ウェーブレット変換の基礎と応用事例:連続ウェーブレット変換を中心に2. 2
目次
概要
ウェーブレット変換の基本的なアイディア
時間-周波数解析
2次元(画像)のウェーブレット変換
連続ウェーブレット変換
歴史
変換と逆変換
具体例
フーリエ変換との比較
畳み込み・相互相関・内積と周波数特性
窓付きフーリエ変換とウェーブレット変換
連続ウェーブレット変換の応用事例
離散ウェーブレット変換の概要
冗長性の排除と直交変換
多重解像度解析
まとめと展望
4. 4
ウェーブレット変換とは
ウェーブレット変換は信号の特性を解析する手段のひとつ
フーリエ変換(FT)
正弦波の足し合わせ
基本的に無限であることを仮定
定常的な信号を解析するのには有用だが,非定常なものには良
くない
短時間(窓付き)フーリエ変換(STFT)
逆変換が存在しない
ウェーブレット変換(WT)
ウェーブレット(wavelet; 局在波)の足し合わせ
逆変換が存在する
「時間―周波数」解析
不規則,間欠的,非定常な信号の解析
ウェーブレットの例
6. 6
2つの操作:シフトとスケーリング
元のウェーブレット(マザーウェーブレット)
に対して,2種類の操作を行う。
平行移動(シフト,トランスレーション)
拡大縮小(スケーリング,ダイレーション)
様々な幅,様々な時間位置のウェーブレッ
ト群をつくる
幅が広いウェーブレットはゆっくりと変化す
る成分(低周波数)。
幅が狭いウェーブレットは微細な変動成分
(高周波数)。
平行移動(shift,
translation)
拡大縮小(scaling, dilation)
マザーウェーブレット
7. 7
ウェーブレット変換の計算
スケールa,シフトbのウェーブレットと元
信号の類似をみる
相関が高ければ変換係数は高い値に
様々なa, bについて行う
連続ウェーブレット変換(CWT)
a, bが連続値
離散ウェーブレット変換(DWT)
a, bが離散値(主に2のべき乗)
フーリエ変換とフーリエ級数の関係と同
じ
逆変換可能
変換係数を各ウェーブレットに掛けて足
し合わせる
x(t)
t
信号
10. 10
スカログラムの例
「あい」
スケール(周波数)
シフト(時間)
スペクトログラム
wideband
narrowband
CWT(複素モルレー)の絶対値振幅
12. 12
ここまでのまとめ
ウェーブレット(局在波)の足し合わせに分解する
スケーリング(拡大縮小)とシフト(平行移動)
パラメタが連続的なものをCWT,離散的なものをDWT
フーリエ変換とフーリエ級数の関係と同じ
時間-周波数解析
時間と周波数の両方に「無理なく」分解.スカログラム
スケールによって時間-周波数分解能が異なる
高い周波数ほど,時間Good,周波数Bad
画像の場合は「場所-周波数解析」
3次元の変換
14. 14
参考文献
図説ウェーブレット変換ハンドブック/朝倉書店/新他訳/2005,Addison, 2002
広く浅く偏りなく。CWTについてもしっかり取り上げている。前半を理論,後半を応用事例を大量に
集めてきて紹介。
ウェーブレット入門―数学的道具の物語―/BBハバード著
物語としてのウェーブレット。本文は読み物として進むが,補足は数学的に充実させている。
Introduction to Wavelets and Wavelet Transforms / Prentice-Hall / Burrus, 1998
DWTの数学の基本を体系的に説明。2次元はあまり扱わない。DWTの理論は主にMallatと
Doubeciesの体系による。
ウェーブレットによる信号処理と画像処理/共立出版/中野他/1999
理論は浅く。Cプログラム掲載。比較的新しい応用も。意味不明な比喩が気になる。
最新ウェーブレット実践講座入門と応用/ソフトバンク/戸田/2005
Cプログラムリストを中心に進めていく。ほとんどがプログラム
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目次
概要
ウェーブレット変換の基本的なアイディア
時間-周波数解析
2次元(画像)のウェーブレット変換
連続ウェーブレット変換
歴史
変換と逆変換
具体例
フーリエ変換との比較
畳み込み・相互相関・内積と周波数特性
窓付きフーリエ変換とウェーブレット変換
連続ウェーブレット変換の応用事例
離散ウェーブレット変換の概要
冗長性の排除と直交変換
多重解像度解析
まとめと展望
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歴史
ウェーブレット変換に似たアイディアはもともと数多くあった。
1980年代中ごろ,現在の手法。ただし広まらず。
1990年代初頭から,理論体系と実践。
様々なルーツが考えうるが,ジャン・モルレーMorletはよく引き合いに出される。
仏大手石油会社勤務の地球物理学者。地中の石油を見つける探査業務のために
独自にウェーブレットを作り出した。
はじめは窓付きフーリエを使っていたが,窓幅決定が手間であった。そこで,周波
数に応じて窓幅を変えるというWTを提唱した。CWT。1981年ごろ.
