More Related Content Similar to リスク可視化の基本的方法 (20) More from Takayuki Itoh (6) リスク可視化の基本的方法2. 最初に言い訳
• 根っからの理工学・情報科学の出身です
– 理工学部出身→ IT企業→ 情報科学科教員
• 医療安全の業務に携わったことはありません
– 医療安全の学会も初めての参加です
• 『手段の研究』の話をします
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
– 汎用的な道具(=手段)としての可視化の研究をしています
• 本講演の論旨:
1) 可視化の定義
2) 他分野でのリスク可視化の研究事例紹介
3) 可視化の適用に関する議論
1
3. 講演内容
• 前置き
– 本講演における可視化の定義
• 可視化は身近になった
• ビジュアルアナリティクス
~より深い知識の発見へ
• お茶大伊藤研究室におけるリスク管理関係の可視化
– 薬物探索情報の可視化
– 原子力システムの計測情報の可視化
– クレジットカード不正検出のVisual Analytics
– ネットワーク不正侵入検出結果の可視化
• 議論
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Ochanomizu University
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5. 本講演での「可視化」の範疇
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
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• 計算機の画面上での『可描化』
• 主に以下を対象とする
– 計算によって初めて得られる知見の表現
– 文章や数字では伝えきれない情報の伝達
– 図示することで初めて理解できる知識の理解
本講演が対象としない事例1:
「今日の電力消費は80%」
図示しなくても読み上げれば理解
できる事象を「可視化」と称する事例
本講演が対象としない事例2:
「ビデオによる捜査の可視化」
計算しなくても撮影すれば理解
できる事象を「可視化」と称する事例
6. 「可視化」には学術的に2種類ある
• Scientific Visualization
(SciVis)
– 主に科学技術系データ
(物理計算、医療画像、分子…)
– 主に物理空間
• Information Visualization
(InfoVis)
– 科学に限らず一般的なデータ
(金融、流行分析、セキュリティ…)
– 主に論理空間
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
7. 「可視化」には学術的に2種類ある
• 歴史的にはSciVisのほうが古い
– 流体の実験・計算結果の表示
– 分子構造の立体表現
– 医療画像からの3次元形状の復元
• 本講演ではInfoVisを対象
– 直訳すると「情報可視化」
– 「データ可視化」と呼ぶ人も
(明確な定義の違いはない)
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Ochanomizu University
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医療関係者の中には、可視化といったら
SciVisを連想する人も多いはず
8. 講演内容
• 前置き
– 本講演における可視化の定義
• 可視化は身近になった
• ビジュアルアナリティクス
~より深い知識の発見へ
• お茶大伊藤研究室におけるリスク管理関係の可視化
– 薬物探索情報の可視化
– 原子力システムの計測情報の可視化
– クレジットカード不正検出のVisual Analytics
– ネットワーク不正侵入検出結果の可視化
• 議論
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Ochanomizu University
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10. 難しく考える必要はない
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Ochanomizu University
• 世界で最近最も注目された可視化結果のひとつは
単なる折れ線グラフである
• 棒グラフや折れ線グラフだけでも可視化は実現できる
– 例えばEXCELの表やグラフは立派な可視化ツールである
• 可視化はさりげなく日常に浸透している
– マスメディアでの「インフォグラフィックス」の普及
– インターネット上でのリアルタイムな可視化技術の普及
– 解説書の充実
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14. 有名な書籍に紹介されている技法
• 棒グラフ、折れ線グラフ以外にも
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身近によく見かける数々の技法が「可視化」を実現する
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レーダーチャート
Sankeyチャート
バブルチャート
ヒートマップ
• 言い換えれば、可視化するだけなら既存の描画技法で十分である
15. では情報可視化の学術的論点はどこなのか
• 新しい表現の追求
• 大規模化、複雑化への対応
• 入力情報による分類[1]
• 操作方法
高次元、木構造、グラフ、時系列…
• 実用分野の拡大
• 視認性や実用性の検証・評価
• その他…
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[1] B. Shneiderman, The eyes have it:
a task by data type taxonomy for information
visualizations, Proc. Visual Languages, 1996.
