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ゲームデザインを改善/批評するための時間構造モデル「ワンダールクス」
- 7. 情報 反応 遊戯 進行
レイヤーによるゲームのモデル化
↑
魅力
↓
タイムスケール→
Editor's Notes
- 概要
ゲームからプレイヤーに与えられる情報を、プレイヤーが何の帰結として捉えるかによって「情報」「反応」 「遊戯」「進行」の 4 つのレイヤーに分類する方法を定義し、
レイヤー構㐀を用いて任意のゲームを統一された視点 から批評する方法について論じる。また、各レイヤーで情報が得られるまでの時間と、
与えられるモチベーション の持続時間が比例した関係性を持っていることから、プレイヤーのモチベーションの遷移をレイヤーを 1 段階ずつ 通過する事に見立てる事ができる。
この表現によって、モチベーションを維持する上での「ボトルネック」を視覚 化することが可能となる事を示す。
- 今回提唱する「ワンダールクス」は、ゲームから得られる情報を、プレイヤーが何の帰結として捉えるか、
によって「4つのレイヤー」に分類し、そのレイヤーの関係性を論じるものです。
この、レイヤーによる分類というのが最大の特徴で、既存のゲームデザイン論とは違って、
非常に広い範囲のゲームを統一的に扱う、すなわち、抽象的な議論に適している形になっています。
- 既存理論によるゲームデザイン、あるいはゲームの面白さの分類というものは、いわゆる「網羅的」なものでした。
我々が遊ぶゲームには、どのような種類の面白さがあって、それぞれ個別にどのような特徴があるのか、
これを多く見つけていって、網羅していこう、という動きが多かったように思います。
この考え方のメリットとしては、各分類の定義がわかりやすく、はっきりしている、
戦略を考える楽しさと、労力をつぎ込んで積み上げていく楽しさと、運を試すようなスリルと、というように、
個別の議論が深めやすいという側面があります。
一方で、各要素間のつながりを論じることは難しく、何かの楽しさが他の楽しさのために必要であるとか、
この楽しさはすべてのゲームに必要なのか、あったほうがいいのか、無い方がいいのか、といった議論は難しいものとなっています。
- 本理論では、ゲームから得られる情報をフィルター的に、分類します。
これは、それぞれのレイヤーが何かの「面白さ」という概念に直結しているというより、
単にゲームから得られる情報が、プレイヤーが脳内で自分のどういった行動の帰結なのか、
どれだけ意識的、統合的な行動による帰結と捉えるのか、による分類です。
何の行動の帰結としても捉えられないような情報は、最初の「情報のレイヤー」という分類にあたります。
このため、理論上はこの分類は抜け漏れがなく、実際、いかなるゲームにも同様に適用することができ、
応用範囲がとても広いです。
ではこの4つのレイヤーとはそれぞれどんなモノなのか。
- 簡単には、このように表現することができます。
(1) 入力と独立した情報は単に「情報のレイヤー」
(2) 入力へのフィードバックは「反応のレイヤー」
(3) 能力へのフィードバックは「遊戯のレイヤー」
(4) 努力へのフィードバックは「進行のレイヤー」
これは、人間の可能な行動が時間のスケールによって
「情報の認識」→「単純な入力」→「能力の発揮」→「継続的な努力」といったように質的に変化していく事に対する
ゲームの応答をモデル化したもの、と捉えることができます。
後半の、能力や努力に対する情報は認識に至るまでに多くの時間が必要ですが、
それによって得られるモチベーショ ンの持続時間も長い、という傾向があります。
- 図示するとこのようになります。
ゲームから様々な情報を受け取るのですが、最初は情報のレイヤーとして認識されるものが多く、
徐々に反応、遊戯のレイヤーの情報を得るように遷移します。
ここで、縦横に「魅力」と「タイムスケール」という軸を導入しました。
今後、各レイヤーについて議論するとき、そのレイヤーの特徴を、この2つのパラメータに着目して議論を行います。
それぞれ、次のように定義しています。
- 魅力、というのは、そのままではありますが、そのレイヤーの情報を受けてプレイヤーが感じる魅力です。