その後,理論的に整備。ステファン・マラーMallatが画像処理や信号処理の分
野と結び付け,2進DWTに理論的な体系を与えた。1986年ごろ
現在ではDWTが良い体系を持っている。数学的に強固な体系が構築された。
画像圧縮(JPEG2000),
数学的に体系だっているのはDWT。圧縮,通信。解説書はDWTが多い。
実環境の信号解析ではCWTのほうが有効である場合が多い。実践的。
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連続ウェーブレット変換(CWT)
連続ウェーブレット変換の式
x(t) : 元信号
Wψ[ . ]:ウェーブレットψに基づいたウェーブレット変換
T(a, b) : ウェーブレット変換係数
a : スケールパラメータ
b : シフトパラメータ
ψa,b : スケールa, シフトbのウェーブレット
* は複素共役を表す
a, bが連続的な実数
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逆連続ウェーブレット変換(ICWT)
aとbについての二重積分
T(a, b) : 変換係数
CWTの結果ウェーブレット
Cψ : マザーウェーブレットの種類によって変わる定数(後で説明)
ウェーブレット変換逆変換
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例) メキシカンハットウェーブレット
マザーウェーブレットψ(t)がメキシカンハット
ガウス関数の二階微分
実数関数なので複素共役は考えない。
マザーウェーブレット
ウェーブレット
ウェーブレット変換
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例) 複素モルレーウェーブレット
包絡がガウス曲線で,キャリアが複素サイン
包
絡
実
部
虚部
ガウス曲線複素サイン
σ : 包絡線の幅(1がよく使われる)
ω0 : 複素サインの角周波数(5, 6, πなどが使われる)
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目次
概要
ウェーブレット変換の基本的なアイディア
時間-周波数解析
2次元(画像)のウェーブレット変換
連続ウェーブレット変換
歴史
変換と逆変換
具体例
フーリエ変換との比較
畳み込み・相互相関・内積と周波数特性
窓付きフーリエ変換とウェーブレット変換
連続ウェーブレット変換の応用事例
離散ウェーブレット変換の概要
冗長性の排除と直交変換
多重解像度解析
まとめと展望
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フーリエ変換とウェーブレット変換
ウェーブレット
フーリエ
内積
どちらも積分変換=変換核を軸にパラメタを変換する
ウェーブレット変換: ψa,b ウェーブレット
フーリエ変換: eiwt (= coswt + isinwt) 複素サイン波
元信号と「変換核」との内積
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CWTの冗長性
CWTは冗長な表現である
隣り合ったスケールに同じ情報が入る=通過帯域が重なっている
そもそも変換後に次元数が増える
サイン波の線
スペクトル周波数
中心周波数が連続
的に変化するBPF
真実
CWT
見え方
冗長な表現
周波数
時間
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CWTの冗長性と隆線抽出法
CWTはスケールとシフトの両面で冗長で
ある。
1つのウェーブレットで符号化された情報の
大部分が隣のウェーブレットによってまた
符号化される,という風に互いに部分的に
重なり合っている。
本質的な情報のみを残して単純化しても再
構成可能であることが多い。
隆線(ridge)抽出法
スケルトン化とも言う。
冗長な表現
隆線抽出
ICWT
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フーリエ変換との比較のまとめ
WTは積分変換である
元信号と変換核との内積
フーリエ変換は複素サイン波を変換核
ウェーブレット変換はウェーブレットを変換核
WTは相互相関,あるいは畳み込みと見なすことも可能
ウェーブレットをインパルス応答としてみる
Q値一定の中心周波数が異なるバンドパスフィルタ
ガウス窓付き短時間フーリエ変換との比較
STFTは窓長固定
WTは相似性を固定
CWTは冗長な表現である
隆線抽出法
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目次
概要
ウェーブレット変換の基本的なアイディア
時間-周波数解析
2次元(画像)のウェーブレット変換
連続ウェーブレット変換
歴史
変換と逆変換
具体例
フーリエ変換との比較
畳み込み・相互相関・内積と周波数特性
窓付きフーリエ変換とウェーブレット変換
連続ウェーブレット変換の応用事例
離散ウェーブレット変換の概要
冗長性の排除と直交変換
多重解像度解析
まとめと展望
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応用事例(3) ー耳音響放射
