ディジタル時代のフェーズ1と2が区別され ている。このようにマルチメディアの時代と なり、利用者の参加という状況が出てくれば 従来のように1人の著作者で対応することが 難しくなる。何人かの専門の違う人達が協力 しなければならない時代に入って来たのであ る。基本的な筋書きは1人の人が作るにして も、これに肉付けして豊かなマルチメディア 表現の世界を作りあげてゆくためには、音の 専門家、写真や動画、コンピュータグラフィッ クスなどの専門家が協力する必要が出てくる わけである。今でもカラー写真などが中心と なった娯楽の雑誌などは何人もの共同製作で あるが、これからはもっと多くの人達の共同 製作でなければ優れた作品が作れないという 時代が来るかもしれない。  マルチメディア技術を用いた出版物で最も 興味のあるのは電子教科書の作成であろう。 最も簡単なのは語学の学習教科書である。書 かれている単語や例文をクリックするとその 発音が聞けるように出来るし、英語の作文を 画面上でするときに、前置詞の使い方などを 間違ったことを指摘したり、辞書引きが簡単 にできて助けてもらえるといったこともある だろう。またたとえば理科の教科書で、火山 について学ぶ場面を考えてみよう。火山のタ イプは幾つかあって、噴火の仕方、溶岩の流 れ方、形成される山の形などが違うといった ことは、図や写真だけでなく映像を埋め込ん でおいて見せることができるし、ボールを投 げる時どの角度で投げれば最も遠くへとどく かといったことは運動の方程式のプログラム を埋め込んでおくことによって、いろいろと 角度を変えて投げる実験を教科書の電子端末 の上で児童生徒にやらせることによって学ば せるといったことも出来る。算数の計算問題 を与え、解答をステップを追って電子端末上 に書かせることによって、答えが間違ってい たら、どの部分で間違ったかを指摘してやり なおさせることも出来るようになるだろう。 国語では漢字を書かせてその書き順のチェッ クをするという形での漢字の学習や、芭蕉の 俳句がどのような場所で詠まれたかを映像で 示したり、その風景に合った音楽を流したり するような工夫もありうる。児童生徒がこう いった演習問題をうまくこなしたら、「よく 出来ました」といって褒めてやる電子演習問 題集も作ることができるだろう。先生は個々 の児童生徒の学習状況を全て把握し、適切な アドバイスをしたり、追加的な演習問題を与 えたりして、それぞれの児童生徒の能力に応 じた指導ができることになるだろう。  問題を解決するために生徒や学生同士が相 談することや、先生に質問することも電子端 末を通じて行えることは当然である。参考書 や演習問題集、自分のノートブックなどを含 んだこの種の電子教科書は、種々の教材、図 書館資料、辞典類などにもリンクしていて、 個人の能力、あるいは学習の進歩の度合いに 合わせた形で児童生徒や学生に対応してゆけ るという意味でも新しいタイプの学習の時代 を切り開いてゆくだろう。  紙の書籍にくらべて電子的な書籍はいつで も簡単に修正しうるので、完成版がはっきり
  12. 12. 17ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は しないという問題がある。紙の場合でも訂 正、その他の変更が加えられて版を重ねてゆ くが、それは第何版かということではっきり する。電子書籍は一度に何千部か刷っておく といったことはなく、買いたい人が出て来た 時に電子的に送信するので、版という概念は ない。ただ今日のワープロソフトはテキスト の修正前と修正後が分かるように色で区別し て記録し表示しているので、これに日付けを 入れて残すようにすれば、○年○月○日版と いうことが明確になる。最新の版のものでな く1年前のものを読みたいという人にはその 時点での修正版を送るようにすればよい。し たがって電子書籍においても完成版があるか ないかといったことを心配することはないだ ろう。ゲーテなどは死の直前まで作品に手を 入れていたといわれている。 4. これからの図書館の持つべき機能 (1)資料の収集  第1節でも述べたように人々はあらゆる形 で物事や自己を表現している。それらは書物 の形になるものもあれば、音楽になり、絵画 になり、また映像、舞台芸術、工芸作品等に なって人類の歴史に残っている。これら全て の知や情的感覚、あるいは知識の表現は人類 の資産として後世に伝えるべきものである。 今日の情報関連技術を用いることによって、 かつてはその場かぎりの時間表現であった各 種のパフォーマンスも3次元立体映像とステ レオ技術によって固定化され、保存され、時 と場所を越えて現場を再現することが出来る ようになって来た。  今日多くの国では納本制度が作られてい る。これは法律によってその国の出版物を国 立図書館に納入する義務を課すもので、日本 では出版後1ヶ月以内に国立国会図書館に1 部を納めることになっている。出版物として は定価のついた本だけでなく、自費出版物、 関係者だけに配付することを目的とした社史 や報告書類なども含まれる。また本だけでな く、音楽 CD、映像 DVD なども収集の対象 となっている。今日ではインターネット上に 発信される各種の情報も収集の対象としなけ ればならなくなって来ており、図書館の活動 すべき範囲が拡大して来ている。しかし、こ れらの文化財とみなせる全てのものを国立国 会図書館だけで収集することは難しい。した がって、図書館だけでなく、美術館、博物 館、あるいは写真・フィルムセンターなどい ろんな所が分担して専門的立場からできるだ け漏れの少ない収集が心がけられている。し かしまだまだ多くの資料が放置され、その大 切さに気付かれずに捨てられている。たとえ ばテレビ番組や映画の背後にあるシナリオの 脚本、台本などの資料は番組の放映が終われ ば見向きもされないし、映画が完成されれば それを作る時に使われたあらゆる資料、材料 類はつぶされ捨てられている。しかしこれら 製作過程を支えている資料の多くのものは歴 史的価値を持つ可能性があり、残すべきもの であろう。  ではどこがどういったものに責任を持つべ きかということになれば、まず考えられるの は美術館、博物館、図書館ということになる だろう。あるいはたった1つしかない資料に ついては文書館ということもありうる。いず れにしても図書館、文書館、美術館、博物館 などがどの範囲の資料を収集すべきかについ てはお互いによく検討する必要がある。今日
