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デジタルエコノミーに向けた法制度のあり方について
- 1. 2016 年 4 月 15 日
経済産業省経済産業政策局 御中
デジタルエコノミーに向けた法制度のあり方について
森・濱田松本法律事務所
増島 雅和
1.背景
○ 1990 年代後半から加速度的に進捗したメディア・コンテンツ産業やコミュニケ
ーション産業のデジタル化は、コミュニケーション層の事業を分散型事業モデ
ルへ移行
○ IOT やシェアリングエコノミーの名の下に行われている一連の活動は、製造業
や物流事業などの物理層の事業を、インターネットを通じたファシリティの稼
働状況のリアルタイム開示により、施設所有者と需要者の間のマッチングビジ
ネスとすることで情報産業化し、分散型事業モデルへの移行を進めるもの
○ 上記2つの産業を駆動するエネルギー産業も、スマートグリッド構想の進展に
より、分散型事業モデルへの移行を狙う
○ 全産業がインターネット化・分散型事業モデル化していくなかで、これらを支
えるインフラである金融業が一刻も早く同様のモデルに移行することは、我が
国全産業の国際競争力の維持の観点から極めて重要
⇒ FinTech 国家戦略の推進
○ 金融庁は産業の一つとしての金融を所管するものの、ことは金融を含む全産業
にまたがる取引ないし交換のシステムのデジタル化をテーマとしており、省庁
の枠組みを超えて我が国の制度全般の「建付け」のデジタル化を進めないこと
には、世界のデジタルエコノミー化を主導する地位を獲得することができない
⇒ 個別の産業ではなく産業を横断した我が国経済を支えるプラットフォームで
ある「法制度」が、上記デジタル化の推進にとって障害となる部分を洗い出し、
あるべき制度への移行に向けた共通の方向感を持っておくことが必要な時期
にさしかかってきているのではないか
⇒ 米国西海岸のイノベーション過程に現地で法律家として携わり、FinTech やシ
ェアリングエコノミーの推進に向けた提言を通じて得た、我が国の法制度の改
善点につき意見交換したい
2.課題
(1) 業(ビジネス)概念のデジタル化
- 2. ○ 我が国産業における供給者である「事業者」は、各種の業法により業
務方法が規制され、これにより需要者である消費者を保護するという
法体系が採られている
○ デジタルエコノミーのもとで全産業にわたって進捗する分散型事業
モデルは、インターネット上のプラットフォームを介してリソースの
供給者と需要者をマッチングするモデル
○ このモデルでは、リソース提供のために必要なチャネルやデリバリー
といった、供給者と需要者を固定化する要素の重要な一部がプラット
フォーム化するため、あるリソースについて、ある時は供給者となり、
ある時は需要者となるということが起こる
○ 需要者と供給者が必ずしも固定的でないこと(余剰リソースをコミュ
ニティ内でネットワークを通じて融通すること)を前提としたデジタ
ルエコノミーにおいて、事業者該当性の判定方法は、デジタルエコノ
ミーが目指すリソース活用の効率性を最大化するため、クリティカル
に重要
○ 我が国における「業」(ビジネス)とは、一般に一定の目的をもって
なされる同種の行為の反復継続的遂行をいうとされており1
、現に反復
継続していなくてもその意思があれば足りるとされることさえある
ほど2
、広く解されている
○ 上記の結果、ある者がリソースを供給しようとする場合、それがビジ
ネスとして行われるものであるか、そうではないものであるかの判定
が極めて難しい
○ 業該当性の判定に関する我が国の定式は、「具体的な状況のもとで諸
般の事情を勘案しながら個別具体的に検討する」というアナログ方式
○ アナログ型の判定方式は、事故が発生した場合における事後的な結論
の妥当性を確保する観点からは優れているともいえるが、事業者と消
費者が時と場合によって入れ替わるデジタルエコノミーにおける規
律としては、その判定にかかるコストがデジタルエコノミーの効率性
のメリットを打ち消してしまう
※ 業該当性の判定方式が上記のとおりである結果、我が国の現場では、供
給者が自らこれを判定できないばかりか、監督側である行政においても、
その判定のための明確な基準を持っていない結果、保守的な担当官によ
る業バイアスとでもいうべき非効率な状況が生じている
〈提言〉デジタルエコノミーのメリットを社会全体で最大化するためには、
1
消費者庁消費者制度課『逐条解説・消費者契約法』(第 2 版補訂版 2015 年 商事法務)78 頁
2
