なぜ技術的負債というメタファーが意図と外れて広がってしまったのか？メタファーを創造的に使うとはどういうことか？について某所でミニ講義をしたときに資料をみつけたのでアップしてみた。

1. 2020/09/02
Methaphorical Thinking
as Creativity
Takeshi Kakeda

2. 「メタファー」を使うのは難しい？
誤解されたまま広がっちゃった例
• 「技術的負債」を巡るもろもろ
• https://t-wada.hatenablog.jp/entry/ward-explains-debt-metaphor
• 「日本語版を公開 : 論文「技術的負債とオープンソース開発」」
• https://www.jiji.com/jc/article?k=000000121.000042042&g=prt
• 「負債」
• 借りるのは「早期にリリースすることで得られる知識」であり、返済は「得た知識をリファクタリングによってフィードバックすること」である
• Ward の言う負債の悪影響とは開発と共に得られていく知識、理解と目の前のシステムとの乖離が引き起こす生産性低下のことであり、
自分たちが書いているコードの保守性（あるいは、雑さ）のことではありません。むしろコードを書くときには常にそのときのベストを尽くせと
言っています。
• 言い換えるなら、負債のメタファーで大事なのは返済してメタファーを味方につける力であり、それは問題を理解するに従ってリファクタ
リングしていけるような、十分にきれいなコードを書いているかどうかで決まるのです。

3. 「（技術的）負債」の写像構造
金融 ソフトウェア（意図） ソフトウェア（誤解）
借入する ソフトウェアをリリースして知識を得る 時間と引き換えに雑なコードを書く
返済する
得た知識をソフトウェアに盛り込む
（リファクタリング）
リファクタリングせずに新しいコードを書く
負債 コードに盛り込まれていない知識（？） 雑なままのコード
利子が増える 開発速度が遅くなる（？） 開発速度が遅くなる

4. どうしてこうなった？
• オリジナルの「負債」のメタファーがピンとこなかったから（？）
• 金融ドメイン以外の多くの人には直感的ではなかった？
• →「知識が含まれないソフトウェアが開発速度を低下させる」という点が論理飛躍してる？
• 「負債」の捉え方が人によって異なるから
• 借入＝良いものだ／してはいけないものだ
• 誤解された「技術的負債」の方が人々のメンタルモデルにマッチするため
• 写像点が多い＝似ている、構造として類似性を感じる

5. メタファーは一人歩きして
誤解を招くことがある

6. では良いメタファとは？

7. 創造的なメタファーの使い方
クリエイティビティのためのメタフォリカル思考
• 人はメタファーで既知を未知に当てはめて理解する
• 何かを「喩えて説明する」だけでなく
「メタファによって得られた洞察」を盛り込むのがよいのではないか？
• 技術的負債の例だと
• 負債＝組み込まれていない知識
• 「借入はいつ行えばいいのか？」
• 「利率はどうしたら下がるの？」
• 「借金返済の戦略は？」
• メタファーからの発想が大事！！

8. 「（技術的）負債」のメタファーからの洞察を含める
「洞察」こそがクリエイティビティ！
金融 ソフトウェア（Wardの意図）
借入する ソフトウェアをリリースして知識を得る
返済する
得た知識をソフトウェアに盛り込む
（リファクタリング）
負債 コードに盛り込まれていない知識（？）
利子が増える 開発速度が遅くなる（？）
「利率は？」 ？？？
「いつ借り入れするべきか？」 ？？？
「借金返済の戦略は？」 ？？？

9. メタファー思考ポイント
• 写像点が少ない（＝離れている）ほど意外性がある→心に残りやすい
• ちょっと捻ったメタファは注意しよう（でも洞察得るためにはいいと思う）
• 説明だけでなく、得られた洞察を盛り込むことで誤解を回避（できるかな？）
• 人はメタファーで思考しているのでメタファーをうまく使おうね。
• 前のPJ経験を生かして、新しいPJに取り組むのもメタファだよ