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中間貯蔵施設 をめ ぐる
問題 点 と課題
除本理史・儀野弥生 。
渡辺淑彦・頼金大輔
20144「 12り弓26日
OCU―GSB Ⅵrorking Paper No.201415
Some issues on interiln nuclear waste storage facilities
MasafumiYOKEMOTO,YayoiISONO,
Toshihiko Ⅵ裂TANABE and Daisuke YORIKANE
Decernber 26,2014
0CU‐ GSBヽVorking Paper NO.201415
目次
第 1章 中間貯蔵施設 問題 の経緯 と論点 (除本理史) 1
第 2章 中間貯蔵施設 の設置 をめ ぐるい くつかの論点について (儀 野弥生)9
-―設置手続きと土地所有権の扱いを中心に一―
第 3章 政府 による中間貯蔵施設建設予定地の地権者 に対する補償額提示 を受
けて (渡 辺淑彦 。頼金大輔) 22
※ このワーキングペーパーは、日本環境会議 ふ くしま地域 。生活再建研究会 (事 務局 :
除本理史、http7/wwweinap.orgガ eC/COmmittee/fukushimachiiky)に よる研究成果の中
間的な とりま とめ として、作成 したものです。
当研究会は、福 島県弁護士会 原子力発電所事故対策プロジェク トチーム (委 員長 :
渡辺淑彦弁護士)と の共同研究を進 めています。
本 ワーキングペーパーの内容は、所属組織 とは無関係 な個人の見解 に基づ くものです。
また、本 ワー キングペーパーは、第 1章 で述べた聞き取 り調査 をもとに、速報 としてま
とめたものであ り、今後 さらに検討すべき点が多 く含まれていることにご留意 くだ さい。
なお、当研究会 は、 これ まで次のワーキングペーパー も作成 しています。
除本理史・土井妙子・藤川賢・尾崎寛直 。片岡直樹・藤原遥
「原子力災害か らの生活再建 と地域の復興―― 旧緊急時避難準備 区域の実状を踏まえて」
OCU‐ GSBヽ、rking Paper No.201409
2014左
「
9月 6日
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU・ GSBヽVorking Paper No 201415
第 1章
中間貯蔵施設問題の経緯 と論点
除本理 史
(大 阪市立大学)
本稿 は、中間貯蔵施設の設置 をめぐるこれまでの経緯 を振 り返 り、当面いかなる問題点
が検討 され るべ きかについて考 える (た だ し論点整理 に とどめ、本格的な検討 は次章以降
に譲 る)。 中間貯蔵施設 は、国の進 める 「除染」「復興」 において、きわめて重要な位置づ
けを与 え られてい る。 あたかも、足尾銅 山鉱毒事件 において被害緩和のために 「鉱毒溜」
とされた谷 中村 の よ うな位置 にあるといつてよい。 この問題 について、筆者が事務局を務
める 日本環境会議 ふ くしま地域・生活再建研究会は、福島県弁護士会 原子力発電所事故
対策プ ロジェク トチーム (委 員長 :渡辺淑彦弁護士)と の共同研究を開始 してお り、2014
年 10月 30日 ∼11月 1日 に中間貯蔵施設予定地の地権者 (行 政区長 を含む)や周辺住民に
対 して聞き取 り調査 を行 った。本 ワーキングペーパーは、それ を受けた当面の検討結果で
あ り、執筆者 はすべて当該調査 に参加 した者である。
1 経緯
放射性物質汚染対処特措法の成立
福島原発事故が起 きるまで、 日本 の原子力関連 の諸法令 は、環境法体系 とは別の独 自の
法体系を形成 していた。そ して原子力法体系は、放射性物質が原子力施設外へ放出 され る
よ うな事態 を想定せず、制度設計がな されてきた。そのため、原発事故で一般環境中に放
出 された放射性物質 による汚染への対処を行 うための根拠法令 がない状態にあつた。 こ う
したなかで、2011年 5月 2日 、環境省が 「福島県内の災害廃棄物の当面の取扱い」をまと
めるな ど、汚染廃棄物 の処理や除染 に関す る 「考 え方」や 「方針」等が次々 と示 され、一
応 の対処が行われた。
しか し、 これ らには法的根拠が存在 しない うえ、汚染廃棄物や除染 によ り生 じた除去土
壌の処分方法が決 まってお らず、廃棄物処理施設や除染現場で仮置 き され るな ど、立法 に
よる早急な対策が必要 とされた。こうした背景から、「平成 23年 3月 11日 に発生した東北
地方太平洋沖地震 に伴 う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚
染への対処に関す る特別措置法」(放射"性 物質汚染対処特措法)が 2011年 8月 26日 に成立
し、同月 30日 に公布 された。それまでの 「考え方」や 「方針」による対処の仕組みは、同
法に基づ く基本方針や政省令に取 り込まれていつた (田 中,2014,264‐267頁 )。
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU・ GSBヽ、rking Paper No 201415
中間貯蔵施設の ロー ドマ ップと県外最終処分
放射性物質汚染対処特措法が成立 した 2011年 8月 26日 、原子力災害対策本部 は 「除染
に関す る緊急実施基本方針」 を決定 した。 これは、放射性物質汚染対処特措法が成立 して
も、同法に基づ く抜本的な除染措置が実施 され るまでに時間を要す るため、いずれ同法の
枠組みに移行す ることを前提 に、当面の方針 として示 された ものである。そ こでは、除染
にともなって生 じる 「土壌等の処理 に関 し、長期的な管理が必要な処分場の確保やその安
全性 の確保 については、国が責任 を持 って行 うこととし、早急 にその建設 に向けた ロー ド
マ ップを作成 し、公表いた します」 とされた (原子力災害対策本部,2011,5頁 )。
表 1 中間貯蔵施設 に関す る経緯 (2011年 3月 ∼2014年 8月 )
東 日本大震災、福島原発事故発生
原子力災害対策本部 「除染に関する緊急実施基本方針」決定
菅首相、佐藤福 島県知事に中間貯蔵施設の設置要請
環境省、今後 3年程度 を目標 に施設 を県内に整備 し、貯蔵開始か ら 30年以内に県
外で最終処分す るとした工程表 を発表
環境省 、施設 を双葉郡内に整備す ることを県、地元首長に正式に伝 える
2011年
3月 11日
8月 26日
8月 27日
10月 29日
12月 28日
2012午
3月 10日
8月 19日
11月 28日
国 と地元町村、県 との意見交換で、国は大熊、双葉、檎葉の 3町 に設置要請
環境省 、建設候補地 として 3町 の計 12カ 所を提示
佐藤知事、建設候補地での現地調査の受 け入れを表明
2013年
5月 17日
7月 12日
10月 11日
12月 7日
12月 14日
大熊町の建設候補地でボー リング調査開始
楢葉町の建設候補地でボー リング調査開始
双葉町の建設候補地でボー リング調査開始
暑層具貫霜書霞集胚慾 目 繁ず雷私 な ど約
有化す る計画 を説明、建設受け入れを要請
19km2を 国
2014年
1月 27日
1月 29日
2月 4日
2月 7日
2月 12日
3月 27日
4月 25日
5月 31日
7月 28日
8月 8日
8月 25日
8月 26日
8月 27日
8月 28日
8月 30日
松本檜葉町長、県に対 し高濃度の廃棄物の受 け入れ拒否
程霞鶏雪倉濃霜孔象言奄臭霞Z嫌]案匡貧鼎霙λつ合 に集約す る考えを表明
佐藤知事、2町 に集約す る再配置案を双葉郡 8町村長に説明
佐藤知事、石原環境相 と根本復興相に計画見直 しを要請
石原環境相 と根本復興相、佐藤知事に 2可集約に同意 した新計画提示
井上環境副大臣、地域振興策 と用地の賃貸借 を検討す る方針 を示す
国による住民説明会開始 (∼ 6月 15日 ) .
石原環境相 、用地の全面国有化方針 を転換 し地上権方式 も選択肢に
石原環境相、3010億 円の交付金 を提示
佐藤知事、大熊、双葉町に県独 自の財政支援 150億 円支援 の方針
大熊、双葉 の町議会全員協議会、事実上建設受け入れを容調
大熊、双葉両町の行政区長会、地権者向け説明会開催 を容認
復興庁、「大熊・双葉ふ るさと復興構想J
県、建設受 け入れ容
出所 :『 福島民報』2014年 3月 3日 付、『福島民友』2014年 8月 31日 付などより作成。
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB Working Paper No 201415
2011年 8月 27日 、菅首相 (本稿において職名 はすべて当時)は福島県庁で佐藤知事 と
会談 し、県内に中間貯蔵施設 を設置 したい とい う意向を示 した。菅政権 はすでに、福島県
内に最終処分 をせず 、あくまで中間貯蔵施設 とす ることを明 らかに していた (『 福島民報』
2011年 8月 14日 付 な ど)。 しか しこの段階では、中間貯蔵の期間な どは明確ではなかつた
(『 福島民報』2011年 8月 28日 付)。
「除染 に関す る緊急実施基本方針」のなかで作成す るとされた中間貯蔵施設整備 の 「ロ
ー ドマ ップ」は、2011年 10月 29日 に環境省 によつて公表 された (環 境省,2011)。 この
なかで、中間貯蔵施設 の供用開始 は仮置場への本格搬入開始か ら3年程度 (2015年 1月 ご
ろ)を 目途 とし (図 1)、 貯蔵開始か ら30年以内に県外で最終処分を完了す るとされた。
環境省による建設候補地の提示 と現地調査
環境省 は 2012年 8月 19日 、中間貯蔵施設 の建設候補地 として 3町の計 12カ 所を提示
し、11月 28日 、佐藤知事は現地調査の受け入れを表明 した。
ただ し、 このプ ロセスは円滑に進んだわけではない。国、福 島県 と双葉郡の町村、 とり
わけ候補地 を抱 える 自治体 との間にあつれきが生 じた。候補地 を抱 える首長 のなかでも、
)
とくに国・県への反発 を強めたのは、井戸川双葉町長であつた。井戸川町長 は双葉地方町
村長会議 の会長 を務 めていたが、中間貯蔵施設 をめぐる他町村 との足並みの乱れか ら、2012
図 1 中間貯蔵施設整備 の工程表
項 目 内 容
23年 E 24年 度 25年 度 26年 度 27年 以 降
, 争 普 4
L本構趣機肘
呂底尋 の 口重
D概 関の絶 陰購壼・親瞑・工事費等の
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籠果物等のは
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D魔 菫物 事の自 A
出所 :環 境省 (2011)図 5よ り抜粋。
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU・ GSBヽVorking Paper No.201415
年 12月 10日 、同会長 を辞任す る事態に発展 した。また、2013年 1月 の、同氏の町長辞職
にもこの問題 は作用 してい る (朝 日新聞特別報道部,2013,101‐ 113頁 )。
こ うした混乱をは らみつつ も、2013年 5月 か らボー リング調査が実施 され、環境省 の有
識者検討会は 12月 7日 、すべての候補地で建設可能 と結論 した。 これを受けて、12月 14
には石原環境相 と根本復興相が、佐藤知事 と大熊、双葉、槍葉の 3町長 に、第一原発周辺
などの約 19km2を 国有化する計画を説明し、建設受け入れを要請した (『 福島民報』2013
年 12月 15日 付)。
2町への集約 と地上権方式の提示
3町 のなかで最初 に態度 を明確 に したのは、檜葉町である。向町は、もともと中間貯蔵施
設ではな く、町内で発生する 10万 Bq/kg以 下の廃棄物 を受 け入れる「保管庫」であれば認
めるとしていた。松本檜葉町長は 2014年 1月 27日 、県庁で佐藤知事 と面会 し、10万 Bq/kg
超の廃棄物 を搬入す る中間貯蔵施設 を設置す るとい う政府 の要請 には応 じられない とい う
認識 を改めて示 した (『 福島民報』2014年 1月 28日 付)。
これを受 けて佐藤知事は 2月 4日 、候補地か ら槍葉町を外 して大熊、双葉の 2町 に集約
する再配置案 を示 し、国に計画見直 しを求めるとした (『 福島民報』2014年 2月 5日 付)。
石原環境相 と根本復興相 は 3月 27日 、佐藤知事 と会談 し、候補地 を 2町に集約す る再配
置案 を提示 した。 しか し、生活再建・地域振興策や県外最終処分の法制化 については具体
案 を示 さず、地元か ら要望の強かった土地賃借契約 は改 めて拒否 した (『 福島民報』2014
年 3月 28日 付)。
井上環境副大臣は 4月 25日 、冨1知 事、大熊、双葉両町長 と会談 し、建設受 け入れを前提
に、生活再建 。地域振興策 として使途の 自由度の高い新たな交付金 を設 ける方針 を伝 えた。
また、用地の扱 いについては、賃貸借 の可能性 を含 めて検討す る考 えを初 めて示 した。両
町は、町議会の了承 を得 ることを条件 に、国が住民説明会 を開 くことに同意 したが、施設
受 け入れ とは別問題だ とされた (『 福島民友』2014年 4月 26日 付)。
住民説明会は 5月 31日 にはじま り、6月 15日 に終了 した。その直後、石原環境相の「金
目」発言で地元 との関係が悪化 し、交渉が停滞する場面もあつた。
国は 7月 28日 、用地の全面国有化方針を転換 し、最長 30年 間の地上権を設定 して、所
有権を地権者に残す とい う選択肢 も認める考えを表明 した。 しかしなが ら国は、上記交付
金の額を明 らかにせず、また、県外最終処分の法制化前には除染作業で出た土壌や廃棄物
の搬入をしないとしたものの、法制化を地元の施設受け入れ判断後 とする点は譲 らなかっ
た (『 福島民友』2014年 7月 29日 付)。
生活再建・地域振興策の具体化
国は 8月 8日 、生活再建・地域振興策 として交付金 3010億 円を提示 した (環境庁・復興
庁,2014)。 これは、① 「中間貯蔵施設に係 る交付金」 (仮 称、大熊町 。双葉町・福島県・
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCII・ GSB Working Paper No.201415
県内他市町村を対象に 1500億 円)、 ② 「原子力災害か らの福島復興交付金」 (仮称、1000
億円)、 ③ 「福島第一原子力発電所に係る電源立地地域対策交付金」 (30年 間で 510億円増
額)か らなる。①は大熊、双葉両町を中心に、施設整備などにともな う影響 を緩和するた
めの幅広い事業 (ふ る.さ との結びつきを維持するための事業、風評被害対策のための事業、
生活空間の維持・向上のための事業など)に 充てる。②は、福島県全域の復興を効果的に
進めるための事業などに広範に利用できる (『 福島民友』2014年 8月 9日 付)。 また国は 8
月 19日 、①②の交付金の使途について、「医療や放射線防護対策の拠点施設の整備、重点
産業の誘致促進、古里の訪問事業など」を具体的に示 した (『 福島民友』2014年 8月 19日
付)。
佐藤知事は 8月 25日 、大熊、双葉両町長に、県独 自の生活再建・地域振興策 として両町
に 150億 円の財政支援を行 う方針を明 らかにした。 これは事実上、建設を受け入れる意向
の表明であり、県主導で交渉を早期に決着させたい姿勢を示 したものとされる (『 福島民友』
2014年 8月 26日 付)。 なお県は、この 150億 円について、中間貯蔵施設用地の政府買い取
り額 と、原発事故がなかつた場合 に想定され る地価 との差額の補填 に充てる方針である
(『 福島民友』2014年 10月 1日 付)。
また 8月 26日 、石原環境相が大熊、双葉両町の議会全員協議会で、上記① 「中間貯蔵施
設に係る交付金」(1500億 円)の うち 850億 円を、両町に直接交付する方針を明らかにし
た (『 福島民友』2014年 8月 27日 付)。 したがつて、県からの上記 150億 円と合わせて、
両町への交付金は 1000億 円となる (表 2)。
なお、根本復興相は 8月 28日 、大熊、双葉両町の復興拠点整備について、「大熊・双葉
ふるさと復興構想」を提示 した (『 福島民友』2014年 8月 29日 付)。
表 2 中間貯蔵施設 に関す る国・県 の交付金
注 :① と②を合わせて 2町に 1000億 円。
出所 :『 福島民友』2014年 9月 4日 付をもとに作成。
県の建設受け入れ と 2町の対応
県は 8月 30日 、中間貯蔵施設 の受 け入れを表明 し、大熊、双葉両町長 はその判断を了承
した。ただ し、両町長 は地権者 の理解 が優先だ として、国 と県 による地権者 向け説明会の
国が交付 (総額 3010億 円)
「中間貯蔵施設 に係 る交付金J(仮称、大熊、双葉 2町
を中心に施設 の影響 を緩不口す る事業)
1500億 円
うち 850億 円 を 2町 に直接 交付 (① )
「原子力災害か らの福 島復興交付金」(仮称、県全域の
復興や風評被害対策)
1000億 円
「福 島第一原子力発電所 に係 る電源 立地地域対策交付
金」 (廃 炉 を考慮 した地域振興)
510億 円 (30年 間 の増額分 )
県が交付
2町 を対象 とした交付金 (地権者の生活再建を支援、
用地の政府買い取 り額 と、原発事故がなかつた場合に
想定 され る地価 との差額 の補填)
150億 円 (② )
中間貯蔵施設 をめ ぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB゛、rking Paper No.201415
開催 は認 めるものの、建設受 け入れ の是非 については言及 しなかつた (『 福 島民友』2014
年 8月 31日 付)。 9月 19日 に両町議会の定例会がは じまったが、それに際 して、両町長 は
ともに、地権者への説明会は受 け入れたものの、県の建設 受 け入れ を容認 していない とい
う姿勢を表明 した (『 福島民友』2014年 9月 `21日 付)。
なお県知事は、建設受け入れ容認 と、搬入受け入れの判断は別だとして、後者について、
次の 5つ の条件を出 している。①県外最終処分の法案の成立、②中間貯蔵施設等に係る交
付金等の予算化、自由度、③国による搬入ルー トの維持管理等及び周辺対策の明確化、④
施設及び輸送に関する安全性、⑤県及び大熊町・双葉町 との安全協定案の合意 (『 福島民友』
2014年 8月 31日 付)。
大熊町の建設受け入れ表明 と地権者会の発足
大熊町は 12月 12日 、町議会全員協議会で、中間貯蔵施設建設 を受 け入れ る方針 を議員
に説 明 し、議会 も了解 した。ただ し、町は搬入に関 しては、別途判断す るとしている。他
方、双葉町は、受 け入れについて判断を示 していない (『 福島民友』2014年 12月 13日 付)。
大熊町は 12月 15日 、行政区長会で建設受け入れ方針 を伝 え、了承 を得た。 これを受 け
て、環境省は地権者 との用地交渉 に入 る。町は 2015年 1月 、全町民対象の懇談会を開き、
施設受け入れな どについて説明す る (『 福島民友』2014年 12月 16日 付)。
他方、両町の地権者は 12月 17日 、「30年 中間貯蔵施設地権者会」を発足 させた。17日
現在、37人 が会員 となってお り、国が示 した用地補償額の見直 しなどを求めていくとい う
(『 福島民報』2014年 12月 18日 付)。
大熊町は、建設 を受け入れた ことによつて、施設建設を前提 とした 「条件闘争」が可能
になつたとも考えられる。町が今後 どのような立場でこの問題に向き合 うのか、注 目され
る。 さらに、双葉町はまだ建設についても判断を示 しておらず、2015年 1月 には大熊町の
住民を対象 とした懇談会が予定 されている。搬入 目標時期も2015年 1月 から年度内に延期
された (『 福島民友』2014年 12月 22日 付)。 しばらくは予断を許 さない状況が続 くだろう。
2 若干の論点
次に、冒頭で述べた地権者や周辺住民に対する聞き取 り調査を踏まえて、今後検討すべ
き若干の論点を記 してお く。ただ し、十分な考察は経てお らず、あくまで当面の覚書にと
どまることをお断 りしておきたい (よ り詳細な検討は、第 2章 、第 3章 で行われる)。
土地所有権の扱いについて
第 1は、地権者に対 して、土地売去「と地上権方式以外の、多様な選択肢を保障す ること
である。中間貯蔵施設予定地はすべて帰還困難区域であるため、地権者 は、東京電力 (以
下、東電)に より全損評価で不動産賠償を受けている。 しか し、土地所有権は手元に残 る
ので、地権者は土地 を通 じて、避 難元の地域 とつながつているとい う側面がある。土地の
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB S、rking Paper No 201415
売却 は、そのつなが り (精神的なつなが りを含 め)を 断ち切 ることになる。 もちろん土地
を売 りたい とい う人 もいるが、売 りた くない とい う人、30年後 には土地 を返 してもらいた
い とい う人 もい るであろ う。いずれ土地が戻つて くるのであれば、それまでの間、国が 自
分の土地をどう利用す るのか、地権者 は強い関心をもた ざるをえない。また、土地 を返還
する際の原状回復 も重要である。原発事故前には どこに何があつたのか、元の姿が分かる
よ うな 目印を残 してお くことも必要かもしれない。 こうした点について、地権者側か ら条
件をつける方法が考 え られないか。
現実的には、地権者 が集 まって交渉 しなければ、多様 な選択肢を確保す るのは難 しいだ
ろ う。前述 の地権者会の よ うに、地権者が集ま り、土地を管理す る団体な どをつ くること
な ども考 えられ るのではないか。
国の補償額、および東電の賠償 との関係について