  13. 13. 18 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 新しく出される出版物や資料類はかなり網羅 的に収集されているが、日本各地に存在する 古文書類、あるいはその地方で限定された形 で作られ配布されたりしている資料などは、 その地の公共図書館などで収集することが大 切である。その収集対象もパンフレットやビ ラなどの類までとするかどうかといった対象 範囲のきめ方も難題であり、広く意見を聴す る必要があるだろう。  今日では物の形をした資料だけでなく、 ヴァーチュアル世界においてぼう大な情報が 作られ流通し消費されている。これをどう するかは大きな問題である。インターネッ トアーカイブという米国の NPO 法人は 1990 年代から世界中の web サイトの情報を収集 しているが、web サイトは新しく出現し消 滅してゆくものが多いし、同じ web サイト でも随時書きかえられ変化している。これら をすべて記録として固定するためにインター ネットアーカイブは多くの収集ロボットを並 行的に動作させて情報を集めているが、web サイトの中の全ての情報が集められているわ けではない。web サイトの作り方によって 収集ロボットでは手のとどかない情報も多い し、限られた会員にしかアクセスさせない情 報も多い。  国立国会図書館では 2002 年から限られた 数の web サイトの情報を許諾を得て集め始 めたが、2009 年に国立国会図書館法を改正 して、国、地方公共団体、国公立大学、独立 行政法人など、国に関係した web サイトの 情報を許諾なく集められるようにした。これ らのサイトは最も信頼性があり、また人々の 役に立つ情報を発信しているからである。主 なサイトについては月に1回のペースで収集 している。  この web サイトの情報収集で深刻な問題 は収集されるぼう大な情報を保存するための 記憶装置がいくらあっても足りないという事 態である。グーグルは想像できない巨大な数 の記憶装置を並べた建物を砂漠の中に作って いるが、この記憶装置に供給する電力が不足 するというので発電所をいっしょに建てなけ ればならないという事態に追い込まれている という。こういったやり方でヴァーチュアル 世界の全ての情報を集め保存するということ が今後いつまで続けられるかが問題であろ う。いずれ選択的に集めるか、集めたものの 一部を棄てるか、あるいは集めたものの中で 同種のものについては集約(アブストラクト) を作ったあと、一部の典型的な例となる情報 だけ残して他は廃棄せざるを得ないといった ことになるだろう。その集約の技術開発はこ れからの課題である。 (2)資料の整理  図書館に収集された資料は分類されて保存 され活用されて来た。分類という概念は大切 であるが、web 情報などこれまでになかっ た種々の情報が出て来ている今日、分類は大 きな問題に直面しているといえるだろう。国 立国会図書館では web 情報にダブリンコア 形式の書誌情報を与えているが、マルチメ ディア出版物などが出て来ることも考えた共 通の整理と検索に耐えられる分類のシステム をどのように設計するかが課題であろう。  新しい分類項目を増やすときに、古い体系 に影響を与えず、ある一段上の概念の下に項 目を増やすという形で行われる場合はよい が、多くの場合新しい項目を付加すると従来 の項目に属していたものを新しい項目の方に
  14. 14. 19ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は 移した方が良いということが生じる。しかし こういった移動を行うことは大規模図書館の 場合にはほとんど不可能であり、新規項目が 増えてゆけばゆくほど分類体系全体が歪んだ ものとなってゆく危険性がある。また資料が 増えれば増えるほど1つの分類項目に属す資 料が増えるので、その項目の下に細分された 項目群を作る必要が出て来る。これに対する 対処も難しい。  図書館における分類は従来書棚の場所と対 応していた。そこである分類項目の資料の増 加があっても入れられるように1つの項目の 棚の場所から次の項目の場所の間は適当な空 きスペースをもうけていたが、この空きス ペースは全体としてはかなりのものとなるの で、そうでなくても書庫スペースが不足して 来ている今日、この方式をとることはほとん ど不可能となって来ている。そこで資料は到 着順につめて並べて、その所在場所をコン ピュータで管理するようになって来た。すな わち分類という概念は捨てられないが、検索 にもそれほど偉力を発揮しないし書庫管理に も役立たないということで、このシステムは 崩壊の危機に瀕している。  同様のことは主題項目の付与についても 起っている。主題として用意しているものは、 これまでの世界に存在する主要概念のシステ ムであるが、時代が進めば新しい概念がどん どん出てくる。そして書かれる書物は種々の 概念を含んだ複合世界である。これに幾つか の主題名を付けるには広い視野にもとづく判 断力が必要となるし、時代によって読み手の 主題に対する関心度が変わる可能性もあり、 その場合はある書物につけた主題名と違う主 題名の方が適切であるということも起こって くるだろう。  分類項目や主題項目の付与にはベテランに なった人の手による必要があり、またそのよ うな人の場合でも人によって、また状況によっ てかならずしも安定した項目を与えることが出 来ない。ある程度の不安定性があるわけであ る。そしてその項目付与作業には時間がかか るというわけで、ベテランの人の養成を含めて 考えると非常にコストの高い作業となるのであ る。自然言語処理技術を用いると分類や主題 情報をある程度自動的に決めることができる が、まだまだ不十分で将来をまたねばならな い。今日、種々の検索システムが出て来ており、 かならずしも分類や主題といった概念によらな くても検索ができ、満足度のかなり高い結果 が得られるようになって来ている。時代ととも に新しい分野ができ、新しい概念が作られて ゆくから、これからは分類や主題といったこと に力を入れてゆくよりは、より良い検索方式の 開発に注力してゆく方が実が多いと考えられ る。分類や主題に関する図書館での作業をど うするかは検討しなおすべき時に来ているの ではないだろうか。 (3)書誌情報  必要な資料を取り出すために図書館が用意 しているシステムはこのようにかなりのコス トをかけ、主題典拠データや著者名典拠デー タなども用意して、利用者ができるだけ間違 いなく資料を取り出せるよう努力をしてい る。しかし今日の図書館の検索システムのほ とんどは書名や著者名、出版社名などを正確 に入力することを前提としたシステムとなっ ているのに対して、ほとんどの利用者は書名、 著者名などをかならずしも正確に記憶してい るわけではないし、場合によってはばく然と
  15. 15. 20 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 このような資料を見たいということしか言え ない。このように、図書館側の用意している システムと利用者の要求との間には大きな ギャップがあるということに対して、これま での図書館はほとんど有効な手段を取れず、 適切に対処して来なかった。  グーグル検索に人気が出て来て、人はまず グーグル検索をするというのは、グーグルが このギャップにある程度うまく対応している からである。またグーグル検索では検索すれ ば何らかの情報が出て来て、その中をうまく 探したり、関連したところへ飛んで行ったり すればある程度要求が満たされることになる からであろう。ここを探してなければほかに はないだろうというデータベースの完全性の ようなものが利用者に分っており、あるはず のものがないとすれば検索の仕方が悪かった のだと思って、いろいろとやりなおすことも 何ら気にせず行うわけである。