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行動経済学からわかるユーザーの行動とデザインのありかた|山田歩
- 3. 熟慮は選択の質を高めるか
素朴な信念 最適な決定が損なわれる
• 熟慮を重ねることで、より
100%
よい決定ができる。冷静に
80%
判断しよう。
60%
40% 美術
20% 動物
0%
統制群 分析群
図 ポスターの選択率
(Wilson et al, 1993)
wiad2012 3
- 4. 選択肢は多いほど良いか
素朴な信念 購買意欲が損なわれる
• 多いほど良い。自分の好 70
みに合致するものと巡り 60
合う確率が高まる。 50
40
30
20
10 6種類
0 24種類
試食率 購入率
図 ジャム実験
(Iyengar&Lepper,2000)
wiad2012 4
- 5. 2.なぜ合理的な選択ができない
のか
誰が選択するのか
• “合理的経済人” 合理的経済人 リアルな人間
– 自分の嗜好が明確 (限定合理性)
– 好みに矛盾がなく不変
– 嗜好にもとづいて、満足が 十分な注意 不十分な注意
最も大きくなるような選択 十分な時間 不十分な時間
肢を選ぶことができる
完全な情報 不完全な情報
• リアルな人間 高い認識能力 不十分な認識能
– 嗜好が不明確 力
– 好みがよく変わる
– 何が自分にとって最善なの
完璧な自制心 不完全な自制心
か、十分理解できていない
wiad2012 5
- 6. 人間の二つの認知システム
熟慮システ 自動システ
ム ム
制御されて 制御されて
いる いない
努力する 努力しない
演繹的 連想的
遅い 速い
自覚的 無意識
ルールに従 熟練を要す
う る
wiad2012 6
- 7. 3.合理的でなくても予測可能
アノマリーは系統的に起こ 自動システムによる判断・決
る 定
• 合理的でない ≠ ハチャメ • ヒューリスティックス
– 利用可能性
チャ – 代表性
– 感情
• 自動システムが系統だっ • 知覚と似ている
– 「状態」より「変化」に敏感
たバイアスを作り出して • 参照点依存性
いる • 感応度逓減性
– 合計より平均
• 利得より損失に敏感
• 文脈に依存
wiad2012 7
- 8. ヒューリスティックス
• 判断や問題解決に利用さ • 利用可能性ヒューリスティッ
れる簡便な方略。 ク
“r” で始まる単語と、 “r” が
3番目にある単語はどちらが
多いか?
• 係留と調整
国連加盟国全体のな
かでアフリカにある国が • 代表性ヒューリスティックス
占める割合は 5%より高 偏りのないコインを投げ
いか低いか? たら、3回連続で表が出た。
次に出るのは表と裏のどちら
か?
wiad2012 8
- 9. 失業率 物価上
フレーミング効果 昇率
• 同じ内容の情報でも、そ 政策A: 10%
の情報の表現の枠組み 12%
(フレーム)を変えるこ 政策B: 5%
17%
とによって、判断が変わ
る
脂身25% or 赤身75%
雇用率 物価上
昇率
政策C: 90%
この肉はどのくらい美味し 12%
そうですか? wiad2012
政策D: 95% 9
17%
- 10. 損失回避傾向
コインでの賭け • 現在の状況を変えない
・表が出ると【 】円もらえ – 手間がかかる
る – 現状を手放すことに抵抗が生じ
・裏が出ると10,000円失う る
支払意思額と受取意思額
・獲得するのに、いくらまで支払
うか
・いくら受け取れば、手放すか
wiad2012 10
- 11. デフォルトの効果
• 初期値によって、選好さ
れる選択肢が変わる
臓器提供の同意 保険への加入
保険A:安いが範囲は限定
保険B:高いが限定は少ない
ニュージャージー州:80%がAに加
入
ペンシルバニア州: 75%がBに加
入
wiad2012 11
- 12. 感情ヒューリスティック 結果(支払意志額)
• (スタバ)
– スタバで1,000使えるカー 800
ド 700
600
&
500
• (スタバ+ 400
○) 300
– スタバと○で合計1,000使 200
えるカード 100
0
• (○) &
– ○で1,000使えるカード
wiad2012 12
- 13. 理由に基づく選択
① Economist 年間購読 Web ① Economist 年間購読 Web
版 $59 版 $59
16人 68人
② Economist 年間購読 印刷
版 $125
0人
③ Economist 年間購読 印刷 ③ Economist 年間購読 印刷
版+Web版 $125 版+Web版 $125
84人 32人
wiad2012 13
- 14. 4.選択アーキテクチャー
をデザインする
『Nudge』(Thaler &
Sunstein ,2008)
• リバタリアン・パターナリズ • 選択アーキテクト
ム
– よりよい生活を送れるようにす – 人々が意思決定する文脈を
るため、選択アーキテクチャー 体系化して整理する
を設計することを通して、人々
の行動に影響を与える。
– オプト・アウト(拒絶の選択)
する自由を与える。
– 選択アーキテクチャーを設
• “Nudges”する 計することを通して、健
– 予想可能な形で行動を変える働 康・富・幸福を促進する
きかけを行うこと
– iNcentives
– Understand mappings
– Defaults
– Expect error
– Structure complex choices
wiad2012 14
- 15. 誰のためのデザインか? ナッジはいつ必要なのか
合理的な経済人 合理的でない人 • 熟慮システムがうまく働か
(限定合理性)
ないとき
十分な注意 不十分な注意
– 複雑で困難な選択
十分な時間 不十分な時間
– 低頻度
完全な情報 不完全な情報
– フィードバックがわかりにく
高い認識能力 十分とはいえない い
認識能力
– 自分が望むものがわからない
完璧な自制心 不完全な自制心
• 自動システムが、望ましく
ない働きをするとき
– 便益を先に得て、コストを後
wiad2012 で払う 15
- 16. 5.選択アーキテクチャーの実
例
① 予防接種者を増やす ② 臓器提供者を増やす
(Chapman et al, 2010) (Johnson & Goldstein, 2004)
wiad2012 16
- 17. ③学資援助の申し込み者を増
やす(Bettinger et al, 2011) ④個人年金の加入者を増やす
• 手続きの簡素化 • 手続きの簡素化(Carrol et
– 事前記入済み申込用紙 al, 2006)
• 34%⇒42% – 25%の上昇
– 手続きの案内だけ
• 変化なし
• 手続きの複雑化(Iyengar
et al., 2004)
– 加入率の低下
wiad2012 17
- 18. 6.おわりに
英国内閣府の行動経済学チー
ムによる報告書(2012年)
• 納税における、不正行為、 • 行動経済学チームの考え方
間違い、未徴収の国民負担 – 本人も望んでいなかったよ
– 不正行為:210億ポンド うな選択や決定を行ってい
– 間違い: 96億ポンド る
– 未徴収: 70-80億ポンド – 行動学的知見に基づいて、
より効果的な選択アーキテ
クチャーを設計する
• 伝統的な考え方
– 悪意に基づいて、不正行為 • 行動経済学に基づく介入
などを働いている。
– 安価でシンプル
– 伝統的な方法と対立しない
wiad2012 18
- 19. 補足
参考 関連情報収集サイト
• 友野 典男『行動経済学 経 • Nudge blog
済は「感情」で動いてい – http://nudges.org/
る』 光文社新書
• セイラー&サンスティー
ン『実践 行動経済学』
日経BP社
wiad2012 19