第 2は 、土地の売却にせ よ、他 の形態にせ よ、その代価 をい くらとす るか とい う問題で
ある。地権者 に聞 くと、国は地権者向けの説明会で、東電が全損評価 で賠償 を しているこ
と、原発事故で地価 が下落 した ことを理 由に、中間貯蔵施設建設用地が 「無価値」になっ
た と説明 しているよ うである。 しか し 30年以内に県外最終処分 をす るのであれば、時間を
かけて土地の価格 は回復 してい くもの と想定 され る。また、東電が全損評価 で賠償 をして
も、所有権が手元 に残 る以上、地権者 としてはその土地が 「無価値」 になった とは考 えな
いだろ う。さらに、居住用不動産については、原子力損害賠償紛争審査会第 4次追補 (2013
年 12月 )に おいて規定 された住居確保損害の賠償 もある。 したがつて、東電の不動産賠償
(2013年 3月 末開始)、 住居確保損害 (同 年 12月 の第 4次追補)、 お よび今回の補償の相
互関係 について、理論的な整理・検討 を行 うことが必要である。
なお第 1の 点 と関連す るが、農地については、維持管理のための労働投入の蓄積、長期
継承性 (過 去か らの、将来への)、 食べ物 とい う 「命 の源」の生産、 といつた諸特性か ら、
地権者 の特別 の思いが こめ られ ていると考えられ る。農地の賠償・補償 においては、 この
点を考慮す る必要があろ う。
県外最終処分 とその後の問題
第 3は 、30年 以内の県外最終処分を どう担保す るか とい う点である。その点を明記す る
「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」が 2014年 11月 19日 に成立 したが、法制化だけで
は不安だ とい う声 も出 されてきた (住 民説明会参加者の意見。『福島民友』2014年 6月 1
日付)。 国、県、町、地権者 による協定で、30年以内に国が県外最終処分を実施 しなかつた
場合の条件 を定めることな どが考え られないか。
第 4は 、県外搬出後の跡地利用の問題である。跡地が どのような状態になるのか明 らか
でないが、大熊、双葉両町の復興計画 との関係 も出てこよう。
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB S、rking Paper No 201415
予定地 と周辺地域 との関係について
第 5は 、建設予定地 とその周辺地域 との関係 に関す る問題である。施設予定地の外でも、
国の上記説明をそのまま適用すれば、土地は 「無価値」になってい るはずである。 この,点
は同 じであるのに、予定地の地権者 には国の補償があ り、その外 にはない とい うことをど
う考 えるか。 この問題 を緩和す るために、国 。県の交付金 (前 掲表 2)を用 いるとすれば、
どのよ うな施策 を実施すべ きか。
また、県外最終処分までの 30年以内に大熊、双葉両町が帰還を進 めるのであれば、住民
は中間貯蔵施設 との 「共存」 を余儀な くされ る。復興計画な どとの関係 もあ り、 この′点に
ついて どう考えるか。
意思決定、参加、合意形成にかかわ る問題
第 6は 、施設建設 をめぐる意思決定プロセスなどに関する問題である。2014年 5月 31
日か ら 6月 15日 にかけて、双葉、大熊両町民を対象 とした説明会 (福 島県内 10回 、県外
6回 、計 16回 )、 9月 29日 か ら 10月 12日 にかけて、地権者へ説明会 (県 内´9回 、県外 3
回、計 12回 )が 開催 された。今後は、地権者 との個別交渉 に移行 してい くとされ るが、こ
うしたプ ロセスで よいのか。 中間貯蔵施設 は、県環境影響評価条例の適用除外 となるよ う
だが、施設だけでな く搬入路の周辺 を含 め、業務従事者の被曝や放射性物質 の飛散な どを
どう防止す るのか。関係住民は、 この意思決定や今後の被曝、汚染 の防止 に どうかかわる
のか。
以上が、冒頭で述べた聞き取 り調査 を通 じて、筆者が重要ではないか と感 じた点である。
まだ調査・研究が十分でな く、筆者 の能力を超える内容 も多いため、他分野の研 究者や専
門家 と協力 しつつ、今後具体的な検討 を進 めたい。
付記 福島県外の指定廃棄物の「福島集約論」
国は 8000Bqノ kg超 の指定廃棄物について、発生都県ごとに処理する基本方針を閣議決定 して
いる。宮城、茨城、栃木、群馬、千葉の 5県 には国がそれぞれ最終処分場を新設する計画であ
る。しかし、地元の反発は強く、指定廃棄物の「福島集約論」も出されている。本稿でその是非
を論 じる準備はないが、集約するとして、具体的な場所はどこか、その用地の所有権の扱いなど
をどうするか等によつては、中間貯蔵施設の地権者にも影響が及ぶことが考えられる。少なくと
もその点を考慮 して議論を進める必要があろう。
文献
朝 日新聞特別報道部 (2013)『 プロメテウスの罠 4-―徹底究明 ! 福島原発事故の裏側』学研
パブ リッシング。
環境省 (2011)「 東京電力福島第一原子力発電所事故に伴 う放射性物質による環境汚染の対処に
おいて必要な中間貯蔵施設等の基本的考え方について」10月 29日 。
環境庁・復興庁 (2014)「 中間貯蔵施設等に係 る対応について」8月 8日 。
原子力災害対策本部 (2011)「 除染に関する緊急実施基本方針」8月 26日 。
田中良弘 (2014)「 放射性物質汚染対処特措法の立法経緯 と環境法上の問題点J『 一橋法学』第
13巻 第 1号, 263‐ 298頁 。
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB Working Paper No 201415
第 2章
中間貯蔵施設 の設置 をめ ぐるい くつかの論点 について
一―設置手続きと土地所有権の扱いを中心に一―
儀 野弥生
(東 京経済大学)
1 は じめに
福島原発事故以前 に、すでにス リーマイル島 (TMI)事 故お よびチェル ノブイ リ事故が発
生 していたにもかかわ らず、わが国でこのよ うな過酷事故が発生す ることを想定 していな
かった。そのために、」CO事故の発生によって緊急避難対策の遅れが指摘 されて、事故発生
時点での対応策 について原子力災害特別措置法を制定 し対応 したが、その後 の措置を定め
た法律 を制定 して こなかった。結局、対症療法的にその場 しのぎの政策、そ してそれ を裏
付ける立法に終始 してきた。その結果、時間が経つにつれ、問題はますます複雑 になつて
きた。
その中核 となるのが、高濃度地域での居住の維持 と超高濃度地域での中期的避難後の帰
還、そ してそれ らに対応す る広範囲にわたる除染政策 とい うカ ップル政策である。いいか
えれ ば、大規模除染 は、危険区域での居住政策 と早期帰還政策 の補完事業である。 この政
策は、TMI事故でも、チェル ノブイ リ事故でも経験 を したことがない政策である。帰還 。居
住維持政策 を採用 した と言 うことは、高濃度汚染 を した土壌や稲わ ら等の 自然物のみな ら
ず、自動車等屋外使用の製品等についても、居住生活空間か ら排除す ることが求められる。
必然的に大量の廃棄物 を生みだ し、除染廃棄物 と併せて、それ らを収容す るだけの最終処
分場または隔離 された一時的貯蔵施設が必要になる。
ところで、一般 に、事故 によ り環境 中に有害物質が放出 された場合には、大気汚染防止
法や水質汚濁防止法 に基づいて、 「ばぃ煙発生施設又は特定施設 について故障、破損その
他の事故が発生 し、ばい煙又は特定物質が大気 中に多量に排 出 された ときは、直ちに、そ
の事故 について応急 の措置 を講 じ、かつ、その事故 を速やかに復 旧す るよ うに努 めなけれ
ばな らない」 とし(大 防法 17条 ①、水汚法 14条 の 2① も同旨)、 「都道府県知事等は、事
故によ り周辺の区域 における人の健康 に影響があると認 めるときは、排 出者 に対 して、必
要な措置 をとるよ うを命ず ることができる」 (同 条③、水濁法 14条 の 2③ も同旨)と 定め
る。 そ して、事故 の原因事業者 は、廃棄物処理法の定めるところに従って、有害物質の無
害化処理な どの中間処理お よび最終処分 を行 う。すなわち、事故の原因者である事業者が
自己責任 で有害物質 を回収 し、適切 な処理 を しなければな らない。
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU・ GSB S、rking Paper No 201415
これに対 して、放射性物質 についてはその規定がな く、処理 に関 して事故が発生 した後
になって初 めて 「平成二十三年二月十一 日に発生 した東北地方太平洋沖地震 に伴 う原子力
発電所 の事故 によ り放出 された放射性物質による環境の汚染への対処 に関す る特別措置法」
(以 下、放射性物質対処特別措置法 とす る)が制定 され、対策が とられ ることとなつた。放
射能 に関 しては、無害化す ることはできず、半減期 を待つ以外 なく、必要に応 じて汚染土
壌や汚染廃棄物 を回収 し、処分す ることになる。
同法では、福島原発事故が余 りに広範かつ重度の汚染 をもた らし、 しかも緊急 に対処す
る必要があつたために、事業者 に代 わって国お よび 自治体が有害物質の回収 (除 染 を含む)
と処理について、責任 を持 つて行 うこととした。
除染については区域 を分 けて国 と自治体が、中間貯蔵 と最終処分は国が責任 を持つ。事
故 によ り施設外 に放 出 された有害物質の処理にあつては産廃処分の通常のルー トで行われ
るが、原子力施設外 に放 出 された放射性物質 については考慮 の外にあった。そのために既
設の廃棄物処理施設 を利用可能であれば利用す る。lkgあ た り8000ベ クレル以上、10万ベ
クレル以下の放射性廃棄物 につ いては既存の管理型廃棄物処分場 を利用あるいは新設 し、
10万 ベ クレル以上の廃棄物お よび除染土壌等 を処理す るための中間貯蔵施設 と最終処分場
については新設す ることとなった。10万 ベク レルは、既存の既設の施設の利用可能性の可
否 を定める基準 となる。福島県内の除染 ごみの うち、焼却処理 されない土壌等は中間貯蔵
施設 に搬入 され る。
このよ うな枠組みが設 け られたのであるが、これ を具体化す るのは、基本方針以下の行
政の施策 に委ね られたのである。
中間貯蔵施設 をめぐる問題点について、第 1章 に述べ られているが、本章でよ り詳細 に
検討す る。それ に先立ち、現在 の状況のまま推移す ることが、周辺住民及び国民にとつて
も以下のよ うな問題 を残す ことを確認 しておきたい。
1. 法律で処理 についての定めはあるが、中間貯蔵施設 の設置 自体は行政 の裁量の範囲
内で決 め られ、地域住民や国民の合意のないままに行われ ることの妥 当性。
復興 を急 ぐとい うことで、特措法対応ではあるが、緊急的な必要性 とい うことで、
住民 との コミュニケー シ ョン時間を短縮 し、環境影響評価手続 きを省略す ることの妥
当性。
事故 によ り最 も汚染が深亥」な原発敷地周辺地域 は土壌汚染回復が長期 にわたつて困
難であるとい う理 由で、廃棄物処理施設用地 として和l用 す ることが容認 され ることの
妥当性。
30年後の土地利用が不透 なままにおかれた土地の国有化 と地上権方式を容認するこ
とによつて、その間の土地利用お よびその後の土地利用 を国に委ねて しま うことの妥
当性。
3.
4.
10
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSBヽVOrking Paper No 201415
2 中間貯蔵施設 と法主体
(1)中 間貯蔵施設にかかわる行政主体 と責任
中間貯蔵施設 については、第 1章で述べ られているよ うに、20H年 10月 29日 に出され
た 「東京電力福島第一原子力発電所事故 に伴 う放射性物質による環境汚染の対処において
必要な中間貯蔵施設等 の基本的考え方について」で、は じめて位置づけられた施設である。
それ以前に 「除染 に係 る緊急実施基本方針Jで 、 「長期的な管理が必要な処分場の確保や
その安全性の確保 については、国が責任 をもつて行 うこととし、早急 にその建設 に向けた
ロー ドマ ップを作成 し、公表」す るとした。 この基本方針に基づき、 「考 え方 について」
で、 自治体 ごとに仮置 き場 を設置 し、国が中間貯蔵施設 を責任 をもつて確保す るとい うこ
とを示 した。 このよ うに、国 と自治体の役割分担が示 された。なお、旧避難指示区域につ
いては、国が直轄除染す るので、仮置き場 も国の責任 で行 う。
放射性物質対処特別措置法における除染廃棄物・原発敷地外の放射性廃棄物に関す る国
と自治体の任務は以上のよ うであるが、県・市町村は、地方 自治法 に基づ く権限 として、住
民の生活環境 の保全、地域整備お よび住民の増進の観点か ら、中間貯蔵施設の設置 につい
て利害関係 を有 し、その観点か ら権限を行使す ることが求め られ る。特に、県は環境影響
評価 について、条例上の権限を行使す ることができる。
こ うした観点か ら福 島県内の市町村を見た ときに、立地予定 自治体である双葉町 と大熊
町の利害 と、仮置 き場や焼去「施設 を抱えるその他の 自治体の利害は異なつて くる可能性が
ある。 もっとも、中間貯蔵施設 としての土地利用は決まっていて も、その後の土地利用が
不透明な中では、周辺 自治体 も影響 を蒙 る恐れがある。輸送車両が集 中す ることが見込ま
れ る周辺 自治体 もまた、中間貯蔵施設立地 自治体 と、部分的ではあるが類似の利害関係 を
有す る。
このよ うに、県お よび福島県内の市町村は、いずれ も中間貯蔵施設 の設置に関 して法的
利害関係 を有す ると考 えられ る。 ここでは、双葉 。大熊両町は立地が予定 されている自治
体 として当事者であるので、両町を中心に考 える。両町は、中間貯蔵施設予定地の住民た
る地権者 に対す る援助及び施設周辺住民の生活環境の保全の責任主体 と見定めることがで
きる。 さらには、10万ベ クレル以上の放射性廃棄物が持 ち込まれ るため、道路周辺地域の
安全な環境 を保持・整備 し、住民を保護する責務を有す る。その ことは後 に述べ るように、
国に対す る自治体の権利 となつて現れ る。
(2)地権者 および双葉 口大熊町の住民の権利
中間貯蔵施設用地 の所有者等の地権者は、い うまでもなく当事者 としての地位 にある。
通常の公共用地の地権者であるとい う性格 を有す ると共 に、福島第 1原発事故の被害者 と
して、強制避難 を余儀 なくされてい る人 々である。これ らの人々は、現在全国に散 らば り、
仮の生活 を余儀 な くされていて、国お よび東電 との関係 で、用地の売買契約 あるいは貸借
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU・ GSBヽ、rking Paper No 201415
契約 の当事者 とい う側面 と被害者 としての損害賠償請求権者 と、異なる 2つ の当事者 とし
ての位置 にある。 これが、土地の売買価格等を考える際に、事柄 を複雑 に している。
双葉、大熊両町内の同施設付近住民 もまた、同施設立地の利害関係者 である。 中間貯蔵
施設 の立地によつて もつ とも影響 を受 けるものは施設周辺住民であるが、汚染廃棄物等の
搬入道路沿道住民 も影響 を蒙 るおそれがある。ただ し、 ここでは、沿道住民については省
略す る。
3 中間貯蔵施設設置手続 きの課題
(1)公共事業 としての中間貯蔵 と用地取得手続き
1. 中間貯蔵施設 は、施設 として 2つ の側面を持 つている。まず挙げ られ るのは、公共の
用に供 され る施設 とい う特質である。2つ 目は、廃棄物処理施設 としての機能 を有す ると
い うことである。
中間貯蔵施設が公共の用に供 され る施設であるとい うことは、国による中間貯蔵施設用
地の取得 は公共事業用地の取得 あるいは地上権の設定 とい うことである。
憲法 29条 では、国民の財産も 「正当な補償 の下に、これを公共のために用ひ ることがで
きる」 としている。 これは、土地等財産権の強制収用の根拠 となっている条文であるが、
公共事業 を行 う吟当たつて必要 となる土地の取得のための要件である。憲法 29条 3項 の趣
旨を具体化 した土地の強制収用手続一般法 としての土地収用法では、公共事 業 を行 うにあ
たって、土地収用事業 として認 め られ る要件の一つに 「事業計画が土地の適正且つ合理的
な利用に寄与す るものであること」 (20条 ③)を あげている。
本件 の場合、現在 、同施設用地が土地収用の対象 とされてい るわけではない。 しか し、
任意取得であるな らば 「土地の適正かつ合理的な利用Jと い う要件 を欠いて もよい、 とす
る合理的理 由はみ あた らない。 したがって、 「土地の適正かつ合理的な利用」は、公共事
業用地の取得が適法であるための要件 であるといつて よい。事業の 目的ばか りでな く、同
地でその事業 を行 うことの適正性 と合理性が求め られ るのである。ただ し、適正かつ合理
的利用であるか どうかの判断手続 きは、土地収用の事前手続 きである事業認定手続 き とし
て定 め られているのであ り、公共事業計画手続 き として定め られているのではない。本件
の場合 には、放射性物質対処特別措置法にも手続 き規定はな く、任意買収 とい う政策判断
を している以上、買収前手続 きは、権利濫用 と判断 されない限 りで、行政 の裁量に委ね ら
れることになる1。
12011年の土地収用法改正は事業認定手続 きを抜本的に改める改正だったが、改正の附則 5条 でも 「公共
の利益の増進 と私有財産 との調整 を図 りつつ公共の利益 となる事業 を実施す るためには、その事業の施行
について利害関係 を有す る者等 の理解 を得 ることが重要であることにかんがみ、事業 に関す る情報の公開
等その事業の施行 について これ らの者 の理解 を得 るための措置 について、総合的な見地か ら検討 を加 える
もの とす る」 とあるよ うに、公共事業 につ いての利害関係者 の納得の得 られ る手続 きの欠快 について問題
視されてきた。山田洋 「土地収用と事業の公共性J芝池義一=小 早川光郎編『行政法の争点』 (第 3版)
ジュリス ト増刊号 (有 斐閣 2004)231頁 でも、公共事業計画についての公共性認定手続きの必要性に言
及している。
12
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSBヽVorking Paper No 201415
とはいえ、公共事業が同地で行われ る 「適正性 と合理性」があるとい うことが、交渉の
前提である。そ して、国が地権者 に対 して、その要件 を満たす ことを十分納得できる情報
提供 を行い、かつ説 明責任 を果たす ことが、必要条件 といえる。 さらに任意 買収 にあって
は、地権者 との交渉過程 は実質的に対等性が確保 された上での、合意でなければな らない
ことはい うまで もない。
2 第 2の廃棄物処理施設 としての側面についてみると、中間貯蔵施設は、廃棄物処理法
に基づ く廃棄物処理施設ではないが、周辺住民に とっては、人の健康 もしくは生活環境ヘ
の被害 (放射能被害)を 蒙 るかもしれない廃棄物処理施設の一種 である。最終処分場 と違っ
て、中間貯蔵施設は 30年後には搬出 される廃棄物 もある、 とい う点が異なる。
公共用地の取得 の仕組みについては上述のよ うな状況であるが、廃棄物処理施設の一種
であるとい う点に着 目す ると、中間貯蔵施設 の設置にあたって、廃棄物処理法に基づ く廃
棄物処理施設の手続 きを準用す ることが問われなければな らない。
公共的な廃棄物処理施設 としては、 自治体が必要 とす る一般廃棄物処理施設がそれに相
当す る。一般廃棄物処理計画で定めることとしている2。
ほ とん どの条例では、廃棄物処理
法に基づ く同計画は廃棄物減量等審議会の諮問事項 となつている。委員 には、通例、消費
者団体や懲戒な どの関係 団体代表や公募委員が含まれ る。パブ リックコメン トの対象 とな
つている場合が多い。公共関与の産業廃棄物処理施設 の場合 には、同様 に産業廃棄物処理
計画に定め られ、審議会で検討 され る。民間の施設の場合には、施設 の設置 は許可制であ
り、許可手続 きで行政庁の審査 とともに、後述の住民参加手続 きが規定 されている。
本件の場合 には、環境審議会 では報告事項 として議論 されている。 このよ うに、当初双
葉・大熊 ・富岡の 3町か ら双葉 。大熊の 2町 になつたが、 この土地の選定については、専
門家の関与のみでそれ以外 の関与はない。
地権者や住民の意見は、実施手続 きの中で反映 させ ることが必要になる。
(2)ど のような手続 きをとるべ きか
1.廃 棄物処理施設 については、大気汚染や水汚染を心配す る住民 との間で多 くの紛争
が発生 した3。
そ こで、廃棄物処理 に関す る権限を有す る自治体は要綱や条例で住民の参加
2廃棄物処理法では、環境大臣が廃棄物処理計画の案 を策定 して、閣議で決定す る (法 5条 の 31)。 この方
針 に従い、都道府県廃棄部宇処理計画が策定 され る(5条 の 51)。 同計画 に基づいて市町村計画が定め られ
るが、具体の施設計画 は市町村計画で定め られ ることになる。
3廃
棄物処理施設 をめ ぐって、建設 の差 し止 め、操業の停止お よび許可の取消 を求 める訴訟は、全国で起
きている。特 に、宮城県丸森町 における廃棄物最終処分場の建設差 し止 めをめぐって、操業前の処分場に
ついて、静穏 に生活す る権利 に基づ き差 し止 めを認 めて (仙 台地決平成 4年 2月 28日 判時 429号 109頁 )
以来、多 くの処分場で指 し止 め請求が認容 されている。 さらに、産業廃棄物処理業の許可 を争 うとい う形
式ではあるが、行政処分 の取 り消 し請求 を認容 されている事例 もある (千葉地判平成 19年 8月 21日 判例
時報 2004号 62頁 )。 '
13
