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2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
オンコロジストになるための掟 
日本医科大学武蔵小杉病院 
腫瘍内科 
勝俣範之 
nkatsuma@nms.ac.jp
2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
本日のトピック 
• 近藤理論への反証 
• 化学療法の基本原則 
• オンコロジストのやってはいけないこと
Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
生存率の向上を目指すばかりで治療が引き起こす諸問 
題を顧みないのは、先進技術を使って溺れる人を水か 
ら引き揚げたあと、咳きこんで水を吐くその人をそのまま 
放置しているようなものだ。F. ミュラ 
ン 
Mullan F. Seasons of survival: reflections of a physician with cancer. 
New England Journal of Medicine. 1985; 313(4): 270-273. 
がんの治療は、本当にその人の 
幸せにつながるのか?
2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
腫瘍内科医のプロになるためには 
• 抗がん剤を最期まで出し続けるのが、腫瘍内科医 
の仕事ではありません。 
• 抗がん剤をしなくても希望を与えるのが仕事です。 
By Dr. 上野
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
EBM:Evidence-based Medicine: 
エビデンス・ベースド・メディシン(根拠に基づく医療)の3要素 
医療者の専門性科学的データ 
(エビデンス) 
患者の 
希望・価値観 
手術 
診察法 
コミュニケーション能力 
チーム医療 
科学文献のデータ 
学会発表 
個人の尊重 
価値観・生活の質 
最善の医療 
Evidence-Based Medicine: How to Practice and Teach EBM (2nd ed.) 
by Sackett DL; Churchill Livingstone. 2000.
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
「プロ」の腫瘍内科医になるには? 
Research Evidence 
エビデンスをしっかり理解・実践する 
Clinical Expertise 
自分の限界を知り、チーム医療をしていく 
Patient Value 
患者さんを大切にする 
エビデンスを知らないとオンコロジストにはなれない 
患者さんに優しくなければ、オンコロジストになる資格がない
2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
近藤先生の偉大な業績 
Lancet 1994;343:1122 
• 胃がん以外の死亡を死亡イベントに 
したら 
OSのP valueが0.047から0.07にな 
った。 
Lancet. 1994;344(8917):274. 
• 解析から除外した9例にアン 
バランスがある。ITTでない。 
• 胃がん以外の死亡を打ち切り 
(censored case)にした
2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
近藤誠先生の主張 
1. がんは、「がんもどき」と「本物のがん」に分類される 
• がんもどきは、転移しないので治療する必要はない。 
• 本物のがんは、転移がんで、必ず死ぬ。治療しても無駄。 
2. 抗がん剤は効かない。これまでの抗がん剤のデータ 
は皆ねつ造。 
3. ゆえにがんになったら放置療法を勧める!
2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
抗がん剤のデータはねつ造された? 
乳がんのトラスツズマブ 
この曲線が上に凸になっている 
のでインチキ?? 
胃がん術後のS1 
N Engl J Med 2007;357:1810 
腎臓がんのソラフェニブ 
N Engl J Med 2007;356:125 
New Engle J Med 2001; 344: 783
2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
近藤先生に騙されないようにしましょう 
• がん患者の生存曲線は下に凸になるのが絶対Cancer 1986;57:925より 
• 生存曲線の形が上に凸になると、ねつ造された可能性あり 
• Cancer 1986;57:925の論文には、下 
に凸が絶対・上に凸になるとねつ造 
などとは、一言も書いていない 
• 死亡率が一定であると仮定すると、 
生存曲線の意味を解釈しやすいと 
言っているのにすぎない 
医学論文を都合よく引用して、自説が正しいと見せかけてい 
るだけ
1 
0.9 
0.8 
0.7 
0.6 
0.5 
0.4 
0.3 
0.2 
0.1 
0 
年間死亡率(ハザード率)が一定の場合の生存曲線 
100.0 
90.0 
80.0 
70.0 
60.0 
50.0 
40.0 
30.0 
20.0 
10.0 
0.0 
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 
年 
生存率 
年間死亡率 
生存率 
年間死亡率 
経過 
(年) 
全体数死亡数 
年間死亡率 
(死亡数÷全体数) 
1 100.0 25.0 0.25 
2 75.0 18.8 0.25 
3 56.3 14.1 0.25 
4 42.2 10.5 0.25 
5 31.6 7.9 0.25 
6 23.7 5.9 0.25 
7 17.8 4.4 0.25 
8 13.3 3.3 0.25 
9 10.0 2.5 0.25 
10 7.5 1.9 0.25 
下に凸のグラフ 
近藤先生が引用したCancer 1986;57:925の論文は 
死亡率(ハザード率)が一定であると仮定すると、治 
療効果を解釈しやすいと言っているだけ
年間死亡率(ハザード率)が減少する場合の生存曲線 
年 
生存率 
年間死亡率 
生存率 
年間死亡率 
1 
0.9 
0.8 
0.7 
0.6 
0.5 
0.4 
0.3 
0.2 
0.1 
0 
100.0 
90.0 
80.0 
70.0 
60.0 
50.0 
40.0 
30.0 
20.0 
10.0 
0.0 
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 
経過 
(年) 
全体数死亡数 
年間死亡率 
(死亡数÷全体数) 
1 100.0 25.0 0.25 
2 75.0 17.3 0.23 
3 57.8 12.1 0.21 
4 45.6 8.7 0.19 
5 37.0 6.3 0.17 
6 30.7 4.6 0.15 
7 26.1 3.4 0.13 
8 22.7 2.5 0.11 
9 20.2 1.8 0.09 
10 18.4 1.3 0.07
年間死亡率(ハザード率)が最初少なく後に増加する場 
合の生存曲線 
年 
生存率 
年間死亡率 
生存率 
年間死亡率 
1 
0.9 
0.8 
0.7 
0.6 
0.5 
0.4 
0.3 
0.2 
0.1 
0 
100.0 
90.0 
80.0 
70.0 
60.0 
50.0 
40.0 
30.0 
20.0 
10.0 
0.0 
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 
経過 
(年) 
全体数死亡数 
年間死亡率 
(死亡数÷全体数) 
1 100.0 0.0 0 
2 100.0 2.0 0.02 
3 98.0 3.9 0.04 
4 94.1 5.6 0.06 
5 88.4 7.1 0.08 
6 81.4 8.1 0.1 
7 73.2 8.8 0.12 
8 64.4 9.0 0.14 
9 55.4 8.9 0.16 
10 46.5 8.4 0.18 
上に凸のグラフ
2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
近藤先生の間違った論文の読み方 
生存率曲線が急落している。 
たくさんの患者が命を落としたので 
はないか? 
