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『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』第8号(2014年9月)

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『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』第8号(2014年9月)

  1. 1. LRGライブラリー・リソース・ガイド 第8号/2014年 夏号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 Library Resource Guide ISSN 2187-4115 第2回 LRGフォーラム 菅谷明子×猪谷千香 クロストーク 社会インフラとしての図書館 ─日本から、アメリカから 特集 猪谷千香 教育委員会制度の改革 司書名鑑 No.4 嶋田学(瀬戸内市新図書館開設準備室)
  2. 2. LRG Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド  第8号/2014年 夏号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 第2回 LRGフォーラム 菅谷明子×猪谷千香 クロストーク 社会インフラとしての図書館     ─日本から、アメリカから 特集 猪谷千香 教育委員会制度の改革 司書名鑑 No.4 嶋田学 (瀬戸内市新図書館開設準備室)
  3. 3. 2 巻頭言  ライブラリー・リソー ス ・ ガ イ ド 2 0 1 4 年 夏号 『ライブラリー・リソース・ガイド』の第 8 号を発刊するとともに、年間 4 回の 季刊刊行の 2 サイクル目が終わります。間もなく本誌の創刊 2 周年を迎えること ができるのは、読者の皆さまのご支援があったからにほかなりません。創刊当初 は、いったいいつまで続けられるのだろうかという不安もありましたが、幸い読 者と著者に恵まれ、いい流れが生まれつつあると感じています。 なお、これまでの各号は以下の構成となっています。 創刊号(2012年11月20日) ・特別寄稿/長尾真「未来の図書館を作るとは」 ・特集/嶋田綾子「図書館100連発」 第2号(2013年2月28日) ・特別寄稿/みわよしこ 「『知』の機会不平等を解消するために─何から始めればよいのか」 ・特集/嶋田綾子「図書館システムの現在」 第3号(2013年5月31日) ・特別寄稿/水島久光 「『記憶を失うこと』をめぐって∼アーカイブと地域を結びつける実践∼」 ・特集/嶋田綾子「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」 巻頭言 図書館考のリーディングマガジンとして
  4. 4. 3巻 頭 言     ラ イ ブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 第4号(2013年8月27日) ・特別寄稿/岡本真、鎌倉幸子、米良はるか 「図書館における資金調達(ファンドレイジング)の未来」 ・特集/嶋田綾子「図書館100連発2」 第5号(2013年11月30日) ・特別寄稿/内沼晋太郎、アサダワタル、谷口忠大 「本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり」 ・特集/嶋田綾子「本と人をつなぐ図書館の取り組み」 ・司書名鑑 No.1 井上昌彦 第6号(2014年2月28日) ・特別寄稿/熊谷慎一郎「東日本大震災と図書館」 ・特集/嶋田綾子「図書館で学ぶ防災・災害」 ・司書名鑑 No.2 谷合佳代子 第7号(2014年6月30日) ・特別座談会/内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司   「未来の図書館をつくる」 ・特集/猪谷千香「コモンズとしての図書館」 ・司書名鑑 No.3 谷一文子
  5. 5. 4 巻頭言  ライブラリー・リソー ス ・ ガ イ ド 2 0 1 4 年 夏号 さて、今 8 号は、 ・第2回LRGフォーラム/菅谷明子×猪谷千香 クロストーク 「社会インフラとしての図書館─日本から、アメリカから」 ・特集/猪谷千香「教育委員会制度の改革」 司書名鑑 No.4 嶋田学 というメイン構成に加え、前回の第 7 号から連載が始まった「羊の図書館めぐ り」の第 2 回、そして目下弊社が総力をあげて取り組んでいる無料オンライン大 学講座「gacco」の紹介など、たいへん豊富な内容となっています。 巻頭を飾る菅谷明子×猪谷千香クロストーク「社会インフラとしての図書館 ─日本から、アメリカから」は、第 2 回 LRG フォーラムとして 2014 年 7 月 2 日 (水)に東京で開催した同名のシンポジウムの内容を再録したものです。再録に際 し、対話をされた菅谷さん、猪谷さんの手が入り、たいへん読みやすく、かつ刺激 的な内容となっています。『未来をつくる図書館』(2003 年)と『つながる図書館』 (2014 年)という 10 年の時間を超えて結ばれた 2 つの本の著者であり、ジャーナ リストであるお二人のトークを誌上で体感してください。そこには必ず新たな気 づきと学びがあることでしょう。また、当日の会場にいらした「マガジン航」編集 人の仲俣暁生さんに、当日のフォーラムの感想を頂戴しました。お二人の話から、 極めて示唆深い問いを投げ掛けて下さっています。
  6. 6. 5巻 頭 言     ラ イ ブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 特集「教育委員会制度の改革」は、前回の第 7 号での特集「コモンズとしての 図書館」に続く猪谷千香さんの取材成果です。今回は現在、大きな変化の途上に ある教育委員会制度について、各界の専門家へのインタビューを踏まえた特集と なっています。また、今回の制度改革の主眼である教育委員会の首長部局の移管 について、すでに首長部局移管を実施している自治体に関する綿密な調査レポー トも付しています(調査・執筆:嶋田綾子)。改革への賛否は別として、2015 年 4 月の施行からは限られた年限の中で移行措置が始まります。そして、その影響は 必ず図書館をはじめとする社会教育施設に及びます。来るべき制度改革の実行に 向けて、本特集は理解と実践の一助となると考えています。 連載 4 回目を迎える司書名鑑では、現在、岡山県の瀬戸内市新図書館開設準備 室で、新館開館に向けて邁進中の嶋田学さんにご登場いただきました。大阪、滋 賀で長年にわたり司書としてのキャリアを積みつつ、常に学ぶ姿勢を崩されない 嶋田さんに迫ります。 最後に、恒例のお願いとなります。ここ 2 号ほどは発行初月の売上げが際立っ て伸びており、皆さまのご支援に感謝しています。また、本誌で特集した内容を 歴史ある他の業界誌が後追いするなど、本誌が一種のリーディングマガジンと なってきていることも実感しています。本誌の内容をご評価いただけるのでした ら、ぜひ、定期購読や最寄りの図書館への購入リクエスト、知人、友人への推薦を お願いします。 編集兼発行人:岡本真
  7. 7. 巻 頭 言 図書館考のリーディングマガジンとして[岡本真]……………………………… 2 第2回 LRGフォーラム 菅谷明子×猪谷千香 クロストーク     社会インフラとしての図書館 ─日本から、アメリカから ……………………… 8 特   集 教育委員会制度の改革[猪谷千香]………………………………………………… 57 LRG CONTENTS Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 第8号/2014年 夏号 はじめに[岡本真] 知のセーフティネットとしての図書館へ[猪谷千香] 未来をつくる図書館の思想[菅谷明子] デモクラシーの根幹と図書館[菅谷明子 × 猪谷千香] 図書館を「主語」から「動詞」へ[仲俣暁生] 司書名鑑 No.4 嶋田学(瀬戸内市新図書館開設準備室) 図書館最前線 ARG レポート Vol.1 MOOCを活用した、図書館での学びの環境提供[岡本真、嶋田綾子] 自分を変えたい、変わりたいあなたへ[早雨美樹] 羊の図書館めぐり 第2回 旅の図書館[水知せり] アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告 特別付録 図書館を調べる基礎資料[嶋田綾子] 定期購読・バックナンバーのご案内 次号予告 ……………………… 114 ………………………… 126 ………………………………………………… 131 ……………………………………… 134 …………………………………… 136 ……………………………………………… 140 ………………………………………………………………… 150 ……………………………………………………………………………………………… 152 ……………………………………………………………………… 10 ………………………………… 11 ……………………………………………… 30 ……………………………… 46 …………………………………………… 54   教育の根幹とは?[新藤宗幸] これからの図書館、司書の姿[糸賀雅児] 真の地方分権とは?[嶋津隆文] 図書館のガバナンスは どうあるべきか?[新出] 首長部局所管の図書館リスト[嶋田綾子] …………………………………………………………… 62 …………………………………………… 70 ……………………………………………………… 78 …………………………………… 86 …………………………………………… 96 変革の中で問う
  8. 8. 第2回 LRGフォーラム 菅谷明子×猪谷千香 クロストーク 社会インフラとしての図書館      ──日本から、アメリカから
  9. 9. 8 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 2003 年の『未来をつくる図書館』(菅谷明子)から、2014 年の『つなが る図書館』(猪谷千香)までの 10 年、日本の図書館はどのように変わった のか。またアメリカの図書館の最新状況とは? 現代社会の問題を見据える二人のジャーナリストが、図書館の存在意義 に新たな光を照らすクロストーク!図書館の思想とその未来へ。 第2回 LRGフォーラム 菅谷明子 × 猪谷千香 クロストーク 社会インフラとしての図書館          ̶̶ 日本から、アメリカから ×