データベース を信頼していない場合には自分が下手だった と思わずに、もっと信頼の出来るデータベー スに行ってしまうわけで、データベースの網 羅性、完全性は非常に大切である。  そこで国立国会図書館では館の収蔵してい る資料の目録だけでなく、全国の主要図書館 の協力を得てその目録を集め、総合目録を作 り、検索した時にどこに目的とする資料が あるかが明らかになるようにしている。そ して館の資料の主要目録約 400 万件を国際 的な総合目録を作って全世界に提供してい る OCLC に提供し、日本文献についての情報 を世界に提供している。OCLC は世界の多く の図書館から2億件の書誌情報を集め書籍の 所在情報を世界的にサービスしている。また 図書館が入手した書籍に書誌情報を付ける時 に、OCLC のデータベースから書誌情報をダ ウンロードして付けるというサービスを世界 の7万以上の図書館に提供しているという。  これからの出版物や多くの資料はマルチメ ディア形態となり、電子出版物として提供さ れることになるだろうが、そういった場合の 1次情報、2次情報の形式をどうするか、標 準形式をどのように定めることができるかが 大きな問題となる。アルファベット文字社会 のデファクトスタンダードでは十分でなく、 漢字やかな、タイ文字、アラビア文字などの 書籍についても検討しなければならないし、 マルチメディア情報のページ形式などについ ても難しい問題が存在している。  特に従来の書籍や雑誌の書誌情報表現との 共通性を保ちながら次世代のマルチメディア 形態の資料に対する書誌情報の表現を考えて ゆくことがポイントとなる。利用者の検索の 立場からすると、あいまいな概念から欲しい ものを探すことが大切となり、書誌的事項を 対象とした検索では要求を満たすことが難し い。したがって書誌的事項に入れるべき情報 をもっと豊かなものにできないかという考え 方もでてきている。たとえば目次情報を付け たり、本の表紙の画像や数行の簡単な要旨を 付けるといったことが行われたりしている。 本文テキストにリンクしてゆければ言うこと はないだろう。そういったところから OCLC は検索システムからグーグルのテキストデー タベースにリンクしてゆけるサービスを始め ている。  そのような試みの 1 つとして数年前か ら 議 論 さ れ て 来 た も の に RDA(Resource Description and Access)と呼ばれている方 法がある。これは従来の書誌情報の考え方を
  16. 16. 21ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は マルチメディア情報に対応できるように拡張 かつ詳細化するとともに、対象資料に関係す る様々な種類の情報にリンクをはり、それら の情報をたどってゆけるようにするものであ る。RDA で取り扱う情報の種類は多岐にわ たるので、それらに識別子をつけることに よって RDA の作成作業を簡潔かつ明確化す るとともに検索においても必要な範囲を効率 的に探索し、得られた情報から関心のある関 連情報をも取り出せるようにすることができ る勝れた方式である。今後の実用化への動き に注目することが必要であろう。問題は相当 な博識の人でないと1つの資料に関係した他 の資料へのリンクを十分に付けることが難し く、レファレンス・ライブラリアンの能力、 あるいはそれ以上の能力を必要とするだろ う。したがって次の(5)で述べるようにそ れぞれの分野に通じた人の参加を得ながら図 書館的立場で得られた情報を整理して付けて ゆくという方法も考えねばならなくなるだろ う。従来のような書誌情報だけの時代ではな くなって来ているのである。 (4)検索方式の種々  次に問題になるのは検索である。現在は どの図書館においても OPAC 検索が可能と なっているので、1ヶ所から多くの図書館の OPAC を同時的に検索することができるよう になって来た。これを横断検索と呼んでお り、必要な資料の所在を知ることができる。 またそうして分かった資料そのものがディ ジタル化されておれば、それを取り出して閲 覧することができるようになるだろう。こう なればネットで結合された図書館群があた かも1つの図書館であるかのように機能す ることになる。  利用者が検索を行うときには、得たいと考 えている情報が本なのか、本のある特定の話 題の部分なのか、雑誌の中のある課題につい ての論文なのかといった区別があるし、場合 によってはある種の統計資料であったり、そ のグラフ表現であったりする。あるいはまん が本のあるシーンだけを取り出したいという こともあるだろう。ところがこれまでの図書 館が想定している検索の対象・単位は1冊と いった書籍の単位でしかない。したがって図 書館の考えている検索システムと利用者の考 えているものとの間に大きなギャップがあ り、これを埋めるにはどうしたらよいかとい う問題が出てくる。国立国会図書館では、雑 誌の検索に関して、雑誌単位でなく雑誌の中 の各論文単位で書誌データが作られているの で、利用者の要求にかなり良く対応ができて いる。しかしそのための作業コストは高い。  検索する人の要求に答えるための1つの方 法は検索システムとして書誌検索のような単 純、単一の検索でなく、種々の検索のモード を提供することである。そしてキーワードの 完全一致による検索でなく、種々のあいまい さを許すあいまい検索の工夫をする。たとえ ば書籍については図1に示すような幾つかの 検索システムを考えることができる。もう1 つは利用者がほんとうに何を欲しがっている かを利用者とシステムとの対話などによって 明らかにし、利用者を図書館の用意した検索 システムにうまく導き入れることである。前 者には筆者が実現した目次を用いた階層構造 検索(拙著「電子図書館」(岩波書店)、また 本書第5節参照)や、索引を用いた検索、全 文検索をうまく利用して必要とするパラグラ フを取り出す方式などがある。
  17. 17. 22 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  対象となる資料がぼう大である場合には検 索にいろいろと工夫しても取り出されるもの は非常に多くなるので、全てをチェックして 自分の欲しい情報であることを確かめること が難しい。したがって自然言語による質問要 求を受け付けて、取り出したものがその要求 に対応するものであるかどうかを自然言語処 理技術によってしらべ、できるだけ質問要求 に近いものだけを選択するといった技術を確 立することが必要となる。  図書館の資料は主題情報などを使って1つ の知識の体系に組織化しておき、通常の検索 ではこの知識の体系にしたがって行えば必要 なものを効率よく取り出せるのであるが、こ の知識の体系とは全くちがった観点から調べ たいといった場合には、上に述べた種々の検 索方式を自由に組み合わせて使うことによっ て必要とする情報を取り出せることが保証さ れている必要があるだろう。  図書館における検索はこれまで書籍を単位 として取り出すということであったから、書 誌情報、メタデータをどのように作るか、そ の標準形式はどうすべきかが論じられ、種々 の典拠データが作られて来た。それは取り出 すべき書籍の表題や著者名、出版社名などを 知っているという前提に立つシステムであ る。ところで先にも述べたように利用者は多 くの場合、どの本を取り出したいということ ではなく、このような内容の適当な本を読み たいというあいまいな要求で検索をしようと する。これに対しては従来の図書館の用意し たシステムはあまり役に立たないのである。 まして電子図書館になって取り出す単位が書 籍の単位ではなく、書籍の中の章や節、パラ グラフ、あるいはこんな内容が書かれている 部分のみ、といった時に従来のシステムは全 く役に立たない。書籍の各章や節、パラグラ フなどにメタデータを付与することはできな いので、電子図書館における検索は全く異 なった方法で行われねばならず、これからは