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐GSB Working Paper No 201415
規定を定めて紛争 の未然防止策 を定めると共に、権限を有 さない市町村 は水源条例 を制定
して、飲み水の安全や量の確保への配慮 をしてきた。
ひ るがえつて、本件の場合 をみ ると、基本方針 では 「地方公共団体や住民の理解 と協力
を得つつ、政府 として最大限の努力」4を
す るとしている。そ して、ロー ドマ ップによれば、
第 1章 図 1に みるよ うに、「中間貯蔵施設の選定について」で示 されている基準を含めて、
場所 の選定、事業規模 な どについての基本構想について、専門家の検討 に付 され る。構想
検討 を進 めつつ、福 島県お よび関係市町村 との調整 をすすめるとし、 さらに基本設計が出
来た段階で、実施設計、現地調査、浪1量 を行い、用地取得に入 るとしている。ただ し、 「地
元」 といわれている者 の具体的主体及び 「調整」の手続内容は明 らかではない。 しか し、
国 としては、 「調整」の中で、同地を選定 したことが適正かつ合理的利用である旨を主張
す ることになる。
また、現地調査後、その調査結果 を持って、土地の買収 に入 る以前に、県・市町村 。「地
元」 との調整す るよ うには定め られていない。
ここで、決定的な ことは、このロー ドマ ップは福島県市町村全体に示 され 、除染および
仮置 き場の設置 の促進 のために利用 されていることである。 自治体や住民に対 して、 3年
間で施設 を立地 し、仮置 き場か ら搬 出す ることを約束す るとい う役割 も果た している。 と
くに、フ レコンバ ッグの耐用年数が一般 に 3年程度 といわれていることか らも、除染 を実
施 した自治体・住民は出来 るだけ早 く移動 させて欲 しい とい うのが本音であろ う。 とい う
ことは、中間貯蔵施設用地を有す る自治体の住民や用地の地権者 との関係 では、一度国が
決 めた場所や構造 について基本的な変更はあ り得ず、受け入れの受忍 を求める形式手続 き
と受 け止 めざるをえない。 「理解」での調整があ り得 るとすれば、立地に付随す る付力目的
な調整であると受 け止 め られても致 し方 ない。
実際、第 1章 で見 るよ うに、国は、2011年 12月 28日 には双葉郡に施設設置 を申し入れ、
翌 12年 3月 には、双葉、大熊、富岡の 3町 に施設設置 を要請 してい る。その後は、国に中
間貯蔵施設 に関す る委員会 を設置す ると共に、 ロー ドマ ップに したがい、調査の受け入れ
要請等を行いなが ら、県お よび町 と調整 をしてきた。
具体的 に住民 との接点を持ったのは、大熊町の場合、2013年 1月 の調査 に関す る住民説
明会である。調査の後には、2014年 5月 31日 、環境省 による住民説明会が初 めて とい う
ことになる。 6月 15日 までの約 lヶ 月半で、 2町の住民に 16回 の住民説 明会 を行 つて
いる。その後、全員協議会 を開催 した。 これ らの手続 きで、 「住民の理解 を得」 るための
十分な手続 きとい う要件を満た した といえるだろ うか。
確 かに、当初の案 の檜葉町については、町長の反対お よび住民投票条例制定への動 きな
どを勘案 して、立地案か ら除いたが搬入路は楢葉町である。富岡町の場合 には、最終処分
場 との引き替 えである。 しか も、避難指示解除準備 区域 に近い とい う批判が強い。槍葉 を
4「衆議院議員高市早苗君提 出除染に伴 う除去土壌等の処分方法 に関す る質問に対す る答弁書」内閣衆質
180第 25平成 24年 2月 10日 。
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中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB S、rkhg Paper No.201415
含めた 4町が、中間貯蔵 あるぃは最終処分に関す る施設 にかかわ り、中 間貯蔵施設か ら外
された両町の施設 が近い将来帰還が求められ る地域であるとい うことか らす ると、住民の
意見 をどのように反映 したかの説明責任が問われ る。 しか し説 明会で実際の説明を聞き、
説明会の議事録 を見 る限 り、調査の結果 についての詳 しい資料 はな く、通 リー遍 であ り、
住民の納得のい く説明 とはなっていない。ま してや、意見の交換 とはいえない
特に大熊、双葉 2町 については、調査後の説明会であるが、16回 行 つていても、相互理
解が深まるかたちでの進行ではな く、その意味で 「理解 と協力」は形式的なもの となつて
いる。
特 に問題なのは、 このよ うな専門的な知見を要す る事柄 について、住民が 自分が求めて
専門家の意見を聞き、それ に基づいて意見を言 えるような機会 がな く、パ ンフ レッ トによ
る説明のみ となつてい ることである。環境情報な どについて、詳 しく、分か りやすい資料
を縦覧 し、十分 な理解 のための情報 を提供 していない、 とい うことである。た しかに、イ
ンターネ ッ ト上では各種委員会の議事録情報 は提供 されているが、そ こにア クセスできな
い人のために、避難先の主要な 自治体の施設 に紙の情報 を縦覧す ることが必要だつた とい
える。環境省 は、環境影響評価手続 きを省略す るよ う県に要請 し、県 も受 け入れ るとい う
ことがあればなお さら、住民への十分な情報の提供 と意見の交換の必要がある。
2. また、本来であれば、16万 m3の用地を有す る有害な廃棄物 を処理する施設であ り、
福島県環境影響評価条例に基づ く第 1区分事業 として環境影響評価手続 きが要求 され る。
その場合 には、調査・評価項 目の決定手続 き及び評価書作成手続 きにおいて、住民には意
見を書面で述べ る機会が与 え られ る。本件で も、環境影響 に関す る調査 を行 い、国の検討
会で調査結果について検討 してい る。また、適地調査の前 に、施設用地の対象 となる行政
区に対 して説明会 を行い、施設 の概要 と適地に関す る判断基準 を示 している。 しか し、言
うまでもな く、同調査は、環境影響評価条例に基づ く調査ではな く、必要性 と安全性 につ
いて概要 を説明会であ り、環境アセスメン ト手続きに代替す る内容 を伴 っていない。
国は、 この手続 きに対 して、県に対 して免除申請 をしていて、免除が認 め られている。
3.廃 棄物処理施設 については、廃棄物処理法 によ り設置手続 きが規定 されている。廃
棄物処理法では、最終処分場等 の廃棄物処理施設 について、廃棄物が しば しば違法な処理
を引き起 こしていることか ら、その立地に当たつては、施設 の計画書や環境影影響調査書
を縦覧 し、一定の期 間内で意見を述べ る機会 を与えている(廃掃法 8条④ :事業者 による一
廃処理施設、9条 の 3② :市 町村設置施設、15条⑥ :産 廃施設)。 また、多 くの自治体で
調整条例 を設 けて、施設 に関す る情報 を提供 し、住民がそれ を精査 し意見を述べ る機会 を
与え、両者が合意 をす ることを 目的 とす る条例 を制定 している5。
5産業廃棄物処分場設置許可 に関す る権限を有す る県政令市、お よび 中核市で、 この よ うな条例 を設 けて
いる。
15
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB Working Paper No 201415
中間貯蔵施設 は最終処分場ではない ものの、汚染土壌 の多 くは移動 しない としているこ
と、また 30年 とい う長期間の貯蔵施設であること、許可に当たる審査 もな く環境省 自ら
が立地す ること、そ して環境基本法に放射性物質が含まれた ことな どを勘案す ると、施設
の設置に当たつては、廃棄物処理法 を準用 して、環境影響調査資料 を縦覧 し、住民の十分
な意見を述べ る機会が与え られる必要がある。それを掛酌す ることが、適正 な手続 きとし
て求め られ る。
4 なお、県知事が、2014年 9月 1日 に中間貯蔵施設 の受 け入れを環境大臣に伝 えてい
る。 さらに、大熊町 も同年 12月 15日 に受け入れを表明 した。国は、県 と自治体が受け入
ることを一つのステ ップ としてい る。国 との関係 では、 これまで述べてきた とお りである
が、県知事の受け入れ決定に際して、住民の意見を反映する手続きが一切執 られなかつた
ことについて、違法とはいえないが、適正さを欠くと言わざるを得ない。
(3)地権者 と手続 き
1 公共施設用地の事業者 による任意買収 に関 して制約はない。地権者 は、買収に応 じ
なければよい。 ただ し、土地収用法 とい う強制収用制度があることか ら、 (1)で述べた
よ うに、施設の設置 目的が適切か どうかの評価に地権者が意見 を述べ る機会があることが
望ま しいが、制度がないこと自体が違法 とはいえない。
なお、地権者が多数いる大型公共事業の うち、1997年の河川法改正により、ダムや堤防
事業については河川整備方針お よび河川整備計画で定めることになっていて、整備計画の
策定手続 きで利害関係者が意見を述べる機会 を与え られている(16条 の 2④)。 ダム建設 を
めぐつて、住民 との紛争の歴史か らようや くこのよ うな条文が導入 されたのである6。
補償 のあ り方 とともに、今回の事案でも河川整備計画の策定での さま ざまな参力日のあ り
方については参考に されてよい。
2. 国は、地権者 に対 して、9月 以降約 lヶ 月で説明会 を行 つてきた。土地の購入及び
地上権設定についての説明が主たるもので、 ヒア リングによれ ば、意見の交換 と納得 とい
うにはほ ど遠い状態だった と言 うことである。
地権者 は、判断基準 にもあるよ うに、同地に中間貯蔵施設 が設置 され る理 由を高度に汚
染 されて相 当の期 間、人が住 めない土地であることがその理 由だ と理解 している。事故が
なければ土地 も汚染 され ることはな く、ま してや 中間貯蔵施設 もZ、 要がな く、土地を手放
す ことにもな らなかつた。 にもかかわ らず、福島の復興のために必要 な事業だか ら正当化
され るとい うのでは、国は責任 を とらないばか りか、正当性 だけ主張す る。 これが、中間
61996年 6月 、河川審議会 は、「21世 紀 の社会 を展望 した今後の河川整備の基本的方向について」 (答 申)
を出 し、1996年 6月 に 「21世 紀 の社会 を展望 した今後 の河川整備 の基本的方向について」 (答 申)を 出 し
て、その中で、河川法改正 に向けて、河川整備 の計画の策定に当たつては地方公共団体や地域住民の意向
を反映す るための手続 を制度的に導入すべ きであるとした。
16
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB S、rking Paper No.201415
貯蔵施用地の地権者 のいつわ らざる気持 ちだろ う。また、住民の発言 を聞 くと、同 じ福島
県民および 自治体の暗黙の重圧 を感 じているようである。除染や敷地外の放射性廃棄物処
理が国の社会的責任 として規定 されているのであれば、施設用地の地権者 に対 して、国の
社会的責任 として事故 についての納得できる説明責任 を果たす ことを、今回の中間貯蔵施
設用地取得の際の考慮事項 として挙げておきたい。
4 地権者住民の思いとその実現
(1)地上権の設定 と論点
国は、用地取得 にあたつて、土地の購入か ら地上権の設定 とい う選択肢 も入れ ることと
した。代々受 け継 がれてきた土地 を手放 した くない とい う所有者 に とつて、選択肢が増 え
たことにはなる。
ところで、地上権 の場合 には、土地の譲渡や賃借 について所有者 の同意 を必要 としない。
中間貯蔵施設であるので、地上権が譲渡 され るとい うことは考 えに くい7が
、_時的に原子
力施設等内の放射性廃棄物が仮置きされ るな どのおそれは否定できない。む しろ、監視 を
す るとされ るものの、土壌が搬入 され ることか ら、違法な有害物質が途 中で混入 され るお
それ は否定できない。 これまでの各地での状況を見 るな らば、十分に煩慮 され るべき点で
ある。
また、地上権が消滅 した後 に土地が返還 され るが、国は 「地上権 を選択す る場合には、
原状回復 は土地の返還時において双方で協議 を行い決定する」8と
ぃ ぅ考え方を示 している。
とはいえ、 どの よ うな状態で返還す るのか明確ではない。汚染土壌 については、半減期 と
の関係 で最終処分場 に搬入せず、そのまま埋設 してお くとしている。その状態で返還 され
たのでは、当初 よ り汚染のひ どい状態で戻す と言 うことであ り、 これでは納得 を得 られな
いであろ う。地上権 が消滅 した場合 には、原状回復 をして戻す ことが原則 であ り、少な く
とも、居住、耕作が出来 る状況まで原状回復す ることが求め られ る。
そのためには、適正 な利用の監視や、違法なものが搬入 され る、あるいは処理の仕方に
不適正なことがある場合 には、懲罰的な加算な どの手段 を確保 してお く等 の条件 を付す こ
とが必要ではないだろ うか。
また、国は、一時払いを提示 してい るが、それが最適か どうか。毎年 の支払い とい う方
法 も考え られ る。
7説 明会の資料である 「中間貯蔵施設 に係 る土地の対応、生活再建 、地域振興策 について」
(http://josen.env go jp/materia1/pdf/dojyou cyuukan2.pdf)で は、返還時の土地の利用に関 して、地元
の意 向を反映 して決定す るとしている。
8環
境省 、復興省 「中間貯蔵施設等 に係 る対応 について」 (平成 26年 8月 8日 )。
' 17
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB Working Paper No 201415
(2)売 却
所有者 の中には、土地を売却す ることを望んでいる人 もいる。また、仕方がない と考 え
ている人 もいる。 これ らの人の中にも、納得が出来ない状態では売却できない とす る人 も
少な くない。
額 の問題 については、国は、現在上限を決 めていて、交渉の余地がない としているよう
である。
(3)移転地の確保
移転地の確保 を要求す る所有者 もいる。 コミュニテ ィとして移転地 を確保 して欲 しい。
特に前のよ うな生活が送れ るよ うに、農地等 を含 めて確保 して欲 しい とい う要求である。
これ は、ダム等の補償 において既 に行われているところであ り、公共用地の収用に当たっ
て執 られ る方策である。追加的賠償 との関係 があるが、移転地 の確保 と購入 との兼ね合 い
で処理できると考 え られ る。
(4)交 渉の手法
国は、説明会の後 は個別交渉 によるとしている。 しか し、交渉については、行政区単位
あるいは意思を同 じくす る所有者の団体単位で行 うことが望ま しい。
その理 由は以下の通 りである。
各人は、将来の選択 を含 めて迷 ってい る状態にあ り、売却 をす るか、地上権 を設定す る
か、決まっていない人 も多い。そのよ うな ときに個別の交渉 をす ると、対等な交渉が困難
である。また、適正価格 が どのあた りにあるかについて、十分 な情報 も議論 もない状況下
で交渉 をす ると、弱 い立場 に追い込まれ る。最低限、公開の場 での交渉によ り、論点を明
確に してお くことが必要である。その際、弁護士等専門家が代理人 として参加す ることが
適当であろ う。
また、 コミュニテ ィでの農地な どを確保 した移転 を望む人 については、当然単独での交
渉 とはな らず、それ を求める所有者の集団による交渉 を必要 とす る。
さらに、地上権 の設定が よいのか、それ とも賃借権の設定が よいのか、少 な くとも売却
をしないことを選択す る所有者 は、原状回復 を含 めて団体で交渉す ることで、初 めて対等
な交渉を行 うことが出来 る。
そのための手法 として、地上権 の設定、賃料の徴収、及び土地が返還 された ときのため
に目的に沿った利用が行 われているか どうかを監視す る目的で、所有者 の組合 を結成す る
ことも一つの手法であろ う。 この場合には、早急に組合 を結成す ることが求め られ る。
18
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU・ GSB N、rking Paper No 201415
5 国・ 自治体の責務 と土地の買い入れ
土地の売却あるいは地上権の設定は、専 ら地権者 と国の関係 として把握 されている。 し
か し、30年後には高濃度の廃棄物は搬出され ることが決定 している中間貯蔵施設の場合 に
は、別の選択肢が考 え られ る。
「大熊町住民意 向調査 調査結果 (速報版)」 (2014年 11月 11日 )に よれば、大熊町 との
関係 を切 りた くない と考 えている人 も少 な くない9。
原子力で汚染 された土地には戻 りた く
ない、関係 を継続す る必要はない と考 えている人 も少 な くない中で、出来れ ば将来、町内
に戻 つてきたい と考 えてい る人 もいる。大熊町の住民の考 え方 は、双葉郡の他 の自治体 と
同様 に多様 である。帰還困難 区域 を広範囲に抱 えていて も、いずれの時 にか、それが本人
の世代なのか、次 の世代なのか、その次の世代になるのかは判然 としないが、戻つて安全
なその故郷の地に立って欲 しい と思っている人が相 当数 いるとい うことである。 もちろん、
これ らの中には本人が大熊町の どこかには戻つていたい と考える人が少なか らずいる。
ところで、国に も、東電 と同様 に原発事故の被害者 。被害 自治体に対 して、原状回復ま
たはそれ に相当す る被害賠償 についての法的責任 として、国の 自主規制の大幅導入施策 に
よる規制の不作為責任 があると筆者 は考える。百歩譲 つて、 自治体に対す る不作為責任 は
ない とい うことであって も、放射性物質対処特別措置法で放射性物質の処理 に社会的責任
があるとしているの と同様 に、国には少な くとも自治体の存続す ら危 うくす るよ うな壊滅
的被害―― 自治体 の財政的損失お よび 自治体の地域整備 の蓄積 に対す る損失―― を与 えた
ことに対す る、社会的責任 はある。そのために、補助金の一部 をあて ることは、適正かつ
合理性 もある。850億 円の補助の根拠 もそこに求め られ るといえよう。
他方で、 自治体 も住民の安全で健康な生活 を確保するとい う基本的な責務 を果たす こと
が求め られている。今後の長い被害者住民の道の りを考 えた場合、 このよ うな観点か らの
被害者 の被害回復 のためのワンス トップ 自治体 とい う、 これまでの 自治体 と多少性格 を異
にす る役割 を、これ らの 自治体が持たざるをえない10。
それ を踏まえた上で、戻つてきたい、
あるいは関係性 を維持 したい人々の生活環境 あるいは地域環境の整備 の観点か ら、中間貯
蔵施設への 自治体の政策 を策定す る必要がある。 中間貯蔵施設 の土地 (用 地)に 着 目すれ
ば、 (1)原発施設直近被害者 を抱 える自治体 としての共通被害を回復す るためのワンス
トップ百治体が維持 され る地域的基盤 を持 ち地域整備権 を保持 してお くこと、 (2)そ の
地域 の環境上の安全性回復 に責任 を持つ こと、 (3)土地を離れ る人の生活 を擁護 できる
こと、を考慮す ることが必要である。
9「大熊町住民意向調査 調査結果 (速報版)」 (2014年 11月 11日 )に よれ ば、 「戻 るか どうか決 めていな
いJ「戻 らない と決 めている」人の 59%が 、大熊町 との繋が りを持 ちたい と述べてい る。
10帰
宅困難地域の住民は、そのまま住 民票 を自治体に置いてお くことを認 められている。二重の住民票 と
はいえないが、実質的に二重 の住民票の要素を持つ措置 を執 る以外ないであろ う。そ うであれば、かかる
被害 自治体は、被害者 の ワンス トップ行政 を担い、被害者の被害回復措置の国への施策請求のための重要
な役割 を持つ こととなる。
19
中間貯蔵施設 をめ ぐる問題点 と課題
OCU‐ GSBミ、rking Paper No.201415
そのよ うな要件 を満たすためには、 自治体は同施設の設置 に関す る同意・不同意 につい
ての 自治体の意思 を表明す るが、地権者 に中間貯蔵施設 の売却・地上権契約 を委ねて傍観
す る以外の途 をとることも、考える余地がでて.く
る。
`
そ の一つ として、売去「したい と考えている人の土地 について基金 を設 けて購入す るとい
うことも、町は選択肢 として考慮すべ きである。 自治体損害の回復のための補助金 として
の資金 を投入 して 自治体は基金制度 を設 け、中間貯蔵施設用地全体を管理す る機能 を持た
せ る11。
そのために、売却 したい地権者か ら土地を買い取 る。基金が購入 した土地は国に売
却す るのではな く、地上権 を設定す る。 これによ り、地上権 を設定 した所有者 と協働 して
原状回復措置 をスムーズに行わせ ることができる。
ところで、中間貯蔵施設 の建設 によつて、今以上に土地 を所有す る意義 を失 う住民が増
えることが予測 され る。 ところが、現在線量が高 くなおかつ中間貯蔵施設が長 く置かれる
土地の周辺では、売去「しよ うにも土地の価格が付かず に放置せ ざるをえない とい う状況が
発生す ることは容易 に想像がつ く。将来の 2町 の地域整備お よび住民の生活保障の責務の
観点か ら、基金制度 を活用 して、住民の土地を購入す るとい うことは、基金 の利用 として
も十分 に理 に適 う。 この よ うな理由か ら、同基金 による土地の買い取 りに関 して、施設用
地の土地ばか りでな く、用地以外の同一町内の土地についても同様 に買い取 ることが望ま
しい。
この制度の 目的 として、第 1に 、 自治体の地域環境整備の責務 として、将来的に帰還を
希望す る住民の安全 に生活す る権利の保全が挙げ られ る。用地以外の土地の購入 も、所有