卵巣がんの臨床試験 
N Engl J Med 1996;334:1 
近藤誠 
週刊文春平成10年11月7日号 
文春文庫抗がん剤だけはやめなさい95P 
パクリタキセル+ シスプラチン 
エンドキサン+ シスプラチン
カプランマイヤー曲線の信頼区間 
曲線B:曲線Aの95%信頼区間上限 
曲線A:カプランマイヤー生存曲線 
曲線C:曲線Aの95%信頼区間下限 
SAS Survival Analysis Techniques for Medical Research, 
SAS Publishing 1997より
2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
悪性黒色腫に対するベムラフェニブの生存曲線 
の推移 
フォローアップ期間中央値:3.8ヶ月フォローアップ期間中央値:12.5ヶ月 
曲線はまだ上に凸 
曲線は上に凸 
生存率曲線が急落? 急落するように見えた線は消失 
たくさんの患者が亡くなった? 
NEJM 364;26, 2011 
Lancet Oncol; 15: 323, 2014 
フォローアップ期間が長くなると生存曲線の形が変わる。
2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
Moving Beyond the Hazard Ratio in Quantifying the 
Between-Group Difference in Survival Analysis 
HR=0.87 (95%CI, 0.6-1.27) 
log-rank P = 0.47 
ハザード比は一定でなく、比例 
ハザード性が成り立たない! 
Uno et al. J Clin Oncol. 2014;32(22):2380-5.
2014/11/9 
化学療法の基本原則 
• ケモやるときはしっかりやる。むやみな減量・延期は 
止めましょう 
• 無駄なG-CSFは止めましょう 
• 生もの禁はそろそろ止めにしない? 
Division of 
Medical 
Oncology, 
Nippon 
Medical
よく見られる非標準治療例 
1コース目は、80%の投与量でやり、副作用が軽け 
れば2コース目は100%投与量をやる 
1コース目入院でやり、2コース目から外来で 
好中球減少<500になるとすぐG-CSFを使う 
好中球減少<500で、次コース減量 
Nadirすぎるまで退院させない
Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
薬物療法の効果別にみた臓器疾患分類 
A 治癒が期待できる 
絨毛がん、胚細胞腫瘍、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血 
病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(中・高悪性度) 
B 延命が期待できる 
乳がん、卵巣がん、多発性骨髄腫、小細胞肺がん、慢性骨髄性白 
血病非ホジキンリンパ腫(低悪性度)、骨肉腫、悪性黒色腫 
C 症状緩和、QOL改善が期待できる 
非小細胞肺がん、前立腺がん、軟部組織肉腫、頭頚部がん、膀胱 
がん、食道がん、胃がん、大腸がん、子宮がん、膵がん、脳腫瘍、 
肝がん、腎がん、胆道がん、膵がん、甲状腺髄様がん 
D 効果はあまり期待できない 
甲状腺がん 
がん診療レジデントマニュアル(第6版) 医学書院2013
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
抗がん剤投与量(減量)と生命予後 
乳がん患者における術後補助療法(CMF療法)の抗がん剤投与量と生命予後との関連 
100 
80 
60 
40 
0 
5 10 15 20 
20 
0 
推奨用量に対する割合 
Control 
<65% 
65–84% 
≧85% 全生存率 
(%) 
100 
80 
60 
40 
20 
0 
5 10 15 20 
0 
乳房切除後の期間(年) 
無再発生存率 
(%) 
(n=179) 
(n=71) 
(n=94) 
(n=42) 
乳房切除後の期間(年) 
Bonadonna G et al. N Engl JMed, 332 : 901-906, 1995
Average dose intensity (DI) v MST 
for ovarian chemotherapy regimens. 
r=0.44 (p 0.01) 
JCO 5:756-767, 1987 
40 
30 
20 
10 
0 
P 
○ 
P P 
C 
○ 
□ 
□ 
C 
C 
C 
C 
C 
C C 
C C 
C 
C 
▲ 
△ 
▲ ▲ 
● 
▲ 
▲ 
■ 
▲ ▲ 
● ● 
C 
△ 
△ 
● 
□ 
◇ 
□ □ 
▲ 
□ 
C 
C 
■ 
C 
C 
● 
● 
● 
● 
□ 
0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 
average DI 
M S T (m o s.) 