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Visual information seeking Mantra (念仏) [1]
Overview first, zoom and filter, details on demand
16. 講演内容
• 前置き
– 本講演における可視化の定義
• 可視化は身近になった
• ビジュアルアナリティクス
~より深い知識の発見へ
• お茶大伊藤研究室におけるリスク管理関係の可視化
– 薬物探索情報の可視化
– 原子力システムの計測情報の可視化
– クレジットカード不正検出のVisual Analytics
– ネットワーク不正侵入検出結果の可視化
• 議論
Itoh Laboratory,
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19. Visual Analytics … より深い知識の発見へ
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• 情報をそのまま可視化して得られる知識は限られている
• そこで「分析と可視化を反復する」ことで知識を発見する
システムの開発が進む→ Visual Analytics の台頭
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情報提示
可視化
人間による操作・判断
計算機による分析
知識・勘
次の分析への
意思決定
知識発見
領域特定
重要知識の付与
局所への絞込み
20. ウェブのアクセス傾向の単純な情報可視化
• ページごとのアクセス数を
単純に3D棒グラフに
棒→ ページ
色& 高さ→ アクセス数
境界線→ ディレクトリ
• 単純な集計結果を表すのみ
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講義資料
論文
トップページ
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※データ:お茶の水女子大学伊藤研究室ウェブサーバーより
21. ウェブのアクセス傾向のVisual Analyticsの例
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
• まずアクセスパターンを分析し、その結果を色で表現する
20
一定以上の人数が訪問したページのセットに特定の色を割り当てる
研究室
メンバー
講義科目リスト
出張記2
出張記1
科目A
論文
科目B
※データ:お茶の水女子大学伊藤研究室ウェブサーバーより
22. ウェブのアクセス傾向のVisual Analyticsの例
• まずアクセスパターンを分析し、その結果を色で表現する
21
出張記1
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2000年の出張記(全17ページ)を
全ページ読んでいる人が一定数いる
※データ:お茶の水女子大学伊藤研究室ウェブサーバーより
23. ウェブのアクセス傾向のVisual Analyticsの例
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
• まずアクセスパターンを分析し、その結果を色で表現する
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科目A
論文
科目B
科目A
科目(B)
科目B
科目(A)
試験のある科目(A)は全資料にアクセスがあり、
試験のない科目(B)は一部の資料にアクセスがある
※データ:お茶の水女子大学伊藤研究室ウェブサーバーより
24. リスク管理にはVisual Analytics
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リスク管理には多角的な情報から重要な知識を切り出す必要がある
→ 必要なのは単なる可視化ではなくVisual Analytics である
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• 単なる可視化なら既に
便利なツールが揃っている
• 複雑なVisual Analyticsには
専用の作り込みが必要
(必要に応じてご相談下さい)
• 情報を多角的に表示する複数の可視化技術
• 重要な知識を切り出すための分析技術
• これらの技術を正しく組み合わせる全体的な設計
25. 講演内容
• 前置き
– 本講演における可視化の定義
• 可視化は身近になった
• ビジュアルアナリティクス
~より深い知識の発見へ
• お茶大伊藤研究室におけるリスク管理関係の可視化
– 薬物探索情報の可視化
– 原子力システムの計測情報の可視化
– クレジットカード不正検出のVisual Analytics
– ネットワーク不正侵入検出結果の可視化
• 議論
Itoh Laboratory,
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26. 薬物探索情報の可視化
• 製薬には時間がかかる
– かつてNew York Times で、1種類の薬品の開発に
『12年&8億ドルかかっている』と報道されたことがある
• 探索プロセスの節減、臨床リスク低減のために
– 理論から実験結果を予測することが重要視される
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創案探索前臨床臨床
製薬候補となる
各種の化合物