  10. 10. 9第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 猪谷千香(いがや・ちか) 東京生まれ、東京育ち。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で 長野支局記者、文化部記者などを経た後、ドワンゴコンテンツでニコニコ動画の ニュースを担当。2013 年 4 月から「ハフィントンポスト」日本版でレポーターとし て、公共図書館や地方自治などについて取材している。著書に『つながる図書館』 (ちくま新書)、『日々、きものに割烹着』(筑摩書房)など。 菅谷明子(すがや・あきこ) 在米ジャーナリスト。ハーバード大学ニーマンジャーナリズム財団役員。米ニュー ス雑誌『Newsweek』日本版スタッフ、経済産業研究所(RIETI)研究員などを歴任。 2011 年∼ 12 年、ハーバード大学ニーマンフェロー(特別研究員)として、ソーシャ ルメディア時代のジャーナリズムを研究。コロンビア大学大学院修士課程修了、東 京大学大学院博士課程満期退学。主著に『未来をつくる図書館』『メディア・リテラ シー』近刊予定に『ジャーナリズム・イノベーション』(仮)(全て岩波新書)。 司会:岡本真(おかもと・まこと)  アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役/プロデューサー。本誌編集兼発行人。 「第2回 LRG フォーラム」の会場風景 撮影=岡野裕行
  11. 11. 10 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 私が図書館に関わるようになって十年ほどですが、菅谷さんが書かれた『未来 をつくる図書館』(2003 年、岩波新書)の衝撃は非常に大きいものがありました。 また、2014 年に猪谷さんが書かれた『つながる図書館』(ちくま新書)にも非常に 感動しました。 私は自分の仕事は、「人と人をつなぐこと」だというふうに考えていますので、 「このお二人が出会ったら面白いのでははないか」と、そんなシンプルに想いで、 今日のフォーラムを企画しました。 こういう個人的な理由から企画したのですが、結果的には本日、非常に多くの 方にお集りいただきました。おそらく、図書館に関係する私たちが、ふだんうっ すらと感じている問題意識と、この企画が化学反応を起こすところがあったので はないかと思っています。 さて、お二人の本が社会的なインパクトをもったのは、図書館関係者以外の読 者を獲得したことが大きいと思います。猪谷さんの『つながる図書館』は、武雄 市図書館がリニューアルオープンし、図書館の社会的な関心が大きく高まる中で、 図書館関係者よりもむしろ一般の人に読まれているという印象があります。それ は同じく今年刊行された鎌倉幸子さんの『走れ、移動図書館』(2014 年、筑摩書房) も同様でしょう。 そういう意味で、今日のフォーラムでは、図書館に閉じた話をするのではなく、 これから図書館を利用する潜在的な利用者を視野にいれて、図書館がもつ可能 性、もしくは限界を突破していくためにこれからどのようなことが求められるの か̶̶それは最近よく言われるような連携や連動といったことかもしれません が、そういった広い観点、尺度からお話をしていただきたいと思っております。 はじめに 岡本真
  12. 12. 11第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 菅谷さんが書かれた『未来をつくる図書館 』は、皆さんもご存知の通り、ニュー ヨークの図書館をリポートしたもので、この本を読んだ当時、私は新聞社の文化 部記者をしていたのですが、非常に衝撃を受けたことを覚えています。といいま すのも、当時から私は図書館のヘビーユーザーだったのですが、『未来をつくる図 書館』に書かれた図書館のイメージが、私の抱いていた図書館のイメージを覆す ものだったからです。 猪谷千香さんのトーク風景 撮影=岡野裕行 知のセーフティネットとしての図書館へ 猪谷千香 『つながる図書館』、きっかけは1冊の本から
  13. 13. 12 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 この本を読んだ私は、2004 年の夏休み、ニューヨークの図書館を実際に自分の 目で見るべく、現地に飛びました。菅谷さんがレポートされた図書館を自分の足 で巡り、市内の書店なども見て回りました。その頃、日本ではブックカフェがあ まり展開していなかったので、パブリックスペースの本を好きに読みながらお茶 をしているニューヨーカーの姿を見て、日本における本を取り巻く環境とのあま りの違いにとても驚いたのを覚えています。 ニューヨークから帰ってくると、私は日本の図書館について調べ始めたのです が、菅谷さんの本に衝撃を受けた日本の図書館界も当然のことながら動いていま した。神奈川県立川崎図書館や品川区立大崎図書館など、「ビジネス支援」に取り 組み始めた図書館などを取材し、記事にまとめていきました。ですから、『つなが る図書館』は、菅谷さんの『未来をつくる図書館』に衝撃を受けたことがきっかけ となって書いた本だといえます。 私が日本の図書館の取材を始める少し前の 2003 年は、図書館を取り巻く環境 が大きく変わりました。一つは、長らく続いた「公共図書館の無料貸し本屋批判」 を受けた、「貸出重視から課題解決へ」の図書館サービスの移行です。さきほど の「ビジネス支援図書館」の取り組みなどもその一つといえます。二つ目は、地方 分権化の流れで、図書館の運営を民間企業や NPO などに任せる指定管理者制度 の導入です。これは非常にインパクトが大きかったと思います。指定管理者制度 の導入の背景には、不況が長引き、自治体が図書館の予算を削減せざるを得なく なったこともあると思います。 さらにこの時期を少し引いた目で見ると、2004 年は mixi、GREE、Yahoo! 知恵 袋といったソーシャルメディアがスタートし、情報の流れ方が大きく変わりまし た。それまでのメディアのように一方向的な情報の流れではなく、ソーシャルメ ディアでは双方向的に情報が流れ、プロの記者が取材したニュースだけではなく、 一般の人による発信がニュースになって拡散されました。それは、全く新しい情 報の流れ方でした。このように幾つかの視点から、『未来をつくる図書館』が刊行 された 2003 年頃は、エポックメイキングな年でした。『つながる図書館』は、こ うした時代の流れの中で、変革してきた日本における公共図書館の今を取材した ものです。
  14. 14. 13第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 さて、『つながる図書館』の中で取り上げた図書館を、幾つか紹介したいと思い ます。 まず、武蔵野プレイス。ここは厳密にいうと図書館ではなくて、図書館機能を もった複合施設です。1 階の「パークラウンジ」の中心にカフェがあったり、地下 2 階には 20 歳以上の人は利用できないフロアがあって、放課後になると多くの 小中高生が集まってきます。その周りにダンススタジオ、音楽スタジオ、十代向 けのライブラリーなどもあります。 それから、「日本一の県立図書館」とほめそやされる鳥取県立図書館。ここは「ビ ジネス支援図書館」として非常に有名なところで、市場調査や各種の資料収集を 協力することで県内の産業を支援し、数々の製品やビジネスがここから生まれて います。全国的に有名なのが「シャッターガード」といって、その名のとおり店舗 のシャッターをガードする商品です。鳥取県立図書館の凄いところは、県庁に分 室があるんです。そこには地方自治に必要な文献が揃っていて、職員の人の活用 度が高いものになっています。さらに、県内の研究機関や鳥取大学など、県立大 学や県立病院の図書室から受けた本のリクエストには、その翌日に本を届けるこ とができる輸送体制があるのだそうです。担当の方は「アマゾンより早く本を届 けることができます」とおっしゃられていました(笑)。実際、県立図書館を抜き 地域・市民に愛される図書館 日本でも図書館とその環境が変わる ■各地でビジネス支援図書館が始まる ■「無料貸本屋」批判から「課題解決型図書館」 ■ 2003 年、指定管理者制度の導入 ■続く不況による自治体の図書館予算削減 ■ 2004 年、日本では「mixi」「GREE」「Yahoo! 知恵袋」がスタート。  デジタル化、情報の流れに変化
  15. 15. 14 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 にしては、鳥取県の知的環境は保てないといっても過言ではない体制をつくられ ています。他にも、地域の書店と連携したキャンペーンをしたり、「地域全体で本 の文化を高める」ということに対して意識的に取り組んでいます。 それから佐賀県にある伊万里市民図書館。ここは図書館界の方たちが「とにか く、すごい!」と口を揃えておっしゃる図書館です。でも、新聞記事や文献を検索 しても、なかなかこの図書館の情報が出てこないんですね。私は皆さんが「すご い!」と評価する理由が分からないまま取材に行ったのですが、行ってみたら本 当にすごくて驚きました。この図書館は 20 年ほど前に開館したのですが、さま ざまな取り組みの先駆例になっています。 まずこの図書館は、設計する段階から利用する市民にヒアリングをしています。 例えば布絵本をつくっているサークルの方たちに、必要なものをヒアリングする んですね。すると、「作業する部屋がほしい」という意見が出たと。そこでさらに 突っ込んで聞くと、「壁の真ん中にコンセント口が付いた作業部屋」だと。これは、 ミシンやアイロンをかけたことがある人ではないと出てこない発想なんです。実 際、伊万里市民図書館で布絵本のサークルの方が活動している部屋に行くと、壁 の腰の位置あたりにコンセントがあります。その他にもレファレンスとか、子ど もの読書活動を積極的に展開していて、数々の賞に輝いています。 この図書館には常時、約 370 人が市民ボランティアとして活動していて、伊万 里市の人口の約 1 割にあたる 5,000 人もの人が来るイベントを開催しています。 また図書館の起工式の日には毎年、市民が駆けつけて一緒にお祝いをしたり、本 当に愛されている図書館です。一つ一つ市民の声を拾ってつくられた図書館とい うのは、これほどまでに愛されるのかということがよく分かる事例です。 島根県の海士町(あまちょう)にある「海士町中央図書館」もおすすめです。海 士町は日本海に浮かぶ隠岐諸島の一島ですが、過疎化に悩まされ、夕張市のよう に財政破綻寸前の自治体でした。しかし、海士町の町長がカリスマのある方で、 その町長のもと町民が一丸になってモノづくりやひとづくりの改革をしたんです。 改革の過程で、「島民を育てるのには図書館が大事」ということで、図書館活動 が始まりました。ただし「ハコ」はつくれません。でも「本」は、小中学校の図書 室にあるので、それを活用することになりました。女性の司書をひとり採用して、 利用されずにホコリを被ったままの図書室の本を整えて本棚に並べると、子ども