▲ CHAP 
● CAP 
■ CHA 
◇ CH 
□ CA 
○ CP 
△ AP
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
• 35歳男性 
• 頭痛にて、脳神経外科受診。蝶形骨洞腫 
瘍指摘。手術施行。嗅神経芽細胞腫 
(olfactory neuroblastoma)と診断。残存 
腫瘍に対して、放射線、化学療法 
(CDDP+VP-16)施行するも腫瘍増大、多 
発骨転移も出現したため、腫瘍内科紹介。 
興味深い症例1 
• 横紋筋肉腫(RMS)と診断。VAC療法を施 
行。
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
• 80歳女性 
• 腹部膨満感にて、某都内がん拠点病院受 
診。癌性腹膜炎、原発不明癌と診断。担 
当医から、末期がんと言われ、ホスピスに 
行くように言われた。 
興味深い症例2 
• 当科受診、原発性腹膜がん(卵巣がんの 
亜型)と診断。Dose-dense TC療法施行。 
PRとなり、2013年1月、婦人科にて手術 
施行。
見逃してはいけない癌その1 
23才男性主訴: 上肢、顔の浮腫 
某大学病院呼吸器内科受診。SVC症候群と診断。 
AFP 27360と高値。 
生検にて、縦隔原発胚細胞性腫瘍(yolk sac 
tumor)と診断。標準的BEP 
(Bleomycin/Etoposide/Cisplatin)療法にて、AFP正 
常化。手術施行。術後再発なし。
胚細胞性腫瘍の初回化学療法 
BEP療法 
・Bleomycin (BLM) 30 単位/body (Day 2, 9,16) 
・Etoposide (VP-16) 100 mg/m2 (Day 1 – 5) 
・Cisplatin (CDDP) 20 mg/m2 (Day 1 – 5) 
21日ごと3~4サイクル 
NEJM 316: 1435: 1987
ヨーロッパの治療ガイドラインにおける記載 
(EGCCCG guideline) 
• 化学療法は減量なしに22日間隔で投与しなければならない 
• 治療開始延期は、次コース開始日に発熱を認める+好中球<500/μL、血小板 
数<100,000/μLのいずれかを認めるときのみ3日を限度に考慮される 
Ann Oncol 15: 1377: 2004
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
造血因子製剤の使用に関してのガイドライン 
(ASCO, ESMO, IDSA, NCCN) 
予防投与 
• 発熱性好中球減少20%以上が予想される化学療法を行う場合 
に5μg/kg/日を投与 
• 前治療で、発熱性好中球減少が出現した場合 
治療的投与 
• 発熱の有無に関わらずCSFの投与はルーチンに行わない(高リ 
スクの場合を除く)。 
J Clin Oncol. 2006;24(19):3187, Eur J Cancer. 2011;47(1):8
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
化学療法後の発熱のない好中球減少患者への 
G-CSF投与の臨床試験 
N Engl J Med 1997; 336:1776-1780 
R 
A 
N 
D 
O 
M 
I 
Z 
E 
G-CSF 5ug/kg SC 
プラセーボSC 
固形がん 
リンパ腫 
ANC<500 
発熱なし 
138 pts 
感染症/ 入院率 
7% / 11% 
有意差なし 
7% / 13%
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
ASCO Guideline for outpatient FN 
• 環境因子として、履物の交換、個室隔離、マスク、生もの禁、 
などはエビデンスが乏しく勧められない 
• 予防的抗菌剤は、好中球減少<100/uLが1週間以上継続、 
または、感染リスクが高い患者に勧められる 
• 低リスクFN患者には、キノロンとオーグメンチンが外来治 
療として勧められる 
J Clin Oncol 31. 2013
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
化学療法時の生もの摂取に関するRCT 
J Clin Oncol 26:5684, 2008 
R 
A 
N 
D 
O 
M 
I 
Z 
E 
生もの摂取禁止 
生もの摂取可 
急性白血病 
導入化学療法 
153pts 
感染症/ 不明熱 
29% / 51% 
P = 0.6 / 0.07 
有意差なし 
35% / 36%
2014/11/9 
オンコロジストのやってはいけないこと 
1. 最後の最後まで抗がん剤をやってしまうこと 
2. もう治療法はありません。ここでやることはありません 
3. どうしようもなくなってから、緩和ケアの話をすること 
4. 断定的な余命告知
2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
がん治療医にとって必要なものは? 
ブラックジャックによろしく漫画on Webより
最後の最後まで抗がん剤をやると…… 
• QOLが低下する 
• 在宅・ホスピスで亡くなる率が低下する 
• ICUで亡くなる率が高くなる 
• 最後に心肺蘇生をされてしまう 
• 生存期間が短くなる 
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
BMJ. 2014 Mar 4;348:g1219. 