  18. 18. 23ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は 従来行われて来た書誌データの付与作業はあ まり意味を持たなくなってゆく可能性があ る。こういったことについて真剣に検討がさ れねばならないだろう。 (5)図書館と社会との協力  図書館の集める資料には限界があるし、 また集めた資料がどのようなものであるか は図書館の力だけでは分らない場合がある。 たとえば1枚の古い写真があった時、これ はどこの風景であるか、写っている人は誰 か、いつごろの写真であるか、その入手経 路はどうかといったことは簡単には分らな い場合が多い。こういった時はその写真を ネット上に公開し、知っている人がいたら 教えてもらうという形で人々に協力しても らうことが大切となる。また Wikipedia のよ うに集合知で知識構築をしてゆくといった ことも図書館の活動の 1 つとして大切とな る時代になって来ている。 Ⅲ 電子図書館 5. 電子図書館の建設  国立国会図書館は国民の税金でまかなわれ ている。しかしその利用については東京の近 くに住む人でなければ高い交通費を払わねば ならず、来館して利用することは難しい。この 情報格差を解消し日本中どこにいる人にも等 しく利用してもらえるようにするには蔵書を全 てディジタル化し、電子図書館化することが 必要となる。今日のコンピュータ技術、情報 通信技術、情報処理技術を使えばこういった ことは十分に実現することができる。それが 出来ないのはディジタル化などのための資金 と著作権法である。著作権の切れた書籍は自 由にディジタル化し、必要に応じてどこにでも 伝送することができる。しかし著作権の存在 するものについては著作権者の許諾がなけれ ばディジタル化することはもちろんのこと、ディ ジタル化された資料を伝送することは出来な い。これは著作権を持っている人の権利であっ て、これがなければ日本中の人が自由に図書 館の資料を利用することになって書物は一冊 も売れないということになる。  このような制約があっても国立国会図書館 でディジタル化をすることにはいろいろと利 点がある。現在は利用者が読みたい本を注文 すると書庫から本を取り出して来るのに 15 分ほどかかり、その間待ってもらうことにな る。その本の出し入れのための人件費もかか る。電子的に読む場合にはこれが一切不要と なる。利用者が必要なところの複写を申し込 むとそれを行うために時間と人手が必要とな るし、複写するたびにその書物が損傷する。 1冊しかない本で半永久的に保存すべき本 が傷むということは大きな問題であるので、 2009 年の著作権法改正によって、国立国会 図書館に限っては著作者の許諾なくディジタ ル化を行い、館内での利用に供してよいとい うことがきめられた。そこでディジタル化し た本については今後は電子端末でみてもら い、本そのものは出し入れしないことにして いる。  2009 年の著作権法の改正ではもう1つ新 しいことが出来るようになった。それは点字 図書館に限って許されていた書物のディジ タル化による障害者に対する各種サービス (DAISY 版、大活字表示、ディジタルデータ からの読み上げソフトによる音声化等)の提
  19. 19. 24 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 供が国立国会図書館はじめ公共図書館等で可 能となり、またその目的で図書館間、図書館 から障害者の電子端末などに対してデータを 送信することができるようになった。これは 障害者の方々にとって大きな福音であり、図 書館としては予算の許すかぎりこのサービス を行う必要がある。  国立国会図書館での書物のディジタル化 は平成 23 年 3 月の時点で 210 万冊となっ た。図 2 に示すように明治以来 1968 年まで のほとんどの図書がディジタル化されたこと になる。また雑誌 1 万 2 千種について創刊 号から 2000 年までのもの、そのほかに古典 籍、博士論文や官報などもかなりディジタル 化された。これらのうち明治・大正期の図書 のほとんどは著作権の切れたものであり、既 にインターネットに公開されている。その 後 1968 年までの書物のほとんどは著作権が 切れていないと推定されているが、著作権者 を探すのは容易ではない。どうしても見つか らない図書は孤児出版物と呼ばれ、米国など ではディジタル化しても公開することができ ない。日本では幸いなことに著作権者が見つ けられない時には文化庁長官の裁定によって 供託金を積むことによってネット上に公開す ることが出来るようになっている。こうする ことによって過去の書物の多くが書名だけで なく内容もネット経由で読むことが可能とな る。いずれにしても進歩した検索システムを うまく使うことによって過去の忘れられてい た良書が息を吹き返してくる。  書物のディジタル化を行うことの最大の利 点は、書物を冊子単位で取り出せるだけでな く、書物のある部分だけを取り出すことが出 来ることである。そのための 1 つの方法は書 物を目次にしたがって図 3 に示すように構造 化することである。こうすればたとえば章の タイトルに単語 A が含まれ、その章の下の 節のタイトルに単語 B が含まれるという節の 部分だけを切り出して来ることができる。あ るいは単語 C と D を含むパラグラフを全文 検索により探して取り出したり、「E が F を