  16. 16. 15第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 たちがすぐに本を借りて帰ったそうです。そうすると親が気づくんですね。家で いつもゲームばかりしていた子どもが、家で本を読んでいる。「図書館ってなんだ ろう?」と。 こういう感じで、親御さんの図書館に対するリテラシーが高まっていくんです。 そしてついに海士町中央図書館という立派な図書館が建ちました。この図書館を 「未来をつくる図書館」以後を「つながる図書館」で取材 ■武蔵野プレイス(東京都武蔵野市) 地域の課題だった 4 つの機能(図書館、市民活動支援、生涯学習支援、 青少年活動支援)を融合させた駅前複合施設 ■鳥取県立図書館 「日本一の県立図書館」「ビジネス支援図書館」としての特色 「シャッターガード」などの商品化 県庁に分室を持ち、県職員が活用 県内の研究機関、鳥取大学、県立高校、 県内の研究機関や県立大学、県立病院に Amazon より速く本を届けるシステム 市町村立図書館や地域の書店との連携 ■伊万里市民図書館(佐賀県伊万里市) 図書館界が最も注目するコミュニティ型図書館 設計段階から市民の声を聞いて作った図書館 370 人の市民ボランティアが常時活動 5,000 人(市民の1割)が訪れるイベント開催    子どもの「うちどく」運動を展開 ■島根県海士町の「島まるごと図書館構想」 人口 2,400 人の離島に I ターン住民が 1 割 図書館のない島に図書館を作る ■世界中の本棚を図書館化する「リブライズ」 Facebook のアカウントを利用した図書管理 ■千葉県船橋市の NPO の「船橋まるごと図書館」 蔵書は寄贈、スタッフはボランティア 地域活性化を目的とした町の小さな公共図書館
  17. 17. 16 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号
  18. 18. 17第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号伊万里市民図書館内観 撮影=岡本真
  19. 19. 18 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 伊万里市民図書館内観 壁面にあるタペストリーは、ボランティアグループが作成したもの 撮影=岡本真 3トントラック改造した伊万里市民図書館の自動車図書館「ぶっくん」 撮影=岡本真
  20. 20. 19第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 伊万里市民図書館「のぼりがまのおへや」 ここで紙芝居での読み聞かせ、パネルシアターなどが行われる 撮影=岡本真 図書館記念日は市民にとっても特別な日 撮影=岡本真
  21. 21. 20 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 海士町中央図書館館内 撮影=岡本真 海士町中央図書館の窓際席。目の前は川が流れる田園風景 撮影=岡本真
  22. 22. 21第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 鳥取県立図書館「ふるさと情報コーナー」 撮影=岡本真 鳥取県立図書館エントランス風景 撮影=岡本真
  23. 23. 22 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 見て、島の外から移住を決める I ターンの方もいらっしゃるそうです。I ターンと いってもリタイアしたシニア層ではなく、20 代から 40 代までの働き盛りの方た ちで、島の人口 2,400 人のうち 1 割が I ターンの住民だそうで、全国的にも注目 を集めている島です。 とはいえ図書館の予算はやはり厳しく、蔵書を買うためのお金に困ったので、 クラウドファウンディングの「READYFOR?」というサイトで支援を募っていまし た(「島根県隠岐島の海士町中央図書館にみんなで本を贈ろう!」、2014 年 1 月 23 日に達成)。支援は全国から集まり、無事にプロジェクトが達成されたのです が、その後の展開も海士町らしいんです。ふつう、選書というのは司書の聖域だ と思うのですが、クラウドファンディングで集めたお金で買う本なので、「選書も みんなでやりましょう」となったようです。町民と本をつなげていく、素晴らし い図書館になっています。 公立図書館だけじゃなくて、新しい図書館活動もご紹介します。まず、日本最 大の図書館蔵書検索サイト「カーリル」です。全国 6,000 以上の図書館から蔵書と その貸し出し状況を簡単に横断検索できるサービスで、私も非常にお世話になっ ています。 また「リブライズ」というサービスは、カフェやコワーキングスペースのよう な本棚のあるスペースを「図書館」に変えるもので、基本的にはバーコードリー ダーと Facebook アカウントがあり、ネットに接続できれば、誰でもすぐに利用 が可能です。 その「リブライズ」と連携して面白い展開をしているのが、船橋の NPO 法人情 報ステーションが取り組んでいる「船橋まるごと図書館プロジェクト」です。この プロジェクトの使命は、公立図書館とは違って「地域の活性化」にあり、船橋市内 を中心に駅前ビルや店舗の中に民間図書館をつくって運営しています。老人ホー ムや酒屋、ついに先日は、パチンコ店の中にまで図書館をつくってしまいました。 この図書館では蔵書のすべてが寄贈、スタッフもボランティアだそうで、代表の 図書館の枠を超えた図書館
  24. 24. 23第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 方に「蔵書は寄贈だそうですが、人に読まれるような本が集まるんですか?」と 伺ったら、「大丈夫です。一度は自分が買った本なので、ベストセラーが多いんで す」と。『バカの壁』で壁ができるくらい『バカの壁』があるそうです。 そんなユニークな活動をしている情報ステーションですが、最近では船橋の市 立図書館などとも連携し、市立図書館で借りた本も返却できるポストを設置する 計画を進めているそうです。このように公立図書館と民間図書館の連携も出てき ています。 最後に、今、とても熱い武雄市図書館のことについて、ひと言、言わせてくださ い。『つながる図書館』で、武雄市図書館をどのように書くか、すごく悩みました。 ネット上でこの図書館のことを書くと賛否両論の対立が激しくて、何を言ったと しても、双方から矢が飛んでくることが多いのです。ただ、図書館が今これだけ 注目されている理由の一つは、武雄市図書館の存在があると思います。批判する 方も多いですが、これだけメディアにたくさん出ていますから、全国の自治体の 人たち、首長、議員、その動向をみんな注目しています。実際、フォロワーとなる 自治体もありまして、武雄市図書館の指定管理をしている CCC と一緒に図書館 をつくろうという動きはかなり出ています。 さきほど、拙著『つながる図書館』のことを、岡本さんに「図書館業界以外の方 が多く読んで下さっている」とおっしゃっていただけて嬉しかったのですが、私 自身、一般の方に読んでほしかったんです。「こんなに面白い図書館が、全国にこ んなにあるんですよ」ということ紹介し、できるだけ議論をポジティブに広げた いと思いました。これらの図書館を知っていただいて、「自分たちの町の図書館、 自分たちの都道府県の図書館がどうあってほしいのか」ということを、住民であ り、利用者である皆さんご自身が考えてほしいと思っています。つまり、「図書館 リテラシーをあげてほしい」というのが、『つながる図書館』のミッションの一つ です。そういう想いもありまして、この本では図書館が今後、陥るであろう問題 というのはあまり指摘していません。これから、そのあたりのことをお話したい と思います。 図書館という「知のセーフティーネット」
  25. 25. 24 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 先日、NHK の「クローズアップ現代」(2014 年 4 月 27 日放送)で、「独立する 富裕層」というアメリカのリポートが放送されまして、これは見ていて非常に ショックでした。番組では、アメリカの富裕層が、自分たちの納税額に見合った 住民サービスを受けていないということで、「州」の下の行政区分である「郡」か ら独立して自分たちだけの市をつくっていく様子を映し出していました。 当然、彼らが独立してつくった市は、裕福な人たちがつくる市なので、快適に なっていきます。ところが問題なのは、裕福な人たちに切り捨てられた人たちな のです。財源が減り、図書館の閉館時間が早くなって、放課後、図書館で勉強して いた子どもたちの行き場がなくなったりと、いろいろな支障が出てきているとの ことでした。非常に恐ろしい問題ですが、これは遠い国の話ではないかもしれま せん。 皆さんの中で、『中央公論』の特集「消滅する市町村 523 ∼壊死する地方都市∼」 (2014 年 6 月号)をお読みになった方はいらっしゃるでしょうか。この特集では、 子どもを産める女性の人口を推計して、今後、5 割以上の人口が減ってしまう都 市を名指しでリストアップしていました。1,748 の自治体のうち、名指しされた 自治体は半数ですが、この記事は 2010 年の国勢調査をベースにしているので、 東日本大震災の数字が入っていません。現状はもっと厳しいものになっているか もしれません。 こういうことが起きてくると、自治体の格差が生まれます。ただでさえ平成の 大合併の明暗が別れてきていますが、「貧乏な自治体」と「裕福な自治体」が乖離 して、自治体の格差が図書館格差に直結してしまうのではないかと思っています。 『つながる図書館』では、素晴らしい図書館を中心に取り上げて、芳しくない図 「消滅可能性都市」の衝撃 「中央公論」2014年6月号(5月10日発売) 最新号[見どころ] 緊急特集 消滅する市町村 523 【提言】ストップ「人口急減社会」 消滅可能性都市 896 全リストの衝撃 増田寛也+日本創成会議・ 人口減少問題検討分科会 専門家が語る STAP 細胞事件の真相 不正はなぜ防げなかったのか 座談会 佐倉統×片瀬久美子×八代嘉美 タニマチが政治家を殺す 工藤美代子、伊藤博敏 集団的自衛権という選択 北岡伸一、石破茂、佐瀬昌盛ほか シリーズ人生後半戦 孫と向き合う 筒井康隆、谷川俊太郎×谷川夢佳、 柳家花緑、青柳いづみこ、金田一秀穂、 中川安奈ほか