ここで、この魅力の量というものは、プレイヤーによって違う、その人の嗜好や経験によって大きく異る、というように考えております。
この理論では、あえて「プレイヤーを楽しませるためにこのような魅力が必要」というような定義はいたしません。
例示、のみを行います。
この割り切りによって、個々人の嗜好に左右されづらい、レイヤー構造という本質を扱いやすくしています。
タイムスケール、というのは、その情報が得られるまでの時間、そのスケールを表しています。
ゲームというのは、おおむね「システム」として、同様の事が繰り返される、仕組みを提供しますから、
同種の情報を得るには、それを得るまでのプロセスがあり、毎回時間は少しずつ違うでしょうが、
おおまかにスケールとしては、毎フレームなのか、毎秒なのか、数分に一度なのか、1時間に一度なのか、といった数値化が可能となります。
こうして図式化されたものが先程のレイヤー構造図で、各レイヤーがそれぞれどれくらい魅力があるのか、タイムスケールがどれくらいの範囲なのか、を表しています。
- さて、この理論では、もう一つ大きな定義を行います。
それは、ゲームデザインの目的です。
簡単に言えばそれは、より面白いゲームを作るため、とも考えられますが、
面白さ、とは何か。そもそも、面白いゲームがいいのか、ハマるゲームがいいのか、心に残るゲームがいいのか、何のためにゲームを作るのか、それは製作者によって違います。
- しかし、私がこの理論を提唱するうえで1つ、どのようなゲームデザイナー、ゲーム制作者にもこうなって欲しい、という願いがあります。
それは、そのゲームの面白さや、伝えたいストーリー、何でもいいんですけど、製作者が伝えたい最も大きい情報、
それが得られるまで、プレイヤーが興味を失うことなく、ゲームを続けられるようにしたい。ということです。
ここで「大きい情報」という言葉を定義します。
レイヤー図の中で、進行のレイヤーにあたる情報のほうが、大きい情報、そうでない、情報のレイヤーにあたる情報は、小さい情報、とします。
- ゲーム、あるいはより広く能動的活動を誘発するシ ステムは、能力や努力なくしては得られない、
より大きな情報をプレイヤーに与えるため、あるいはその行動に導くためにデザインされることが一般的です。
そのため本稿では、より大きな情報をプレイヤーに与 えることを、ゲームデザインの目的として仮定します。
RPGであれば、ストーリーを最後まで見て進行感を味わってほしいし、
対戦ゲームであれば、駆け引きが理解できるくらいまで遊戯を味わって欲しい。
もちろん、そこまで無いような、単に気持ちよさを味わって欲しいとか、世界観の魅力を感じて欲しい、というだけのゲームでもいいんですが、
触った瞬間にわかるものは、その時点で目的を達成している。
そこからさらにゲームをデザインして、没入させようという事は、そこからさらにプレイヤーの能力や努力を引き出し、
せっかく作った面白さや物語を感じてもらうまではプレイヤーを導く、という事が大事なのではないか、と考えました。
- そう考えるとレイヤー構造図がこのように見えてきます。
目的とする大きな情報を与えるまで、一連のゲームプレイはこのように、各レイヤーの魅力を感じながらこの中を通っていくこと、に視覚的になぞらえる事ができます。
ここで、例えば反応のレイヤーの魅力が足りなければ、モチベーションが持続しなかったプレイ ヤーがゲームを途中で離脱する要因
すなわちこの図で見て取れるような「ボトルネ ック」がある状態と言えます。
ゲームデザインの目的とは、このようなボトルネックを解消し、多くのプレイヤーが、後半のレイヤー、
より能力と努力を要するような大きな情報へとプレイヤーを導くことにあります。
ボトルネックを解消するということはすなわち、
ボトルネックとなっている部分を太くする、つまりレイヤーの魅力を改善する
あるいは、
全体のテンポを早めることでボトルネックとなっていた箇所を短縮する、
といった工夫が有効であることが、この構造図からわかってきます。
- では実際に、各レイヤーの魅力とタイムスケールを変更することで、レイヤー構造にどのような変化が起こるのか、1つずつ見ていきましょう。
- まず、情報のレイヤーについて。
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3.1 情報のレイヤー:入力と独立した情報