NEJM 2010;363:8
緩和ケアという「第4の治療」 
化学療法 
+ 緩和ケアチーム(緩和ケア医、専門看護 
師)による月1度以上のサポート 
化学療法のみ 
手術適応のない肺がん患者n=151 
結果: 
• QOL (FACT-L)の向上(P=0.03) 
• うつ症状の軽減(38% vs. 16%, P=0.01) 
• 末期状態での積極治療(死亡の4日以内の化学療 
法、ホスピスケアなし、3日以内のホスピス入院)の 
減少(54%vs.33%, P=0.05) 
• 生存期間の向上(8.9 vs. 11.6 mos. P=0.02) 
NEJM 2010;363:8 
Early Palliative Care
2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
亡くなる2ヶ月以内に化学療法していた患者の割合 
早期緩和ケア群(n=32) 対照群(n=25) 
P=0.02 
亡くなる2ヶ月以内の化学療法 
亡くなる2ヶ月以内に化学療法なし 
J Clin Oncol 29:2319-2326: 2011
2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
どうやって抗がん剤を止めることを伝えるか?
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
Shared Decision Making (意思決定の共有) 
適切なインフォームド・コンセントとは? 
に基づくインフォームド・コンセント 
医師が情報を持ち、 
医師が決める 
オレが決める型 
医師と患者が情報を 
共有し、決定も 
共有する 
共有型 
患者が情報をもら 
い、患者が決定 
する 
患者が決めな型
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
患者とのコミュニケーション技術 
(わが国における患者の意向を基に作成) 
悪いニュースを伝える方法-SHARE-Supportive 
environment (支持的な場の設定) 
How to deliver the bad news (悪い知らせの伝え方) 
Additional information (付加的な情報) 
Reassurance and Emotional support (安心感と情緒的 
サポート) 
Fujimori et al. (2007) Psychoncology 16:573-81 
内富庸介, がん医療におけるコミュニケーション・スキル悪い知らせをどう伝えるか. 医学書院, 2007
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
コミュニケーション技術による患者への精神状態への影響 
30名のオンコロジストをコミュニケーション技術研修を受ける群と、受けない群に 
ランダムに割り付け患者の精神状態を評価: 国立がん研究センターで施行 
研修を受けた 
介入群 
(n=292) 
平均値±標準偏差 
研修を受けて 
いない対照群 
(n=309) 
平均値±標準偏差 
P値 
不安* 4.83±3.75 5.17±3.42 0.333 
抑うつ* 4.59±3.75 5.32±4.04 0.027 
満足度** 8.58±1.62 8.35±1.74 0.095 
信頼感** 9.15±1.28 8.87±1.54 0.009 
*HADS:不安、抑うつを評価する尺度、数値が高いと悪い傾向 
**数値が高いと良い傾向 
Fujimori, Kubota, Katsumata et al. J Clin Oncol 32, 2014
2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
早期の緩和ケアを実践するために 
転移・再発した時点で以下の、話し合いを繰り返しすること 
1. がんを治すことは困難であること 
2. 大切にしたいことは?楽しみにしていることは?(生活の質について) 
3. 緩和ケア・緩和療法という治療オプションがあること(治療選択肢) 
4. 身の回りのことができなくなってきた場合、どこで(在宅・入院・ホスピス)ど 
のように過ごしたいか?(End of Life Discussion) 
5. 余命宣告をしない(Hope the Best, Prepare the Worst) 
6. どんな状況になっても見放さないこと(孤独にさせないこと、将来の約束)
「あなたの余命は1年です」と言ってはいけない 
~生存期間中央値は余命ではない?~ 
ヒストグラム(度数分布表) 
6 
5 
4 
3 
2 
1 
国立がん研究センターで治療を受けた再発卵巣がん112名の予後 
中央値1.5年(範囲0ヶ月~10.5年) 
累積生存率 
生存期間(年) 
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
累積生存率 
0 2 4 6 8 10 12 
1 
.8 
.6 
.4 
.2 
0 
1.5年 
カプランマイヤー曲線 
半分の患者さんが亡くなるまでの期間 
患者数 
生存期間(年) 
0 
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 
がん患者の予後データは 
正規分布をなさないので 
平均値ではなく、中央値で示す!
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
がん患者が医師から言われる最も傷つく言葉 
• もう何も治療法がない 
• 可能性・範囲を言わない断定的な余命告知 
• 感情への配慮がない 
全国19施設ホスピスへ入院した630名の家族へのアンケート調査より 
Morita et al. Ann Oncol 15:1551, 2004
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
SHAREプログラムがすすめるコミュニケーション 
「もう死んでしまうのですか?」 
「あとどのくらい生きられますか?」 
などの言葉への対処方法 
Reassurance and Emotional support (安心感と情緒的サポート) 
言葉の背景にある感情を探索し、共感すること 
ほとんどの場合、不安な気持ちの表れであることが多い。 
• 「今後のことで、何か気がかりなことがありますか?」 
• 「どなたでも不安な気持ちになると思います」
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
Hope the Best, and Prepare the Worst 
(最善を期待し、最悪に備えましょう) 
患者 
 私は少しでも長く生きたいんです。 
 治療がうまくいってほしいんです。 
 最悪を考えるということは、あきらめて 
しまうような気がするのです。 
 今後は、妻や子供のことが心配なので 
す。 
Ann Intern Med. 2003;138:439-443. 
医師 
 私もそう期待したいです。○○さんにとって一番大切 
なことは何でしょうか? 