  26. 26. 25第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 書館は取り上げていません。もうすでに私たちが知らないところで、十分なサー ビスができない自治体も出てきているかもしれません。 私は、ふだんは「ハフィントンポスト」というインターネットのニュースサイ トで記者をしていまして、取材対象は図書館だけでなく、社会が抱えるいろいろ な課題についても記事を書いています。その中で気になっている課題の一つが、 子どもの貧困問題です。特に日本の場合、教育費が非常にかかります。親が貧困 だと、子ども世代に連鎖するんですね。以前、「東大家庭教師友の会」の調査で「東 大生の親の年収は、950 万円以上が 5 割超」とあり、東大に入ることができるよ うな高学歴の人は、結局、産まれた家庭環境が裕福で、教育費を十分にかけても らうことができたから学力を伸ばせたんじゃないかという指摘がありました。 また先日、ある男性のツイートが印象的だったのですが、彼は親の会社が倒産 してしまって、非常に貧困な家庭に育ったのだそうです。狭い家に肩を寄せ合っ て住むような状況だったので、勉強ができる場所は図書館だった。そして、図書 館では自分が知りたいと思うことを司書が的確に本を探しだしてくれて、それが 非常に役に立ったので、社会人になった彼は節税はせずにきちんと税金を納める から、図書館に使ってほしいとツイートしていました。こういう図書館の役割は、 非常に大事なことだと思います。図書館は「知のインフラ」といわれますが、私は 今後、「知のセーフティーネット」としての図書館の役割が、もの凄く大切になる のではないかと考え始めています。 あらためて「未来をつくる図書館」へ ■今後、自治体格差が図書館格差へ直結 ■子どもの貧困問題に対応できるのは図書館だけ ■将来、都市部を中心に非正規雇用、独身者の高齢層が出現すると予測さ れているなか、図書館は「知のセイフティーネット」であるべきでは? ■社会の課題を解決する「未来をつくる」図書館とは何かを改めて考えな ければならない
  27. 27. 26 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 今年 2 月に行われた都知事選の時、東京都が抱えている問題を取材してみまし た。東京都が抱える問題としては、「待機児童問題」や「都市交通の問題」とともに ホームレス問題、つまり「貧困問題」がありました。都市部を中心に若い世代の非 正規雇用がますます増えているんですね。そうすると将来、経済的な理由で結婚 ができなかった高齢層が出現してくるでしょう。日本の不動産業界は単身の高齢 者に冷たいですから、住居を確保できずにホームレスが増えるかもしれない。こ うした視点から、住居対策の必要性を貧困者の支援活動をしている NPO の稲葉 剛(いなば・つよし)さんにインタビューして記事にしました。 子どもの貧困問題だけではなく、高齢者の貧困問題に社会が直面する目測が立 つ中で、「ホームレスにならないためには、どうすればいいのか」という知識や警 鐘の発信を「知のセーフティーネット」として図書館がすべきではないかと思い ます。先日、このことをある研究会で言いましたら、「じゃあ、住宅を図書館で紹 介すればいいんですか」って言われたのですが、そういうことを言っているわけ ではないんです。例えば NPO と連携するとか、いろいろ「つなげる」方法はある と思います。実際、すでにやってらっしゃるところもあるかもしれません。 課題解決型の図書館の役割が強調される中で、頑張っている図書館は多いので すが、あまりの課題の多さに追いついていけない現状もあると思います。私も取 材をしながら、まだこんなに課題があるのかと思いますし、課題も複雑化してい ます。こういう社会の状況について、図書館の方たちには敏感になっていただき たいし、そういった図書館を私も応援していきたいと思っています。 付け加えると、ニュース自体も複雑化しています。単なるストレートニュース だけではなく、アグリケーションというニュースを引用、再編集してつくる類の 記事もあります。それから「ハフィントンポスト」ですと、菅谷さんにも書いてい ただいていますが、専門家の方がブロガーとなってニュースを発信する記事もあ ります。一概にニュースといってもそのスタイルは非常に複雑化しています。 ところがニュースや情報の読み方、リテラシーを教育する場所があまりないん ですね。学校の現場でも追いついていないと思います。先日も兵庫県のある町で、 午後 9 時以降は LINE などの SNS の使用を控えるように呼びかける運動を展開す 社会問題に立ち向かう図書館へ
  28. 28. 27第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 るというニュースがありました。こういう問題は、子どもと親、親と教師、あるい はその 3 者が現場で決めることであって、行政が口を出すことではないと思いま す。禁止するのではなく、適した使い方を一緒に考えて教えるべきだと思います。 例えば、そういうリテラシーを育むために、図書館などが子どもを対象としたプ ログラムを行うのもよいのではないでしょうか。図書館が「知を武器」にできる 市民を育てる場であってほしいと願っています。
  29. 29. 28 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号
  30. 30. 29第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号ニューヨーク公共図書館館内風景 撮影=岡本真
  31. 31. 30 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 早速ですが、図書館を色に例えるとしたら、何色でしょうか。これは、私が図書 館の話をするときに、最初に皆さんによく聞く質問です。茶色とかグレーと答える 方が多いのですが、私自身も、昔はそういった色のイメージを図書館にもっていま した。でも、『未来をつくる図書館』を書くために、ニューヨークの図書館を取材し てからは黄色、つまり明るい未来を見るようなイメージの色を図書館にもつよう になりました。今日は皆さんに、未来の図書館を考える際のインスピレーションに なるようなお話をしたいと思っています。 菅谷明子さんのトーク風景 撮影=岡野裕行 未来をつくる図書館の思想 菅谷明子 図書館をツールとして使いこなす市民
  32. 32. 31第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 『未来をつくる図書館』では、「ニューヨーク公共図書館」を訪れる人たちの姿を、 図書館の実用例を紹介するエピソードとしてたくさん紹介しているのですが、読 者の方から「どうやってエピソードを探したのですか」と聞かれることがよくあ ります。私はこの本は、足で書いた本だと思っています。 ニューヨーク公共図書館には、全部で 90 館ほどの図書館があるのですが、取 材している時は、開館時間とともに図書館に行って、館内にいる利用者たちの様 子をスパイのようにずっと観察しました。取材したい人がみつかると、知らな い人に声をかけるのはさすがの私も躊躇しますが、自分を鼓舞して「すみません。 何をしてらっしゃるんですか」と声をかけて、エピソードを採集していきました。 本で紹介したものは、取材したエピソードの 5%くらいです。当時は足が痺れて 大変で「私、こんなところで何をやっているんだろう。人に頼まれたわけでもな いのに」なんて嘆いたこともあったのですが、猪谷さんがこの本を読んで下さっ て、実際にニューヨークにまで行かれて、しかもそれを本にまで書かれたという ことを聞き、あの時の苦労が報われたようで、非常に嬉しく光栄に思っています。 さて、この本でも紹介した図書館の利用例の中から、二人の方のエピソードを 紹介します。一人目は、ディビッド・ローズさん。かつてウォールストリートに 勤めていた人なのですが、彼はマネーゲームに疲れて会社を辞め、「社会に優し い投資会社を興そうと志ざし、あるとき図書館でブルームバークの株式情報端末 (内外の金融ニュース、金融マーケットにおけるデータや分析を網羅する)が使 えることを知ります。ディビッドさんの日課は毎朝、まず図書館に来てブルーム バークの端末からデータをダウンロードし、それをもとに金融情報を分析し、顧 客に分析を送るということでした。彼は図書館で起業準備をしたそうです。個人 で新しいこと、社会のためになることをしたいと思っても、企業から離れるとリ ソースがなくなるものですが、図書館が個人では入手できない「高価な情報」を 提供することによって、個人の活動を可能にしている象徴的なエピソードだと思 います。 もう一人の方は、ビジネス図書館でいつも見かける人でした。50 代の彼は図書 館に来るとインターネットで情報を収集し、それからメールを書いている様子で した。どことなく話しかけにくい感じの方だったのですが、ある日、彼が図書館 を出たときに後ろからついていって「毎日、図書館にいらしてますけど、何をし
