SlideShare a Scribd company logo
1 of 16
旅行形態の変化と高速バス
2020年3月3日
解説❷
高速バス・マーケティング・セミナー2020
高速バス「3つの市場」
2
1964年
頃~
1983年
頃~
 国鉄バスと、沿線合弁の高速
バス専業者(東名急行バスな
ど)のみに事業免許  販売力不足
 高速道路網の拡大
 共同運行クローズドドア制
開拓できず
❶「地方⇒大都市」市場
 地方部における既存乗合バス事業
者の存在感により需要喚起
 大都市側事業者はターミナル、座
席管理システムなど提供
2005年
頃~
 高速ツアーバス登場 ❷「大都市⇔大都市」市場
 成長が遅れていた大都市間路線
(東~阪/名/仙)が急成長
 複数事業者が競合し、座席グレー
ドなど多様化
→「バスを選んで乗る」時代
トピック 開拓した市場
→「地元の名士」乗合バス事業
者自身が高速バスに参入
→全国の地方都市へ路線網拡大
→大都市部の新規需要喚起
→電話予約に比べ情報量増加
比較検討しながら予約
→同一区間に複数事業者が競合
 ウェブマーケティング
残るは、❸「大都市・海外→全国」市場
変革を求められるツーリズム産業
3
日本人の旅行形態の変化
戦後~高度経済成長期
❶大手旅行会社が主導
 「JNK(その後、JKN)」ら旅行会社が、サプライヤー
(宿泊施設、貸切バス事業者など)を垂直統合
❷「確認型旅行」
 有名観光地を総花的に回る
❸「社会的な旅行」
 職域旅行(社員旅行)や
町内会旅行
 教育旅行(修学旅行)
1968年、熱海・社員旅行
(朝日新聞2019/2/18)
(コンテンツの中身と関係なく)「旅行に行くこと、
それ自体」が旅の目的となりえた時代
5
日本人の旅行形態の変化
バブル崩壊(昭和の終焉)以降
❶旅行者の変化
 旅行者の旅慣れ(有名観光地への既視感)
 「社会的な旅行」から「個人の体験」へ
❷市場環境の変化
 自家用車普及+高速道路網拡充+カーナビ普及
 旅行以外の余暇の過ごし方が増加
 ウェブ普及
→情報量の増加(比較検討が可能に)
→旅行者自身が予約・手配
❸流通の変化
「マス・ツーリズム」から「ニュー・ツーリズム」へ
6
日本人の旅行形態の変化
「ニュー・ツーリズム」
この呼称自体が「昭和
感」満載なんですけど、
なんとかなりません
か?(誰?JATAさん?)
❶「物見遊山」から「テーマ性」のある旅行へ
民泊、農泊、ダークツーリズム、エコツーリズム、産業観光、
ヘルスツーリズム、コンテンツツーリズム…
❷旅行の「単位」が変化
団体同一行動から「ひとり旅」「仲間旅」「シーン旅(オフ
会など)」へ
❸それを支える「旅行流通」の変化
観光協会からDMOへ。プリセットパッケージからDP(ダイナ
ミック・パッケージング)へ。発地型から着地型へ
インバウンドの旅行形態の変化
7
発地国別の「団/個」比率
韓国
中国
台湾
東南ア
豪州
米国
団体
(≒貸切バス)
FIT
(≒公共交通)
2018年実績。
JNTO発表の統計をもとに
当社にて推計
インバウンド市場の主役は、既にFIT。
さらに「新型コロナ」で中国発の団体がゼロに
インバウンドの旅行形態の変化
8
中国の「団/個」比率の推移
2014
2015
2016
2017
2018
団体
2018年実績。
JNTO発表の統計をもとに
当社で加工
中国発の「爆買いツアー」は2015年以降横ばい。
(ウィルス問題が解決し、かつ中国経済が大きく落ち込まなければ)
FIT増加基調に復帰できるか?
FIT
9
FIT化進展により旅行の姿が変化
団体ツアー FIT
 旅行者自身がウェブ予約
 カタコト英語
 乗り換えや観光の際に手荷物
が大きな負担
 プロが旅程作成、手配
 日本語を話せる添乗員
 手荷物は貸切バスの床
下トランクへ
中国以外のインバウンドの変化
ビザ(査証)要件緩和
→東南アジア、欧米豪増加
「FIT(個人自由旅行)化」×「多国化」×「全国津々浦々
化」
旅行形態の変化とデスティネーションの変化が同時進行