者が管理す る意思のない放棄地 を多 く抱 えることを防止す るための地域整備 の責務の一環
である。
第 2に 、 自治体の地域環境整備の権利 には、2014年 3月 成立の水循環基本法により新た
な 目的が加 え られてお り、 この基金制度はそれに適 う施策である。新 たな 目的 とは、高濃
度汚染物 を抱 えるおそれのある自治体 としての水循環か らす る責務であ り、権利 である。
これ まで も、水源 自治体は水循環の観点か ら水汚染の防止 について権限を有す るとい う議
論がなされてきた
12が
、水循環基本法に基づいて、自治体は自主的、主体的な 「その地域の
特性 に応 じた施策」 (同 法 5条)が 求められている。地下水および公共水域への汚染侵出
のおそれのある中間貯蔵施設 の適正保管監視 として、国 とは違 った住民お よび国民による
監視制度 として機能 させ ることが、それにあたる。そのために、 この基金 には、広 く中間
貯蔵施設 の適正管理が必要であると考える人々の寄付 をつの り、その 目的を達成す る。
11こ
れまで、神奈川県、世 田谷区をは じめ として、環境保全のために基金制度 を設 けて土地を購入 し、自
然の保全 を している例がある。積極的 自然保護ではないが、人々の安全の確保のため と将来返還 された土
地を自然豊かな地 区に戻す ことで、住民の平穏生活権の享受 に資す ることが可能 となる。
12岐
阜県御 嵩町における廃棄物処理施設問題 は、ま さにこの ことが議論 された場面である。
20
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB雨、rkhg Paper No.201415
6 監視
廃棄物最終処分場 の場合 には、住民に対 して、最終処分場への搬入に関す る帳簿 を閲覧
す る権利 を与 えてい る。同様 の措置が必要 と考え られ る。すでに、除染 について、違法 な
行為が多々認 め られた。特 に、今回は除染 した土壌が搬入 され る。土壌 に関 しては、様々
な廃棄物が違法に混入 されて しま うことで、紛争 を引き起 こしている事例がある。 このこ
とを考慮 に入れ る と、中間貯蔵施設 について、監視体制の整備 が重要である。現在の計画
でも環境省 は監視体制 を とるとしてお り、そのための施設 も計画 されている。 しか し、住
民の納得 をえるためには、廃棄物の最終処分場 と同様 に、地元 自治体、住民代表、地権者
による立入、帳簿の閲覧等 による監視が認 め られて初 めて、中間貯蔵施設 の設置が容認 さ
れ る。
21
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB WOrking Paper No.201415
第 3章
政府による中間貯蔵施設建設予定地の
地権者に対する補償額提示を受けて
渡 辺淑彦
*・
頼金 大輔
*
(*福 島県弁護士会所属 弁護士)
第 1 は じめに (問 題の所在)
1 中間貯蔵施設建設 に向けた用地買収 の金額設定について、地権者 と政府 との間で大
きな溝が生 じている。
政府は、平成 26年 9月 29日 、福島県いわき市で行われた地権者向けの説明会の中で、「住
宅地は、原発事故がない場合の評価額の 5割 、山林は同 7割」 とした 「標準価格」 を提示
した。また、売却 には応 じない地権者 に対 しては、地上権 を設定 し、その場合 には、買取
り額 の 7割 で補償す るとい う代替案 を提示す る一方、賃貸借契約な ど、その他 の多様 な契
約類型の設定には応 じない との姿勢 を崩 していない。
当然 のことなが ら、政府 か らの提示に対す る地権者 の反発は強い (一 口に 「地権者」 と言
つて も立場 によ り考 え方は異な り、また、反発の内容 も、交渉ではなく一方的な説明であ
るとの政府 の姿勢 に対す るものか ら補償額に関す るものまで多岐に亘 るが、ここでは詳述
しない)。 福島県は、地権者の反発 を予想 してのことか、国による土地の買取 り価格 と事故
前の時価 の差額 について補てんす ることを表明 してい るが、 この提案 についても、そもそ
も、なぜ被害県である福島県が、補助金か らの補 てんをしなければな らないのか とい う違
和感 は拭 えない。
2 地権者が、政府 のい う「標準価格」に反発 を抱 く要因のひ とつは、その趣 旨が 「本
来であればゼ ロで然 るべ き ところを評価額の 5割 まで認 めてや った」 とい う発想 に基づ く
もの と読み取れ ることにある。正面か ら言及 こそ しないが、かかる補償案で 「地権者 の理
解を求めたい」 とす る政府発言の根底には、以下の ような本音があると思われ る。
大熊町や双葉町の土地は、線量 も高 く、現在の土地の時価は限 りな くゼ ロに近い。
しか も、地権者 は、東電か ら、既 に、全損 として事故前の時価 による土地価格の賠償
も受けている。宅地については、東電による住宅確保損害の補償 もある。
政府 が事故前の基準でもつて土地の買い取 りを行 えば、それ は、地権者 に とつて二重
の利得にな りかねない。
本来、東電が全額賠償 を行 えば、民法 422条 により、当然に土地は東電の所有になる
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU・ GSB S、rking Paper No.201415
ところ、東電がその所有権 の移転を受け入れなかっただけのことである。
本来であれば東電 に移転 され るはずだつた無価値 の土地に対 し、政府 が半額 を出 し、県
が差額を補てんす るとい う手厚い補償 を行 うのであるか ら、「理解 を求 めたい」 とい う発想
である。
しか し、 この よ うな政府 の 「本音」は、はた して、本当に理論的にも妥 当な見解である
のか。 この 「本音」の中核 をなす、東電による全額賠償 の性質及び民法 422条の解釈に立
ち戻つて検討 を加 える必要がある。
第 2 東電の 「全額賠償」によって大熊町 と双葉町の土地は、民法 422条 によ り、本来、
当然に、東電に移転 して しま うはずの土地であつたのか。
1 民法 422条 の整理
(1)民 法 422条 は、「債権者が、損害賠償 として、その債権の 目的である物又は権利の価額
の全部の支払 を受 けた ときは、債務者 は、その物又は権利 について当然 に債権者 に代位
する。」 と規定す る。
債権者 が、債務者 か ら債務不履行 を理 由 とす る損害賠償によつて、債権 の 目的たる物
または権利の価額 の全額賠償 を受 けたにもかかわ らず、債権者 にその物または権利 を帰
属 させてお くことは、債権者 に とつて二重の利得 となる。た とえば、寄託 した物品が盗
難 にあつたため、所有者 が受託者か ら損害賠償 を受 けたが、その後、その物品が発見 さ
れたよ うな場合 を想定 されたい。 当該物品を所有者 に返還 し、二重の利得 を生 じさせ る
よ りも、受託者 に引き渡 して損害賠償 を したことによる損失 を軽減 させ るほ うが公平に
適 うといえる。民法 422条は、当事者 の公平の観点か ら、全額賠償 を した債務者の利益
を保護す るための規定である。
本規定は、あ くまで債務者保護 のための規定であって、 目的物の本来 の所有者である
債権者か ら所有権 を奪 うことを本 旨 とす るものではない。また、債務者保護 のための規
定によって、債務者 が、 自分 に とつては価値のない 目的物 を、常に、当然 に 「押 し付け
られ る」のも妥当な結論ではない。
条文上、「当然 に」 と規定 されているものの、全額賠償 を した債務者が所有権の移転を
欲 しないのであれ ば、当事者間において、債務者は民法 422条 による所有権移転 を求め
ない と決 めることも可能であると解 され る。
(2)代位 の要件 であるが、条文上 も明 らかなように、「全部の賠償」によつて初 めて代位が
生ずるのであって、一部の賠償がなされた としても一部代位 は生 じない と解 されている。
一部代位 が認 め られれ ば、所有権 について共有関係が生 じ、権利 関係 が複雑 になるな ど
の理 由による。
(う ところで、 この民法 422条 の規定は、そもそも、不法行為による損害賠償 を支払つた
場合の類型 にも適用 され るのであろ うか。
23
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU‐ GSBヽ、rking Paper No 201415
確 かに、民法 422条は債務不履行などについて規定 された章に置かれてお り、不法行
為の章に同旨の規定あるいは準用規定が置かれているわけではない。
伝統的な通説的見解 では、不法行為 に基づ く損害賠償がな された場合 にも、公平の見
地か ら、同条が類推適用 され ると解 されているが、 この見解 に対 しては、被害者が愛惜
す る物品につ き、対価 さえ払 えば、不法行為者 に所有権 を取得 されて しま うとの結論は
適 当ではない との有力な反対説 もあ り (戒 能通孝。注釈民法(10)718頁 )、 未曾有の損害
を発生 させた今回の原発事故 を不法行為 として捉 える うえでは、今一度傾聴 に値す ると
い うべきだろ う。
(の 以上の民法 422条 の整理 のもとに、現在 の東電による土地の賠償 とその代位 との関係
について考えてみ よ う。
(5)そ もそ も、この よ うな不法行為類型 に民法 422条 が適用 され るか。土地はま さしく「愛
惜す る物品」にほかな らないのであって、上記有力説が指摘す る、対価 を払 えば、不法
行為者が 目的物の所有権 を取得す るとい う結論 は適 当ではない との価値判断がま さに当
てはまる場面であろ う。
(6)仮 に、不法行為類型 にも民法 422条 が適用 され るとす る通説的見解 に立った としても、
二重利得 を防止 し、全額賠償 を した者 を保護す るとい う上記制度趣 旨か らすれば、「全額
賠償」 をした東電が、後述す るように、プ レス リリースにおいて、民法 422条 による保
護 を受 けることは しない との意思表示 を している以上、第二者である国が、当然に代位
が生 じることを主張の前提 とす るのは当事者 の意思に反す るものであるし、また、今後、
東電が上記意思表示を撤回す ることも、信義則上許 されないであろ う。
(7)さ らに、東電が 「全額賠償」 と主張 している土地賠償が、そ もそ も代位 の要件 となる
全額賠償にあたるかにつ き、検討 されなければな らない。固定資産税評価額 を機械的に
1.43倍 す る賠償額が 「全額賠償」 と評価できないことはもちろん、住居確保損害をそ こ
に加 えても、それ が直 ちに 「全額賠償」 とはな らない とす る整理 も十分可能である。そ
の土地が本来有す る価値、不法行為によ り土地に生 じた損失 について、あ らためて精査
す ることが必要である。
2 原子力賠償紛争審査会における損害賠償の代位 についての議論
ところで、東電 によつてな され るべ き損害賠償 の指針 について検討す る原子力損害賠償
紛争審査会においては、民法 422条 による代位 について、 どのよ うな議論がな されている
だろ うか。
平成 25年 12月 9日 に開催 された第 38回 原子力損害賠償紛争審査会では、大谷委員か ら
の東電による損害賠償 の代位 に関す る質問に対 し、能見会長 は、「少な くとも、賠償を進 め
てい く上で、将来 どこかで影響す るところはあるのですが、当面、今賠償す る問題 に関連
しては、ここを明 らかに しないでも賠償ができそ うなので、 この点については触れない方
がいいのかな とい う思いを少 し持 ってお ります。」 として、議論 を避 けている。
24
中間貯蔵施設 をめ ぐる問題点 と課題
OCU‐ GSB Working Paper No 201415
また、能見会長は、中間貯蔵施設 を意識 してか、「それか ら、もっともしかすると重要な
問題は、賠償 された土地について収容するときに果た して代位が起きているのか、起きて
いないのか、誰に今、所有権があるのか とかい うのは、理論的には問題にな りそ うで、収
容の問題に少 し影響 しそ うな感 じがするのですが、この点についても、聞いているところ
では収容は収容の方でもつていろいろ苦労されているとい うことで、審査会はその収容の
問題については、直接はやは り立ち入 らないで、賠償の方を淡々と進めていきたいとい う
こともあって、余 り最後まで詰めない方がいいのかなとい う思いは持ってお ります。」 と意
見を述べ、東電による賠償 と政府による収用 (補償)の 問題については、立ち入つていな
い。
この問題 に対 し、審査会は何 らの意見や指針 を示 さず、む しろ議論 を避 けてい る。
3 損害賠償の代位に関する東電の態度
東電は、平成 25年 3月 29日 付プ レス リリースで 「宅地・建物・借地権等の賠償に係 る
ご請求の開始について」を公表 した。そ して、その脚注の 5に おいて、「なお、宅地・建物
につ きま しては、事故発生 当時の価値 を全額賠償 した後 も、原則 として、引き続 きご請求
者 さまにご所有 いただきますが、避難指示解除までの間は、公共の用に供す る場合等 を除
き第二者への譲渡 を制限す ること等 について ご承諾 をお願 いいた します。」 と述べている。
この内容 を理論的に詰 めることは難 しい。
全額賠償 した後 も、東電 として、民法 422条 により所有権 を当然 に取得す る利益を放棄
す るとの宣言であることに間違 いはないであろ う。東電 とい う巨大企業が、代位 をしない
とい う宣言 をしておいて、後 に 「代位 します」 とい うことは、信義則上、禁反言の原貝1に
触れ るものであ り、お よそ許 されないといえる。
そ うす ると、被害者 のもとに土地の所有権 を留 めるとい う方針 を とつた東電の立場か ら
は、被害者 (土 地所有者)が 、第二者への売買等、いかなる処分 を しよ うともそれは所有
者 として当然の権利 であ り、上記脚注のよ うに、東電が被害者 の所有権 に制限を加 える理
由や根拠は全 く不明である。
国策民営の企業 として、「今後、国が中間貯蔵施設 として買い取 りや収容 をす るかもしれ
ません。第二者 に譲渡 され ると、国の収容手続が滞って しま うので、や めて下 さい。」 との
趣 旨で 「お願い」 をす ることはあ り得 るかもしれないが、理論的に、 このよ うな制限を強
要す ることは許 され るはず もな く、民法 422条 も、「処分」 とい う所有権の一機能のみを切
り出 して代位す るよ うな、いびつな処理 を認 めていない ことは言 うまでもない。
4 小括
この問題 に対する原子力損害賠償紛争審査会の見解 は明 らかではないが、民法 422条 の
趣 旨か らも、 これまでの東電 による意思表示か らも、各地権者 のもとに、各土地の所有権
が、完全な形で存在す ることは間違いない。
中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題
OCU・GSB Working Paper No 201415
第 3 土地の価値はゼ ロなのか―― あるべき補償の姿
1 では、国は地権者 に対 し、いかなる価額で補償 をすべ きか。放射性物質に汚染 され
た土地の価値 は限 りな くゼ ロに近い、とい う国の大前提 をあ らためて検討 しよ う。確かに、
現時点における取 引価値、市場価値 とい う意味ではゼ ロに近いかもしれない。 しか し、田
舎の土地 (自 宅、田畑、山林…)は 、そもそも市場 における取引を予定 していないことも
多い。先祖代々その土地で暮 らしてきた住民にとつては、土地 は個人の所有権の客体 とし
て如何 よ うにも処分 して よい ものではな く、代々の先祖か ら受 け継 ぎ、そ して、これか ら
の子孫に受 け継 いていかなければな らないものであって、 自分 はその中継点で しかない と
い う捉 え方のほ うが馴染む一面がある。被災三県の沿岸部で、津波 による高台移転や東電
の土地賠償 を巡 って、登記が明治時代のままになつてお り、法定相続人が優 に 100人 を超
えるため処理が難航す る事案が少 なくないが、そのことも決 して、遺産分割や登記手続の
煩 を避 けるため といつた消極的理由ばか りではな く、土地は先祖 か ら子孫へ連綿 と受け継
がれてい くものであ り、遺産分害1制 度に馴1染 まない との価値観 が根底 にあるのではないだ
ろ うか。
このよ うな先祖 か ら子孫 に受 け継がれ る特定の土地にのみ付随す る価値 は、た とえ同種
同等の土地 をもつて して も本来、代替不能なものである。逆 に言 えば、 このよ うな、単な
る市場価値 を超 えた無形の価値 については、た とえ放射性物質 に汚染 された としても完全
に滅失す るものではない。また、市場価値そのものについて も、放射性物質が除却 され、
また、自然減衰す ることによ り、将来の回復が予想 され るものである。東電か ら土地の現
在の担い手である地権者 に対す る価値賠償 とい う局面においては現時点での全損 に相 当す
る賠償が妥当す るとして も、子々孫々に受け継がれ るべき土地の所有権 との交換価値 とい
う文脈では、現時点での価値低減が必ず しも絶対的な意味を有す るとはいえないのではな
いか。そ して、市場価値回復 の前提 となる、放射性物質の除染 と 30年後 における原状回復
につ き責任 を負 うのは、ほかな らぬ国であることに留意 しなければな らない。
中間貯蔵施設建設 のための土地売却は、将来において価値が回復す る土地 を、この時点
で諦 め、子々孫 々に受 け継 ぐはずの土地 を放棄す るとい う選択 を迫 られ るに等 しい。今回
の聴取 り調査 を含 め、相談会な どの機会で、「苦労 して土地を維持 してきた先祖 に顔向けが
できない。」 とい う声 を聞 く。 ことに、先祖代々にわた り「上」 を育て続 けてきた農家は、
自分の代で農業 を断念す ることに対す る無念、罪悪感 が強い。地権者 の思いを代弁すれば、
自分の先祖が代 々努力 してきた結果 にピリオ ドを打ち、 自分の子孫に受 け継 がせ ることが
できず、中継点 としての役割 を果たせないよ うな選択 を迫 られ ること自体が大きな精神的
苦痛 を伴 うものであるが、こ うした価値観 は、少 なくとも、 これまでの東電による損害賠
償 に反映 されてい る とは言い難 い。そ うであるとすれば、国は、土地の買収 にあた り、一
時的な市場価値 のみ によつて算定 され る補償額に とらわれず、 このよ うな無形の価値 をも
踏まえた十分 な補償 を提示す るべ きであろ う。
中間貯蔵施設 をめ ぐる問題点 と課題
OCU・ GSB Working Paper N。 201415
除本論文 において、農地について、「維持管理のための労働投入の蓄積、長期継承性 (過
去か らの、将来への)、 食べ物 とい う『命 の源』の生産、 といった諸特性か ら、地権者の特
別の思いが こめ られている」 との指摘があるが、ま さに、農地 を代表す る土地 とい うもの
は、人の思いが詰 まった特殊 な財物であって、安易に価値 をゼ ロな どと評価す ることは許
されない。
2 また、聴取 り調査で印象的だったこととして、土地の所有権 を手放す ことによ り、
自分 自身 と地域社会 との リンクが絶たれ ることへの不安 を抱 えている地権者 が少なくない
ことが挙げ られ る。
地権者 を含む地元住民たちは、 3年以上にわたって県内外各地への避難 を余儀 なくされ、
知人・友人 との交流、地域社会の社会的資源、ふ るさとの四季 の風景 といつた、 これまで
の自分の生活 を構成 していたあ らゆる要素、すなわちコミュニテ ィを奪われてきた。地権
者が、それでも現地 には自分が代々受け継いできた土地が存在す ることこそ、いまや、喪
失 されたコミュニテ ィとの最後 の絆であると捉 え、 これを手放す ことは、名 実 ともに完全
な 「根無 し草」になって しま うのではないか とい う不安 を抱 くことは十分 に理解 できるも
のである。地元住民か ら、中間貯蔵施設 を建設 した後 に、住民が墓参 りをす る機会の確保
について具体策 を示 してほ しい との要求が強いの も、それが、 自分 とコミュニテ ィとの横
の絆、先祖か ら子孫へ と続 く縦の絆 を繋 ぎとめる最後の拠 り所だか らと言 えるだろ う。
こ うした感情の機微 にかかるケアは、買収に伴 う補償や東電 による損害賠償 によって金
銭的にのみ解決 され ることが必ず しも唯一に して最適の手段 とはいえない。た とえば、2004
年の新潟県中越地震 で被災 した旧山古志村 においては、多 くの家屋 が水没 した木籠集落で
は記念碑 に旧集落図 を亥1み 、集団移転を余儀 なくされた十二平集落では 「ここは じょんで
ぇらJと 刻 まれた集落の道標 、各戸 ごとの道標 を設置す るな どして、かつて コミュニテ ィ
がそ こに存在 した こ とを人々の記憶 に留め、住民の拠 り所 を創 出 している。 ほかにも、ダ
ム建設 に伴い集団移転 を した地域 な ど、参考 とな りうる先例は全国にあるのではないだろ
うか。
ま して、中間貯蔵施設の立地 については、将来 において返還がな され、 コミュニテ ィが
再建 され ることを予定 された土地であることを忘れてはな らない。十分 な価値補償 ととも
に、 こ うした住民感情 を踏まえ、 自治体や住民 との対話のもと、中間貯蔵施設 の建設や運
営において住民の拠 り所 としての場 に最大限の配慮をす るな ど、その住 民感情 に応 える施
策を行 うこともまた、行政 としての国の責務であると考 えられ ることを付言 しておきたい。
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中間貯蔵施設シンポジウム2

  • 1. 中間貯蔵施設 をめ ぐる 問題 点 と課題 除本理史・儀野弥生 。 渡辺淑彦・頼金大輔 20144「 12り弓26日 OCU―GSB Ⅵrorking Paper No.201415 Some issues on interiln nuclear waste storage facilities MasafumiYOKEMOTO,YayoiISONO, Toshihiko Ⅵ裂TANABE and Daisuke YORIKANE Decernber 26,2014 0CU‐ GSBヽVorking Paper NO.201415