  33. 33. 32 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 ているんですか?」と尋ねてみました。すると彼はこう答えたんです。「図書館に はいろいろなデータベースがあるということを聞いたので、ふらりと来てみてい ろいろと使ってみるうちに、自分も何かやりたくなった」のだと。彼は無職だっ たそうですが、競馬にとても詳しかったので、競馬の情報を集めて分析し、それ を無料のメールアドレスを使ってメールマガジンを送付し、会員からお金をとっ て商売にしているとのことでした。 私は取材を始めてまだ日が浅かったこともあり、さすがにこの方の行動はやり すぎではないかと思って図書館の人に告げ口をしました(笑)。「とんでもない方 がいますよ。毎日やって来て、図書館のデータベースを使って、有料のニュース レターを発行しているんです」と。そうしたら、「それはすばらしい話だ。教えて くれて有り難う」と言うんです。全く予想外の返答でした。「彼のような無職の人 に、市が福祉としてお金をあげるよりも、自分の才能を活かして、自立すること のほうが余程、素晴らしいんだ」と。「それこそが図書館の役割じゃないか」と言 うわけです。私はなるほどと思い、この辺りから図書館に対する考えが大きく変 わりました。 どんな取材でもそうですが、ブレークスルーを感じる瞬間というのがあります が、このエピソードはその一つです。図書館が目指すところのイメージが自分な りにつかめたんですね。そこから、いろんな視線が開けていきました。 ニューヨーク公共図書館は「The New York Public Library」です。パブリックと いうと日本ではお上、つまり国や自治体が手掛けたものを意味すると思うのです が、パブリックというのは基本的には「みんなのもの」なので、例えば「The New York Public Library」であれば、「みんなの公共図書館」「みんなの情報空間」という ニュアンスです。ちなみに、アメリカには Public health(パブリック・ヘルス)と いう言葉があって、これは医療関係者のための健康ではなくて「みんなのための 健康」という意味です。 「情報は民主主義の通貨である」というジェファーソン・元大統領の言葉があ りますが、アメリカの図書館は民主主義との関わりが非常に強いです。ですから、 情報を持っている人と持っていない人の格差に敏感で、その格差を埋める存在と 民主主義と図書館
  34. 34. 33第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 しての図書館の役割が非常に明確なのです。これは、昔も今も続いている図書館 の基本的な思想です。 また、アメリカの図書館は「市民が接するべき情報を図書館が考え提供する」 という姿勢が強いです。例えば『Consumer Reports』(コンシューマー・レポート) という月刊誌があります。『Consumer Reports』の購読者は、(雑誌とウェブ版の 合計で)730 万人くらいで、デジタル版での発行部数も増え続けていますが、こ の本の価値は、広告を一切とっていないことです。つまり、どの企業とも関係を もっていないんですね。 また商品テストをする際は『Consumer Reports』のスタッフが覆面で店に行っ てあたかも一般の消費者が商品を買うようにしているという徹底ぶりです。独自 の試験施設があり、車であれば走行テストをして車を何台も潰すのですが、毎年 企画されるベスト、ワーストの車特集は非常に人気が高いです。この『Consumer Reports』はアメリカのほとんどの図書館が購読していて、レファレンスコーナー で読むことができます。また、オンラインで購読をしている図書館もありますが、 私の地元の図書館ですと、図書館のウェブサイトの「消費者情報」に関するリン ク集に『Consumer Reports』があり、URL をクリックし、自分の図書館カード番 サービス事例 ■地域コミュニティの情報センター ■就職・職業能力強化の支援 ■医療情報提供 ■起業、中小ビジネス支援 ■子どもの第三の学びの場 ■シニアサービス ■パソコン・ネットスキル、情報リテラシー講座 ■芸術情報の提供と芸術家に対する支援 ■行政情報の窓口 を始め、きわめて多様
  35. 35. 34 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 号を入れると無料で読んだり、検索する事ができます。 車を買う時に、広告やコマーシャルを参考にすることもあるかと思いますが、 広告はつきつめると、企業がメディアの枠を買って、そこに自分たちが載せたい メッセージを掲載するわけですから、バイアスがかかったメッセージになってし まいます。しかし、それは市民が本当に必要な情報ではない。独立し、科学的に検 証された情報こそ価値があるという考えに基づいて、図書館がこのような雑誌を 購読し、市民に提供しているわけです。 またアメリカでは早期予防の観点から、医療情報も貴重な情報源とみなされて いて、多くの図書館が、科学的に裏付けられた情報をもとにした医療情報のデー タベースなどを無料で提供しています。「癌に罹ったら、まず図書館に行きなさ い」と言われるほどです。 余談ですが、日本で本屋に行くと「これを食べれば癌が治る」とか「医者の話を 聞くな」などといった本が売れ行き良好書で陳列されていますが、実際に読んで みると、その主張を裏付ける情報源もなく、単なる個人的な見解にすぎなかった りします。これには愕然としてしまいますが、一方でこういう本が売れてしまう 市民のリテラシーの低さも問題ですし、逆に図書館が情報リテラシーの育成を担 うべきだと思わされます。 猪谷さんもリテラシーの問題を仰っていましたが、情報メディアの特質という ものを、図書館が市民に教育していくことは非常に重要だと思います。ありとあ らゆる情報がある中で、私たちは「何を目的に、どんな情報を必要とし、その情報 が社会にどのような価値を生み出していくのか」ということを考えていくことが 必要です。 私がニューヨークの大学院で学んでいた 1990 年代中頃は、インターネットが 爆発的に広がった時期です。Amazon の創業が 1994 年で、2000 年あたりになる と「図書館はいらなくなるのでないか」という議論が生まれました。今だったら 笑えますが「町のリアル店舗は消えてしまうのではないか」とまじめに議論され 現代社会を生き抜くための徹底的なサポート
  36. 36. 35第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 ていた時代です。 実際はインターネット社会の到来とともに、図書館でもデジタル系のサービス を開始し、過去 10 年間で図書館の利用者は倍増しています。貸出数も 2010 年 には過去最高となっています。つまり図書館はインターネットに屈することなく、 相変わらず市民にとって、コミュニティのサービスの中心的な役割を担っている といえると思います。また、アメリカ人の図書館に対する考え方もポジティブで、 2013 年の調査では、94%の人が「公共図書館は、地域の生活の質を高めるのに 貢献」すると回答しています。 では、アメリカの図書館はどのように市民に貢献しているのでしょうか。アメ リカは移民が多いので、歴史的には図書館で英語のクラスを開いて、読み書きや 会話を教えてきたのですが、ここ十年ほど、それらに加えて「デジタル情報の格 差を是正する」ということがサービスの大きな柱になっています。例えばニュー ヨーク公共図書館には「Tech Connect」(テックコネクト)というプログラムがあ るのですが、どういうことをやっているかというと、無料電子メールのアカウン トのつくり方から Facebook や Twitter、LinkedIn の使い方の他、インターネット を使った仕事の見つけ方、ソーシャルメディアのビジネスでの応用の仕方、最近 はウェブサイトのデザインから、コードの書き方など(80 以上のクラスを用意し デジタル時代でも利用者が増える ■過去 10 年間、米公共図書館の利用は増加 ■デジタル関連サービス、過去 10 年で利用数が倍に ■ 2010 年、図書の貸出数が 24 億冊以上で過去最高 (Pew Research Center, Institute of Museum and Library Services, IMLS) 地域の公共図書館、依然、住民から高い支持 ■ 94%が公共図書館は、地域の生活の質を高めるのに貢献との回答 ■地域社会に不可欠な存在との認識続く  (Pew Research Center)
  37. 37. 36 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 て)デジタル入門者から上級者向けのさまざまなサービスを提供しています。ま た、今年 9 月からは、無料でポータブル Wi-Fi の貸し出しも行う予定です。 現代社会を生き抜くためには、ウェブのスキルは必須です。就職の支援をする にしても、メールアカウントがなければ、アメリカではそもそも採用に応募もで きませんし、合格通知もメールの場合が多く、受け取りができません。ウェブの スキルがないと、社会的に不利になるという前提があり、そのギャップを図書館 が徹底的にサポートしているのです。 デジタルの時代では「いかに図書館に来てもらうか」が重要になります。私は ボストンの隣町・ケンブリッジに住んでいるのですが、地元の図書館でも、月曜 日の午後はレゴ教室を開くなど、図書館に来てもらうためにいろいろなイベント を行っています。またボストン市内のミュージアムと提携して、図書館がミュー ジアムパスを提供してくれるのですが、パスの受け渡しは必ず図書館の窓口に行 かないともらえないようになっています。このパスは、オンラインで行きたい美 術館や行きたい日にちなどを選べるのですが、受け渡しだけはリアル窓口にして いる。つまりサービスのあり方が、最終的に図書館に足を運んでもらう仕組みに なっています。 また、近年のデジタルを使ったサービスでは、iTunes や YouTube を使う例も 増えてきていています。「LIVE from the NYPL」(ライブ・フロム・ザ・ニューヨーク・ パブリックライブラリー)というトークイベントでは、1 回 25 ドル、会員だと 15 ドルくらいで、各界著名人やトップクラスの作家など知識人のトークを図書館で 行い、YouTube で映像を無料配信しています。 アメリカにおける電子書籍の状況についてお話しますが、電子書籍はかなり浸 透しています。約 82%の図書館が電子書籍を提供し、1館あたり平均 4,000 以上 のタイトルを持っています。電子書籍の所蔵数は前年比 184%なので、かなり急 速に増えていて、電子書籍によって新たな図書館の利用者を呼び込んでいるよう です。また電子書籍のリクエストが増え、貸出数も増えているのですが、一方で 市民のリテラシーを上げるさまざまな取り組み
