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Icoトークンセールスの最新事情
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ICO/トークンセールスの最新事情
©2017 Mori Hamada & Matsumoto all rights reserved
October 25, 2017
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Contents
1.暗号通貨の正体
2.暗号通貨で今起きていること
- 3. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 2‐
1. 暗号通貨の正体
暗号通貨(Cryptocurrency)の本質が何なのかについては、未だ世界中で議論が行われている
現在のところ、最もその本質を突いていると思われる見解は以下のとおり。
そもそもCryptocurrencyという名称が誤解の元であり、ブロックチェーンによってコストを掛けることなく生成可能となった、暗号
技術を用いたインターネットネイティブな新たなアセットクラスと理解するべきとする見解(Adam Ludwin)
-Cryptocurrencyがビットコインから始まったことによって、通貨と関係がある何かであると世界中の人が誤解した
Cryptocurrencyとは、分散型アプリケーションを可能にする新たなアセットクラスのことをいう
通貨とは無関係であり、交換だけのために存在するという代物ではない
他のアセットクラスと同様に考えることができる
• エクイティは営利法人のためのアセットクラス
• 公債は国家や地方政府のためのアセットクラス
• モーゲージは不動産所有者のためのアセットクラス
• 前払式支払手段は中央集権的アプリケーション(=商品・役務)のためのアセットクラス
• Cryptocurrencyは分散型アプリケーションのためのアセットクラス
分散型アプリケーションとは、ブロックチェーンによって現実的になった新たな組織やソフトウェアの形態のこと
分散型組織 ⇔ 会社組織(業務執行者が存在する組合型組織もこちら)
分散型ソフトウェア ⇔ これまでのソフトウェア
分散型と中央集権型はどちらが優れているというものではなく、それぞれが一長一短でトレード・オフの関係に立つ
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1. 暗号通貨の正体
分散型アプリケーションとは何か?
分散型アプリケーションとは、これまで存在していたアプリケーションを、信頼できる中央管理者を置くことなく実現するこ
とができるもののことをいう
(例)ビットコイン : ペイメントの分散型アプリケーション
ペイメントとは、ユーザーの残高を追跡・更新する(=管理する)ことができる機能
紙幣など物理的な形態をとらずにこれを行うため、信頼できる残高管理の主体が必要
ナカモトサトシ論文の提案する解決方法は以下のとおり
• P2Pネットワークを作り、すべての取引を全員に通知する
• 通知では、ネットワーク上で消費したい資金を特定、これを暗号を用いて署名することでその取引が自ら行ったものであることが分かる
ようにする
• 二重消費を防止するためのタイムスタンプが必要になる。その方法として①誰かに最初の取引につきタイムスタンプを押させる方法、
②タイムスタンパーを競争によって都度決める方法がある
• 競争による解決はマーケットソリューション、そのためには報酬が必要になる。これがビットコイン
• 競争の手段は電気代を食う計算競争とする。コストを掛けさせてリワードすることで、同じコストを割いて悪事を働くインセンティブを下
げる。これによりアダム・スミスの言う「我々が食事をできるのは、肉屋や酒屋やパン屋の主人が博愛心を発揮するからではなく、自分
の利益を追求するからである」と同じ原理を作り出し、ペイメントの仕組みを回す
• 電気代の支払いのためにマイナーはビットコインを売却することになり、これによりビットコインが流通することになる
• ビットコインは、中央管理者を市場競争に置き換えるためのリワードとして機能するとともに、支払ネットワーク上の支払手段として機
能する②
同様にFilecoinは余剰ハードディスクスペースの提供者の報酬としてFilecoinが提供され、P2Pネットワーク上のストレージ
を用いるためにFilecoinが必要となる。
Ethereumは分散型アプリケーションを組成するための分散型アプリケーション。①etherによるP2Pネットワークが既に組成
されている上にアプリケーションを展開することができ、②アプリケーション組成のためにチューリング完全なシステムとして提供
されている(world computer)ため、スクラッチで分散型アプリケーションを作るよりもずっと容易にサービス生成可能。
Etherはコンピューティングリソースの提供者に報酬として提供される。
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1. 暗号通貨の正体
分散型アプリケーションはすべてのソフトウェアの未来の姿なのか?