  • 2. 目次 第 1章 中間貯蔵施設 問題 の経緯 と論点 (除本理史) 1 第 2章 中間貯蔵施設 の設置 をめ ぐるい くつかの論点について (儀 野弥生)9 -―設置手続きと土地所有権の扱いを中心に一― 第 3章 政府 による中間貯蔵施設建設予定地の地権者 に対する補償額提示 を受 けて (渡 辺淑彦 。頼金大輔) 22 ※ このワーキングペーパーは、日本環境会議 ふ くしま地域 。生活再建研究会 (事 務局 : 除本理史、http7/wwweinap.orgガ eC/COmmittee/fukushimachiiky)に よる研究成果の中 間的な とりま とめ として、作成 したものです。 当研究会は、福 島県弁護士会 原子力発電所事故対策プロジェク トチーム (委 員長 : 渡辺淑彦弁護士)と の共同研究を進 めています。 本 ワーキングペーパーの内容は、所属組織 とは無関係 な個人の見解 に基づ くものです。 また、本 ワー キングペーパーは、第 1章 で述べた聞き取 り調査 をもとに、速報 としてま とめたものであ り、今後 さらに検討すべき点が多 く含まれていることにご留意 くだ さい。 なお、当研究会 は、 これ まで次のワーキングペーパー も作成 しています。 除本理史・土井妙子・藤川賢・尾崎寛直 。片岡直樹・藤原遥 「原子力災害か らの生活再建 と地域の復興―― 旧緊急時避難準備 区域の実状を踏まえて」 OCU‐ GSBヽ、rking Paper No.201409 2014左 「 9月 6日
  • 3. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU・ GSBヽVorking Paper No 201415 第 1章 中間貯蔵施設問題の経緯 と論点 除本理 史 (大 阪市立大学) 本稿 は、中間貯蔵施設の設置 をめぐるこれまでの経緯 を振 り返 り、当面いかなる問題点 が検討 され るべ きかについて考 える (た だ し論点整理 に とどめ、本格的な検討 は次章以降 に譲 る)。 中間貯蔵施設 は、国の進 める 「除染」「復興」 において、きわめて重要な位置づ けを与 え られてい る。 あたかも、足尾銅 山鉱毒事件 において被害緩和のために 「鉱毒溜」 とされた谷 中村 の よ うな位置 にあるといつてよい。 この問題 について、筆者が事務局を務 める 日本環境会議 ふ くしま地域・生活再建研究会は、福島県弁護士会 原子力発電所事故 対策プ ロジェク トチーム (委 員長 :渡辺淑彦弁護士)と の共同研究を開始 してお り、2014 年 10月 30日 ∼11月 1日 に中間貯蔵施設予定地の地権者 (行 政区長 を含む)や周辺住民に 対 して聞き取 り調査 を行 った。本 ワーキングペーパーは、それ を受けた当面の検討結果で あ り、執筆者 はすべて当該調査 に参加 した者である。 1 経緯 放射性物質汚染対処特措法の成立 福島原発事故が起 きるまで、 日本 の原子力関連 の諸法令 は、環境法体系 とは別の独 自の 法体系を形成 していた。そ して原子力法体系は、放射性物質が原子力施設外へ放出 され る よ うな事態 を想定せず、制度設計がな されてきた。そのため、原発事故で一般環境中に放 出 された放射性物質 による汚染への対処を行 うための根拠法令 がない状態にあつた。 こ う したなかで、2011年 5月 2日 、環境省が 「福島県内の災害廃棄物の当面の取扱い」をまと めるな ど、汚染廃棄物 の処理や除染 に関す る 「考 え方」や 「方針」等が次々 と示 され、一 応 の対処が行われた。 しか し、 これ らには法的根拠が存在 しない うえ、汚染廃棄物や除染 によ り生 じた除去土 壌の処分方法が決 まってお らず、廃棄物処理施設や除染現場で仮置 き され るな ど、立法 に よる早急な対策が必要 とされた。こうした背景から、「平成 23年 3月 11日 に発生した東北 地方太平洋沖地震 に伴 う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚 染への対処に関す る特別措置法」(放射"性 物質汚染対処特措法)が 2011年 8月 26日 に成立 し、同月 30日 に公布 された。それまでの 「考え方」や 「方針」による対処の仕組みは、同 法に基づ く基本方針や政省令に取 り込まれていつた (田 中,2014,264‐267頁 )。
  • 4. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU・ GSBヽ、rking Paper No 201415 中間貯蔵施設の ロー ドマ ップと県外最終処分 放射性物質汚染対処特措法が成立 した 2011年 8月 26日 、原子力災害対策本部 は 「除染 に関す る緊急実施基本方針」 を決定 した。 これは、放射性物質汚染対処特措法が成立 して も、同法に基づ く抜本的な除染措置が実施 され るまでに時間を要す るため、いずれ同法の 枠組みに移行す ることを前提 に、当面の方針 として示 された ものである。そ こでは、除染 にともなって生 じる 「土壌等の処理 に関 し、長期的な管理が必要な処分場の確保やその安 全性 の確保 については、国が責任 を持 って行 うこととし、早急 にその建設 に向けた ロー ド マ ップを作成 し、公表いた します」 とされた (原子力災害対策本部,2011,5頁 )。 表 1 中間貯蔵施設 に関す る経緯 (2011年 3月 ∼2014年 8月 ) 東 日本大震災、福島原発事故発生 原子力災害対策本部 「除染に関する緊急実施基本方針」決定 菅首相、佐藤福 島県知事に中間貯蔵施設の設置要請 環境省、今後 3年程度 を目標 に施設 を県内に整備 し、貯蔵開始か ら 30年以内に県 外で最終処分す るとした工程表 を発表 環境省 、施設 を双葉郡内に整備す ることを県、地元首長に正式に伝 える 2011年 3月 11日 8月 26日 8月 27日 10月 29日 12月 28日 2012午 3月 10日 8月 19日 11月 28日 国 と地元町村、県 との意見交換で、国は大熊、双葉、檎葉の 3町 に設置要請 環境省 、建設候補地 として 3町 の計 12カ 所を提示 佐藤知事、建設候補地での現地調査の受 け入れを表明 2013年 5月 17日 7月 12日 10月 11日 12月 7日 12月 14日 大熊町の建設候補地でボー リング調査開始 楢葉町の建設候補地でボー リング調査開始 双葉町の建設候補地でボー リング調査開始 暑層具貫霜書霞集胚慾 目 繁ず雷私 な ど約 有化す る計画 を説明、建設受け入れを要請 19km2を 国 2014年 1月 27日 1月 29日 2月 4日 2月 7日 2月 12日 3月 27日 4月 25日 5月 31日 7月 28日 8月 8日 8月 25日 8月 26日 8月 27日 8月 28日 8月 30日 松本檜葉町長、県に対 し高濃度の廃棄物の受 け入れ拒否 程霞鶏雪倉濃霜孔象言奄臭霞Z嫌]案匡貧鼎霙λつ合 に集約す る考えを表明 佐藤知事、2町 に集約す る再配置案を双葉郡 8町村長に説明 佐藤知事、石原環境相 と根本復興相に計画見直 しを要請 石原環境相 と根本復興相、佐藤知事に 2可集約に同意 した新計画提示 井上環境副大臣、地域振興策 と用地の賃貸借 を検討す る方針 を示す 国による住民説明会開始 (∼ 6月 15日 ) . 石原環境相 、用地の全面国有化方針 を転換 し地上権方式 も選択肢に 石原環境相、3010億 円の交付金 を提示 佐藤知事、大熊、双葉町に県独 自の財政支援 150億 円支援 の方針 大熊、双葉 の町議会全員協議会、事実上建設受け入れを容調 大熊、双葉両町の行政区長会、地権者向け説明会開催 を容認 復興庁、「大熊・双葉ふ るさと復興構想J 県、建設受 け入れ容 出所 :『 福島民報』2014年 3月 3日 付、『福島民友』2014年 8月 31日 付などより作成。
  • 5. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB Working Paper No 201415 2011年 8月 27日 、菅首相 (本稿において職名 はすべて当時)は福島県庁で佐藤知事 と 会談 し、県内に中間貯蔵施設 を設置 したい とい う意向を示 した。菅政権 はすでに、福島県 内に最終処分 をせず 、あくまで中間貯蔵施設 とす ることを明 らかに していた (『 福島民報』 2011年 8月 14日 付 な ど)。 しか しこの段階では、中間貯蔵の期間な どは明確ではなかつた (『 福島民報』2011年 8月 28日 付)。 「除染 に関す る緊急実施基本方針」のなかで作成す るとされた中間貯蔵施設整備 の 「ロ ー ドマ ップ」は、2011年 10月 29日 に環境省 によつて公表 された (環 境省,2011)。 この なかで、中間貯蔵施設 の供用開始 は仮置場への本格搬入開始か ら3年程度 (2015年 1月 ご ろ)を 目途 とし (図 1)、 貯蔵開始か ら30年以内に県外で最終処分を完了す るとされた。 環境省による建設候補地の提示 と現地調査 環境省 は 2012年 8月 19日 、中間貯蔵施設 の建設候補地 として 3町の計 12カ 所を提示 し、11月 28日 、佐藤知事は現地調査の受け入れを表明 した。 ただ し、 このプ ロセスは円滑に進んだわけではない。国、福 島県 と双葉郡の町村、 とり わけ候補地 を抱 える 自治体 との間にあつれきが生 じた。候補地 を抱 える首長 のなかでも、 ) とくに国・県への反発 を強めたのは、井戸川双葉町長であつた。井戸川町長 は双葉地方町 村長会議 の会長 を務 めていたが、中間貯蔵施設 をめぐる他町村 との足並みの乱れか ら、2012 図 1 中間貯蔵施設整備 の工程表 項 目 内 容 23年 E 24年 度 25年 度 26年 度 27年 以 降 , 争 普 4 L本構趣機肘 呂底尋 の 口重 D概 関の絶 陰購壼・親瞑・工事費等の 「 定 、儀 m● n‖ `籠 ●81 単 ,関 貯蔵施設 D場 所選定 D申 間貯目鮨訳の場所還定の細遭府県′市町 tl¨ 地元との諷盤 l・ "1 r"・ ●■●● - ゝ ぶ ′ L本 設計'実 は設計 ・柵 =モ … 立獅礎 る概略のもの,.難 掛 `工 事 "姓 ・用地買 :ロ トJロ ロ‖ 買3m針 ) I鋭 躊常厖8 D獅 鞠質の壼堀への彬3の 餞査.評 価、 un衰 綱地取締 D需 地取得のための用地調量 D中 間 "鳳 施設尋の用地取締 ■■ [ll開 発許可 「 囀麟會 D躙 発肝可協欄 (■ 地、韓朴、都ll.自 皓摯口。 颯風文化財暉 ' 予 ロ 本協日(日 ■翼■) 〔事用遺路零 D工 事 0工 事用通路 、傾酸工 事等の実施 -1 〕間貯諷施般 ,本 体工3 0中 間貯口施設 "本 体工事の実施 1__L_J_^l l L上 籠果物等のは ヽ D魔 菫物 事の自 A 出所 :環 境省 (2011)図 5よ り抜粋。
  • 6. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU・ GSBヽVorking Paper No.201415 年 12月 10日 、同会長 を辞任す る事態に発展 した。また、2013年 1月 の、同氏の町長辞職 にもこの問題 は作用 してい る (朝 日新聞特別報道部,2013,101‐ 113頁 )。 こ うした混乱をは らみつつ も、2013年 5月 か らボー リング調査が実施 され、環境省 の有 識者検討会は 12月 7日 、すべての候補地で建設可能 と結論 した。 これを受けて、12月 14 には石原環境相 と根本復興相が、佐藤知事 と大熊、双葉、槍葉の 3町長 に、第一原発周辺 などの約 19km2を 国有化する計画を説明し、建設受け入れを要請した (『 福島民報』2013 年 12月 15日 付)。 2町への集約 と地上権方式の提示 3町 のなかで最初 に態度 を明確 に したのは、檜葉町である。向町は、もともと中間貯蔵施 設ではな く、町内で発生する 10万 Bq/kg以 下の廃棄物 を受 け入れる「保管庫」であれば認 めるとしていた。松本檜葉町長は 2014年 1月 27日 、県庁で佐藤知事 と面会 し、10万 Bq/kg 超の廃棄物 を搬入す る中間貯蔵施設 を設置す るとい う政府 の要請 には応 じられない とい う 認識 を改めて示 した (『 福島民報』2014年 1月 28日 付)。 これを受 けて佐藤知事は 2月 4日 、候補地か ら槍葉町を外 して大熊、双葉の 2町 に集約 する再配置案 を示 し、国に計画見直 しを求めるとした (『 福島民報』2014年 2月 5日 付)。 石原環境相 と根本復興相 は 3月 27日 、佐藤知事 と会談 し、候補地 を 2町に集約す る再配 置案 を提示 した。 しか し、生活再建・地域振興策や県外最終処分の法制化 については具体 案 を示 さず、地元か ら要望の強かった土地賃借契約 は改 めて拒否 した (『 福島民報』2014 年 3月 28日 付)。 井上環境副大臣は 4月 25日 、冨1知 事、大熊、双葉両町長 と会談 し、建設受 け入れを前提 に、生活再建 。地域振興策 として使途の 自由度の高い新たな交付金 を設 ける方針 を伝 えた。 また、用地の扱 いについては、賃貸借 の可能性 を含 めて検討す る考 えを初 めて示 した。両 町は、町議会の了承 を得 ることを条件 に、国が住民説明会 を開 くことに同意 したが、施設 受 け入れ とは別問題だ とされた (『 福島民友』2014年 4月 26日 付)。 住民説明会は 5月 31日 にはじま り、6月 15日 に終了 した。その直後、石原環境相の「金 目」発言で地元 との関係が悪化 し、交渉が停滞する場面もあつた。 国は 7月 28日 、用地の全面国有化方針を転換 し、最長 30年 間の地上権を設定 して、所 有権を地権者に残す とい う選択肢 も認める考えを表明 した。 しかしなが ら国は、上記交付 金の額を明 らかにせず、また、県外最終処分の法制化前には除染作業で出た土壌や廃棄物 の搬入をしないとしたものの、法制化を地元の施設受け入れ判断後 とする点は譲 らなかっ た (『 福島民友』2014年 7月 29日 付)。 生活再建・地域振興策の具体化 国は 8月 8日 、生活再建・地域振興策 として交付金 3010億 円を提示 した (環境庁・復興 庁,2014)。 これは、① 「中間貯蔵施設に係 る交付金」 (仮 称、大熊町 。双葉町・福島県・
  • 7. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCII・ GSB Working Paper No.201415 県内他市町村を対象に 1500億 円)、 ② 「原子力災害か らの福島復興交付金」 (仮称、1000 億円)、 ③ 「福島第一原子力発電所に係る電源立地地域対策交付金」 (30年 間で 510億円増 額)か らなる。①は大熊、双葉両町を中心に、施設整備などにともな う影響 を緩和するた めの幅広い事業 (ふ る.さ との結びつきを維持するための事業、風評被害対策のための事業、 生活空間の維持・向上のための事業など)に 充てる。②は、福島県全域の復興を効果的に 進めるための事業などに広範に利用できる (『 福島民友』2014年 8月 9日 付)。 また国は 8 月 19日 、①②の交付金の使途について、「医療や放射線防護対策の拠点施設の整備、重点 産業の誘致促進、古里の訪問事業など」を具体的に示 した (『 福島民友』2014年 8月 19日 付)。 佐藤知事は 8月 25日 、大熊、双葉両町長に、県独 自の生活再建・地域振興策 として両町 に 150億 円の財政支援を行 う方針を明 らかにした。 これは事実上、建設を受け入れる意向 の表明であり、県主導で交渉を早期に決着させたい姿勢を示 したものとされる (『 福島民友』 2014年 8月 26日 付)。 なお県は、この 150億 円について、中間貯蔵施設用地の政府買い取 り額 と、原発事故がなかつた場合 に想定され る地価 との差額の補填 に充てる方針である (『 福島民友』2014年 10月 1日 付)。 また 8月 26日 、石原環境相が大熊、双葉両町の議会全員協議会で、上記① 「中間貯蔵施 設に係る交付金」(1500億 円)の うち 850億 円を、両町に直接交付する方針を明らかにし た (『 福島民友』2014年 8月 27日 付)。 したがつて、県からの上記 150億 円と合わせて、 両町への交付金は 1000億 円となる (表 2)。 なお、根本復興相は 8月 28日 、大熊、双葉両町の復興拠点整備について、「大熊・双葉 ふるさと復興構想」を提示 した (『 福島民友』2014年 8月 29日 付)。 表 2 中間貯蔵施設 に関す る国・県 の交付金 注 :① と②を合わせて 2町に 1000億 円。 出所 :『 福島民友』2014年 9月 4日 付をもとに作成。 県の建設受け入れ と 2町の対応 県は 8月 30日 、中間貯蔵施設 の受 け入れを表明 し、大熊、双葉両町長 はその判断を了承 した。ただ し、両町長 は地権者 の理解 が優先だ として、国 と県 による地権者 向け説明会の 国が交付 (総額 3010億 円) 「中間貯蔵施設 に係 る交付金J(仮称、大熊、双葉 2町 を中心に施設 の影響 を緩不口す る事業) 1500億 円 うち 850億 円 を 2町 に直接 交付 (① ) 「原子力災害か らの福 島復興交付金」(仮称、県全域の 復興や風評被害対策) 1000億 円 「福 島第一原子力発電所 に係 る電源 立地地域対策交付 金」 (廃 炉 を考慮 した地域振興) 510億 円 (30年 間 の増額分 ) 県が交付 2町 を対象 とした交付金 (地権者の生活再建を支援、 用地の政府買い取 り額 と、原発事故がなかつた場合に 想定 され る地価 との差額 の補填) 150億 円 (② )
  • 8. 中間貯蔵施設 をめ ぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB゛、rking Paper No.201415 開催 は認 めるものの、建設受 け入れ の是非 については言及 しなかつた (『 福 島民友』2014 年 8月 31日 付)。 9月 19日 に両町議会の定例会がは じまったが、それに際 して、両町長 は ともに、地権者への説明会は受 け入れたものの、県の建設 受 け入れ を容認 していない とい う姿勢を表明 した (『 福島民友』2014年 9月 `21日 付)。 なお県知事は、建設受け入れ容認 と、搬入受け入れの判断は別だとして、後者について、 次の 5つ の条件を出 している。①県外最終処分の法案の成立、②中間貯蔵施設等に係る交 付金等の予算化、自由度、③国による搬入ルー トの維持管理等及び周辺対策の明確化、④ 施設及び輸送に関する安全性、⑤県及び大熊町・双葉町 との安全協定案の合意 (『 福島民友』 2014年 8月 31日 付)。 大熊町の建設受け入れ表明 と地権者会の発足 大熊町は 12月 12日 、町議会全員協議会で、中間貯蔵施設建設 を受 け入れ る方針 を議員 に説 明 し、議会 も了解 した。ただ し、町は搬入に関 しては、別途判断す るとしている。他 方、双葉町は、受 け入れについて判断を示 していない (『 福島民友』2014年 12月 13日 付)。 大熊町は 12月 15日 、行政区長会で建設受け入れ方針 を伝 え、了承 を得た。 これを受 け て、環境省は地権者 との用地交渉 に入 る。町は 2015年 1月 、全町民対象の懇談会を開き、 施設受け入れな どについて説明す る (『 福島民友』2014年 12月 16日 付)。 他方、両町の地権者は 12月 17日 、「30年 中間貯蔵施設地権者会」を発足 させた。17日 現在、37人 が会員 となってお り、国が示 した用地補償額の見直 しなどを求めていくとい う (『 福島民報』2014年 12月 18日 付)。 大熊町は、建設 を受け入れた ことによつて、施設建設を前提 とした 「条件闘争」が可能 になつたとも考えられる。町が今後 どのような立場でこの問題に向き合 うのか、注 目され る。 さらに、双葉町はまだ建設についても判断を示 しておらず、2015年 1月 には大熊町の 住民を対象 とした懇談会が予定 されている。搬入 目標時期も2015年 1月 から年度内に延期 された (『 福島民友』2014年 12月 22日 付)。 しばらくは予断を許 さない状況が続 くだろう。 2 若干の論点 次に、冒頭で述べた地権者や周辺住民に対する聞き取 り調査を踏まえて、今後検討すべ き若干の論点を記 してお く。ただ し、十分な考察は経てお らず、あくまで当面の覚書にと どまることをお断 りしておきたい (よ り詳細な検討は、第 2章 、第 3章 で行われる)。 土地所有権の扱いについて 第 1は、地権者に対 して、土地売去「と地上権方式以外の、多様な選択肢を保障す ること である。中間貯蔵施設予定地はすべて帰還困難区域であるため、地権者 は、東京電力 (以 下、東電)に より全損評価で不動産賠償を受けている。 しか し、土地所有権は手元に残 る ので、地権者は土地 を通 じて、避 難元の地域 とつながつているとい う側面がある。土地の