  38. 38. 37第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 電子書籍の利用状況 電子書籍の利用 紙と電子書籍における読書傾向 ■電子書籍提供図書館の割合 82%(前年比 10% 増) ■ 1 館あたり平均タイトル数 4,350 タイトル(前年比 184%増) ■電子書籍が新しい利用者を呼び込んだ 74% ■電子書籍のリーダーディバイス  ▶「ラップトップ」(53%)  ▶「専用電子書籍リーダー」(85%)  ▶「その他の携帯型端末」(62%) ■利用者からのリクエスト、「急激に増えた」 76% (Library Journal, E-book Penetration & Use in U.S. Libraries Survey) ■電子書籍の利用者割合 23%(11 年は 16%)に増加 ■紙媒体の書籍利用 67%(11 年は 72%)に減少 ■本を読む人 67%(11 年は 78%)に減少 ■公共図書館での電子書籍利用者 5%(11 年は 3%) (Pew Internet and American Project) ■ 1 年に 1 冊の本を読んだ 84% ■ 1 年に 10 冊以上読んだ 36% 【年間 20 冊以上読む人─電子デバイス利用者は多読の傾向】 ■紙よりも電子デバイスで読書 30% ■電子より紙、紙でのみ読書 18% ■紙と電子を同等で 21%  ※読書の全体の傾向    ▶紙のみ 46%     ▶電子より紙多い 16%   ▶紙と電子を同等 17% ▶電子のみ 6% (PR News Wire)
  39. 39. 38 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 紙媒体の利用が減ってきているということで、徐々にシフトが起きているともい えます。また、電子媒体で読書をする人は多読であるという調査結果もあり、電 子書籍を読む人は本に親しんでいるともいえます。 ただしアメリカの場合は「情報格差を減らす」という図書館のミッションが非 常に明確ですので、電子だから、紙だから、という垣根があまりないように思い ます。私の印象ですと、日本では「電子書籍を入れると、紙の本が減ってしまう」 という危惧を、出版社や図書館が抱きがちではないでしょうか。もちろん、アメ リカでも電子書籍が出てきた初期の頃はそういう声もありましたが、今はもう電 子で読むか紙で読むか、その人の都合や状況に合わせて選択して読むのが主流で す。ですから、日本に来て「ハイブリットサービス」という言葉を耳にすると、か なり違和感を感じるくらいに、アメリカでは紙も電子も普通に併存してきていま す。 また、アメリカは日本と違って書籍の売り上げが連続でマイナスという出版不 況という状況にはなく、その年によって売り上げの変動はありますが、マイナス にはなっていません。その理由の一つに、重層的な読書推進が行われている結果、 本をよく読む一定層を育てあげていることがあると思います。その一つは、学校 でのライブラリーの時間です。本は単に「読むもの」ではなくて、「読み方」が大切 ということで、小学校低学年から読み方の能力を高める取り組みをしています。 例えば、アメリカでは「ブックディスカッション」が盛んに行われます。「ブッ クディスカッション」というのは 1 冊の本をグループで読み、本について深く語 り合うものです。「ブックディスカッション」をしたことのある人はよく分かると 思うのですが、本というのはテクストがあって、そのテクストが一方的に私たち に語りかけてくるわけではなくて、私たちが持っている知識や物の見方が、テク ストを読みとっていくんです。ですから、同じ本を読んでも、それをどう解釈す るのかは、読み手によって大きな違いが出てきます。「ブックディスカッション」 を通して、多面的に物事を理解するということを経験できるんですね。 また、ボストンでは年に1回、「ボストンブックフェスティバル」という本のイ ベントがありますが、その中で市民が同じ本を読んで語り合うというイベントが あります。もちろん参加希望者だけですが、これはコミュニティの結束を高める 上でも、読み方のリテラシーを高めるという意味でも、非常に興味深いものです。
  40. 40. 39第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 あとは、これも本に書きましたが、ニューヨーク公共図書館の研究図書館の一 つ「舞台芸術図書館」は、舞台芸術のようなライブパフォーマンスを、図書館のス タッフ自らが撮影に行き、その記録をアーカイブ化しています。芸術というのは 図書館とは関係ないように思うかもしれませんが、新しいものを生み出すために は、過去の作品からインスピレーションを得ることが必要なんですね。また、こ の図書館で一番利用されているオーディオビジュアルは、方言を記録した音源 だそうで、俳優の方などが地域や階級による話し方の違いを聞いて、そのイント ネーションなどを勉強するのだそうです。 それから児童書のことでいいますと、日本の児童書はどちらかというと、ポジ ティブな美しい話が主流だと思います。ファンタジーや、他人のために良いこと をすれば、見返りがあるというような。子どもに夢を与えることは素晴らしいこ とだとは思うのですが、アメリカでは差別や親の離婚、障害、いじめなどの問題 を取り上げた児童書も数多くあります。子どももいろいろな悩みを抱えているわ けですが、それをすぐに大人に相談できるとは限りません。そんな時、本を通し て自分の状況を理解したり、漠然とした不安な気持ちを明確にしたり、あるいは 解決につながるような道筋をつくる児童書のジャンルがもっとあってもいいと思 いますし、図書館から出版社にそうした企画を積極的に提案していくような動き があってもいいと思います。 読書支援の再考(考える力、共感、多様性) ■米書籍総売上は約 150 億ドル、前年比で 1%増。  (連続でマイナスが続く日本の「出版不況」とは異なる) ■本を読む厚い層の存在 ■長年の重層的な読書推進の成果(学校教育、公共図書館など) ■現実を反映した児童書のタイプ(いじめ、離婚、障害など) ■読者、書き手を育てる多様な支援 ■大都市でのブックフェスティバル開催 ■ブックディスカッション(ボストンブックフェスティバル) (APP)
  41. 41. 40 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 最後に、ニューヨーク公共図書館が提供している「研究者・作家センター」を 紹介します。「研究者・作家センター」は、世界各国から十数名の研究者や作家を 招聘して、創作活動に没頭してもらうためのさまざまな便宜をはかっているセン ターです。センターを利用する研究者や作家は、図書館が主催するセミナー、会 議、読書会などで、何度か講演することになっています。こういう試みは、日本で も可能ではないかと思います。さきほど市民のリテラシーの話をしましたが、私 たちが世の中を知るためには、自分の体験だけではとても及ばなくて、そのほと んどがメディア、多くの場合は活字を通してです。ですから、市民のリテラシー を高めるということは「いかに豊かな出版文化をつくっていくか」を考えること につながり、それは作家を育てていくこととも切り離せないことなのです。 市民による情報発信が容易にできるようになり、IT を使って地域の問題を住民 自らで解決するケースも出てきています。その時に重要となるのが、市民が IT を 使いこなす力です。 例えば、ボストンでは雪が積もると、町の各箇所に設置された消火栓が埋まっ てしまうという問題を抱えていました。除雪をしても、次の日になればまた積 もってしまうことも珍しくなく、まるでいたちごっこです。 この問題を解決するアイディアを提供したのが、「Code for America」(コード・ フォー・アメリカ)という非営利団体です。「Code for America」は、グーグルな どに勤める優秀な技術者に休職をしてもらって自治体などの組織に配属し、行政 が抱えている問題をテクノロジー面で解決するプログラムを提供するのですが、 ボストンに配属された技術者は、この消火栓の問題を解決するシステムをつくり ました。どのようなシステムかというと、市内に点在する消火栓をマップに落と し込み、市民が雪かきを終えると消火栓を緑で表示し、雪かきが終わってない消 火栓は赤で残されるというオンラインのサイトをつくったのです。 それにより、市内の消火栓のリアルタイムの状況が一目瞭然になったんです。 その後の展開も興味深く、「こちらの地区の消火栓は緑が多いのに、自分たちの近 所が赤なのは悔しい!」とゲーム感覚で、積極的に雪かきをするようになったん ですね。町を助けるために参加者は良い気持ちになるし、地区同士の雪かき合戦 市民の力で社会を変革する
  42. 42. 41第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 「Code for America」によるボストン市にある消火の除雪状況を知らせるサイト画面 的な様相も呈して楽しめるし、雪かきというつまらない作業が、地元意識を高め たり、コミュニケーションを生み出すメディアになったわけです。 次に、これもボストンでの事例から「Citizen's Connect」(シチズンズ・コネク ト)という取り組みです。皆さんも車を運転していて、信号が壊れていたり、看板 が落ちているのを見かけることがあると思うのですが、「Citizen's Connect」はこ ういう市民が気づいたものをスマートフォンで撮影してもらい、通報アプリに上 げるというものです。担当者が街を巡回して見つけても限界がありますが、市民 が協力して行うと効果も高く、また、行政のコストも削減できますし、市に貢献 している気持ちも芽生えます。 それから「Boston About Results」(ボストン・アバウト・リザルト)というサイ トでは、自治体が取り組みを宣言した条項が、実際にどれだけ達成されているか