最高裁判所判決昭和 29 年 11 月 24 日(刑集 8 巻 11 号 1860 頁)
- 3. 業該当性の判定方式は、デジタルに行うことができることが必要
○ 具体的な方法としては、各業法における「業」の定義につき、数値基
準を置けるようにし、これを政令にゆだねる方法が考えられる
○ 現行のアナログ方式との連続性を意識した、より実践的な実装方法と
しては、各業法における「業」の該当性の判定に関する数値基準を、
その業を所管する部署が公表する方法(セーフハーバー方式)も考え
られる
○ ポイントは、判定がデジタル(定量的)に行うことができることにあ
り、判定にアナログ(定性的)な要素が含まれると、事故が生じたと
きの事後的な結論の妥当性にとってはプラスであるものの、判定の明
確化による効率性にとってはマイナスになる。特にリソースを大量に
持つわけではない個人の供給者にとっては、供給に当たってのコスト
増から、リソース拠出を委縮する効果が大きく、リソースが拠出され
ない結果デジタルエコノミーが実現しないことになりかねない点、留
意が必要。
(2) 証憑のデジタル化
○ 我が国の法制度における諸事象の証憑の体系は、いまだに「原則書面、
一定の要件を満たした場合にデジタルを許容」というアナログ優位の
体系を採用
○ e文書法やIT書面一括法などによるデジタル化に向けた一連の動きは
あったものの、書面がもともと偽造(なりすまし)や変造(改竄)な
どいくらでも可能なアーキテクチャであることを顧みずに、デジタル
のリスクを強調して不当にデジタル化の要件を加重している点、デジ
タルエコノミーの推進にとって不十分
○ 書面というアーキテクチャを優位に置くことで、デジタルエコノミー
の特徴である場所概念の相対化のメリットが減殺される点も問題
○ そもそも書面による場合の「書面の要件」が定義されていないにもか
かわらず、これをデジタル化する場合になぜ「デジタルの要件」を定
める必要があるのか不明ともいえる
○ 書面における成立の真正に関するフォーマットである「署名又は記名
押印」と、デジタルにおける成立の真正に関するフォーマットである
「電子署名」の間のユーザビリティのギャップも、解消すべき課題の
一つ
※ 電子帳簿保存法の改正など全体的に改善の方向にあるが、個別法ごとの
対処にとどまり、全産業のデジタル化というテーマに沿った対応とは言
- 5. テーマと思われる。
(4) 場所概念の相対化(対面・非対面無差別)に向けた検討
○ デジタルエコノミーの特徴の大きな一つとして、様々な取引やサービ
スを場所的な制約から解放することが挙げられる。
○ 場所という概念を取り払ったデジタルエコノミーの観点から見ると、
我が国における社会的課題の見え方が異なってくる。
※例えば人口減少問題についても、国内の人口減少ということと我が国の産業振興、
経済規模維持という話は必ずしもリニアにつながらないものとして捉えることが
できる。その例としてエストニアの e-residency 政策があり、これは地方創生に
重要なヒントを与えている。
○ 場所概念を相対化することにより、これまで当然と思われていた制約
が制約ではなくなる(ソリューションを見いだせる)という事象が起
こり、これはビジネス上のイノベーションに活用できるのはもちろん
のこと、よりパブリックな課題の解決にも活用することができると思
われ、政府の多様な部署における企画立案に当たっての着眼点として
利用できるよう、整理・議論してみてはどうか。
(5) デジタルエコノミーにおける消費者保護
○ 上述のとおり、デジタルエコノミーにおける個人は、一方的に商品や
サービスを購入する消費者ではない。
○ 同様に、デジタルエコノミーは、個人が供給者となるパラダイムであ
り、これが業に当たらずに行うことができるものであるとした場合に
おける、①供給者としての個人の保護の問題と、②供給者が個人であ
る場合における需要者の保護についての考え方について議論がなさ
れる必要がある。
○ このテーマは OECD においても検討されており、6 月に開催されるメキ
シコ会合でも議論がなされると承知しているが、産業競争力の強化の
テーマと消費者保護は車の両輪であり、消費者保護のフレームワーク
が適切に定められないと、デジタルエコノミーの推進が大きく阻害さ
れ、絵に描いた餅に終わってしまう可能性がある。
○ 一方的に商品やサービスの提供を受けるという旧来型の固定化され
た消費者像を念頭に置いた消費者保護のフレームワークがデジタル
エコノミーの事業モデルを阻害しないよう、産業政策部門において適
切なフレームワークを提示するなど、制度補完を意識した消費者セク
ターとの協調が必要。