理論(構造的特徴) CYP2C9
CYP2D6
CYP3A4
既知の実験結果
実験結果予測
↓
薬品の機能予測へ
27. 薬物探索情報の可視化
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• 分子構造に関する特徴で薬物を分類
• 色合いで実験の種類、色の濃さで実験値の大きさを表現
• 未実験の新薬物の実験値を分子構造から予測するために
可視化が実用される
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灰色の枠: 同一分類に属する薬物群
左:分子構造から実験値が
予測できそうな薬物の集合
カラフルなドット:薬物
右:分子構造から実験値が
予測できなさそうな薬物の集合
28. 講演内容
• 前置き
– 本講演における可視化の定義
• 可視化は身近になった
• ビジュアルアナリティクス
~より深い知識の発見へ
• お茶大伊藤研究室におけるリスク管理関係の可視化
– 薬物探索情報の可視化
– 原子力システムの計測情報の可視化
– クレジットカード不正検出のVisual Analytics
– ネットワーク不正侵入検出結果の可視化
• 議論
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30. 可視化例
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わずか1個の計器が
急激に値を増している
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しかし、このわずか1ヶ所の異常により
システム全体の停止の必要性が生じる
非常に多くの棒グラフが低い青
=異常に低い値で安定している
幸いにしてシステムは
無事に停止に向かっていた
システム全体にわたす多数の値を同時に眺めることが、危険発見や全体的措置に貢献する
31. 講演内容
• 前置き
– 本講演における可視化の定義
• 可視化は身近になった
• ビジュアルアナリティクス
~より深い知識の発見へ
• お茶大伊藤研究室におけるリスク管理関係の可視化
– 薬物探索情報の可視化
– 原子力システムの計測情報の可視化
– クレジットカード不正検出のVisual Analytics
– ネットワーク不正侵入検出結果の可視化
• 議論
Itoh Laboratory,
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32. クレジットカード不正検出のVA
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• クレジットカード不正検出のためのルール作成支援のために
不正分布理解のVA (Visual Analytics) を確立する
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カード加盟店
不正検出
システム
ルール作成支援ツールとしての
情報可視化システム
ルールに
該当すると
警告
[問題点] カード会社が独自ルールを手動設定
⇒不十分なルールや不必要なルールが設定されている現状
33. 盗難/偽造カードの不正手口の違い
不正種別によって時間帯に偏りがある
色: 不正種別
51: 紛失
52: 盗難
53: 偽造
54: 番号盗用
55: その他
縦: 加盟店コード
横:時刻
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■51:紛失
■53:偽造
…日中~夜
■52:盗難
…深夜~早朝
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ガソリン・オイル類のみ表示
※夜間の(特に居酒屋や電車の)
盗難カードを、翌朝までに一気に
不正使用しようとする手口がある
らしい、という知見が検証された
34. 講演内容
• 前置き
– 本講演における可視化の定義
• 可視化は身近になった
• ビジュアルアナリティクス
~より深い知識の発見へ
• お茶大伊藤研究室におけるリスク管理関係の可視化
– 薬物探索情報の可視化
– 原子力システムの計測情報の可視化
– クレジットカード不正検出のVisual Analytics
– ネットワーク不正侵入検出結果の可視化
• 議論
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35. ネットワーク不正侵入検出結果の可視化
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• 怪しい要因を含む通信をその都度ログに記録する
– 怪しい要因=人が設定したルール
• 怪しさ自体を自動判定する研究も多いが、完璧ではない
• (聞くところによると)日本では特に自動判定に対して慎重らしい
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http://www.secomtrust.net/service/kanshi/fusei.html
可視化の意義
•ルールだけではわからない
「本当の怪しさ」の判断
•不正侵入の時間的分布の理解
•不正侵入の空間的分布の理解
36. 可視化例(1)
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多数の送信元
多数の受信先
集中攻撃中の受信先
集中攻撃中の送信元
多数の送信元から多数の
受信先へのアクセスで、
探りを入れている?