  43. 43. 42 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 というのを表示するもので、サイトに来た人が一目瞭然で行政の実行具合が分か るようにしています。 ご存知の方も多いと思いますが、2009 年にオバマ大統領が「オープンガバメン ト」(開かれた政府)を推進し、その政策を推進する一環で、アメリカの行政はい ろいろな情報を公表しています。「オープンガバメント」と「情報公開」の違いは 何かというと、オープンガバメントは、市民がデータを加工することを目的とし た情報公開ということです。 それからホワイトハウスの陳情サイトで、「We the People」(ウィー・ザ・ピー プル)。これは、オンラインで市民がスレッド(陳情)を立てて、25,000 人以上の 署名が集まると、ホワイトハウスから正式に回答が得られるというものです。今 までは「読み書きができないと政治に参加できない」といわれていましたが、今 はデジタルのスキルがなければ民主主義に参加するのも危うい状態です。アメリ カの公共図書館は、コンピュータスキルを使って、いかに市民の暮らしや政治を 良くするかということに、この十年ほど非常にフォーカスしてきました。 「Citizen's Connect」アプリ画面 町の問題と発生場所を通知することができる
  44. 44. 43第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 最近の OECD(経済協力開発機構)のレポートによると、日本人は高い学習能力 はあるものの、IT をなかなか使いこなせていないという結果が出ています。ソー シャルメディアの時代になると、個人の知恵や経験が発信しやすくなると同時に、 市民自身のあり方がメディア社会のあり方を大きく規定します。つまり、私たち が賢い市民であれば、賢い情報空間ができる。でも、単に炎上したり、文句ばかり 言っているようなメディアの使い方であれば、豊かな情報空間をつくりあげてい くことにはなかなかならない。つまり私たち市民が、「賢い情報空間を生み出すか どうか」の責任を担っていると思います。そのときに IT を上手く使えるかどうか は、非常に重要です。 ジュリアーニ・元ニューヨーク市長は、図書館に投資をしましたが、それは投 資以上のことを社会にもたらすと確信していたからです。初めに紹介した、図書 館のインフラを使って起業したり、生計の一部を成り立たせている人たちのエピ ソードがそうですが、やはり個人で何かをやるというのは容易ではありません。 そうした人を図書館がサポートをすることで自立させることができたら、個人 の誇りも生まれますし、何より税金が入ってきます。個人が自立し独立している 町には、ポジティブな空気が流れるでしょう。正しい医療情報を提供することも、 米国のオープンガバメント ■ 2009 年、オバマ大統領「透明性とオープンガバメントに関する覚書き」  に署名 ■政府の透明性向上、市民参加、官民の協働が柱 ■オープンデータ>誰もが自由に編集・加工が可能で、再利用、再配布も 可能となるデータセットを提供 ■民主主義の強化、社会問題の解決、新ビジネスの創出などが狙い 図書館と都市の繁栄
  45. 45. 44 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 予防医学の観点から医療費の節約につながりますし、地方と都市の医療格差を是 正することも可能だと思います。 今日は、アメリカでの図書館の事例を中心に話してきましたが、日本でもアメ リカと同じような問題を抱えている分野もたくさんありますから、その解決の為 に図書館が大きな役割を担えると思います。もちろん経済効果も期待できるで しょう。 最後に、アメリカにおける図書館の存在感についてお伝えします。「図書館カー ドを持っている人」は、アメリカ人の成人の 61%。司書が大事だと思っている人 は 96%。これは凄い数ですね。 また 95%の人が、図書館を「市民に分け隔てなく情報提供することで、社会で 成功する機会を与えている所」、81%の人が「他でみつけるのが難しい情報を得る のに役立つ場所」と捉えています。これはネット時代において、意味深い回答で すね。そして、もし図書館がなくなった場合7割強の人が打撃を受ける」とし、約 3 割が「深刻な打撃をうける」と答えています。つまり、ネット時代の現在におい て、相変わらず図書館というのは大きな存在なのです。 19 世紀は「帝国の時代」、20 世紀は「国家の時代」、21 世紀は「都市の時代」と いわれますが、「都市の時代」というのはつまり、皆さん一人ひとりが主役の時代 図書館の存在感 ■図書館カードをもっている大人 61% ■図書館に情報を探す手伝いをする司書を必要と思う大人 96% ■公共図書館が市民に分け隔てなく情報提供をしていることは、  社会で成功する機会を与えている 95% ■他でみつけるのが難しい情報を得るのに役立つ 81% ■図書館の閉館は個人に大きなダメージを及ぼす 76% ■非常に大きなダメージになる 29% (Pew Research Center, Institute of Museum and Library Services)
  46. 46. 45第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 ということです。こうした時代には、市民の生涯を通じての知的支援の場である 図書館が、時代のニーズに応じた多様なサービスを提供することで賢い市民を育 てることが、都市の繁栄にもつながってくるのではないかと思います。
  47. 47. 46 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 岡本 猪谷さん、菅谷さん、有り難うございました。お二人が紹介して下さった 日米における図書館の事例は、いうなれば「私たちの町に、こういう図書館がほ しい!」と願うような、あるいは図書館に勤めている人であれば「うちの図書館も、 そうしていきたい!」と思われるような、胸踊るものだったと思います。 しかし重要なのは、その想いを叶えるのに「どうしたら、いいのか」。私はこの 問いを考えることこそが、重要なことだと思っています。他の図書館を羨まし がっている限りは、何も手に入らないと思います。たくさんのいい事例を知るこ とは重要なことですが、それをどうやって自分たちのものとして獲得していくの か――そこに歩みを進めなくてはいけないのです。そして、そこに歩みを進める ためには、図書館に対するリテラシー、情報に対するリテラシーを鍛えなければ ならないと思うのです。 私たちの社会でどういう情報が必要なのか、そしてその情報を勝ち取っていく にはどうすればいいのか、そういう大きな思考の中で、自分たちの町に図書館が あることの意義を考えていかなくてはいけないでしょう。これは、私たち個々人 の知的な営みを通して、私たちの社会をどうつくり、維持し、発展させるのか、つ まりデモクラシーの根幹をも考えることにつながります。 また、菅谷さんのお話の中に、デジタル時代における「読み書きそろばん」のス キルを持ち合わせない人をサポートするニューヨーク公共図書館の事例がありま したが、日本ではそのような人たちをどのようにフォローしていくのか。図書館 だけではそれが不可能であれば、それをどのように社会全体でフォローしていく のか、こうした点もお二人の話から考えるべき部分ではないかと思います。 猪谷 私が強く感じるのは、インターネットの普及に比例して、必要とする情報 を手に入れるのが、意外にも難しくなっているように思うんです。検索すれば情 リテラシー教育と図書館 デモクラシーの根幹と図書館 菅谷明子×猪谷千香
  48. 48. 47第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 報は出てくるのですが、それが果たして「本当に自分の欲しい情報なのか」とい うことは、疑う必要があると思います。メディアというのは、同時に広告媒体で もあるので、バイアスがかかっている場合もあります。それを知った上で情報と 向き合う必要があるのですが、これは情報の取り扱いを生業にしている私でさえ 惑わされます。普段、こういうことを意識しないで暮らしている人たちにとって は、非常に難しいスキルです。私はこうしたことのサポートや啓蒙を、図書館に 期待しています。 図書館は膨大な量のデータや情報を持っていると思うのですが、そうした情報 を社会に出して活用してくれなければないに等しいのです。それを発信して、い かに使いやすくするフックをつくっていくか――それは図書館の中の人だけがや ることではなくて、民間の方と一緒にやることで、いくらでもアイディアが出て くると思います。 菅谷 情報の読み方ということでいうと、重要なのは情報源をチェックすること ですね。このあたりは、私が書いた『メディア・リテラシー』(2000 年、岩波書店) を読んでいただければと思うのですが(笑)。 「第 2 回 LRG フォーラム」トークセッション風景 撮影=岡野裕行
  49. 49. 48 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 リテラシーを考える時には大きな枠組みがあり、それにしたがって見ていけば ある程度リテラシーがつきます。強調しておきたいのは、情報を見ていくときに 「そこに書かれてあるものだけでなく、ないものを読む取ること」が重要だと思っ ています。その情報において「抜けている視点」とか「出てこないトピック」を考 えるということですね。 また、一人ひとりの行動がトラッキングできる今、皆さんは読者でもあります が、アクセスしクリック対象として、カウントされる一人になるわけです。無償 で情報を得られるのは良いこともある反面、失っているものがあるという側面も しっかり覚えておきたいところです。 さきほど『コンシューマー・レポート』を紹介しましたが、当然ながら、全ての アメリカ人のリテラシーが高いわけではありません。しかし、あのような雑誌が 730 万部以上購読されているということは、「自分たちが買う商品の広告には、バ イアスがかかっている」ということを、アメリカ人の一定層の人が分かっている ということです。日本においてもこうした独立した情報が必要とされるかどうか は、図書館による市民へのリテラシー教育の行方が左右する面もあるでしょう。 また、「本の読み方」を子どもの頃から教えることも必要です。私にはアメリカ 生まれの娘がいますが、先日、9歳の上の娘の先生と面談をしたときに「お嬢さ んは、本の読み方を知らない」と言われました。本が好きな子なので、どうして だろうと思って「先生、何が問題なんですか」と聞いたら、「お嬢さんは、自分に 似た境遇、似た感情を共感するために本を読んでいます」って仰ったんです。つ まり本を読むというのは、自分にはない知識、陥ったことのない感情や境遇など、 本を読む以前には知らなかったことを学ぶことが目的なのに、うちの娘はいわば Facebook で Like をつけるような読み方だったんですね。 アメリカの学校教育は「本の読み方」を非常に重視しています。例えば、娘が行 く小学校にはライブラリーの時間があって、小学 1 年生で、事実と意見の違いを 習います。それから 2、3 年生になると、ある物語の主人公が別の人だったら物語 の展開はどのように変わるのか、あるいは、主人公がナレーターの場合と、ナレー ターが別にいる場合における視点の違いなども習います。批評的な思考、リテラ シー教育を、小学校の低学年から受けさせるんです。小学校 1 年生で『ハリー・ ポッター』を読んでいる子もいますが、日本には漢字があるので、これは一概に、 早い遅いはいえませんけれど。