中央集権的アプリケーションである銀行預金やペイパルと較べてすべての人にとってビットコインが優れているといえるわけで
はないのと同じように、分散型アプリケーションがソフトウェアの未来を制することになるわけではない
Filecoin ⇔ Dropbox, iCloud
Ethereum ⇔ Amazon EC2, Azure
どちらが優れている?
分散型アプリケーション 中央集権型アプリケーション
パフォーマンス 低い 高くすることが可能
スケーラビリティ 限界あり 高くすることが可能
UX 限界あり 改善可能
ガバナンス 柔軟性低い 柔軟性あり
コスト 外部性を活用 管理者が一義的に負担
単一障害点 なし あり
検閲耐性 システムが担保 管理者を信頼するほかない
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1. 暗号通貨の正体
以上を踏まえると、ICOはどのように捉えるのがフェアなのか?
ICOは、分散型アプリケーション開発(ソフトウェア開発+P2Pネットワーク開発)のための費用をファンディングするための
手段であり、購入型、寄附型、投資型、貸付型と並ぶ新たなクラウドファンディングの形として捉えられる
購入型クラウドファンディング: 中央集権型アプリケーション(=商品役務)の開発費用をファンディング
アプリケーションの購入代金をあらかじめ受け取る
代金の代わりに提供されるものが、提示型のもの(=保有者が提示すればアプリケーションを入手・利用できるもの)
である場合は、前払式支払手段として取り扱われる
代金のかわりに提供するものは、ブロックチェーン(ERC20)ベースのトークンであることも可能だが、これはあくまでも
前払式支払手段であって真正なICOトークンではない
ICO型クラウドファンディング: 分散型アプリケーション(=商品役務)の開発費用をファンディング
分散型アプリケーションへのアクセス料金をあらかじめ受け取る
代金の代わりに提供されるものが、仮想通貨の定義に当てはまる場合には、仮想通貨として取り扱われる結果、販
売者は仮想通貨交換業の登録を要することになる
1号仮想通貨:金銭により売買可能
2号仮想通貨:1号仮想通貨により売買可能
※ 分散型アプリケーションでありP2Pネットワーク上で展開されるものである以上、不特定の者を対象とする支払(ア
クセス)手段となるべく発行されることになる
ICOトークンが仮想通貨の定義に当てはまる場合、販売者は仮想通貨交換業の登録を要する結果、買主に対して
KYCを実施することが必須になる
※ 全般を通じ「アプリケーション」というのはリアルのサービスを含む。リアルビジネスを含む全てのサービスはソフトウェア化、インターネット化するという仮説を前提としてい
るので、全体がネットで完結するいわゆる「アプリ」かリアルと融合したサービスの話なのかを区別する意味はもはやない。
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1. 暗号通貨の正体
分散型アプリケーションにおける「組織」とはP2Pネットワークのこと
「暗号通貨はソフトウェアと組織のためのアセットクラス」というときの組織は、中央管理者が存在する従来型組織では
ありえず、したがってICOは伝統的な事業体(法人や組合)によるエクイティ調達の話とは異なる
他方で、分散型アプリケーションに必要なリソースをトークンで調達することには、これまで人類が経験を通じて生み出
してきた利用者保護のプリンシプルとのコンフリクトが垣間見られる
<ICOの弱点>
ICOは、ファイナンスの仕組みとしてプリンシプルベースで見たときのリーガル面での脆弱性を払拭しきれない
マーケットを不可避的に用いることになるがゆえの問題点(マーケット法制の未整備)
ネットワーク効果の獲得のために国境を超えることが重要になる反面、各国規制の問題に直面
国境を超えるトランザクションは、AML/CFTの枠組みではハイリスク類型に属することになっている
• 調達額の大きさもAML/CFTの枠組みではハイリスクと認定される要因
分散型アプリケーションは、中央集権型アプリケーションに比べて、金融を含むレギュレーションの必要性の根幹をなす
「情報の非対称性」が定型的に大きい
トークンの販売につき消費税が課されるとともに販売額は売上に計上
<分散型アプリケーションの開発資金の調達のための代替的手法>