カモになる送信元と受信
先を発見したので、集中
攻撃を開始した?
青い棒:怪しい通信の送信機(加害者) 赤い棒:怪しい通信の受信機(被害者)
37. 可視化例(2)
Itoh Laboratory,
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新しく集中
攻撃される
受信先
引き続き集
中攻撃され
る受信先
新しい送信元同一ドメイン
内に横断的に
攻撃される受
集中攻撃の送信元をきら信先
れたので、新しい送信元か
ら集中攻撃を続行?
新たな攻撃の標的を
特定組織の中に探し
ている予感?
青い棒:怪しい通信の送信機(加害者) 赤い棒:怪しい通信の受信機(被害者)
38. 講演内容
• 前置き
– 本講演における可視化の定義
• 可視化は身近になった
• ビジュアルアナリティクス
~より深い知識の発見へ
• お茶大伊藤研究室におけるリスク管理関係の可視化
– 薬物探索情報の可視化
– 原子力システムの計測情報の可視化
– クレジットカード不正検出のVisual Analytics
– ネットワーク不正侵入検出結果の可視化
• 議論
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39. 議論1:リスクの可視化に何が必要か
• 単に可視化するならExcelでもできる
Itoh Laboratory,
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…が、目的によっては可視化システムの作りこみが必要
• 深い知識を発見するには
– 複数の可視化画面の併用
(例えば、全体俯瞰の画面と、詳細探索の画面)
– 分析技術の併用を含めた全体的なシステム設計
• 瞬時にリスクを発見したいなら
本講演の例では、薬物分類分析、
– データ全体をリアルタイムに俯瞰するシステム構築
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ウェブのアクセス分析など
本講演の例では、ネットワークや
原子力システムのリアルタイム監視
40. 議論2: 海外ではリスク可視化に投資されている
• 911連続テロ以降の国防対策への投資
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– 意思決定や仮説検証の手段としてVisual Analytics にも集中投資
→近隣学術分野の多くの研究者が参入
– セキュリティ、生命情報、災害対策などの可視化が特に発展
• 日本では同じ動きはなく、むしろ私の国内経験では
可視化に対してこんなことを言われる…
「何も見ないで済む技術が欲しい」
「自分の管轄以外の情報は見たくない」
→ 総論として、情報から目をそむけようとする発言が多い
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議論:日本人はいくつかの場面で
意思決定や仮説検証を放棄しようと
しているのではないか?
41. 医療にも:計算機と人間の共存型意思決定
• 事例:IBM ワトソン
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– 2011年米国のクイズ番組で人間を破ってチャンピオンになった
コンピュータシステム
– 医療への応用
• 患者の症例から仮説をたてる
• 複数の解答(病名)候補とその確信度を計算機が返す
• 医者が総合的な判断により治療法を決定
• 持論:「可視化」の役割も同じ
人間による仮説検証と意思決定のための、能動的・主観的な分析手段
http://www-06.ibm.com/software/jp/info/ibmsoftware/bao/interview.html
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42. まとめ
• 可視化の概論
– 難しく考える必要はない
– 単にデータを可視化するならExcelでもできる
• リスク可視化にはVisual Analytics
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– 複数の可視化手法の併用、分析手法の併用などが望ましい
– 単なる可視化で十分とは限らない(作りこみが必要な場合も)
• 可視化することはゴールではない
…例えば以下の工程を支援するものである
– リスクの原因に対する仮説と検証
– リスク低下のための意思決定
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43. おまけ:医療安全のための可視化を始めました
Itoh Laboratory,
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• 医療画像の特徴から考えうる病状を計算機で予測
• 意思決定を支援するための可視化結果を提供
特徴算出
特徴値1
特徴値2
データベースとの
照合による病状予測
可視化による
専門家への伝達
※シドニー大学滞在中(2014年8~9月)の共同研究として開始
※未発表研究につき技術的詳細は紹介しません