いかなる入力の結果としても認識されない情報は、情報のレイヤーに属する。例としては背景、音楽、環境音、それらのプレイヤーの入力によらない変化が該当する。これらの情報は、ビデオゲームであれば毎フレームという単位で自動的に与えられるものであり、ゲーム全体に偏在する。キャラクターの見た目や世界の設定なども、それがプレイヤーの行動の結果と結びつく以前に最初からそうであった情報は、情報のレイヤーの魅力として認識されるが、それがプレイヤーの能力や努力によって変化した情報であれば遊戯や進行のレイヤーの魅力として認識される。
情報のレイヤーの魅力が大きい時、すなわち世界そのものが魅力的であることにより、プレイヤーは入力して世界に関わりたいと感じる、それによって次の反応のレイヤーへとモチベーションが遷移する。情報のレイヤーの魅力が少ない時、すなわち動かない画面や聞き飽きたサウンドは没入感を奪い去っていく。
情報のレイヤーの魅力が小さい場合でも、頻繁に入力を必要とするようなゲーム、例えば格闘ゲームのようなゲームデザインであれば、情報のレイヤーは短縮され、ボトルネックとはなりにくいと言える。
- 3.2 反応のレイヤー:入力へのフィードバック
システムに対するプレイヤーの入力の結果として認識される情報は、反応のレイヤーに属する。入力とは、何らかの意識的判断の遂行のため、ほとんど無意識に実行可能な行為と定義する。例としてはビジュアルエフェクトやサウンドエフェクト、身体的なフィードバックなど、入力から即座に返される情報が該当する。ただし、コマンド選択式の戦闘におけるコマンド選択とコマンド実行など、入力とフィードバックが離れている場合でも、簡単な入力に対応する結果として認識されればそれは反応のレイヤーに属する。また、コンボ入力など、人によっては意識的判断を要求するような行為に対する情報は、その操作を意識的に行っているうちは遊戯のレイヤーに属しており、無意識にできるようになると反応のレイヤーに属する。
反応のレイヤーの魅力が大きい時、プレイヤーはより大きい反応を得るためにゲームに勝利したい、あるいは入力不能な状態を避けたい、として次の遊戯のレイヤーへとモチベーションが遷移する。
反応のレイヤーの魅力が小さい場合も、次々と意識的判断を要求されるようなゲーム、例えばローグライクのようなゲームデザインであれば、プレイヤーが十分にルールを理解して魅力が伝わっていれば遊戯のレイヤーにおいてモチベーションを維持することが可能である。しかし、いかに早く遊戯の結果をフィードバックしたとしても、一般にプレイヤーがそのメカニクスに習熟するまでには時間を要することから、それまでの間は反応や情報のレイヤーなど、より小さい情報による魅力が重要であると言える。
- 3.3 遊戯のレイヤー:能力へのフィードバック
プレイヤーが自身の能力を行使した事に対する評価として認識される情報は遊戯のレイヤーに属する。能力とは、目的の達成のために何らかの意識的判断をする力のことと定義する。具体的には、戦闘における戦略的思考や、収集などの効率化、パズルにおける考察、アクションにおける状況判断、謎解きなど、それらの判断に対する成功か失敗かあるいはその中間目標に対する中間的な評価が該当する。
遊戯のレイヤーの魅力が大きい時、プレイヤーはより効率的に能力を発揮するための成長や、勝利に付随する実績や意味を求めて、次の進行のレイヤーへとモチベーションが遷移する。
遊戯のレイヤーは創発的な情報を含む。ここで言う「創発」および次項で定義する「進行」という概念は、Ernest Adams(2012)らが提唱した「創発型」および「進行形」の分類[2]を参考にしている。創発的な情報は、少ないリソースから多くの魅力ある情報を作り出せるという点でゲーム制作面におけるメリットがある。
遊戯のレイヤーの魅力が小さい、または遊戯という要素が無い場合でも、常に進行感を与えるようなゲーム、例えばノベルゲーム、アドベンチャーゲームのようなゲームデザインであれば、遊戯のレイヤーを短縮してテンポよく進行感を与えることで、遊戯による魅力が小さくてもボトルネックとなりにくいと言える。
- 3.4 進行のレイヤー:努力へのフィードバック