  20. 20. 25ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は G する」といった文と同じ文が含まれるペー ジを取り出すことができる。この場合シソー ラスで E や F、G の同義語も扱えるようにす れば、同じ文でなくても意味的に同じ文を含 む部分を取り出すことができる。検索質問を キーワードの組み合わせだけでなく、自然な 質問文を受け付けるようにすることもできる だろう。こういったことをすることによって 多くの書籍から自分の必要とする部分を切り 出して来て自分の著述の中にうまく挿入する ことによって新しい著作物を創造することも できるだろう。  こうして図1に示したように検索する対象 を書誌的事項にしたり、目次、抄録、あるい は本文にしたりし、またあいまい検索や、シ ソーラスを用いた検索、句や文による検索な ど、種々の組み合わせの検索ができるわけ で、このような検索システムを作ることに よって検索する人の要求にできるだけ応える ようにすることが期待される。このような機 能をもった検索は、書物を部品に解体し好き な部品を集めて来て新しい構築物を作ること を可能とする。紙の世界ではほとんど不可能 であったことである。  今日のコンピュータの強力な処理能力を使 えば、ある本の 1 つのパラグラフが他の本の あるパラグラフと類似した内容であるとか、 内容的に何らかの関係を持っているといった ことを推定することができるようになって来 ているので、電子図書館に納められた本の各 部分を他の本のある部分と相互関連付けする ことができ、全体を網の目のような構造に作 り上げることができる。これはいわば電子図 書館が人間の頭脳における連想記憶の構造に 似たものとなっているといってもよいだろ う。こうした検索によってある情報や知識を 取り出したら、そこからいもづる式に関連す る情報や知識を取り出すことが出来ることに
  21. 21. 26 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 なる。  自然言語処理技術で最も難しく、また最 もやりがいのある研究は機械翻訳であろう。 1960 年代から研究が始められ、最近になっ てようやく少しは使えるというところまで進 んできた。その精度は翻訳すべき言語対に よって異なるが、たとえば英語とフランス語、 フランス語とイタリア語、韓国語と日本語な どの間の翻訳はかなりの精度で行える。国立 国会図書館では、中国国家図書館と韓国国立 図書館の三者で研究開発の協力契約を結ん で、機械翻訳システムを介して検索キーワー ドを相手言語に翻訳し、それぞれの国の書誌 データベースを横断的に検索し、取り出した 書誌情報を自国語に翻訳出力するとともに、 本文テキストのある場合にはそれも翻訳して 提供するという実験的サービスを提供してい る。日本語と韓国語の間の翻訳の質は良い が、日本語と中国語との間の翻訳はまだ良い 品質が得られそうにない。それでも全く分か らない状態よりは良いわけだし、今後 10 年 もすればかなりの改善が得られるだろうから 希望はある。こうして知識や情報の流通が言 語の壁を克服して行われる時のくるのを待ち たい。  最近国際的に出て来た資料ディジタル化の もう1つの理由は、貴重な資料が火災等で消 失する危険性を考えて、ディジタル化し、こ れを複数の場所に分散して保存するというこ とである。これは 2004 年 9 月にドイツのア ンナ・アマーリア公爵図書館で火災が発生し、 数万点の貴重な資料が焼失または修復不能に なるという痛い経験の反省から再認識される ようになったもので、各地の図書館でディジ タル化による保存の動きが出て来ている。  先に映画や演劇の映像記録などとそれを支 える脚本について、その両方を保存すべきで あると述べた。この両者がディジタル化され れば、映画や演劇の映像記録のどの部分が脚 本のどの部分に対応するかを判断してリンク 付けすることによって、映画や映像の検索を 文字の世界の脚本の方の検索を介して実現で きることになり、映画や映像の部分の再利用 への道が開かれる。こういったこともディジタ ル化の持つメリットであると言えるだろう。 6. 電子図書館のネットワーク  図書館の本が電子化され、また電子出版物 が納本される時代になると、公共図書館がど のようになってゆくだろうか。まず第一に考 えられることは、読者は自分の家にいて電子 書籍を買ったり、横断検索によってどの図書 館からでも借りだしたりすることができるか ら図書館へ来ることはなくなるだろう。図書 館に対する問い合わせと、それに伴うレファ レンスサービスもネットを通じてオンライン リアルタイム的に対話形式で図書館司書と質 問者の間で行われることになるだろう。また 電子図書館の中でも種々の知的なナビゲー ションシステムが作られてゆくから、司書の 世話にならなくてもある程度のレファレンス サービスを受けられることになる。  そのためにはまずは全世界の書物や資料の 書誌情報、所在情報、さらには一次情報など が検索の対象として存在していなければなら ず、そこにアクセスすることによって自分の 欲しい資料が世界のどこにあるかが分かるよ うにすることが必要である。米国の OCLC は 世界各国の主要図書館の書誌情報を集め検索 サービスを行っている。日本の資料で OCLC
  22. 22. 27ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は で扱えるようになっているのは国立国会図書 館から提供した約 400 万点の書誌情報であ るが、国内の資料だけであれば国立国会図書 館は全国の県立図書館などの協力を得て千数 百万点の書誌情報データベースを検索に提供 し、その情報の所在が分かるようにしている。 このようなデータベースを利用して全国、全 世界に存在する書物や資料を調べ、自分の欲 しいものがどこの図書館や出版社にあるかが 分って、それを指示された条件によって入手 出来ることになる。  国立国会図書館の 210 万冊のディジタル 化資料のうち、著作権の切れているものにつ いてはネット上に公開しているが、それは約 30 万冊であり、その他の資料は館内でしか 閲覧できない。しかし国費でディジタル化し たものが来館しないと見れないというのは今 日のような IT 時代にはあまりにも残念なこ とであるということで、文化審議会著作権分 科会で審議が行われ、次のような結論となっ た。すなわち、絶版などで容易に入手するこ とが困難な図書については国立国会図書館か ら公共図書館、大学図書館等に送信すること ができること、ただし同時には1ヶ所にしか 送れないこと、という条件付きである。この 合意に基いて平成 24 年中には著作権法が改 正され、ディジタル化された資料が広く利用 されるようになるだろう。  利用者は図書館や出版社から電子出版物を 借りたり購入したりして自分の読書端末に蓄 積して自由に自分の電子書棚を作り、そこか ら本を取り出して読むことになるだろう。こ のような自分の書棚を電子的に作れば、自分 の連想に基づいて自分の本や本の部分部分を リンク付けして自分の知識の構造に合った自 分図書館を作って楽しむことができる。そし てこの電子書棚を手元の端末装置のうえに作 らず、どこかの大きな記憶装置の一部に作る というモデルも考えることができる。つまり 利用者はクラウドに自分の書棚をあずけてお くという方式であり、既にこれは行われてい る。このような将来の図式を考えると、図書 館が司書による相談サービス、あるいは自動 的な案内サービスをする場合でも、自分の電 子書棚を作りたいという人の多くは図書館か ら借りるのではなく出版社のデータベースの 方に行き、書物を購入することになるわけで、 図書館は出版社と読者を結合する接続業者の ようになってゆくかも知れない。  国立国会図書館は納本制度によって集める こと、すなわち日本の全ての出版物を収集す ることに責任をもっており、これらの収集物 が全てディジタル化されある種の制限の下で 公共図書館、大学図書館などに送信すること ができるようになれば、各地の図書館は一般 の出版物ではなく、その地の資料や情報を収 集し、電子化してサービスを行う方向の努力 が求められることになるだろう。こうして図 書館同士のネットワークを強固なものにして ゆけば国全体として図書館予算が有効に使わ れることになるし、地方の貴重な資料が全国 の共有物となって、その地方の歴史的価値が 高まるだろうし、学問も進展することになる。  第1節でも述べたように図書館は書物を収 集・保存し提供する場であるとともに、それ らを使って関心のある人が集まって議論し新 しい知識を創造する場でもあるから、電子図 書館の場合にもそういった場を作り、誰でも その場に意見を提出し、他の人達と議論する という、intellectual commons を作ることが