 私も治療がうまくいってほしいと思います。もし治療 
がうまくいったら何を大切にしたいですか?また、治 
療がうまくいかなかったらどうするかということにつ 
いて話したいのです。 
 ○○さんの心配するお気持ちは理解できます。準備 
をする、ということはあきらめてしまう、ということでは 
ありませんよ。 
 大切なことを話してくださってありがとうございます。 
奥様や子供さんのことについて、一緒に考えていき 
ましょう。
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 
末期がん患者のQOLに影響する要素 
~末期がんで亡くなった396名の患者をプロスペクティブに調査~ 
マイナスの要素 
Arch Intern Med. 2012;172(15):1133 
• ICUに入院していた 
• 病院で亡くなった 
• 不安が強かった 
• 栄養チューブを入れていた 
• 最期の週まで化学療法をやっていた 
プラスの要素 
• 宗教をもっていた 
• 心のケアを受けていた 
• 治療医(オンコロジスト)との良好なコミュニケーションがあった

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オンコロジストなるための掟3

  • 1. 2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital オンコロジストになるための掟 日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科 勝俣範之 nkatsuma@nms.ac.jp
  • 2. 2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 本日のトピック • 近藤理論への反証 • 化学療法の基本原則 • オンコロジストのやってはいけないこと
  • 3. Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 生存率の向上を目指すばかりで治療が引き起こす諸問 題を顧みないのは、先進技術を使って溺れる人を水か ら引き揚げたあと、咳きこんで水を吐くその人をそのまま 放置しているようなものだ。F. ミュラ ン Mullan F. Seasons of survival: reflections of a physician with cancer. New England Journal of Medicine. 1985; 313(4): 270-273. がんの治療は、本当にその人の 幸せにつながるのか?
  • 4. 2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 腫瘍内科医のプロになるためには • 抗がん剤を最期まで出し続けるのが、腫瘍内科医 の仕事ではありません。 • 抗がん剤をしなくても希望を与えるのが仕事です。 By Dr. 上野
  • 5. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital EBM:Evidence-based Medicine: エビデンス・ベースド・メディシン(根拠に基づく医療)の3要素 医療者の専門性科学的データ (エビデンス) 患者の 希望・価値観 手術 診察法 コミュニケーション能力 チーム医療 科学文献のデータ 学会発表 個人の尊重 価値観・生活の質 最善の医療 Evidence-Based Medicine: How to Practice and Teach EBM (2nd ed.) by Sackett DL; Churchill Livingstone. 2000.
  • 6. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 「プロ」の腫瘍内科医になるには? Research Evidence エビデンスをしっかり理解・実践する Clinical Expertise 自分の限界を知り、チーム医療をしていく Patient Value 患者さんを大切にする エビデンスを知らないとオンコロジストにはなれない 患者さんに優しくなければ、オンコロジストになる資格がない
  • 7. 2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
  • 8. 2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 近藤先生の偉大な業績 Lancet 1994;343:1122 • 胃がん以外の死亡を死亡イベントに したら OSのP valueが0.047から0.07にな った。 Lancet. 1994;344(8917):274. • 解析から除外した9例にアン バランスがある。ITTでない。 • 胃がん以外の死亡を打ち切り (censored case)にした
  • 9. 2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 近藤誠先生の主張 1. がんは、「がんもどき」と「本物のがん」に分類される • がんもどきは、転移しないので治療する必要はない。 • 本物のがんは、転移がんで、必ず死ぬ。治療しても無駄。 2. 抗がん剤は効かない。これまでの抗がん剤のデータ は皆ねつ造。 3. ゆえにがんになったら放置療法を勧める!
  • 10. 2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 抗がん剤のデータはねつ造された? 乳がんのトラスツズマブ この曲線が上に凸になっている のでインチキ?? 胃がん術後のS1 N Engl J Med 2007;357:1810 腎臓がんのソラフェニブ N Engl J Med 2007;356:125 New Engle J Med 2001; 344: 783
  • 11. 2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 近藤先生に騙されないようにしましょう • がん患者の生存曲線は下に凸になるのが絶対Cancer 1986;57:925より • 生存曲線の形が上に凸になると、ねつ造された可能性あり • Cancer 1986;57:925の論文には、下 に凸が絶対・上に凸になるとねつ造 などとは、一言も書いていない • 死亡率が一定であると仮定すると、 生存曲線の意味を解釈しやすいと 言っているのにすぎない 医学論文を都合よく引用して、自説が正しいと見せかけてい るだけ
  • 12. 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 年間死亡率(ハザード率)が一定の場合の生存曲線 100.0 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年 生存率 年間死亡率 生存率 年間死亡率 経過 (年) 全体数死亡数 年間死亡率 (死亡数÷全体数) 1 100.0 25.0 0.25 2 75.0 18.8 0.25 3 56.3 14.1 0.25 4 42.2 10.5 0.25 5 31.6 7.9 0.25 6 23.7 5.9 0.25 7 17.8 4.4 0.25 8 13.3 3.3 0.25 9 10.0 2.5 0.25 10 7.5 1.9 0.25 下に凸のグラフ 近藤先生が引用したCancer 1986;57:925の論文は 死亡率(ハザード率)が一定であると仮定すると、治 療効果を解釈しやすいと言っているだけ