バス業界におけるインバウンド受け入れの主役は
貸切バスから乗合(高速/路線)バスへ
インバウンドの旅行形態の変化
リピーター
比率上昇
地方部のインバウンド
受け入れ機運
FITの旅行形態
10
❶周遊観光型
 「お隣の観光地」(国内旅
行市場においてはライバル
だった)どうしの協調
 空港アクセスより、横串を
通す「コリドー(観光回
廊)」づくりが重要
❷リゾート滞在型
 スノーエリア(ニセコ、
白馬)、ビーチエリア
(沖縄)中心
 国際空港や新幹線との直
接アクセスが重要
「旅行の民主化」の流れをつかめ
11
旅
行
の
コ
テ
コ
テ
度
←昔々 現在 将来→
昭和の旅行
 社会的旅行(教育
旅行や職域旅行)
 1974年、結婚した
全国のカップルの
35%が宮崎県に新
婚旅行
クルマ旅行
バスツアー
非クルマで
も自由な旅行
←
総
花
的
・
団
体
個
性
的
・
個
人
→
ゴールデン
ルート
発地国の多様化
FIT化
 「爆買いツアー」
邦人客 訪日客
公共交通旅行
「団体」から「個人」へシフトする観光客市場
12
た
び
マ
エ
た
び
ナ
カ
着想
組み立て
情報収集
旅程作成
予約・手配
乗換・不案内
手荷物
目的地や旅のテーマを思いつく
泊数や交通機関など大雑把な案
具体的な時刻など調べ旅程作成
予約などの段取り
公共交通を使う個人旅行と、クル
マ旅行や貸切バスのツアーとの最
大の差は「手荷物」「子ども」
旅の「カスタマー・ジャーニー」
経路検索や予約はウェブ上で可能。ミッシングリンクは
「旅程の組み立て」と「旅ナカでの手荷物、子ども」
「発地型旅行/着地型旅行」
ビジネスモデルの違い
13
発地型旅行
(従来の「ツアー」)
店頭パンフや会報誌で訴求
公共交通
+着地型ツアー
マー
ケ →あまり関心がない人を
「旅に連れ出す」モデル
(プッシュ型)
先に別のところで動機付け
された人が対象
→「●に行きたい(●
を体験したい」を実現
するモデル(プル型)
収益
構造
特定に日のみ催行。そこに
参加者を「寄せる」
→催行日は限定的だが、
催行する以上は満席
(狩猟民族・肉食タイ
プ)
安定して(「毎日」な
ど)サービスを提供
→毎便の乗車率は高く
なくても通年で安定し
た収益(農耕民族・草
食タイプ
今後の「旅」に足りないもの
14
商品サイド
例)都市~地方の高速バス
→大都市側ダイヤに限り、
観光施設や宿泊施設経由
短期的
ラストワンマイル 既存の流通網を活用
安定して催行される着地
型ツアー
例)沿線の温泉旅館のサイ
ト「アクセス」欄にバスの
情報は載っているか?
「旅程」を簡単に作成
できるサービス
流通サイド
中・
長期的
理想は、毎日設定、催行さ
れる多様な着地型ツアー
→せめて「公共交通を乗り
継ぐ旅行商品」を
※安定催行と多様性のバラ
ンスがカギ
時刻検索や予約手配は既に
オンライン化(→MaaSへ)
→残る課題は「一人ひとり
の心の琴線に触れる旅程」
を提案する仕組み(オー
ダーメイド型、パーソナラ
イズ)
バス業界と「観光立国」
15
従来型のバスツアーから、高速バス、鉄道や「着地型ツアー」を組み
合わせたオーダーメイド型旅行へ
旅行形態が団体から個人へシフト
 「社会的旅行」の終焉(少子化による教育旅行需要減を含む)
 物見遊山から「一人ひとりの興味関心に基づく」「深い旅行体験」へ
オーダーメイド型旅行へのハードル
 「予約」はウェブで完結するが、それ以前の「旅程作成」が困難
 「手荷物」「子供」が公共交通旅行最大のストレス
【たびマエ】パーソナルな旅程作成支援→【たびナカ】個人旅行者支
援→【たびアト】旅行体験のシェア(→旅程作成にフィードバック)
 乗合バス事業者は、「観光は貸切バスの分野。乗合バス(高速
を含む)は地域の足」という自画像の上塗りが必要
 自治体、協会は「誰が誰に売るのか?」という視点を
 貸切バス事業者、およびツーリズム産業全体では「昭和の旅
行」体制からの脱却が急務
ご清聴いただきまして
ありがとうございました