制度が整った中央集権型資金調達の枠組みを借用するSimple Agreement for Future Tokens(J-SAFT)
匿名組合出資の自己募集として、第二種金融商品取引業者がこれを取扱う(ファンド投資型クラウドファンディング)
通常の投資型クラウドファンディングと同じように資金を調達
ソフトウェアが開発され、分散型アプリケーションが稼働する段階でファンドを解散し、残余財産としてトークンを分配
投資家に対してはKYCとともに金商法上の情報提供の枠組みが用意される
開示規制と運用規制は適用されない
調達資金はエクイティとして取り扱われ、消費税も課されない
- 8. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 7‐
1. 暗号通貨の正体
分散型アプリケーションがソフトウェアを制することがないのと同じように、ICOは伝統的なエクイティ調達を
ディスラプトしない
<クラウドファンディングと伝統的資金調達の関係>
クラウドファンディングによる調達の成功は、伝統的資金調達における資金供給者による資金提供を促進する
クラウドによるプロダクトの目利き(マーケットフィットの証明)が伝統的な金融セクターにコンフィデンスを提供
テスラによる40万台のモデル3の予約 ⇒ 14億ドルの株式市場による公募増資
購入型クラウドファンディングによる調達成功 ⇒ 銀行や公庫からの借入れ
購入型クラウドファンディングによる調達成功 ⇒ シードラウンドにおけるVCからのエクイティ調達の成功
<ICOと伝統的資金調達の関係>
伝統的手法による資金調達の成功は、ICOにおける資金供給社による資金提供を促進する
伝統的な金融セクターによるデューディリジェンスとその結果の与信提供が、ICOにおける情報非対称性を縮小する
TechBureau社による16億円のシリーズB調達 ⇒ 95億円のICOによる資金調達
同様に、ICOはアプリケーションのための調達手段なので、事業体の資本戦略と両立すると考えるのが合理的(社債の
公募調達によってIPO不適格とならないのと同じ)
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2 暗号通貨で今起きていること
Cryptocurrencyの価格が急上昇し、ICOトークンが激売れしているのはなぜなのか?
現状の仮想通貨・ICOトークンのブームは、行動経済学におけるメンタルアカウンティングの一種であるハウスマネー効果に
より説明することができる
ギャンブルに勝った人は、これによる棚ぼた的利益を通常の労働対価分とは異なるアカウントで把握、労働対価分の
収入では行わないようなリスクを取ったギャンブルを行うことが知られている(ハウスマネー効果)。
現在の仮想通貨・ICOトークンの相場は、初期のビットコインやイサリアムの投資家が得た棚ぼた的利益が、更に別の
仮想通貨やICOトークンへの投資に回るという、ハウスマネー効果によって主導されている。
上記の相場が現出すると、それ以外の者もFOMOに陥り、相場が崩れるまでこれが続くことになる。
「理解できないものに投資をするべきではない」という投資の黄金律に反して知人が次々ビリオネアになるのを見ると、
「理解できないものこそ投資をするべきである」という認知に達してしまい、投資リテラシーの低い者が次々に投資に参
入することになる。
上記サイクルは、ICOトークンの取得が分散型アプリケーションへのアクセス(利用)権の獲得というよりも売買差益の獲
得によって、より強く動機づけられてしまう結果をもたらす。
分散型アプリケーション開発のクラウドファンディングも、本来であれば中央集権型アプリケーション開発のクラウドファン
ディングと同じ動機付けで拠出に応じるというロジックにならなければならないはず
マーケットがブームになっているため、動機がねじれてしまい、現在のICOではマーケットフィートの証明手段としてクラウド
ファンディングが機能していない可能性がある。
リクイディティが供給されるということと価格が上昇するということは、流動性ディスカウント分を除いては相関性がないは
ず
マーケットがいったんはじけるか、マーケットの理解が進んで収束するかした後に、分散型アプリケーション開発のためのICO
クラウドファンディングの真価が問われることになる。
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