  • 13. 年間死亡率(ハザード率)が減少する場合の生存曲線 年 生存率 年間死亡率 生存率 年間死亡率 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 100.0 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 経過 (年) 全体数死亡数 年間死亡率 (死亡数÷全体数) 1 100.0 25.0 0.25 2 75.0 17.3 0.23 3 57.8 12.1 0.21 4 45.6 8.7 0.19 5 37.0 6.3 0.17 6 30.7 4.6 0.15 7 26.1 3.4 0.13 8 22.7 2.5 0.11 9 20.2 1.8 0.09 10 18.4 1.3 0.07
  • 14. 年間死亡率(ハザード率)が最初少なく後に増加する場 合の生存曲線 年 生存率 年間死亡率 生存率 年間死亡率 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 100.0 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 経過 (年) 全体数死亡数 年間死亡率 (死亡数÷全体数) 1 100.0 0.0 0 2 100.0 2.0 0.02 3 98.0 3.9 0.04 4 94.1 5.6 0.06 5 88.4 7.1 0.08 6 81.4 8.1 0.1 7 73.2 8.8 0.12 8 64.4 9.0 0.14 9 55.4 8.9 0.16 10 46.5 8.4 0.18 上に凸のグラフ
  • 15. 2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 近藤先生の間違った論文の読み方 生存率曲線が急落している。 たくさんの患者が命を落としたので はないか? 卵巣がんの臨床試験 N Engl J Med 1996;334:1 近藤誠 週刊文春平成10年11月7日号 文春文庫抗がん剤だけはやめなさい95P パクリタキセル+ シスプラチン エンドキサン+ シスプラチン
  • 16. カプランマイヤー曲線の信頼区間 曲線B:曲線Aの95%信頼区間上限 曲線A:カプランマイヤー生存曲線 曲線C:曲線Aの95%信頼区間下限 SAS Survival Analysis Techniques for Medical Research, SAS Publishing 1997より
  • 17. 2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 悪性黒色腫に対するベムラフェニブの生存曲線 の推移 フォローアップ期間中央値:3.8ヶ月フォローアップ期間中央値:12.5ヶ月 曲線はまだ上に凸 曲線は上に凸 生存率曲線が急落? 急落するように見えた線は消失 たくさんの患者が亡くなった? NEJM 364;26, 2011 Lancet Oncol; 15: 323, 2014 フォローアップ期間が長くなると生存曲線の形が変わる。
  • 18. 2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital Moving Beyond the Hazard Ratio in Quantifying the Between-Group Difference in Survival Analysis HR=0.87 (95%CI, 0.6-1.27) log-rank P = 0.47 ハザード比は一定でなく、比例 ハザード性が成り立たない! Uno et al. J Clin Oncol. 2014;32(22):2380-5.
  • 19. 2014/11/9 化学療法の基本原則 • ケモやるときはしっかりやる。むやみな減量・延期は 止めましょう • 無駄なG-CSFは止めましょう • 生もの禁はそろそろ止めにしない? Division of Medical Oncology, Nippon Medical
  • 20. よく見られる非標準治療例 1コース目は、80%の投与量でやり、副作用が軽け れば2コース目は100%投与量をやる 1コース目入院でやり、2コース目から外来で 好中球減少<500になるとすぐG-CSFを使う 好中球減少<500で、次コース減量 Nadirすぎるまで退院させない
  • 21. Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 薬物療法の効果別にみた臓器疾患分類 A 治癒が期待できる 絨毛がん、胚細胞腫瘍、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血 病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(中・高悪性度) B 延命が期待できる 乳がん、卵巣がん、多発性骨髄腫、小細胞肺がん、慢性骨髄性白 血病非ホジキンリンパ腫(低悪性度)、骨肉腫、悪性黒色腫 C 症状緩和、QOL改善が期待できる 非小細胞肺がん、前立腺がん、軟部組織肉腫、頭頚部がん、膀胱 がん、食道がん、胃がん、大腸がん、子宮がん、膵がん、脳腫瘍、 肝がん、腎がん、胆道がん、膵がん、甲状腺髄様がん D 効果はあまり期待できない 甲状腺がん がん診療レジデントマニュアル(第6版) 医学書院2013
  • 22. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 抗がん剤投与量(減量)と生命予後 乳がん患者における術後補助療法(CMF療法)の抗がん剤投与量と生命予後との関連 100 80 60 40 0 5 10 15 20 20 0 推奨用量に対する割合 Control <65% 65–84% ≧85% 全生存率 (%) 100 80 60 40 20 0 5 10 15 20 0 乳房切除後の期間(年) 無再発生存率 (%) (n=179) (n=71) (n=94) (n=42) 乳房切除後の期間(年) Bonadonna G et al. N Engl JMed, 332 : 901-906, 1995
  • 23. Average dose intensity (DI) v MST for ovarian chemotherapy regimens. r=0.44 (p 0.01) JCO 5:756-767, 1987 40 30 20 10 0 P ○ P P C ○ □ □ C C C C C C C C C C C ▲ △ ▲ ▲ ● ▲ ▲ ■ ▲ ▲ ● ● C △ △ ● □ ◇ □ □ ▲ □ C C ■ C C ● ● ● ● □ 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 average DI M S T (m o s.) ▲ CHAP ● CAP ■ CHA ◇ CH □ CA ○ CP △ AP