Cochlear maturation and otoacoustic emissions in preterm infants: a time-frequency approach
Tognola G et al. (2005). Hearing Res. 199: 71-80
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応用事例(4) ー聴覚末梢モデル
初期聴覚はフーリエ分析器とみなすよりも,ウェーブレット分析器と見
なしたほうが自然である
PattersonのGammatoneモデル
IrinoのGammachirpモデル
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目次
概要
ウェーブレット変換の基本的なアイディア
時間-周波数解析
2次元(画像)のウェーブレット変換
連続ウェーブレット変換
歴史
変換と逆変換
具体例
フーリエ変換との比較
畳み込み・相互相関・内積と周波数特性
窓付きフーリエ変換とウェーブレット変換
連続ウェーブレット変換の応用事例
離散ウェーブレット変換の概要
冗長性の排除とウェーブレットの離散化
直交変換
まとめと展望
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冗長性の排除とDWT
CWTは冗長であった
変換パラメタ(スケールとシフト)が連続値
スケールおよびシフトの両面でウェーブレットの特性が重なり合っていた。
変換パラメタが離散値,対象の信号は連続時間(≒フーリエ級数展開)
離散ウェーブレット変換(DWT)へ
冗長性が低く(あるいは無く)効率的な符号化が可能
伝送,圧縮,画像処理などに頻出
実用的なDWTを実現する三つのトピック
重なりを減らすには? → 2進離散ウェーブレット
パラメタを離散化しつつ,情報を完全に保存するには? → 直交変換
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2進離散ウェーブレットの導入
パラメタを離散化
2のべき乗でスケールが変わ
るウェーブレット
マザーウェーブレットψ(t)
スケールパラメタ: j
シフトパラメタ: k
共に整数
jが大→縮まる
kが大→遅延する
, t t k j j
j k
( ) 2 (2 ) /2
t b
1
t a b
a
a
( ) ,
k
b j 2
j a 2 k
a
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直交変換
パラメタを離散化しつつ,情報を完全に保存するには,どんなウェーブ
レットがよいのか?→直交変換(展開)を導入
直交変換とは…
変換の過程での冗長性を排除し,また完全な再構成を可能にする。
すなわち,信号の情報全体は繰り返されず一回ずつ符号化される。
変換する基底(basis)が直交している(orthogonal)。
さらに基底のノルムが1だと正規直交基底(orthonomal basis)
x
y
ey
ex
(2, 3)
p
q
ey
ex
(1, 2)
eq ep
53. 53
直交ウェーブレットである条件
正規直交であるための条件
1
j l k m
j k l m
, , , j l k m
( ,
)
( ,
)
0
L2(R)上の任意の関数f(t)に対して展開するdj,kが存在する
そんなウェーブレットはあるのか?
ハールウェーブレットは直交ウェーブレットであるになる
直交でかつ滑らかウェーブレットは「奇跡的に偶然的に」発見された(Mayer)
後に多重解像度解析理論によって,数学的に整備され,任意に作れるように
なった。
実践的には誰かが考えたものを利用すればいい。
56. 56
JPEGとウェーブレット
現行のJPEGは離散コサイ
ン変換(DCT)
JPEG-2000では離散ウェー
ブレット変換(DWT)
現行のJPEGは圧縮率を高
めた際にブロック歪が発生し
やすい。これは,画像を複数
のブロック(現行JPEGは
8×8ピクセル)に分けて
DCTを行うため
ウェーブレット変換はブロッ
ク単位ではなく画面全体に
対して処理.ブロック歪は生
じない。
現行JPEG JPEG-2000
57. 57
DWTのまとめ
CWTは冗長性が高いため離散化
パラメタの離散化
直交変換の導入
直交ウェーブレット
構成方法は本発表では明らかにしていない
ハールウェーブレットは直交ウェーブレットであった
DWTは通常,2進離散直交ウェーブレット変換のことを指す
紹介していないが非常に重要な事柄
スケーリング関数
多重解像度解析と
サブバンド符号化とマラーの高速アルゴリズム
シフト不変性とマッチング追跡
画像の圧縮
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まとめと展望
CWTを中心に,WTを紹介した
WTは自然な表現である
周波数とは繰り返しを記述する尺度である
繰り返すためには長さが必要=周期.「瞬時周波数」は矛盾する言葉
高い周波数では周期が短くてすむし,低い周波数は長くなる
WTは周波数によって時間窓長が変わる→自然
WTは柔軟な表現である
解析対象とする信号の形状に合わせてマザーウェーブレットを選択
局在波なので,一部を変えると他が変わる,といったことはない
CWTは信号を「観察する」道具である
冗長な分,少しの違いにロバストな表現.観察に適している.
DWTは信号を「簡潔にする」道具である