  • 9. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB S、rking Paper No 201415 売却 は、そのつなが り (精神的なつなが りを含 め)を 断ち切 ることになる。 もちろん土地 を売 りたい とい う人 もいるが、売 りた くない とい う人、30年後 には土地 を返 してもらいた い とい う人 もい るであろ う。いずれ土地が戻つて くるのであれば、それまでの間、国が 自 分の土地をどう利用す るのか、地権者 は強い関心をもた ざるをえない。また、土地 を返還 する際の原状回復 も重要である。原発事故前には どこに何があつたのか、元の姿が分かる よ うな 目印を残 してお くことも必要かもしれない。 こうした点について、地権者側か ら条 件をつける方法が考 え られないか。 現実的には、地権者 が集 まって交渉 しなければ、多様 な選択肢を確保す るのは難 しいだ ろ う。前述 の地権者会の よ うに、地権者が集ま り、土地を管理す る団体な どをつ くること な ども考 えられ るのではないか。 国の補償額、および東電の賠償 との関係について 第 2は 、土地の売却にせ よ、他 の形態にせ よ、その代価 をい くらとす るか とい う問題で ある。地権者 に聞 くと、国は地権者向けの説明会で、東電が全損評価 で賠償 を しているこ と、原発事故で地価 が下落 した ことを理 由に、中間貯蔵施設建設用地が 「無価値」になっ た と説明 しているよ うである。 しか し 30年以内に県外最終処分 をす るのであれば、時間を かけて土地の価格 は回復 してい くもの と想定 され る。また、東電が全損評価 で賠償 をして も、所有権が手元 に残 る以上、地権者 としてはその土地が 「無価値」 になった とは考 えな いだろ う。さらに、居住用不動産については、原子力損害賠償紛争審査会第 4次追補 (2013 年 12月 )に おいて規定 された住居確保損害の賠償 もある。 したがつて、東電の不動産賠償 (2013年 3月 末開始)、 住居確保損害 (同 年 12月 の第 4次追補)、 お よび今回の補償の相 互関係 について、理論的な整理・検討 を行 うことが必要である。 なお第 1の 点 と関連す るが、農地については、維持管理のための労働投入の蓄積、長期 継承性 (過 去か らの、将来への)、 食べ物 とい う 「命 の源」の生産、 といつた諸特性か ら、 地権者 の特別 の思いが こめ られ ていると考えられ る。農地の賠償・補償 においては、 この 点を考慮す る必要があろ う。 県外最終処分 とその後の問題 第 3は 、30年 以内の県外最終処分を どう担保す るか とい う点である。その点を明記す る 「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」が 2014年 11月 19日 に成立 したが、法制化だけで は不安だ とい う声 も出 されてきた (住 民説明会参加者の意見。『福島民友』2014年 6月 1 日付)。 国、県、町、地権者 による協定で、30年以内に国が県外最終処分を実施 しなかつた 場合の条件 を定めることな どが考え られないか。 第 4は 、県外搬出後の跡地利用の問題である。跡地が どのような状態になるのか明 らか でないが、大熊、双葉両町の復興計画 との関係 も出てこよう。
  • 10. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB S、rking Paper No 201415 予定地 と周辺地域 との関係について 第 5は 、建設予定地 とその周辺地域 との関係 に関す る問題である。施設予定地の外でも、 国の上記説明をそのまま適用すれば、土地は 「無価値」になってい るはずである。 この,点 は同 じであるのに、予定地の地権者 には国の補償があ り、その外 にはない とい うことをど う考 えるか。 この問題 を緩和す るために、国 。県の交付金 (前 掲表 2)を用 いるとすれば、 どのよ うな施策 を実施すべ きか。 また、県外最終処分までの 30年以内に大熊、双葉両町が帰還を進 めるのであれば、住民 は中間貯蔵施設 との 「共存」 を余儀な くされ る。復興計画な どとの関係 もあ り、 この′点に ついて どう考えるか。 意思決定、参加、合意形成にかかわ る問題 第 6は 、施設建設 をめぐる意思決定プロセスなどに関する問題である。2014年 5月 31 日か ら 6月 15日 にかけて、双葉、大熊両町民を対象 とした説明会 (福 島県内 10回 、県外 6回 、計 16回 )、 9月 29日 か ら 10月 12日 にかけて、地権者へ説明会 (県 内´9回 、県外 3 回、計 12回 )が 開催 された。今後は、地権者 との個別交渉 に移行 してい くとされ るが、こ うしたプ ロセスで よいのか。 中間貯蔵施設 は、県環境影響評価条例の適用除外 となるよ う だが、施設だけでな く搬入路の周辺 を含 め、業務従事者の被曝や放射性物質 の飛散な どを どう防止す るのか。関係住民は、 この意思決定や今後の被曝、汚染 の防止 に どうかかわる のか。 以上が、冒頭で述べた聞き取 り調査 を通 じて、筆者が重要ではないか と感 じた点である。 まだ調査・研究が十分でな く、筆者 の能力を超える内容 も多いため、他分野の研 究者や専 門家 と協力 しつつ、今後具体的な検討 を進 めたい。 付記 福島県外の指定廃棄物の「福島集約論」 国は 8000Bqノ kg超 の指定廃棄物について、発生都県ごとに処理する基本方針を閣議決定 して いる。宮城、茨城、栃木、群馬、千葉の 5県 には国がそれぞれ最終処分場を新設する計画であ る。しかし、地元の反発は強く、指定廃棄物の「福島集約論」も出されている。本稿でその是非 を論 じる準備はないが、集約するとして、具体的な場所はどこか、その用地の所有権の扱いなど をどうするか等によつては、中間貯蔵施設の地権者にも影響が及ぶことが考えられる。少なくと もその点を考慮 して議論を進める必要があろう。 文献 朝 日新聞特別報道部 (2013)『 プロメテウスの罠 4-―徹底究明 ! 福島原発事故の裏側』学研 パブ リッシング。 環境省 (2011)「 東京電力福島第一原子力発電所事故に伴 う放射性物質による環境汚染の対処に おいて必要な中間貯蔵施設等の基本的考え方について」10月 29日 。 環境庁・復興庁 (2014)「 中間貯蔵施設等に係 る対応について」8月 8日 。 原子力災害対策本部 (2011)「 除染に関する緊急実施基本方針」8月 26日 。 田中良弘 (2014)「 放射性物質汚染対処特措法の立法経緯 と環境法上の問題点J『 一橋法学』第 13巻 第 1号, 263‐ 298頁 。
  • 11. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB Working Paper No 201415 第 2章 中間貯蔵施設 の設置 をめ ぐるい くつかの論点 について 一―設置手続きと土地所有権の扱いを中心に一― 儀 野弥生 (東 京経済大学) 1 は じめに 福島原発事故以前 に、すでにス リーマイル島 (TMI)事 故お よびチェル ノブイ リ事故が発 生 していたにもかかわ らず、わが国でこのよ うな過酷事故が発生す ることを想定 していな かった。そのために、」CO事故の発生によって緊急避難対策の遅れが指摘 されて、事故発生 時点での対応策 について原子力災害特別措置法を制定 し対応 したが、その後 の措置を定め た法律 を制定 して こなかった。結局、対症療法的にその場 しのぎの政策、そ してそれ を裏 付ける立法に終始 してきた。その結果、時間が経つにつれ、問題はますます複雑 になつて きた。 その中核 となるのが、高濃度地域での居住の維持 と超高濃度地域での中期的避難後の帰 還、そ してそれ らに対応す る広範囲にわたる除染政策 とい うカ ップル政策である。いいか えれ ば、大規模除染 は、危険区域での居住政策 と早期帰還政策 の補完事業である。 この政 策は、TMI事故でも、チェル ノブイ リ事故でも経験 を したことがない政策である。帰還 。居 住維持政策 を採用 した と言 うことは、高濃度汚染 を した土壌や稲わ ら等の 自然物のみな ら ず、自動車等屋外使用の製品等についても、居住生活空間か ら排除す ることが求められる。 必然的に大量の廃棄物 を生みだ し、除染廃棄物 と併せて、それ らを収容す るだけの最終処 分場または隔離 された一時的貯蔵施設が必要になる。 ところで、一般 に、事故 によ り環境 中に有害物質が放出 された場合には、大気汚染防止 法や水質汚濁防止法 に基づいて、 「ばぃ煙発生施設又は特定施設 について故障、破損その 他の事故が発生 し、ばい煙又は特定物質が大気 中に多量に排 出 された ときは、直ちに、そ の事故 について応急 の措置 を講 じ、かつ、その事故 を速やかに復 旧す るよ うに努 めなけれ ばな らない」 とし(大 防法 17条 ①、水汚法 14条 の 2① も同旨)、 「都道府県知事等は、事 故によ り周辺の区域 における人の健康 に影響があると認 めるときは、排 出者 に対 して、必 要な措置 をとるよ うを命ず ることができる」 (同 条③、水濁法 14条 の 2③ も同旨)と 定め る。 そ して、事故 の原因事業者 は、廃棄物処理法の定めるところに従って、有害物質の無 害化処理な どの中間処理お よび最終処分 を行 う。すなわち、事故の原因者である事業者が 自己責任 で有害物質 を回収 し、適切 な処理 を しなければな らない。
  • 12. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU・ GSB S、rking Paper No 201415 これに対 して、放射性物質 についてはその規定がな く、処理 に関 して事故が発生 した後 になって初 めて 「平成二十三年二月十一 日に発生 した東北地方太平洋沖地震 に伴 う原子力 発電所 の事故 によ り放出 された放射性物質による環境の汚染への対処 に関す る特別措置法」 (以 下、放射性物質対処特別措置法 とす る)が制定 され、対策が とられ ることとなつた。放 射能 に関 しては、無害化す ることはできず、半減期 を待つ以外 なく、必要に応 じて汚染土 壌や汚染廃棄物 を回収 し、処分す ることになる。 同法では、福島原発事故が余 りに広範かつ重度の汚染 をもた らし、 しかも緊急 に対処す る必要があつたために、事業者 に代 わって国お よび 自治体が有害物質の回収 (除 染 を含む) と処理について、責任 を持 つて行 うこととした。 除染については区域 を分 けて国 と自治体が、中間貯蔵 と最終処分は国が責任 を持つ。事 故 によ り施設外 に放 出 された有害物質の処理にあつては産廃処分の通常のルー トで行われ るが、原子力施設外 に放 出 された放射性物質 については考慮 の外にあった。そのために既 設の廃棄物処理施設 を利用可能であれば利用す る。lkgあ た り8000ベ クレル以上、10万ベ クレル以下の放射性廃棄物 につ いては既存の管理型廃棄物処分場 を利用あるいは新設 し、 10万 ベ クレル以上の廃棄物お よび除染土壌等 を処理す るための中間貯蔵施設 と最終処分場 については新設す ることとなった。10万 ベク レルは、既存の既設の施設の利用可能性の可 否 を定める基準 となる。福島県内の除染 ごみの うち、焼却処理 されない土壌等は中間貯蔵 施設 に搬入 され る。 このよ うな枠組みが設 け られたのであるが、これ を具体化す るのは、基本方針以下の行 政の施策 に委ね られたのである。 中間貯蔵施設 をめぐる問題点について、第 1章 に述べ られているが、本章でよ り詳細 に 検討す る。それ に先立ち、現在 の状況のまま推移す ることが、周辺住民及び国民にとつて も以下のよ うな問題 を残す ことを確認 しておきたい。 1. 法律で処理 についての定めはあるが、中間貯蔵施設 の設置 自体は行政 の裁量の範囲 内で決 め られ、地域住民や国民の合意のないままに行われ ることの妥 当性。 復興 を急 ぐとい うことで、特措法対応ではあるが、緊急的な必要性 とい うことで、 住民 との コミュニケー シ ョン時間を短縮 し、環境影響評価手続 きを省略す ることの妥 当性。 事故 によ り最 も汚染が深亥」な原発敷地周辺地域 は土壌汚染回復が長期 にわたつて困 難であるとい う理 由で、廃棄物処理施設用地 として和l用 す ることが容認 され ることの 妥当性。 30年後の土地利用が不透 なままにおかれた土地の国有化 と地上権方式を容認するこ とによつて、その間の土地利用お よびその後の土地利用 を国に委ねて しま うことの妥 当性。 3. 4. 10
  • 13. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSBヽVOrking Paper No 201415 2 中間貯蔵施設 と法主体 (1)中 間貯蔵施設にかかわる行政主体 と責任 中間貯蔵施設 については、第 1章で述べ られているよ うに、20H年 10月 29日 に出され た 「東京電力福島第一原子力発電所事故 に伴 う放射性物質による環境汚染の対処において 必要な中間貯蔵施設等 の基本的考え方について」で、は じめて位置づけられた施設である。 それ以前に 「除染 に係 る緊急実施基本方針Jで 、 「長期的な管理が必要な処分場の確保や その安全性の確保 については、国が責任 をもつて行 うこととし、早急 にその建設 に向けた ロー ドマ ップを作成 し、公表」す るとした。 この基本方針に基づき、 「考 え方 について」 で、 自治体 ごとに仮置 き場 を設置 し、国が中間貯蔵施設 を責任 をもつて確保す るとい うこ とを示 した。 このよ うに、国 と自治体の役割分担が示 された。なお、旧避難指示区域につ いては、国が直轄除染す るので、仮置き場 も国の責任 で行 う。 放射性物質対処特別措置法における除染廃棄物・原発敷地外の放射性廃棄物に関す る国 と自治体の任務は以上のよ うであるが、県・市町村は、地方 自治法 に基づ く権限 として、住 民の生活環境 の保全、地域整備お よび住民の増進の観点か ら、中間貯蔵施設の設置 につい て利害関係 を有 し、その観点か ら権限を行使す ることが求め られ る。特に、県は環境影響 評価 について、条例上の権限を行使す ることができる。 こ うした観点か ら福 島県内の市町村を見た ときに、立地予定 自治体である双葉町 と大熊 町の利害 と、仮置 き場や焼去「施設 を抱えるその他の 自治体の利害は異なつて くる可能性が ある。 もっとも、中間貯蔵施設 としての土地利用は決まっていて も、その後の土地利用が 不透明な中では、周辺 自治体 も影響 を蒙 る恐れがある。輸送車両が集 中す ることが見込ま れ る周辺 自治体 もまた、中間貯蔵施設立地 自治体 と、部分的ではあるが類似の利害関係 を 有す る。 このよ うに、県お よび福島県内の市町村は、いずれ も中間貯蔵施設 の設置に関 して法的 利害関係 を有す ると考 えられ る。 ここでは、双葉 。大熊両町は立地が予定 されている自治 体 として当事者であるので、両町を中心に考 える。両町は、中間貯蔵施設予定地の住民た る地権者 に対す る援助及び施設周辺住民の生活環境の保全の責任主体 と見定めることがで きる。 さらには、10万ベ クレル以上の放射性廃棄物が持 ち込まれ るため、道路周辺地域の 安全な環境 を保持・整備 し、住民を保護する責務を有す る。その ことは後 に述べ るように、 国に対す る自治体の権利 となつて現れ る。 (2)地権者 および双葉 口大熊町の住民の権利 中間貯蔵施設用地 の所有者等の地権者は、い うまでもなく当事者 としての地位 にある。 通常の公共用地の地権者であるとい う性格 を有す ると共 に、福島第 1原発事故の被害者 と して、強制避難 を余儀 なくされてい る人 々である。これ らの人々は、現在全国に散 らば り、 仮の生活 を余儀 な くされていて、国お よび東電 との関係 で、用地の売買契約 あるいは貸借
  • 14. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU・ GSBヽ、rking Paper No 201415 契約 の当事者 とい う側面 と被害者 としての損害賠償請求権者 と、異なる 2つ の当事者 とし ての位置 にある。 これが、土地の売買価格等を考える際に、事柄 を複雑 に している。 双葉、大熊両町内の同施設付近住民 もまた、同施設立地の利害関係者 である。 中間貯蔵 施設 の立地によつて もつ とも影響 を受 けるものは施設周辺住民であるが、汚染廃棄物等の 搬入道路沿道住民 も影響 を蒙 るおそれがある。ただ し、 ここでは、沿道住民については省 略す る。 3 中間貯蔵施設設置手続 きの課題 (1)公共事業 としての中間貯蔵 と用地取得手続き 1. 中間貯蔵施設 は、施設 として 2つ の側面を持 つている。まず挙げ られ るのは、公共の 用に供 され る施設 とい う特質である。2つ 目は、廃棄物処理施設 としての機能 を有す ると い うことである。 中間貯蔵施設が公共の用に供 され る施設であるとい うことは、国による中間貯蔵施設用 地の取得 は公共事業用地の取得 あるいは地上権の設定 とい うことである。 憲法 29条 では、国民の財産も 「正当な補償 の下に、これを公共のために用ひ ることがで きる」 としている。 これは、土地等財産権の強制収用の根拠 となっている条文であるが、 公共事業 を行 う吟当たつて必要 となる土地の取得のための要件である。憲法 29条 3項 の趣 旨を具体化 した土地の強制収用手続一般法 としての土地収用法では、公共事 業 を行 うにあ たって、土地収用事業 として認 め られ る要件の一つに 「事業計画が土地の適正且つ合理的 な利用に寄与す るものであること」 (20条 ③)を あげている。 本件 の場合、現在 、同施設用地が土地収用の対象 とされてい るわけではない。 しか し、 任意取得であるな らば 「土地の適正かつ合理的な利用Jと い う要件 を欠いて もよい、 とす る合理的理 由はみ あた らない。 したがって、 「土地の適正かつ合理的な利用」は、公共事 業用地の取得が適法であるための要件 であるといつて よい。事業の 目的ばか りでな く、同 地でその事業 を行 うことの適正性 と合理性が求め られ るのである。ただ し、適正かつ合理 的利用であるか どうかの判断手続 きは、土地収用の事前手続 きである事業認定手続 き とし て定 め られているのであ り、公共事業計画手続 き として定め られているのではない。本件 の場合 には、放射性物質対処特別措置法にも手続 き規定はな く、任意買収 とい う政策判断 を している以上、買収前手続 きは、権利濫用 と判断 されない限 りで、行政 の裁量に委ね ら れることになる1。 12011年の土地収用法改正は事業認定手続 きを抜本的に改める改正だったが、改正の附則 5条 でも 「公共 の利益の増進 と私有財産 との調整 を図 りつつ公共の利益 となる事業 を実施す るためには、その事業の施行 について利害関係 を有す る者等 の理解 を得 ることが重要であることにかんがみ、事業 に関す る情報の公開 等その事業の施行 について これ らの者 の理解 を得 るための措置 について、総合的な見地か ら検討 を加 える もの とす る」 とあるよ うに、公共事業 につ いての利害関係者 の納得の得 られ る手続 きの欠快 について問題 視されてきた。山田洋 「土地収用と事業の公共性J芝池義一=小 早川光郎編『行政法の争点』 (第 3版) ジュリス ト増刊号 (有 斐閣 2004)231頁 でも、公共事業計画についての公共性認定手続きの必要性に言 及している。 12
  • 15. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSBヽVorking Paper No 201415 とはいえ、公共事業が同地で行われ る 「適正性 と合理性」があるとい うことが、交渉の 前提である。そ して、国が地権者 に対 して、その要件 を満たす ことを十分納得できる情報 提供 を行い、かつ説 明責任 を果たす ことが、必要条件 といえる。 さらに任意 買収 にあって は、地権者 との交渉過程 は実質的に対等性が確保 された上での、合意でなければな らない ことはい うまで もない。 2 第 2の廃棄物処理施設 としての側面についてみると、中間貯蔵施設は、廃棄物処理法 に基づ く廃棄物処理施設ではないが、周辺住民に とっては、人の健康 もしくは生活環境ヘ の被害 (放射能被害)を 蒙 るかもしれない廃棄物処理施設の一種 である。最終処分場 と違っ て、中間貯蔵施設は 30年後には搬出 される廃棄物 もある、 とい う点が異なる。 公共用地の取得 の仕組みについては上述のよ うな状況であるが、廃棄物処理施設の一種 であるとい う点に着 目す ると、中間貯蔵施設 の設置にあたって、廃棄物処理法に基づ く廃 棄物処理施設の手続 きを準用す ることが問われなければな らない。 公共的な廃棄物処理施設 としては、 自治体が必要 とす る一般廃棄物処理施設がそれに相 当す る。一般廃棄物処理計画で定めることとしている2。 ほ とん どの条例では、廃棄物処理 法に基づ く同計画は廃棄物減量等審議会の諮問事項 となつている。委員 には、通例、消費 者団体や懲戒な どの関係 団体代表や公募委員が含まれ る。パブ リックコメン トの対象 とな つている場合が多い。公共関与の産業廃棄物処理施設 の場合 には、同様 に産業廃棄物処理 計画に定め られ、審議会で検討 され る。民間の施設の場合には、施設 の設置 は許可制であ り、許可手続 きで行政庁の審査 とともに、後述の住民参加手続 きが規定 されている。 本件の場合 には、環境審議会 では報告事項 として議論 されている。 このよ うに、当初双 葉・大熊 ・富岡の 3町か ら双葉 。大熊の 2町 になつたが、 この土地の選定については、専 門家の関与のみでそれ以外 の関与はない。 地権者や住民の意見は、実施手続 きの中で反映 させ ることが必要になる。 (2)ど のような手続 きをとるべ きか 1.廃 棄物処理施設 については、大気汚染や水汚染を心配す る住民 との間で多 くの紛争 が発生 した3。 そ こで、廃棄物処理 に関す る権限を有す る自治体は要綱や条例で住民の参加 2廃棄物処理法では、環境大臣が廃棄物処理計画の案 を策定 して、閣議で決定す る (法 5条 の 31)。 この方 針 に従い、都道府県廃棄部宇処理計画が策定 され る(5条 の 51)。 同計画 に基づいて市町村計画が定め られ るが、具体の施設計画 は市町村計画で定め られ ることになる。 3廃 棄物処理施設 をめ ぐって、建設 の差 し止 め、操業の停止お よび許可の取消 を求 める訴訟は、全国で起 きている。特 に、宮城県丸森町 における廃棄物最終処分場の建設差 し止 めをめぐって、操業前の処分場に ついて、静穏 に生活す る権利 に基づ き差 し止 めを認 めて (仙 台地決平成 4年 2月 28日 判時 429号 109頁 ) 以来、多 くの処分場で指 し止 め請求が認容 されている。 さらに、産業廃棄物処理業の許可 を争 うとい う形 式ではあるが、行政処分 の取 り消 し請求 を認容 されている事例 もある (千葉地判平成 19年 8月 21日 判例 時報 2004号 62頁 )。 ' 13