  50. 50. 49第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 また、作文のクラスでピア・レビュー的に、クラスの友人同士で作文を読み合っ て批評する時間があるんです。日本では作文は先生に出すことになっていますが、 生徒同士で作文を評価すると、一人では気づかない視点を他者に気づかせてもら えるので、多角的に物事を捉える能力を鍛えているんですね。思考能力や共感能 力というのは非常に大事で読書を通して身につけることもできます。しかし日本 の場合は識字率が高いがゆえに、読み方を深く教える必要がないために、逆にこ うした深い理解をするための視点が抜けているのかもしれません。学校教育を変 えることは難しいですから、こうしたリテラシー教育を、図書館が担うことは大 事だ思います。 ただ一方で、本というのは「たかだか本箱に収まるものでしかない」という側 面も忘れてはいけないと思います。つまり、いくら自転車の乗り方が書かれた本 を 200 冊読んでも、実際に乗ってみなければ分からないわけで、その限界も踏ま えつつ、リテラシー教育に力を入れてほしいと思っています。 猪谷 実は『つながる図書館』の感想をネットでよく検索するのですが(笑)、こ の本への批判の一つとして、「つながりたくない」という人たちがいました。自分 が好きな読書をする場としての図書館があればいい、コミュニティとしての機能 も、ビジネス支援としての機能も図書館にはいらないと。いま、菅谷さんのお話 を聞いて、つながりたくない派の読み方は、本というものを一面的にしか捉えて いない、日本の教育が生んだ裏読みなのかなとハッと思いました。 多くの人にとって、読書というのはエンタメなんだと思うのです。知的な活動 というよりは、エンタメとして本が消費されていて、図書館もそういう場所に なってしまっている現状があります。リサーチ型、研究型の図書館の機能は県立 図書館に担わせているから、市町村の図書館は差別化していいんだ、という意見 もあると思いますが、やはりエンタメ以外の読書というものを、図書館から提案 していただきたいです。 娯楽だけではない読書の仕方を、市民の側からも、図書館の側からもお互いに 模索しながら確立していければいいのではないかと思います。そのためには、や はり学校教育にいきつく気が最近しています。 私も現在、育児の最中で、3 歳の娘にどういう本を与えればいいのか非常に悩 みます。彼女はすでにディズニーが好きで、プリンセスの絵本を読みたがるので
  51. 51. 50 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 すが、大人としてはもう少し違うものを読ませたい。奇麗な御姫さんだけの現実 ではないので。それで先日、エドワード・ゴーリーを読ませたら、とても怖がっ てしまって、これは悪いことをしたなと反省しました(笑)。こういう教育は早け れば早いほどいいと思いますので、日本でも取り組んでもらえるといいですね。 岡本 お二人ともリテラシーの問題を中心に語ってくださいましたが、もう一つ 考えていきたいのが、「民主主義と図書館」という点です。 さきほど菅谷さんが紹介されたオープンガバメントの事例は「私たち市民が、 主体的に社会にコミットしていく」という、まさにそこがポイントです。身の周 りに起きる困ったことを、行政に電話してなんとかしてもらうのではなく、自分 たちでできることは自分たちでケアをしてく。これは政府にかかるコストを削減 していくという、現実的なオバマ大統領の政策なのです。 これを日本で振り返って考えると、猪谷さんに紹介していただいた消滅自治体 の問題からも明らかなように、今後あらゆる自治体において、財源が不足するの は目に見えています。そのときに、私たちの社会に必要な構成要素をいかにして 獲得していのか、そしてそれにどのようにコミットメントするのか、それが問わ れる社会になってくると思います。 ところでニューヨーク公共図書館は、公共図書館といいつつ、公立図書館では ありません。NPO が運営して、市民からの寄付を含めて成り立っている図書館で す。日本の場合は、ほとんどの図書館が公立であり、税金で賄うのが前提です。例 えば夕張市は、自治体が破綻したので図書館も閉鎖されました。菅谷さんが紹介 されたオープンガバメントの事例のように、市民が主体的に社会にコミットして いくことによって、自分たちが必要とする施設や制度を支えていくことが、これ から日本でもできないでしょうか。 そこで菅谷さんにお伺いしたいのですが、どうしたら日本でもアメリカのよう に自分たちで施設を支えていくモデルができるのでしょうか。そして、なぜアメ リカではそれができるのか、そのメンタリティを教えてください。 オープンガバメントと図書館
  52. 52. 51第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 菅谷 今のお話で一つ訂正させていただくと、ニューヨーク公共図書館が NPO によって運営されていることに多くの方が驚かれますが、これはアメリカでも非 常にめずらしいケースです。アメリカにおけるほとんどの図書館は日本と同じく、 税収で賄われ、行政によって運営されています。美術館とか交響楽団を NPO が運 営するのはめずらしくないのですが、図書館というのはアメリカでもめずらしい のです。 ただ日本と違うのは、アメリカの図書館は市の組織の中で独立しています。日 本だと教育委員会の配下にあることが多く、昨日まで水道課だった人が、図書館 に配属されて来たりしますよね。図書館で働きたいという意識をもった人が、図 書館で働くということがなぜできないのか、理解するのに難しいところがありま す。「図書館は閉館時間が遅いし、土日も開くから休めず嫌なのですが、配属さ れたので仕方なく働いています」なんて言う話しも聞いたことがあります。まず、 こうした組織の基本のあり方や職員の採用のあり方から変える必要があるのでは ないでしょうか。 ニューヨークにある公共図書館は土地柄、富裕層がたくさんいるのでドラマ ティックな額が寄付されますが、他のところはせいぜい小口の寄付が主流です。 ただ図書館の価値を認め、自分ができる範囲で支えたいと考える人が存在し、こ うした部分も日本とは違うと思っています。アメリカというのは図書館だけでは なく、すべてのことにおいて「自分たちの手でつくりあげていく」という意識が あります。当事者意識が強いのですね。 図書館が財政不足で充分なサービスが受けられないのであれば、効率を上げて もらうこともあると思いますが、数千円でも寄付をするのがいいのか、週に一度、 お手伝いするのがいいのか――まずは「自分に何ができるのか」を考えることです。 私が好きな言葉に Ask what you can do というケネディ・元アメリカ大統領の 言葉があります。つまり「何をしてもらうかではなく、あなた自身に何ができる かを問いなさい」という言葉ですが、そこを各自が考えていく必要があると思い ます。 岡本 非常に重要なところだと思います。自分たちの社会において、自分たちが 欲するものであれば、それをどうやって自分たちで賄っていけるのか。それはま さにビジネスモデルの問題でもありますし、エコシステムをどうつくるかという
  53. 53. 52 第 2 回 LRG フォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 夏号 ことなのだろうと思います。日本社会の場合、税金一本槍なんですね。でも、それ は絶対に通用しなくなっています。 猪谷 私が思うのは、自治体の方は市民からなにか言われるとビクってなるんで すね。「わ!クレーム、受けてる!」というふうにです。でも、市民からすれば「こ こをこうすればよくなるのに」っていう気持ちもあるんです。 本にも書きましたが、神奈川県立図書館が財政難から県立図書館のサービスを 削減していこうという方針を出したとき、ボトムアップでさまざまな動きが生ま れました。そのときに岡本さんもいろんな活動をされて、図書館のサービスを縮 小するのではなく、発展させていこうということで、削減反対ではなくて提案を しました。それが非常に功を奏して、縮減はとりやめになりました。これはとて も大事なことで、図書館に限らず、何かをいい方向にもっていこうとしたら、た だお達しを受け入れるだけでもなく、反対をするだけでもなく、双方向でコミュ ニケーションをとっていくということが大事だと思います。 岡本 最後に、菅谷さんに質問します。現代における「読み書きそろばん」の事 例として、ニューヨーク公共図書館でのデジタルサービスの事例を紹介していた だきましたが、日本の場合、IT スキル育成の話になると、ある種の嫌悪感とか反 発心が根強くあるような気がします。例えば、手書きの履歴書をよしとする企業 もまだ存在しますね。そういうことで、なかなか IT スキルの育成やソーシャルメ ディアの社会活用が前に進まない。もちろんアメリカでも反発心はあるのかもし れませんが、アメリカでデジタルのスキルが尊重される決定的な理由というのは なんでしょうか。 菅谷 挑発的になるかもしれませんが、岡本さんが仰ったことは、日本社会に蔓 延している考え方だと思います。すでにあるルールが過去のものになっているの に、そのルールがあるから前進できないということは、よくあることだと思いま す。しかし、ルールというのはより良く変えるためにあるんです。前進できない のであればどこに問題があって、どうすれば良くなるのかを、リーダーの立場に ある人は変えていかなければいけないのです。 教育の現場などでも、生徒や親御さん、時には先生までもが「みんなと同じで

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