  23. 23. 28 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 大切である。こうすることによって読者と著 者とが結合されることもありうるし、こうし て著者は自分の作品をさらに良くしてゆくと いったことも考えられる。これからの出版物 はマルチメデイア世界のものとなってゆくだ ろうから、これらの材料を集めたり、編集し たりという全てを一人の著者で行うことは出 来ない。著者や編集者は出版社を介してマル チメディアの種々の情報の提供を受け、出版 物を組み立ててゆくという場合もあるだろう が、intellectual commons において適切なマ ルチメディア資料の提供や協力をあおぐとい うこともありうる。こういった場合、他人の 著作物を利用するのにいちいち許諾を得なけ ればならないというのでは仕事ができないと いうことになるので、自由に利用できるが対 価を支払うという報酬請求権に変える必要が でてくるのではないだろうか(第 10 節参照)。  マルチメディア情報を作ったり、加工した り、組み合わせたりして表現するためには、 種々の装置が必要となる。一人の作家がこれ を持つことは難しいから出版社がこれを提供 することになるのだろうが、大規模な出版社 でなければ高価な高精度の装置をもつことは 困難である。そこで図書館がこういった装置 をそなえ、図書館のもつ資料も提供しながら 誰もがマルチメディア著作物を作れるように することもこれから大切になってゆくのでは ないだろうか。図書館がマルチメディア書籍 を個人で読んだり、集団で読んだりする各種 の機器、装置をそなえ、これを利用者に使わ せる場を用意しなければならないことは言う までもない。そこに行くまえに、まず図書館 が Kindle や iPad を購入し、利用者に館内貸 出しをして、こういった電子端末の使い方を 教え、これらの電子端末で読書を楽しんでも らうといったところから始めなければならな いかもしれない。  図書館が単に図書や資料を貸す機関である だけでなく、それらを使って新しい創造物を 作りだしてゆく場であるとすれば、日本中の 図書館がうまく結合され、そこに存在する資 料を自由に利用できるようになることが必要 である。またそれだけでなく他の情報資源に 対するアクセスも保障されることが大切とな る。たとえば特許情報は特許庁のデータベー スにあるし、国の各省の研究所はそれぞれの 専門分野の研究を行い、それに必要な各種 の情報をデータベースに入れて持っている。 種々の専門分野の知識がそういった所に存在 するし、大学には機関リポジトリの整備が進 みつつあり、大学が創造した成果の論文が蓄 積され、また研究の第一線である研究室には 関連するデータ等も存在する。これらは全て 図書館のもっている資料とうまく結合し誰も が利用できるようにすることが望まれる。つ まり日本中に存在する知識情報が有機的に結 合され、日本中の人が自由に使える日本の「知 識インフラ」を構築することがこれからの大 きな課題となってゆくだろう(第 11 節参照)。 その中で図書館の占める役割りは非常に大き い。 7. 図書館職員の仕事  このあたりで電子図書館化してゆく将来の 図書館職員の役割、あり方についてまとめて 考察しておこう。電子図書館時代になれば国 立国会図書館の電子図書館さえあれば全ての 資料が電子化されて日本中どこからでも利用 できるから、他の図書館はいらなくなるので
  24. 24. 29ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は はないかという意見もあるだろう。しかし日 本の著作権法が抜本的に変更されて自由に全 ての電子資料を日本中に送れる時代が来ると は考えられないので、それぞれの図書館が電 子出版物を購入しなければならない。マルチ メディアの電子書籍の内容についての評価は 一層難しくなるだろうが、そういった時にも 図書館職員の選書能力が大切である。また各 図書館にはそれぞれ固有の資料を持ち、また その地方にあまり知られずに存在する貴重な 歴史的資料があるから、これらをディジタル 化して広く提供する努力が必要であろう。  マルチメディア電子出版物についても書誌 情報の多くの部分は自然言語処理技術で自動 的に付けられるようになるだろうから、人で なければ判断のできない分類や主題情報の付 与などについての作業のみを人手で行うこと になる。この場合もコンテンツの自動分析に よって分類や主題の候補は提供されるので、 そこから適切なものを選んだり、あるいは適 切な判断によって人手で付与するという作業 になる。これは国立国会図書館、あるいは電 子出版物の流通プラットフォームの業者が行 えばよく、各地の図書館はそれを使ってそれ ぞれの図書館用に修正すればよい。そういっ た作業よりももっと大切なことは分類体系、 あるいは主題情報の体系を常に更新してゆか ねばならず、これは自動的には難しく、図書 館のベテランの人でなければできないことで ある。  電子図書館の提供する検索システムは、出 来るだけ多様な利用者の要求に対応できるよ う種々の検索方式とその結果の情報提供の仕 方に工夫をしつつある。そしてこの検索を助 けるための種々の支援システムも作られるよ うになって来た。国立国会図書館の提供して いるリサーチ・ナビもその1つである。しか しこういった支援システムで利用者の質問や 利用者がこまった時の全てに対応することは できない。世の中にはますます多くの情報が 氾濫し、検索システムに工夫をしても十分に 対応することはできないから、図書館員の行 う相談業務はますます大切になってゆく。そ してネットを通じたオンライン実時間の対話 型相談業務が一般的になってゆくだろう。昔 は図書館員の主要な仕事は選書と書誌作業で あったが、これからはこの相談業務に重点が 移ってゆく。質問者の意図を要領よく把握す る力、またいろんな情報を良く知っていて幅 広い知識を持つことが必要となるので不断の 学習が必要となる。  特に大学や研究所・企業等における専門分 野の図書館においては、関連分野の学会が世 界のどこでいつ開催されるか、その時の論文 集や資料をどうして集めるかといったことに 常に目を光らせ、また世界の主要な研究グ ループの出す論文や報告書、各国政府や公的 機関の出す提案書、政策文書などについて も注意をおこたらず集めることが期待され る。こうして研究者の強力なアシスタントと して役目を果たさねばならない。米国では embedded librarian という言葉が使われるよ うになって来ている(第11節参照)。  最近米国のいくつかの大学では、特に学生 を対象とした図書館で本のない図書館をオー プンするようになって来た。書架の代わりに 学生のためのテーブルを増設したり、電子端 末を貸したり、新しいマルチメディア装置を 設置し、グループ学習の環境を整備している。 こういった本のない図書館での図書館員の主