  • 24. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital • 35歳男性 • 頭痛にて、脳神経外科受診。蝶形骨洞腫 瘍指摘。手術施行。嗅神経芽細胞腫 (olfactory neuroblastoma)と診断。残存 腫瘍に対して、放射線、化学療法 (CDDP+VP-16)施行するも腫瘍増大、多 発骨転移も出現したため、腫瘍内科紹介。 興味深い症例1 • 横紋筋肉腫(RMS)と診断。VAC療法を施 行。
  • 25. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital • 80歳女性 • 腹部膨満感にて、某都内がん拠点病院受 診。癌性腹膜炎、原発不明癌と診断。担 当医から、末期がんと言われ、ホスピスに 行くように言われた。 興味深い症例2 • 当科受診、原発性腹膜がん(卵巣がんの 亜型)と診断。Dose-dense TC療法施行。 PRとなり、2013年1月、婦人科にて手術 施行。
  • 26. 見逃してはいけない癌その1 23才男性主訴: 上肢、顔の浮腫 某大学病院呼吸器内科受診。SVC症候群と診断。 AFP 27360と高値。 生検にて、縦隔原発胚細胞性腫瘍(yolk sac tumor)と診断。標準的BEP (Bleomycin/Etoposide/Cisplatin)療法にて、AFP正 常化。手術施行。術後再発なし。
  • 27. 胚細胞性腫瘍の初回化学療法 BEP療法 ・Bleomycin (BLM) 30 単位/body (Day 2, 9,16) ・Etoposide (VP-16) 100 mg/m2 (Day 1 – 5) ・Cisplatin (CDDP) 20 mg/m2 (Day 1 – 5) 21日ごと3~4サイクル NEJM 316: 1435: 1987
  • 28. ヨーロッパの治療ガイドラインにおける記載 (EGCCCG guideline) • 化学療法は減量なしに22日間隔で投与しなければならない • 治療開始延期は、次コース開始日に発熱を認める+好中球<500/μL、血小板 数<100,000/μLのいずれかを認めるときのみ3日を限度に考慮される Ann Oncol 15: 1377: 2004
  • 29. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 造血因子製剤の使用に関してのガイドライン (ASCO, ESMO, IDSA, NCCN) 予防投与 • 発熱性好中球減少20%以上が予想される化学療法を行う場合 に5μg/kg/日を投与 • 前治療で、発熱性好中球減少が出現した場合 治療的投与 • 発熱の有無に関わらずCSFの投与はルーチンに行わない(高リ スクの場合を除く)。 J Clin Oncol. 2006;24(19):3187, Eur J Cancer. 2011;47(1):8
  • 30. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 化学療法後の発熱のない好中球減少患者への G-CSF投与の臨床試験 N Engl J Med 1997; 336:1776-1780 R A N D O M I Z E G-CSF 5ug/kg SC プラセーボSC 固形がん リンパ腫 ANC<500 発熱なし 138 pts 感染症/ 入院率 7% / 11% 有意差なし 7% / 13%
  • 31. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital ASCO Guideline for outpatient FN • 環境因子として、履物の交換、個室隔離、マスク、生もの禁、 などはエビデンスが乏しく勧められない • 予防的抗菌剤は、好中球減少<100/uLが1週間以上継続、 または、感染リスクが高い患者に勧められる • 低リスクFN患者には、キノロンとオーグメンチンが外来治 療として勧められる J Clin Oncol 31. 2013
  • 32. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 化学療法時の生もの摂取に関するRCT J Clin Oncol 26:5684, 2008 R A N D O M I Z E 生もの摂取禁止 生もの摂取可 急性白血病 導入化学療法 153pts 感染症/ 不明熱 29% / 51% P = 0.6 / 0.07 有意差なし 35% / 36%
  • 33. 2014/11/9 オンコロジストのやってはいけないこと 1. 最後の最後まで抗がん剤をやってしまうこと 2. もう治療法はありません。ここでやることはありません 3. どうしようもなくなってから、緩和ケアの話をすること 4. 断定的な余命告知
  • 34. 2014/11/9 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital がん治療医にとって必要なものは? ブラックジャックによろしく漫画on Webより
  • 35. 最後の最後まで抗がん剤をやると…… • QOLが低下する • 在宅・ホスピスで亡くなる率が低下する • ICUで亡くなる率が高くなる • 最後に心肺蘇生をされてしまう • 生存期間が短くなる Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital BMJ. 2014 Mar 4;348:g1219. NEJM 2010;363:8
  • 36. 緩和ケアという「第4の治療」 化学療法 + 緩和ケアチーム(緩和ケア医、専門看護 師)による月1度以上のサポート 化学療法のみ 手術適応のない肺がん患者n=151 結果: • QOL (FACT-L)の向上(P=0.03) • うつ症状の軽減(38% vs. 16%, P=0.01) • 末期状態での積極治療(死亡の4日以内の化学療 法、ホスピスケアなし、3日以内のホスピス入院)の 減少(54%vs.33%, P=0.05) • 生存期間の向上(8.9 vs. 11.6 mos. P=0.02) NEJM 2010;363:8 Early Palliative Care
  • 37. 2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 亡くなる2ヶ月以内に化学療法していた患者の割合 早期緩和ケア群(n=32) 対照群(n=25) P=0.02 亡くなる2ヶ月以内の化学療法 亡くなる2ヶ月以内に化学療法なし J Clin Oncol 29:2319-2326: 2011
  • 38. 2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital どうやって抗がん剤を止めることを伝えるか?