More Related Content

Similar to 「高速バス・マーケティング・セミナー2020」20200303

宮城県バス協会「プレミアム・セミナー」20190214
宮城県バス協会「プレミアム・セミナー」20190214宮城県バス協会「プレミアム・セミナー」20190214
宮城県バス協会「プレミアム・セミナー」20190214ryuichinarisada
 
MaaSの最新動向(2019年9月時点)
MaaSの最新動向(2019年9月時点)MaaSの最新動向(2019年9月時点)
MaaSの最新動向(2019年9月時点)Takumi Kojo
 
GTFSデータを自作すれば自在に世界へ発信できる ~「その筋屋」活用事例等について~
GTFSデータを自作すれば自在に世界へ発信できる ~「その筋屋」活用事例等について~GTFSデータを自作すれば自在に世界へ発信できる ~「その筋屋」活用事例等について~
GTFSデータを自作すれば自在に世界へ発信できる ~「その筋屋」活用事例等について~Yosuke Kikawa
 
MaaSを見据えた地域交通の情報化の進め方
MaaSを見据えた地域交通の情報化の進め方MaaSを見据えた地域交通の情報化の進め方
MaaSを見据えた地域交通の情報化の進め方Masaki Ito
 
コロナ禍における公共交通の実情とMaaS、データ活用の可能性
コロナ禍における公共交通の実情とMaaS、データ活用の可能性コロナ禍における公共交通の実情とMaaS、データ活用の可能性
コロナ禍における公共交通の実情とMaaS、データ活用の可能性Masaki Ito
 
MaaSは日本の移動をどう変えるか−都市と地方で始まっている新しいモビリティ−
MaaSは日本の移動をどう変えるか−都市と地方で始まっている新しいモビリティ−MaaSは日本の移動をどう変えるか−都市と地方で始まっている新しいモビリティ−
MaaSは日本の移動をどう変えるか−都市と地方で始まっている新しいモビリティ−Masaki Ito
 
くまもと若手戦略室  未来都市Kumamoto 市電補完計画
くまもと若手戦略室  未来都市Kumamoto 市電補完計画くまもと若手戦略室  未来都市Kumamoto 市電補完計画
くまもと若手戦略室  未来都市Kumamoto 市電補完計画higodottaku
 

Similar to 「高速バス・マーケティング・セミナー2020」20200303 (7)

宮城県バス協会「プレミアム・セミナー」20190214
宮城県バス協会「プレミアム・セミナー」20190214宮城県バス協会「プレミアム・セミナー」20190214
宮城県バス協会「プレミアム・セミナー」20190214
 
MaaSの最新動向(2019年9月時点)
MaaSの最新動向(2019年9月時点)MaaSの最新動向(2019年9月時点)
MaaSの最新動向(2019年9月時点)
 