プレイヤーが努力した結果としてシステム内部または現実に残ると認識される情報は進行のレイヤーに属する。具体的には、次のステージへの到達、新しい景色、パラメータやアイテムの追加や変化、キャラクターの関係性や状況の変化、そしてゲームシステム内だけではなく、現実世界での関係の強化や、ユーザーが作り出すコンテンツなどが該当する。
進行のレイヤーの定義における「努力」は遊戯の集合あるいは入力の集合あるいは単に視聴を続けているだけ、という場合も含む。しかし、プレイヤーが努力したという事実があった方が、単に入力あるいは視聴しているだけで進行が得られた場合に比べて記憶に残りやすいという点から、進行のレイヤーの魅力に寄与する。
進行のレイヤーの定義において重要なのは情報が残ること、すなわち外的要因や自らによる消去、忘却がなければ無くならないという事実である。限定されたセッションの内部でのみ影響が保持されるような情報は、セッションの長さにもよるが、必ず失われるという認識があるため進行感は薄い。
仮想世界であればセーブデータやサーバーのデータの安定性に対する信頼があることで進行感が担保される。現実世界であれば「プレイヤー自身の記憶」というシステムもまた、半永久的に情報を残すことが可能であるため、記憶に残る状況やセッションは進行のレイヤーの情報となる。あるいは、ゲームをプレイした事実やそこで得た情報を友人や他人に向けて公開することで社会的にその情報を残したり、通常は記録が残らないような情報もそれを数値化してシステムに残したりすることで進行感を作り出すことができる。このように、進行のレイヤーの情報は仮想世界、現実世界を問わずに様々な手段で付与することが可能である。
進行のレイヤーの魅力が大きいとき、プレイヤーはそれまでの行為に「意味がある」と感じることができ、情報、反応、遊戯のレイヤーで没入していた時間やその行為全体を肯定的に捉えることが可能となる。
- 4. 結論
本理論を用いてゲームからプレイヤーに与えられる情報を4つのレイヤーに分類することにより、プレイヤーをそのゲームが与えうる大きい情報にモチベーションを保ちながら導くまでには何がボトルネックとなるのかを、
各レイヤーの魅力とそれを与えるまでの時間のスケール、という2軸から視覚的に解析することが容易となることを示した。
また、情報、反応、遊戯、進行のレイヤーに属する情報の条件を定義し、それらの魅力とタイムスケールの調整によってモチベーションのボトルネックを解消する方法をそれぞれ示した。
ここで、各レイヤーの魅力については、例示のみを行い定義はしていない。ある情報を魅力的と感じるかどうかは個々人の経験や嗜好による部分が大きい、と考えたためである。
本理論ではそういった評価軸を「魅力」として抽象化することで表現されるレイヤー構造について扱い、個々人による違いは各レイヤーに対する期待の大きさという4つの変数まで最適化されるため、
普遍性が高いと考えている。また、各レイヤーにおける個別の理論、例えば魅力的なシステムを構築するには、といった理論は容易に本理論と並列に利用することが可能である。
- 5. 理論の応用について
ゲームの発想段階においては、本理論はゼロから何らかのアイデアを創出することを支援するものではないが、そのシステムが持つフィードバック構造を即座に可視化し、高速に評価あるいは改善するための共通言語としての利用が期待される。
ゲームの製作段階においては、重要な魅力のうちのほとんどが未実装である段階が長く続くことになる。この時、本理論におけるボトルネックが発生しやすく、
制作上でのモチベーション維持やゲームへの正しい評価が難しい場合がある。未実装の段階では、実装後にどのレイヤーが強化されるかを想像したうえでそこを補完して遊ぶ、
あるいは可能な限り小さい情報を与えるレイヤーから順に完成度を上げていく、などの手法によって制作を進めやすくなると考えられる。
ゲーム以外への活用については、レイヤーの定義がプレイヤー側の情報の認識方法を基準としているため、任意の能動的活動についてもそのフィードバック構造を分析できるようになっている。
この適用範囲の広さを利用することで、様々な能動的活動の魅力をゲームに応用したり、あるいはゲームの魅力を能動的活動に転用する、すなわちゲーミフィケーションを行うための基盤としても活用が可能である。
- 6. 謝辞
本稿の原型となる理論を構築するにあたり、多くの助言をいただいた「ゲームデザインの魔導書」執筆チームの皆様に感謝いたします。