  25. 25. 30 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 要な仕事は、学生の質問に対して協力して問 題解決を支援したり、推薦する図書の読み方、 その学問領域におけるその図書の位置付けな どを教えたり、学生のグループ討論に参加し、 電子図書・電子資料を駆使して議論をリード してゆくといった仕事をすることになる。古 代アレクサンドリア図書館・ムゼイオンの現 代版であると見てよいだろう。こういった時 の図書館の部屋をどのように設計するかは非 常に大切である。1人で落ち着いた雰囲気で 電子読書や調査ができるスペースと、何人か が意見交換できるスペースなど、種々の工夫 が必要であるが、絵画その他の美術品などを 置くなど学問の場にふさわしい空間を作るこ とが必要だろう。  電子図書館の時代になるとコンピュータに よる情報処理の仕事がますます増えてゆく。 こういったことを全て外注していると、時間 がかかりコストも高くなる。そしてほんとう にかゆいところに手のとどくソフトウェアに することが非常に難しい。したがって、情報 処理の専門家を図書館職員として雇用して、 システムの運用を行うとともにちょっとした ソフトウェアも作ってシステムを使いやすく することが必要となってゆくだろう。小さな 図書館では難しいことであるが県立図書館な どではそういったことが必要となってゆくこ とは間違いない。Kindle や iPad などの使い 方、図書館検索の仕方などの相談に応じられ るようしておくことは当然のことであろう。  これからのマルチメディア電子書籍が出て くる時代になると、第6節にも書いたように 種々のマルチメディア機器を図書館に設置 し、読書やマルチメディア出版物の観賞に利 用するだけでなくマルチメディア著作物を作 りたいという人のための支援をすることもで きねばならなくなる。これからは地域に住む 外国人に対する図書館というものを考えねば ならなくなるが、そういった時に機械翻訳シ ステムが役に立つわけで、こういったものの 導入についても努力しなければならない。  これからの図書館職員に望まれるこういっ た多様な仕事をこなしてゆくのは容易なこと ではない。特に intellectual commons を運 営し利用者の創造力を高めるためには外部の 有識者の支援をあおがねばならないだろう。 難しい相談業務や調査依頼などがあった時な ど、その分野の研究者に問い合わせすること ができねばならず、そのためには常日頃から 大学や研究所などの研究者とのチャンネルを 持つようにする努力が大切となる。こうして intellectual commons の中心となってもらっ たりするかわりに、そういった研究者の要求 に応じて種々の図書館の資料・データを研究 のために提供するという相互関係を作ってゆ くのが良いだろう。ソフトウェア技術につい ても大学等の研究者に協力してもらうかわり に、図書館の持つぼう大なデータを研究者に 提供するという協力関係がありうるだろう。  さらに大切なことは、こういった相互関係 を市民との間に広げてゆくことである。いろ んな市民の自発的な勉強会、コミュニケー ションの場を図書館を中心として作り、図書 館を利用してもらうとともに、図書館の選書 についての意見を聞いたり、その地域に埋も れている貴重な資料の発掘の手伝いをしても らうなどして、個性のある図書館づくりに貢 献してもらうことが大切ではないだろうか。
  26. 26. 31ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は Ⅳ 出版と流通 8. 電子書籍時代の出版とは  インターネットの発達した今日、全ての人 は読者であるとともに著作者である。多くの 人はブログをしたりツイッターを楽しんでい る。このような時代の電子出版物とはどのよ うなものだろうか。既にネットの世界ではマ ルチメディア形式の出版物がこれからいろい ろと出てくるだろうと述べた。しかし国立国 会図書館のように日本で出版されるものは全 て収集するという目標を掲げている立場から すると、出版物、特にヴァーチュアル世界に おける出版物とはどのようなものを言うか、 その定義は何かということが問題となる。  不特定多数の人を対象として出された情報 は出版物とみてよいかも知れない。紙の時代 には紙に印刷する前にはたとえビラのような ものであっても、よくチェックし社会に出す という心がまえで作られたと考えられる。し かしこれまで図書館ではビラのようなものは 収集の対象としてこなかった。これが妥当な ことがどうかは多分意見の分かれるところだ ろう。神戸の大地震のあとの混乱の中で出さ れた避難した人達の連絡等のためのビラなど は神戸大学の図書館が収集したが、これなど は今後貴重な資料として役立つに違いない。  インターネット時代になって人々の情報発 信はもっと気軽に即時的にすることが出来る ようになっている。ツイッターはその典型的 な例である。その情報は不特定多数の人を対 象に出されていることは間違いないが、これ を出版物として収集すべきかどうかはにわか には判断できない。米国の連邦議会図書館は ツイッターの情報を集め保存するという事業 をやりはじめた。利用の仕方は不明である が、当面はダークアーカイブ(保存はするが 利用に供しない情報)としておくのであろ う。しかしブログにしろ、ツイッターにしろ、 世界中にはぼう大な量のものがあり、これら のほとんどはそれを発信した人やその時点で の社会の状況についての十分な情報がなけれ ば適切な解釈ができないものであるから、そ ういった背景情報が利用できねば全くのゴミ 同然なのである。しかもこういった情報は毎 日多くの人々によって作られるものであるか ら、10 年、20 年の間を考えればぼう大な記 憶容量を占め、電子世界の記憶装置の容量が 巨大であるといっても発生する情報の量には 勝てなくなってゆくだろう。  今日世界的に注目を集めはじめているもの に電子教科書がある。これは単に紙の教科書 をディジタル化したものでなく、音や動画像 の入ったマルチメディアの書物である。そし て学習端末としては文字や図形を書きこむこ とができ、教科書と対話ができるといった機 能をもったものとなるだろう。たとえば演習 問題に対する答えを書き込むと正答であった とか、誤答だったがどこで間違いをしたので はないかといったことを指摘してくれる機能 をもったものが想定される。端末を介して生 徒同士が相談したり、先生とコミュニケー ションしたりすることができ、教室での教育 方法がかなり変わってゆくだろう。  出版されるものは出版社からというのは紙 の時代のことであって、電子情報の時代にな ると誰もが情報を不特定多数の人達に出すこ とが出来るから、出版社の存在が出版の条件 とはならなくなってしまう。著者が適切な編