GTFSデータを自作すれば自在に世界へ発信できる ~「その筋屋」活用事例等について~
GTFSデータを自作すれば自在に世界へ発信できる ~「その筋屋」活用事例等について~GTFSデータを自作すれば自在に世界へ発信できる ~「その筋屋」活用事例等について~
GTFSデータを自作すれば自在に世界へ発信できる ~「その筋屋」活用事例等について~
 
MaaSを見据えた地域交通の情報化の進め方
MaaSを見据えた地域交通の情報化の進め方MaaSを見据えた地域交通の情報化の進め方
MaaSを見据えた地域交通の情報化の進め方
 
コロナ禍における公共交通の実情とMaaS、データ活用の可能性
コロナ禍における公共交通の実情とMaaS、データ活用の可能性コロナ禍における公共交通の実情とMaaS、データ活用の可能性
コロナ禍における公共交通の実情とMaaS、データ活用の可能性
 
MaaSは日本の移動をどう変えるか−都市と地方で始まっている新しいモビリティ−
MaaSは日本の移動をどう変えるか−都市と地方で始まっている新しいモビリティ−MaaSは日本の移動をどう変えるか−都市と地方で始まっている新しいモビリティ−
MaaSは日本の移動をどう変えるか−都市と地方で始まっている新しいモビリティ−
 
くまもと若手戦略室  未来都市Kumamoto 市電補完計画
くまもと若手戦略室  未来都市Kumamoto 市電補完計画くまもと若手戦略室  未来都市Kumamoto 市電補完計画
くまもと若手戦略室  未来都市Kumamoto 市電補完計画
 

More from ryuichinarisada

鳥取県バス協会セミナー
鳥取県バス協会セミナー鳥取県バス協会セミナー
鳥取県バス協会セミナーryuichinarisada
 
高速バス・マネジメント・フォーラム2017投影資料2
高速バス・マネジメント・フォーラム2017投影資料2高速バス・マネジメント・フォーラム2017投影資料2
高速バス・マネジメント・フォーラム2017投影資料2ryuichinarisada
 
「高速バス・マーケティング・セミナー2020」2本目20200303
「高速バス・マーケティング・セミナー2020」2本目20200303「高速バス・マーケティング・セミナー2020」2本目20200303
「高速バス・マーケティング・セミナー2020」2本目20200303ryuichinarisada
 
公共交通マーケティング研究会第3回例会成定講演資料
公共交通マーケティング研究会第3回例会成定講演資料公共交通マーケティング研究会第3回例会成定講演資料
公共交通マーケティング研究会第3回例会成定講演資料ryuichinarisada
 
Introduction on-transmarket3
Introduction on-transmarket3Introduction on-transmarket3
Introduction on-transmarket3ryuichinarisada
 

More from ryuichinarisada (8)

Transmarket8th
Transmarket8thTransmarket8th
Transmarket8th
 
Transmarket7th 2
Transmarket7th 2Transmarket7th 2
Transmarket7th 2
 
Tomonokai201107
Tomonokai201107Tomonokai201107
Tomonokai201107
 
鳥取県バス協会セミナー
鳥取県バス協会セミナー鳥取県バス協会セミナー
鳥取県バス協会セミナー
 
高速バス・マネジメント・フォーラム2017投影資料2
高速バス・マネジメント・フォーラム2017投影資料2高速バス・マネジメント・フォーラム2017投影資料2
高速バス・マネジメント・フォーラム2017投影資料2
 
「高速バス・マーケティング・セミナー2020」2本目20200303
「高速バス・マーケティング・セミナー2020」2本目20200303「高速バス・マーケティング・セミナー2020」2本目20200303
「高速バス・マーケティング・セミナー2020」2本目20200303
 
公共交通マーケティング研究会第3回例会成定講演資料
公共交通マーケティング研究会第3回例会成定講演資料公共交通マーケティング研究会第3回例会成定講演資料
公共交通マーケティング研究会第3回例会成定講演資料
 
Introduction on-transmarket3
Introduction on-transmarket3Introduction on-transmarket3
Introduction on-transmarket3
 

「高速バス・マーケティング・セミナー2020」20200303