  • 39. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital Shared Decision Making (意思決定の共有) 適切なインフォームド・コンセントとは? に基づくインフォームド・コンセント 医師が情報を持ち、 医師が決める オレが決める型 医師と患者が情報を 共有し、決定も 共有する 共有型 患者が情報をもら い、患者が決定 する 患者が決めな型
  • 40. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 患者とのコミュニケーション技術 (わが国における患者の意向を基に作成) 悪いニュースを伝える方法-SHARE-Supportive environment (支持的な場の設定) How to deliver the bad news (悪い知らせの伝え方) Additional information (付加的な情報) Reassurance and Emotional support (安心感と情緒的 サポート) Fujimori et al. (2007) Psychoncology 16:573-81 内富庸介, がん医療におけるコミュニケーション・スキル悪い知らせをどう伝えるか. 医学書院, 2007
  • 41. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital コミュニケーション技術による患者への精神状態への影響 30名のオンコロジストをコミュニケーション技術研修を受ける群と、受けない群に ランダムに割り付け患者の精神状態を評価: 国立がん研究センターで施行 研修を受けた 介入群 (n=292) 平均値±標準偏差 研修を受けて いない対照群 (n=309) 平均値±標準偏差 P値 不安* 4.83±3.75 5.17±3.42 0.333 抑うつ* 4.59±3.75 5.32±4.04 0.027 満足度** 8.58±1.62 8.35±1.74 0.095 信頼感** 9.15±1.28 8.87±1.54 0.009 *HADS:不安、抑うつを評価する尺度、数値が高いと悪い傾向 **数値が高いと良い傾向 Fujimori, Kubota, Katsumata et al. J Clin Oncol 32, 2014
  • 42. 2014/11/9 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 早期の緩和ケアを実践するために 転移・再発した時点で以下の、話し合いを繰り返しすること 1. がんを治すことは困難であること 2. 大切にしたいことは?楽しみにしていることは?(生活の質について) 3. 緩和ケア・緩和療法という治療オプションがあること(治療選択肢) 4. 身の回りのことができなくなってきた場合、どこで(在宅・入院・ホスピス)ど のように過ごしたいか?(End of Life Discussion) 5. 余命宣告をしない(Hope the Best, Prepare the Worst) 6. どんな状況になっても見放さないこと(孤独にさせないこと、将来の約束)
  • 43. 「あなたの余命は1年です」と言ってはいけない ~生存期間中央値は余命ではない?~ ヒストグラム(度数分布表) 6 5 4 3 2 1 国立がん研究センターで治療を受けた再発卵巣がん112名の予後 中央値1.5年(範囲0ヶ月~10.5年) 累積生存率 生存期間(年) Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 累積生存率 0 2 4 6 8 10 12 1 .8 .6 .4 .2 0 1.5年 カプランマイヤー曲線 半分の患者さんが亡くなるまでの期間 患者数 生存期間(年) 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 がん患者の予後データは 正規分布をなさないので 平均値ではなく、中央値で示す!
  • 44. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital がん患者が医師から言われる最も傷つく言葉 • もう何も治療法がない • 可能性・範囲を言わない断定的な余命告知 • 感情への配慮がない 全国19施設ホスピスへ入院した630名の家族へのアンケート調査より Morita et al. Ann Oncol 15:1551, 2004
  • 45. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital SHAREプログラムがすすめるコミュニケーション 「もう死んでしまうのですか?」 「あとどのくらい生きられますか?」 などの言葉への対処方法 Reassurance and Emotional support (安心感と情緒的サポート) 言葉の背景にある感情を探索し、共感すること ほとんどの場合、不安な気持ちの表れであることが多い。 • 「今後のことで、何か気がかりなことがありますか?」 • 「どなたでも不安な気持ちになると思います」
  • 46. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital Hope the Best, and Prepare the Worst (最善を期待し、最悪に備えましょう) 患者  私は少しでも長く生きたいんです。  治療がうまくいってほしいんです。  最悪を考えるということは、あきらめて しまうような気がするのです。  今後は、妻や子供のことが心配なので す。 Ann Intern Med. 2003;138:439-443. 医師  私もそう期待したいです。○○さんにとって一番大切 なことは何でしょうか?  私も治療がうまくいってほしいと思います。もし治療 がうまくいったら何を大切にしたいですか?また、治 療がうまくいかなかったらどうするかということにつ いて話したいのです。  ○○さんの心配するお気持ちは理解できます。準備 をする、ということはあきらめてしまう、ということでは ありませんよ。  大切なことを話してくださってありがとうございます。 奥様や子供さんのことについて、一緒に考えていき ましょう。
  • 47. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital 末期がん患者のQOLに影響する要素 ~末期がんで亡くなった396名の患者をプロスペクティブに調査~ マイナスの要素 Arch Intern Med. 2012;172(15):1133 • ICUに入院していた • 病院で亡くなった • 不安が強かった • 栄養チューブを入れていた • 最期の週まで化学療法をやっていた プラスの要素 • 宗教をもっていた • 心のケアを受けていた • 治療医(オンコロジスト)との良好なコミュニケーションがあった