  27. 27. 32 未 来 の 図 書 館 を 作 る と は  ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号 集能力を持つ人であれば、誰もが読みやすい 形の編集をし、1人で出版し、読者に直接に 著作物をとどけて収入を得るという道が開け る。著者にそのような能力がない場合には編 集作業の出来る人と組んでやればよいわけ で、著作者が出版社と同じということになる。  雑誌はこれからどうなってゆくかも予想が 難しい。従来のように雑誌編集者がいろんな 著者にテーマを与えて寄稿してもらったり、 著者と編集者との協同作業で雑誌を作りあげ てゆく従来型と、もう1つは各個人が自発的 に作って自由に発信しているものを、1つの 編集方針から見つけ出して、それらをうまく 束ねて読者に提供する、いわば仲介業者のよ うなタイプとができてゆくのではないだろう か。そこには○年○月号といった定期的、シ リーズ的な発行という概念が存在しないとい うことになるかも知れない。いろんなグルー ピングの仕方のものが出てくる可能性があ り、楽しみであるともいえる。  いずれにしても発信される情報が出版物と みなされるためには、その同時代の同一社会 に住む人が著作者の個人的な世界のことを知 らなくても一応の理解ができるような形に なって出されるものであることが必要であろ う。ネット上の恋人同士の私的な会話の記録 といったものは出版物とは見なされないとし た方が良いだろう。  グーグルはこの地球上に存在するあらゆる 情報を収集し、整理して、人々に提供すると いう高邁な理想をかかげて、いろんな情報を 集めている。グーグルアースは精密な衛星写 真で地上の家が一軒ごとに区別できるし、ス トリートビューはほとんどの道路において歩 いてながめる風景をコンピュータに入れて提 供している。インターネット上の情報も収集 ロボットによって常に集め、変化してゆく ウェブサイトの状況も把握し、検索の対象と している。YouTube は動画像を対象とした サービスを提供していて、誰でも自分の作っ た動画像をのせて不特定多数の人の閲覧に供 することができる。  あらゆる情報ということになると、図書館 が対象としている書物などの出版物、音楽、 写真、映画、ゲーム、ネット上に存在する情 報、コンピュータソフトなど際限がない。こ れらは1ヶ所で集めることはほとんど不可能 であるから、国ごとに、また情報の種類ごと に分担して集め、お互いに連携して利用しや すい形のシステムを構築することが必要とな るだろう。図書館だけ考えても国立国会図書 館が日本の出版物を全て集めることになって いるが、日本の各地で出されている報告書な どについてはけっして全てを収集できている わけではない。また各地にはその地でなけれ ば分からない情報、古い資料などがあるわけ で、こういったことはその地の図書館などの 努力によって収集し、広く提供する必要があ る。  国立国会図書館においては蔵書のディジタ ル化と国や地方公共団体、国公立大学、独立 行政法人等のウェブサイトの情報を集めてい るが、これからはネット上に出される出版物 が増えてゆくことを考えて、それらを従来の 出版物の納本制度にならって電子納本制度を 作り納めてもらえるようにするべく、国立国 会図書館法の改正の準備をしはじめている。  グーグルやインターネットアーカイブの やっている全世界のインターネット情報の収 集はすばらしいことであるが、その記憶シス
  28. 28. 33ライブラリー・リソース・ガイド 2012 年 秋号  未 来 の 図 書 館 を 作 る と は テムは巨大なものになっている。現在でもそ うであるなら、あと 10 年先にはどういうこ とになるのだろう。我々は現時点で何を集め、 何を集めないか、あるいは集めたもので集約 できるもの、要約できるものは何か、どうす れば要約して情報量を何百分の1かに出来る か、あるいは集めたが捨てるべきであると判 断することが妥当とすれば、その判断基準は 何かといったことについて検討を始めるべき 時に来ているのではないだろうか。 9. 出版物の流通システム  現在の出版物は通常、出版社から取次会社 に渡され、そこから書店に送られる。書店は 一定期間棚におき、売れなかったら返本とし て取次会社をへて出版社に返される。この返 本率は 40%にもなるといわれており、返本 された本は裁断されて廃棄されたりすること が多い。出版社から取次会社に送られた時点 で書名、著者名、出版社名などの基本的な書 誌情報がコンピュータに入れられるが、その あと国立国会図書館で主題情報や分類記号な どが与えられて、JAPAN/MARC という書誌 情報が完成する。しかしこの作業には熟練し た知識が必要なので、JAPAN/MARC が完成 するまでかなりの日数が必要となる。そこで 比較的容易な MARC が幾つかの取次会社な どで作られて本の流通のために使われてい る。しかし1つの国の中で複数の MARC が 使われているのは不便であるので、統一する ことが望まれ、その方向の努力がなされてい る。  電子出版物になった時、この流通システム はどうなってゆくだろうか。これは著作が行 われる段階から、編集、印刷、出版、流通、 書店、読者までのシステムが抜本的に変わっ てゆくことを意味する。特に印刷は不要とな るし、流通、書店などが存亡の危機に陥ると いう状況が起こるだろうから、その影響は大 きい。しかし技術の進歩にしたがって社会の システムが変わってゆくのはあらゆる分野で 起こっていることで、出版物の流通システム もそのような変化をのがれることは出来ない だろう。どのように変身してゆくことができ るかが問題となり、そのための準備をするこ とが必要となる。  最近の著者はパソコンの上で作文をするこ とが多いようである。そこで完成した著作物 はネットを通じて出版社に送信され、そこで 編集者による文章チェックがなされ、一定の 書式に組み立てられる。この作業には編集者 と著者とのやりとりがいろいろとあり、読者 が理解しやすいように表現を改めたり、書式 の工夫がなされたりする。こうして出来上 がった作品は印刷会社に送られ、印刷装置に 依存した種々の特殊な制御記号などが入れら れて印刷が行われるところまで進む。印刷会 社は再版などの目的で、印刷装置に与えられ る最後の電子データを保存しているが、出版 社の方は印刷物が出来上がったらそれを保存 しておけばよいというわけで、電子データを 保存していないところが多い。特に電子デー タが印刷会社へ行った段階で修正がなされる こともあるので、出版社に残っている電子 データが印刷されたものと同一でないことも ありうるわけである。  電子出版の時代になって印刷という行程が なくなると、出版社から印刷会社へデータが 送られることはなく、次のような3つの場合が 考えられる。1つは、出版データが取次会社

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