  • 16. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐GSB Working Paper No 201415 規定を定めて紛争 の未然防止策 を定めると共に、権限を有 さない市町村 は水源条例 を制定 して、飲み水の安全や量の確保への配慮 をしてきた。 ひ るがえつて、本件の場合 をみ ると、基本方針 では 「地方公共団体や住民の理解 と協力 を得つつ、政府 として最大限の努力」4を す るとしている。そ して、ロー ドマ ップによれば、 第 1章 図 1に みるよ うに、「中間貯蔵施設の選定について」で示 されている基準を含めて、 場所 の選定、事業規模 な どについての基本構想について、専門家の検討 に付 され る。構想 検討 を進 めつつ、福 島県お よび関係市町村 との調整 をすすめるとし、 さらに基本設計が出 来た段階で、実施設計、現地調査、浪1量 を行い、用地取得に入 るとしている。ただ し、 「地 元」 といわれている者 の具体的主体及び 「調整」の手続内容は明 らかではない。 しか し、 国 としては、 「調整」の中で、同地を選定 したことが適正かつ合理的利用である旨を主張 す ることになる。 また、現地調査後、その調査結果 を持って、土地の買収 に入 る以前に、県・市町村 。「地 元」 との調整す るよ うには定め られていない。 ここで、決定的な ことは、このロー ドマ ップは福島県市町村全体に示 され 、除染および 仮置 き場の設置 の促進 のために利用 されていることである。 自治体や住民に対 して、 3年 間で施設 を立地 し、仮置 き場か ら搬 出す ることを約束す るとい う役割 も果た している。 と くに、フ レコンバ ッグの耐用年数が一般 に 3年程度 といわれていることか らも、除染 を実 施 した自治体・住民は出来 るだけ早 く移動 させて欲 しい とい うのが本音であろ う。 とい う ことは、中間貯蔵施設用地を有す る自治体の住民や用地の地権者 との関係 では、一度国が 決 めた場所や構造 について基本的な変更はあ り得ず、受け入れの受忍 を求める形式手続 き と受 け止 めざるをえない。 「理解」での調整があ り得 るとすれば、立地に付随す る付力目的 な調整であると受 け止 め られても致 し方 ない。 実際、第 1章 で見 るよ うに、国は、2011年 12月 28日 には双葉郡に施設設置 を申し入れ、 翌 12年 3月 には、双葉、大熊、富岡の 3町 に施設設置 を要請 してい る。その後は、国に中 間貯蔵施設 に関す る委員会 を設置す ると共に、 ロー ドマ ップに したがい、調査の受け入れ 要請等を行いなが ら、県お よび町 と調整 をしてきた。 具体的 に住民 との接点を持ったのは、大熊町の場合、2013年 1月 の調査 に関す る住民説 明会である。調査の後には、2014年 5月 31日 、環境省 による住民説明会が初 めて とい う ことになる。 6月 15日 までの約 lヶ 月半で、 2町の住民に 16回 の住民説 明会 を行 つて いる。その後、全員協議会 を開催 した。 これ らの手続 きで、 「住民の理解 を得」 るための 十分な手続 きとい う要件を満た した といえるだろ うか。 確 かに、当初の案 の檜葉町については、町長の反対お よび住民投票条例制定への動 きな どを勘案 して、立地案か ら除いたが搬入路は楢葉町である。富岡町の場合 には、最終処分 場 との引き替 えである。 しか も、避難指示解除準備 区域 に近い とい う批判が強い。槍葉 を 4「衆議院議員高市早苗君提 出除染に伴 う除去土壌等の処分方法 に関す る質問に対す る答弁書」内閣衆質 180第 25平成 24年 2月 10日 。 14
  • 17. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB S、rkhg Paper No.201415 含めた 4町が、中間貯蔵 あるぃは最終処分に関す る施設 にかかわ り、中 間貯蔵施設か ら外 された両町の施設 が近い将来帰還が求められ る地域であるとい うことか らす ると、住民の 意見 をどのように反映 したかの説明責任が問われ る。 しか し説 明会で実際の説明を聞き、 説明会の議事録 を見 る限 り、調査の結果 についての詳 しい資料 はな く、通 リー遍 であ り、 住民の納得のい く説明 とはなっていない。ま してや、意見の交換 とはいえない 特に大熊、双葉 2町 については、調査後の説明会であるが、16回 行 つていても、相互理 解が深まるかたちでの進行ではな く、その意味で 「理解 と協力」は形式的なもの となつて いる。 特 に問題なのは、 このよ うな専門的な知見を要す る事柄 について、住民が 自分が求めて 専門家の意見を聞き、それ に基づいて意見を言 えるような機会 がな く、パ ンフ レッ トによ る説明のみ となつてい ることである。環境情報な どについて、詳 しく、分か りやすい資料 を縦覧 し、十分 な理解 のための情報 を提供 していない、 とい うことである。た しかに、イ ンターネ ッ ト上では各種委員会の議事録情報 は提供 されているが、そ こにア クセスできな い人のために、避難先の主要な 自治体の施設 に紙の情報 を縦覧す ることが必要だつた とい える。環境省 は、環境影響評価手続 きを省略す るよ う県に要請 し、県 も受 け入れ るとい う ことがあればなお さら、住民への十分な情報の提供 と意見の交換の必要がある。 2. また、本来であれば、16万 m3の用地を有す る有害な廃棄物 を処理する施設であ り、 福島県環境影響評価条例に基づ く第 1区分事業 として環境影響評価手続 きが要求 され る。 その場合 には、調査・評価項 目の決定手続 き及び評価書作成手続 きにおいて、住民には意 見を書面で述べ る機会が与 え られ る。本件で も、環境影響 に関す る調査 を行 い、国の検討 会で調査結果について検討 してい る。また、適地調査の前 に、施設用地の対象 となる行政 区に対 して説明会 を行い、施設 の概要 と適地に関す る判断基準 を示 している。 しか し、言 うまでもな く、同調査は、環境影響評価条例に基づ く調査ではな く、必要性 と安全性 につ いて概要 を説明会であ り、環境アセスメン ト手続きに代替す る内容 を伴 っていない。 国は、 この手続 きに対 して、県に対 して免除申請 をしていて、免除が認 め られている。 3.廃 棄物処理施設 については、廃棄物処理法 によ り設置手続 きが規定 されている。廃 棄物処理法では、最終処分場等 の廃棄物処理施設 について、廃棄物が しば しば違法な処理 を引き起 こしていることか ら、その立地に当たつては、施設 の計画書や環境影影響調査書 を縦覧 し、一定の期 間内で意見を述べ る機会 を与えている(廃掃法 8条④ :事業者 による一 廃処理施設、9条 の 3② :市 町村設置施設、15条⑥ :産 廃施設)。 また、多 くの自治体で 調整条例 を設 けて、施設 に関す る情報 を提供 し、住民がそれ を精査 し意見を述べ る機会 を 与え、両者が合意 をす ることを 目的 とす る条例 を制定 している5。 5産業廃棄物処分場設置許可 に関す る権限を有す る県政令市、お よび 中核市で、 この よ うな条例 を設 けて いる。 15
  • 18. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB Working Paper No 201415 中間貯蔵施設 は最終処分場ではない ものの、汚染土壌 の多 くは移動 しない としているこ と、また 30年 とい う長期間の貯蔵施設であること、許可に当たる審査 もな く環境省 自ら が立地す ること、そ して環境基本法に放射性物質が含まれた ことな どを勘案す ると、施設 の設置に当たつては、廃棄物処理法 を準用 して、環境影響調査資料 を縦覧 し、住民の十分 な意見を述べ る機会が与え られる必要がある。それを掛酌す ることが、適正 な手続 きとし て求め られ る。 4 なお、県知事が、2014年 9月 1日 に中間貯蔵施設 の受 け入れを環境大臣に伝 えてい る。 さらに、大熊町 も同年 12月 15日 に受け入れを表明 した。国は、県 と自治体が受け入 ることを一つのステ ップ としてい る。国 との関係 では、 これまで述べてきた とお りである が、県知事の受け入れ決定に際して、住民の意見を反映する手続きが一切執 られなかつた ことについて、違法とはいえないが、適正さを欠くと言わざるを得ない。 (3)地権者 と手続 き 1 公共施設用地の事業者 による任意買収 に関 して制約はない。地権者 は、買収に応 じ なければよい。 ただ し、土地収用法 とい う強制収用制度があることか ら、 (1)で述べた よ うに、施設の設置 目的が適切か どうかの評価に地権者が意見 を述べ る機会があることが 望ま しいが、制度がないこと自体が違法 とはいえない。 なお、地権者が多数いる大型公共事業の うち、1997年の河川法改正により、ダムや堤防 事業については河川整備方針お よび河川整備計画で定めることになっていて、整備計画の 策定手続 きで利害関係者が意見を述べる機会 を与え られている(16条 の 2④)。 ダム建設 を めぐつて、住民 との紛争の歴史か らようや くこのよ うな条文が導入 されたのである6。 補償 のあ り方 とともに、今回の事案でも河川整備計画の策定での さま ざまな参力日のあ り 方については参考に されてよい。 2. 国は、地権者 に対 して、9月 以降約 lヶ 月で説明会 を行 つてきた。土地の購入及び 地上権設定についての説明が主たるもので、 ヒア リングによれ ば、意見の交換 と納得 とい うにはほ ど遠い状態だった と言 うことである。 地権者 は、判断基準 にもあるよ うに、同地に中間貯蔵施設 が設置 され る理 由を高度に汚 染 されて相 当の期 間、人が住 めない土地であることがその理 由だ と理解 している。事故が なければ土地 も汚染 され ることはな く、ま してや 中間貯蔵施設 もZ、 要がな く、土地を手放 す ことにもな らなかつた。 にもかかわ らず、福島の復興のために必要 な事業だか ら正当化 され るとい うのでは、国は責任 を とらないばか りか、正当性 だけ主張す る。 これが、中間 61996年 6月 、河川審議会 は、「21世 紀 の社会 を展望 した今後の河川整備の基本的方向について」 (答 申) を出 し、1996年 6月 に 「21世 紀 の社会 を展望 した今後 の河川整備 の基本的方向について」 (答 申)を 出 し て、その中で、河川法改正 に向けて、河川整備 の計画の策定に当たつては地方公共団体や地域住民の意向 を反映す るための手続 を制度的に導入すべ きであるとした。 16
  • 19. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB S、rking Paper No.201415 貯蔵施用地の地権者 のいつわ らざる気持 ちだろ う。また、住民の発言 を聞 くと、同 じ福島 県民および 自治体の暗黙の重圧 を感 じているようである。除染や敷地外の放射性廃棄物処 理が国の社会的責任 として規定 されているのであれば、施設用地の地権者 に対 して、国の 社会的責任 として事故 についての納得できる説明責任 を果たす ことを、今回の中間貯蔵施 設用地取得の際の考慮事項 として挙げておきたい。 4 地権者住民の思いとその実現 (1)地上権の設定 と論点 国は、用地取得 にあたつて、土地の購入か ら地上権の設定 とい う選択肢 も入れ ることと した。代々受 け継 がれてきた土地 を手放 した くない とい う所有者 に とつて、選択肢が増 え たことにはなる。 ところで、地上権 の場合 には、土地の譲渡や賃借 について所有者 の同意 を必要 としない。 中間貯蔵施設であるので、地上権が譲渡 され るとい うことは考 えに くい7が 、_時的に原子 力施設等内の放射性廃棄物が仮置きされ るな どのおそれは否定できない。む しろ、監視 を す るとされ るものの、土壌が搬入 され ることか ら、違法な有害物質が途 中で混入 され るお それ は否定できない。 これまでの各地での状況を見 るな らば、十分に煩慮 され るべき点で ある。 また、地上権が消滅 した後 に土地が返還 され るが、国は 「地上権 を選択す る場合には、 原状回復 は土地の返還時において双方で協議 を行い決定する」8と ぃ ぅ考え方を示 している。 とはいえ、 どの よ うな状態で返還す るのか明確ではない。汚染土壌 については、半減期 と の関係 で最終処分場 に搬入せず、そのまま埋設 してお くとしている。その状態で返還 され たのでは、当初 よ り汚染のひ どい状態で戻す と言 うことであ り、 これでは納得 を得 られな いであろ う。地上権 が消滅 した場合 には、原状回復 をして戻す ことが原則 であ り、少な く とも、居住、耕作が出来 る状況まで原状回復す ることが求め られ る。 そのためには、適正 な利用の監視や、違法なものが搬入 され る、あるいは処理の仕方に 不適正なことがある場合 には、懲罰的な加算な どの手段 を確保 してお く等 の条件 を付す こ とが必要ではないだろ うか。 また、国は、一時払いを提示 してい るが、それが最適か どうか。毎年 の支払い とい う方 法 も考え られ る。 7説 明会の資料である 「中間貯蔵施設 に係 る土地の対応、生活再建 、地域振興策 について」 (http://josen.env go jp/materia1/pdf/dojyou cyuukan2.pdf)で は、返還時の土地の利用に関 して、地元 の意 向を反映 して決定す るとしている。 8環 境省 、復興省 「中間貯蔵施設等 に係 る対応 について」 (平成 26年 8月 8日 )。 ' 17
  • 20. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB Working Paper No 201415 (2)売 却 所有者 の中には、土地を売却す ることを望んでいる人 もいる。また、仕方がない と考 え ている人 もいる。 これ らの人の中にも、納得が出来ない状態では売却できない とす る人 も 少な くない。 額 の問題 については、国は、現在上限を決 めていて、交渉の余地がない としているよう である。 (3)移転地の確保 移転地の確保 を要求す る所有者 もいる。 コミュニテ ィとして移転地 を確保 して欲 しい。 特に前のよ うな生活が送れ るよ うに、農地等 を含 めて確保 して欲 しい とい う要求である。 これ は、ダム等の補償 において既 に行われているところであ り、公共用地の収用に当たっ て執 られ る方策である。追加的賠償 との関係 があるが、移転地 の確保 と購入 との兼ね合 い で処理できると考 え られ る。 (4)交 渉の手法 国は、説明会の後 は個別交渉 によるとしている。 しか し、交渉については、行政区単位 あるいは意思を同 じくす る所有者の団体単位で行 うことが望ま しい。 その理 由は以下の通 りである。 各人は、将来の選択 を含 めて迷 ってい る状態にあ り、売却 をす るか、地上権 を設定す る か、決まっていない人 も多い。そのよ うな ときに個別の交渉 をす ると、対等な交渉が困難 である。また、適正価格 が どのあた りにあるかについて、十分 な情報 も議論 もない状況下 で交渉 をす ると、弱 い立場 に追い込まれ る。最低限、公開の場 での交渉によ り、論点を明 確に してお くことが必要である。その際、弁護士等専門家が代理人 として参加す ることが 適当であろ う。 また、 コミュニテ ィでの農地な どを確保 した移転 を望む人 については、当然単独での交 渉 とはな らず、それ を求める所有者の集団による交渉 を必要 とす る。 さらに、地上権 の設定が よいのか、それ とも賃借権の設定が よいのか、少 な くとも売却 をしないことを選択す る所有者 は、原状回復 を含 めて団体で交渉す ることで、初 めて対等 な交渉を行 うことが出来 る。 そのための手法 として、地上権 の設定、賃料の徴収、及び土地が返還 された ときのため に目的に沿った利用が行 われているか どうかを監視す る目的で、所有者 の組合 を結成す る ことも一つの手法であろ う。 この場合には、早急に組合 を結成す ることが求め られ る。 18
  • 21. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU・ GSB N、rking Paper No 201415 5 国・ 自治体の責務 と土地の買い入れ 土地の売却あるいは地上権の設定は、専 ら地権者 と国の関係 として把握 されている。 し か し、30年後には高濃度の廃棄物は搬出され ることが決定 している中間貯蔵施設の場合 に は、別の選択肢が考 え られ る。 「大熊町住民意 向調査 調査結果 (速報版)」 (2014年 11月 11日 )に よれば、大熊町 との 関係 を切 りた くない と考 えている人 も少 な くない9。 原子力で汚染 された土地には戻 りた く ない、関係 を継続す る必要はない と考 えている人 も少 な くない中で、出来れ ば将来、町内 に戻 つてきたい と考 えてい る人 もいる。大熊町の住民の考 え方 は、双葉郡の他 の自治体 と 同様 に多様 である。帰還困難 区域 を広範囲に抱 えていて も、いずれの時 にか、それが本人 の世代なのか、次 の世代なのか、その次の世代になるのかは判然 としないが、戻つて安全 なその故郷の地に立って欲 しい と思っている人が相 当数 いるとい うことである。 もちろん、 これ らの中には本人が大熊町の どこかには戻つていたい と考える人が少なか らずいる。 ところで、国に も、東電 と同様 に原発事故の被害者 。被害 自治体に対 して、原状回復ま たはそれ に相当す る被害賠償 についての法的責任 として、国の 自主規制の大幅導入施策 に よる規制の不作為責任 があると筆者 は考える。百歩譲 つて、 自治体に対す る不作為責任 は ない とい うことであって も、放射性物質対処特別措置法で放射性物質の処理 に社会的責任 があるとしているの と同様 に、国には少な くとも自治体の存続す ら危 うくす るよ うな壊滅 的被害―― 自治体 の財政的損失お よび 自治体の地域整備 の蓄積 に対す る損失―― を与 えた ことに対す る、社会的責任 はある。そのために、補助金の一部 をあて ることは、適正かつ 合理性 もある。850億 円の補助の根拠 もそこに求め られ るといえよう。 他方で、 自治体 も住民の安全で健康な生活 を確保するとい う基本的な責務 を果たす こと が求め られている。今後の長い被害者住民の道の りを考 えた場合、 このよ うな観点か らの 被害者 の被害回復 のためのワンス トップ 自治体 とい う、 これまでの 自治体 と多少性格 を異 にす る役割 を、これ らの 自治体が持たざるをえない10。 それ を踏まえた上で、戻つてきたい、 あるいは関係性 を維持 したい人々の生活環境 あるいは地域環境の整備 の観点か ら、中間貯 蔵施設への 自治体の政策 を策定す る必要がある。 中間貯蔵施設 の土地 (用 地)に 着 目すれ ば、 (1)原発施設直近被害者 を抱 える自治体 としての共通被害を回復す るためのワンス トップ百治体が維持 され る地域的基盤 を持 ち地域整備権 を保持 してお くこと、 (2)そ の 地域 の環境上の安全性回復 に責任 を持つ こと、 (3)土地を離れ る人の生活 を擁護 できる こと、を考慮す ることが必要である。 9「大熊町住民意向調査 調査結果 (速報版)」 (2014年 11月 11日 )に よれ ば、 「戻 るか どうか決 めていな いJ「戻 らない と決 めている」人の 59%が 、大熊町 との繋が りを持 ちたい と述べてい る。 10帰 宅困難地域の住民は、そのまま住 民票 を自治体に置いてお くことを認 められている。二重の住民票 と はいえないが、実質的に二重 の住民票の要素を持つ措置 を執 る以外ないであろ う。そ うであれば、かかる 被害 自治体は、被害者 の ワンス トップ行政 を担い、被害者の被害回復措置の国への施策請求のための重要 な役割 を持つ こととなる。 19
  • 22. 中間貯蔵施設 をめ ぐる問題点 と課題 OCU‐ GSBミ、rking Paper No.201415 そのよ うな要件 を満たすためには、 自治体は同施設の設置 に関す る同意・不同意 につい ての 自治体の意思 を表明す るが、地権者 に中間貯蔵施設 の売却・地上権契約 を委ねて傍観 す る以外の途 をとることも、考える余地がでて.く る。 ` そ の一つ として、売去「したい と考えている人の土地 について基金 を設 けて購入す るとい うことも、町は選択肢 として考慮すべ きである。 自治体損害の回復のための補助金 として の資金 を投入 して 自治体は基金制度 を設 け、中間貯蔵施設用地全体を管理す る機能 を持た せ る11。 そのために、売却 したい地権者か ら土地を買い取 る。基金が購入 した土地は国に売 却す るのではな く、地上権 を設定す る。 これによ り、地上権 を設定 した所有者 と協働 して 原状回復措置 をスムーズに行わせ ることができる。 ところで、中間貯蔵施設 の建設 によつて、今以上に土地 を所有す る意義 を失 う住民が増 えることが予測 され る。 ところが、現在線量が高 くなおかつ中間貯蔵施設が長 く置かれる 土地の周辺では、売去「しよ うにも土地の価格が付かず に放置せ ざるをえない とい う状況が 発生す ることは容易 に想像がつ く。将来の 2町 の地域整備お よび住民の生活保障の責務の 観点か ら、基金制度 を活用 して、住民の土地を購入す るとい うことは、基金 の利用 として も十分 に理 に適 う。 この よ うな理由か ら、同基金 による土地の買い取 りに関 して、施設用 地の土地ばか りでな く、用地以外の同一町内の土地についても同様 に買い取 ることが望ま しい。 この制度の 目的 として、第 1に 、 自治体の地域環境整備の責務 として、将来的に帰還を 希望す る住民の安全 に生活す る権利の保全が挙げ られ る。用地以外の土地の購入 も、所有 者が管理す る意思のない放棄地 を多 く抱 えることを防止す るための地域整備 の責務の一環 である。 第 2に 、 自治体の地域環境整備の権利 には、2014年 3月 成立の水循環基本法により新た な 目的が加 え られてお り、 この基金制度はそれに適 う施策である。新 たな 目的 とは、高濃 度汚染物 を抱 えるおそれのある自治体 としての水循環か らす る責務であ り、権利 である。 これ まで も、水源 自治体は水循環の観点か ら水汚染の防止 について権限を有す るとい う議 論がなされてきた 12が 、水循環基本法に基づいて、自治体は自主的、主体的な 「その地域の 特性 に応 じた施策」 (同 法 5条)が 求められている。地下水および公共水域への汚染侵出 のおそれのある中間貯蔵施設 の適正保管監視 として、国 とは違 った住民お よび国民による 監視制度 として機能 させ ることが、それにあたる。そのために、 この基金 には、広 く中間 貯蔵施設 の適正管理が必要であると考える人々の寄付 をつの り、その 目的を達成す る。 11こ れまで、神奈川県、世 田谷区をは じめ として、環境保全のために基金制度 を設 けて土地を購入 し、自 然の保全 を している例がある。積極的 自然保護ではないが、人々の安全の確保のため と将来返還 された土 地を自然豊かな地 区に戻す ことで、住民の平穏生活権の享受 に資す ることが可能 となる。 12岐 阜県御 嵩町における廃棄物処理施設問題 は、ま さにこの ことが議論 された場面である。 20
  • 23. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB雨、rkhg Paper No.201415 6 監視 廃棄物最終処分場 の場合 には、住民に対 して、最終処分場への搬入に関す る帳簿 を閲覧 す る権利 を与 えてい る。同様 の措置が必要 と考え られ る。すでに、除染 について、違法 な 行為が多々認 め られた。特 に、今回は除染 した土壌が搬入 され る。土壌 に関 しては、様々 な廃棄物が違法に混入 されて しま うことで、紛争 を引き起 こしている事例がある。 このこ とを考慮 に入れ る と、中間貯蔵施設 について、監視体制の整備 が重要である。現在の計画 でも環境省 は監視体制 を とるとしてお り、そのための施設 も計画 されている。 しか し、住 民の納得 をえるためには、廃棄物の最終処分場 と同様 に、地元 自治体、住民代表、地権者 による立入、帳簿の閲覧等 による監視が認 め られて初 めて、中間貯蔵施設 の設置が容認 さ れ る。 21
  • 24. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB WOrking Paper No.201415 第 3章 政府による中間貯蔵施設建設予定地の 地権者に対する補償額提示を受けて 渡 辺淑彦 *・ 頼金 大輔 * (*福 島県弁護士会所属 弁護士) 第 1 は じめに (問 題の所在) 1 中間貯蔵施設建設 に向けた用地買収 の金額設定について、地権者 と政府 との間で大 きな溝が生 じている。 政府は、平成 26年 9月 29日 、福島県いわき市で行われた地権者向けの説明会の中で、「住 宅地は、原発事故がない場合の評価額の 5割 、山林は同 7割」 とした 「標準価格」 を提示 した。また、売却 には応 じない地権者 に対 しては、地上権 を設定 し、その場合 には、買取 り額 の 7割 で補償す るとい う代替案 を提示す る一方、賃貸借契約な ど、その他 の多様 な契 約類型の設定には応 じない との姿勢 を崩 していない。 当然 のことなが ら、政府 か らの提示に対す る地権者 の反発は強い (一 口に 「地権者」 と言 つて も立場 によ り考 え方は異な り、また、反発の内容 も、交渉ではなく一方的な説明であ るとの政府 の姿勢 に対す るものか ら補償額に関す るものまで多岐に亘 るが、ここでは詳述 しない)。 福島県は、地権者の反発 を予想 してのことか、国による土地の買取 り価格 と事故 前の時価 の差額 について補てんす ることを表明 してい るが、 この提案 についても、そもそ も、なぜ被害県である福島県が、補助金か らの補 てんをしなければな らないのか とい う違 和感 は拭 えない。 2 地権者が、政府 のい う「標準価格」に反発 を抱 く要因のひ とつは、その趣 旨が 「本 来であればゼ ロで然 るべ き ところを評価額の 5割 まで認 めてや った」 とい う発想 に基づ く もの と読み取れ ることにある。正面か ら言及 こそ しないが、かかる補償案で 「地権者 の理 解を求めたい」 とす る政府発言の根底には、以下の ような本音があると思われ る。 大熊町や双葉町の土地は、線量 も高 く、現在の土地の時価は限 りな くゼ ロに近い。 しか も、地権者 は、東電か ら、既 に、全損 として事故前の時価 による土地価格の賠償 も受けている。宅地については、東電による住宅確保損害の補償 もある。 政府 が事故前の基準でもつて土地の買い取 りを行 えば、それ は、地権者 に とつて二重 の利得にな りかねない。 本来、東電が全額賠償 を行 えば、民法 422条 により、当然に土地は東電の所有になる
  • 25. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU・ GSB S、rking Paper No.201415 ところ、東電がその所有権 の移転を受け入れなかっただけのことである。 本来であれば東電 に移転 され るはずだつた無価値 の土地に対 し、政府 が半額 を出 し、県 が差額を補てんす るとい う手厚い補償 を行 うのであるか ら、「理解 を求 めたい」 とい う発想 である。 しか し、 この よ うな政府 の 「本音」は、はた して、本当に理論的にも妥 当な見解である のか。 この 「本音」の中核 をなす、東電による全額賠償 の性質及び民法 422条の解釈に立 ち戻つて検討 を加 える必要がある。 第 2 東電の 「全額賠償」によって大熊町 と双葉町の土地は、民法 422条 によ り、本来、 当然に、東電に移転 して しま うはずの土地であつたのか。 1 民法 422条 の整理 (1)民 法 422条 は、「債権者が、損害賠償 として、その債権の 目的である物又は権利の価額 の全部の支払 を受 けた ときは、債務者 は、その物又は権利 について当然 に債権者 に代位 する。」 と規定す る。 債権者 が、債務者 か ら債務不履行 を理 由 とす る損害賠償によつて、債権 の 目的たる物 または権利の価額 の全額賠償 を受 けたにもかかわ らず、債権者 にその物または権利 を帰 属 させてお くことは、債権者 に とつて二重の利得 となる。た とえば、寄託 した物品が盗 難 にあつたため、所有者 が受託者か ら損害賠償 を受 けたが、その後、その物品が発見 さ れたよ うな場合 を想定 されたい。 当該物品を所有者 に返還 し、二重の利得 を生 じさせ る よ りも、受託者 に引き渡 して損害賠償 を したことによる損失 を軽減 させ るほ うが公平に 適 うといえる。民法 422条は、当事者 の公平の観点か ら、全額賠償 を した債務者の利益 を保護す るための規定である。 本規定は、あ くまで債務者保護 のための規定であって、 目的物の本来 の所有者である 債権者か ら所有権 を奪 うことを本 旨 とす るものではない。また、債務者保護 のための規 定によって、債務者 が、 自分 に とつては価値のない 目的物 を、常に、当然 に 「押 し付け られ る」のも妥当な結論ではない。 条文上、「当然 に」 と規定 されているものの、全額賠償 を した債務者が所有権の移転を 欲 しないのであれ ば、当事者間において、債務者は民法 422条 による所有権移転 を求め ない と決 めることも可能であると解 され る。 (2)代位 の要件 であるが、条文上 も明 らかなように、「全部の賠償」によつて初 めて代位が 生ずるのであって、一部の賠償がなされた としても一部代位 は生 じない と解 されている。 一部代位 が認 め られれ ば、所有権 について共有関係が生 じ、権利 関係 が複雑 になるな ど の理 由による。 (う ところで、 この民法 422条 の規定は、そもそも、不法行為による損害賠償 を支払つた 場合の類型 にも適用 され るのであろ うか。 23
  • 26. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU‐ GSBヽ、rking Paper No 201415 確 かに、民法 422条は債務不履行などについて規定 された章に置かれてお り、不法行 為の章に同旨の規定あるいは準用規定が置かれているわけではない。 伝統的な通説的見解 では、不法行為 に基づ く損害賠償がな された場合 にも、公平の見 地か ら、同条が類推適用 され ると解 されているが、 この見解 に対 しては、被害者が愛惜 す る物品につ き、対価 さえ払 えば、不法行為者 に所有権 を取得 されて しま うとの結論は 適 当ではない との有力な反対説 もあ り (戒 能通孝。注釈民法(10)718頁 )、 未曾有の損害 を発生 させた今回の原発事故 を不法行為 として捉 える うえでは、今一度傾聴 に値す ると い うべきだろ う。 (の 以上の民法 422条 の整理 のもとに、現在 の東電による土地の賠償 とその代位 との関係 について考えてみ よ う。 (5)そ もそ も、この よ うな不法行為類型 に民法 422条 が適用 され るか。土地はま さしく「愛 惜す る物品」にほかな らないのであって、上記有力説が指摘す る、対価 を払 えば、不法 行為者が 目的物の所有権 を取得す るとい う結論 は適 当ではない との価値判断がま さに当 てはまる場面であろ う。 (6)仮 に、不法行為類型 にも民法 422条 が適用 され るとす る通説的見解 に立った としても、 二重利得 を防止 し、全額賠償 を した者 を保護す るとい う上記制度趣 旨か らすれば、「全額 賠償」 をした東電が、後述す るように、プ レス リリースにおいて、民法 422条 による保 護 を受 けることは しない との意思表示 を している以上、第二者である国が、当然に代位 が生 じることを主張の前提 とす るのは当事者 の意思に反す るものであるし、また、今後、 東電が上記意思表示を撤回す ることも、信義則上許 されないであろ う。 (7)さ らに、東電が 「全額賠償」 と主張 している土地賠償が、そ もそ も代位 の要件 となる 全額賠償にあたるかにつ き、検討 されなければな らない。固定資産税評価額 を機械的に 1.43倍 す る賠償額が 「全額賠償」 と評価できないことはもちろん、住居確保損害をそ こ に加 えても、それ が直 ちに 「全額賠償」 とはな らない とす る整理 も十分可能である。そ の土地が本来有す る価値、不法行為によ り土地に生 じた損失 について、あ らためて精査 す ることが必要である。 2 原子力賠償紛争審査会における損害賠償の代位 についての議論 ところで、東電 によつてな され るべ き損害賠償 の指針 について検討す る原子力損害賠償 紛争審査会においては、民法 422条 による代位 について、 どのよ うな議論がな されている だろ うか。 平成 25年 12月 9日 に開催 された第 38回 原子力損害賠償紛争審査会では、大谷委員か ら の東電による損害賠償 の代位 に関す る質問に対 し、能見会長 は、「少な くとも、賠償を進 め てい く上で、将来 どこかで影響す るところはあるのですが、当面、今賠償す る問題 に関連 しては、ここを明 らかに しないでも賠償ができそ うなので、 この点については触れない方 がいいのかな とい う思いを少 し持 ってお ります。」 として、議論 を避 けている。 24
  • 27. 中間貯蔵施設 をめ ぐる問題点 と課題 OCU‐ GSB Working Paper No 201415 また、能見会長は、中間貯蔵施設 を意識 してか、「それか ら、もっともしかすると重要な 問題は、賠償 された土地について収容するときに果た して代位が起きているのか、起きて いないのか、誰に今、所有権があるのか とかい うのは、理論的には問題にな りそ うで、収 容の問題に少 し影響 しそ うな感 じがするのですが、この点についても、聞いているところ では収容は収容の方でもつていろいろ苦労されているとい うことで、審査会はその収容の 問題については、直接はやは り立ち入 らないで、賠償の方を淡々と進めていきたいとい う こともあって、余 り最後まで詰めない方がいいのかなとい う思いは持ってお ります。」 と意 見を述べ、東電による賠償 と政府による収用 (補償)の 問題については、立ち入つていな い。 この問題 に対 し、審査会は何 らの意見や指針 を示 さず、む しろ議論 を避 けてい る。 3 損害賠償の代位に関する東電の態度 東電は、平成 25年 3月 29日 付プ レス リリースで 「宅地・建物・借地権等の賠償に係 る ご請求の開始について」を公表 した。そ して、その脚注の 5に おいて、「なお、宅地・建物 につ きま しては、事故発生 当時の価値 を全額賠償 した後 も、原則 として、引き続 きご請求 者 さまにご所有 いただきますが、避難指示解除までの間は、公共の用に供す る場合等 を除 き第二者への譲渡 を制限す ること等 について ご承諾 をお願 いいた します。」 と述べている。 この内容 を理論的に詰 めることは難 しい。 全額賠償 した後 も、東電 として、民法 422条 により所有権 を当然 に取得す る利益を放棄 す るとの宣言であることに間違 いはないであろ う。東電 とい う巨大企業が、代位 をしない とい う宣言 をしておいて、後 に 「代位 します」 とい うことは、信義則上、禁反言の原貝1に 触れ るものであ り、お よそ許 されないといえる。 そ うす ると、被害者 のもとに土地の所有権 を留 めるとい う方針 を とつた東電の立場か ら は、被害者 (土 地所有者)が 、第二者への売買等、いかなる処分 を しよ うともそれは所有 者 として当然の権利 であ り、上記脚注のよ うに、東電が被害者 の所有権 に制限を加 える理 由や根拠は全 く不明である。 国策民営の企業 として、「今後、国が中間貯蔵施設 として買い取 りや収容 をす るかもしれ ません。第二者 に譲渡 され ると、国の収容手続が滞って しま うので、や めて下 さい。」 との 趣 旨で 「お願い」 をす ることはあ り得 るかもしれないが、理論的に、 このよ うな制限を強 要す ることは許 され るはず もな く、民法 422条 も、「処分」 とい う所有権の一機能のみを切 り出 して代位す るよ うな、いびつな処理 を認 めていない ことは言 うまでもない。 4 小括 この問題 に対する原子力損害賠償紛争審査会の見解 は明 らかではないが、民法 422条 の 趣 旨か らも、 これまでの東電 による意思表示か らも、各地権者 のもとに、各土地の所有権 が、完全な形で存在す ることは間違いない。
  • 28. 中間貯蔵施設 をめぐる問題点 と課題 OCU・GSB Working Paper No 201415 第 3 土地の価値はゼ ロなのか―― あるべき補償の姿 1 では、国は地権者 に対 し、いかなる価額で補償 をすべ きか。放射性物質に汚染 され た土地の価値 は限 りな くゼ ロに近い、とい う国の大前提 をあ らためて検討 しよ う。確かに、 現時点における取 引価値、市場価値 とい う意味ではゼ ロに近いかもしれない。 しか し、田 舎の土地 (自 宅、田畑、山林…)は 、そもそも市場 における取引を予定 していないことも 多い。先祖代々その土地で暮 らしてきた住民にとつては、土地 は個人の所有権の客体 とし て如何 よ うにも処分 して よい ものではな く、代々の先祖か ら受 け継 ぎ、そ して、これか ら の子孫に受 け継 いていかなければな らないものであって、 自分 はその中継点で しかない と い う捉 え方のほ うが馴染む一面がある。被災三県の沿岸部で、津波 による高台移転や東電 の土地賠償 を巡 って、登記が明治時代のままになつてお り、法定相続人が優 に 100人 を超 えるため処理が難航す る事案が少 なくないが、そのことも決 して、遺産分割や登記手続の 煩 を避 けるため といつた消極的理由ばか りではな く、土地は先祖 か ら子孫へ連綿 と受け継 がれてい くものであ り、遺産分害1制 度に馴1染 まない との価値観 が根底 にあるのではないだ ろ うか。 このよ うな先祖 か ら子孫 に受 け継がれ る特定の土地にのみ付随す る価値 は、た とえ同種 同等の土地 をもつて して も本来、代替不能なものである。逆 に言 えば、 このよ うな、単な る市場価値 を超 えた無形の価値 については、た とえ放射性物質 に汚染 された としても完全 に滅失す るものではない。また、市場価値そのものについて も、放射性物質が除却 され、 また、自然減衰す ることによ り、将来の回復が予想 され るものである。東電か ら土地の現 在の担い手である地権者 に対す る価値賠償 とい う局面においては現時点での全損 に相 当す る賠償が妥当す るとして も、子々孫々に受け継がれ るべき土地の所有権 との交換価値 とい う文脈では、現時点での価値低減が必ず しも絶対的な意味を有す るとはいえないのではな いか。そ して、市場価値回復 の前提 となる、放射性物質の除染 と 30年後 における原状回復 につ き責任 を負 うのは、ほかな らぬ国であることに留意 しなければな らない。 中間貯蔵施設建設 のための土地売却は、将来において価値が回復す る土地 を、この時点 で諦 め、子々孫 々に受 け継 ぐはずの土地 を放棄す るとい う選択 を迫 られ るに等 しい。今回 の聴取 り調査 を含 め、相談会な どの機会で、「苦労 して土地を維持 してきた先祖 に顔向けが できない。」 とい う声 を聞 く。 ことに、先祖代々にわた り「上」 を育て続 けてきた農家は、 自分の代で農業 を断念す ることに対す る無念、罪悪感 が強い。地権者 の思いを代弁すれば、 自分の先祖が代 々努力 してきた結果 にピリオ ドを打ち、 自分の子孫に受 け継 がせ ることが できず、中継点 としての役割 を果たせないよ うな選択 を迫 られ ること自体が大きな精神的 苦痛 を伴 うものであるが、こ うした価値観 は、少 なくとも、 これまでの東電による損害賠 償 に反映 されてい る とは言い難 い。そ うであるとすれば、国は、土地の買収 にあた り、一 時的な市場価値 のみ によつて算定 され る補償額に とらわれず、 このよ うな無形の価値 をも 踏まえた十分 な補償 を提示す るべ きであろ う。
  • 29. 中間貯蔵施設 をめ ぐる問題点 と課題 OCU・ GSB Working Paper N。 201415 除本論文 において、農地について、「維持管理のための労働投入の蓄積、長期継承性 (過 去か らの、将来への)、 食べ物 とい う『命 の源』の生産、 といった諸特性か ら、地権者の特 別の思いが こめ られている」 との指摘があるが、ま さに、農地 を代表す る土地 とい うもの は、人の思いが詰 まった特殊 な財物であって、安易に価値 をゼ ロな どと評価す ることは許 されない。 2 また、聴取 り調査で印象的だったこととして、土地の所有権 を手放す ことによ り、 自分 自身 と地域社会 との リンクが絶たれ ることへの不安 を抱 えている地権者 が少なくない ことが挙げ られ る。 地権者 を含む地元住民たちは、 3年以上にわたって県内外各地への避難 を余儀 なくされ、 知人・友人 との交流、地域社会の社会的資源、ふ るさとの四季 の風景 といつた、 これまで の自分の生活 を構成 していたあ らゆる要素、すなわちコミュニテ ィを奪われてきた。地権 者が、それでも現地 には自分が代々受け継いできた土地が存在す ることこそ、いまや、喪 失 されたコミュニテ ィとの最後 の絆であると捉 え、 これを手放す ことは、名 実 ともに完全 な 「根無 し草」になって しま うのではないか とい う不安 を抱 くことは十分 に理解 できるも のである。地元住民か ら、中間貯蔵施設 を建設 した後 に、住民が墓参 りをす る機会の確保 について具体策 を示 してほ しい との要求が強いの も、それが、 自分 とコミュニテ ィとの横 の絆、先祖か ら子孫へ と続 く縦の絆 を繋 ぎとめる最後の拠 り所だか らと言 えるだろ う。 こ うした感情の機微 にかかるケアは、買収に伴 う補償や東電 による損害賠償 によって金 銭的にのみ解決 され ることが必ず しも唯一に して最適の手段 とはいえない。た とえば、2004 年の新潟県中越地震 で被災 した旧山古志村 においては、多 くの家屋 が水没 した木籠集落で は記念碑 に旧集落図 を亥1み 、集団移転を余儀 なくされた十二平集落では 「ここは じょんで ぇらJと 刻 まれた集落の道標 、各戸 ごとの道標 を設置す るな どして、かつて コミュニテ ィ がそ こに存在 した こ とを人々の記憶 に留め、住民の拠 り所 を創 出 している。 ほかにも、ダ ム建設 に伴い集団移転 を した地域 な ど、参考 とな りうる先例は全国にあるのではないだろ うか。 ま して、中間貯蔵施設の立地 については、将来 において返還がな され、 コミュニテ ィが 再建 され ることを予定 された土地であることを忘れてはな らない。十分 な価値補償 ととも に、 こ うした住民感情 を踏まえ、 自治体や住民 との対話のもと、中間貯蔵施設 の建設や運 営において住民の拠 り所 としての場 に最大限の配慮をす るな ど、その住 民感情 に応 える施 策を行 うこともまた、行政 としての国の責務であると考 えられ ることを付言 しておきたい。 ″ ‘ 0 4