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2015.4.12
福島原発事故から4年!
第一回 放射能汚染ゴミを考える緊急シンポジウム
国の放射能汚染ゴミの処理を問う!
~環境省が推進する「減容化事業」にいかに立ち向かうか!~
放射能汚染ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会
アドバイザー 藤原 寿和
1.はじめに焼却ありき!
1970年の「公害国会」で成立した廃棄物処理法の目的にうたわれた廃棄物の「適正処理」
=焼却処理至上主義(万能)路線は、当初の廃棄物処理を所管した厚生行政以来、2001年に
現・環境省に移管された後も引き続き維持継続されてきた。一時は2000年前後に勃発した焼
却によるダイオキシン汚染問題をきっかけに、市民運動の盛り上がりもあって世界にさきがけて
ダイオキシンの発生を規制する「ダイオキシン類対策特別措置法」が超党派による議員立法で成
立したものの、国・環境省はダイオキシン対策を錦の御旗にさらに焼却の広域化・大規模化・溶
融処理化路線を突っ走ってきた。その結果、環境省はこの15年間で当初のダイオキシンの排出
量を高温焼却とバグフィルター設備等の対策によって100分の1に削減したと発表し、ダイオ
キシン問題に終止符を打ったかのような喧伝が行われてきた。
ゴミ焼却による環境汚染の歴史を振り返ってみれば、1960年代から1990年代にかけて
最大のゴミ焼却による環境汚染は、塩ビ等プラスチック廃棄物の増大による有毒ガス・塩化水素
の排出問題であった。そして電気集塵機の導入と薬剤添加によってこの塩化水素問題をどうにか
クリアした後にあらたな環境汚染問題としてクローズアップされたのが、水銀入りアルカリマン
ガン電池や鉛・カドミウムなどの重金属類を含んだゴミの焼却による重金属汚染問題と、塩素や
臭素、フッ素などのハロゲン元素を含んだ製品廃棄物の焼却による塩素化・臭素化・フッ化ダイ
オキシン汚染問題であった。今や、家庭ゴミを燃やす焼却炉といえど、大型化学プラントと何ら
変わりない「毒物製造装置」と化してしまった。その後、電気集塵機に代わってバグフィルター
や活性炭吸着装置や脱硝装置など焼却炉本体よりも排ガス処理装置の方が巨大化・高性能化をし
てきたが、それでも大都市・東京23区の焼却炉からは、法令にはない独自の水銀排出管理目標
値を度々超過する水銀が待機に排出され、その度に焼却停止・除染・再稼働が繰り返されている。
この間、毒性物質の種類は、塩化水素→水銀・鉛・カドミウム→ダイオキシン類と低濃度・長期
暴露による子どもたちの発達障害や脳神経系・生殖系への影響をもたらす内分泌かく乱化学物質
へと一層深刻化をもたらしている。そして、生物界にとって究極の毒物といってよい放射性物質
による環境汚染が、2011年3月11日の東日本大震災に続く福島第一原子力発電所の相次ぐ
爆発によってついにもたらされてしまった。しかも、この原発事故による放射能汚染だけでも、
人類に未来永劫にわたって深刻な影響をもたらし続けることは言うまでもないが、さらに犯罪的
なことには、国・環境省は、放射能汚染した稲わらや牧草などの農林業系副産物を「減容化事業」
と称して焼却処理を推進している。「バグフィルター万能論」をふりかざして!先の化学汚染連
鎖の究極は放射能汚染である。この誤謬に満ちた「悪しき政策」を私たちは絶対に容認してはな
らない!
2.「減容化事業」のどこが問題か!?
福島県内の各所に設置された仮置場の大量の放射能汚染ゴミを、一刻も早く民家等から安全に
撤去して保管管理する必要があることは認めよう。そのための「減容化」=嵩を減らすことも必
要と思う。しかし、「減容化=焼却」は絶対に容認はできないし、してはならないことと思う。
2
物事にはやっていいことと、やってはいけないことがあるのは物の道理ではないだろうか。それ
は、取り返しがつかないことになるからだ。人類は決して放射能をコントロールはできないし、
焼却技術もバグフィルターも万能ではなく、事故は必ず起きるし、人智で制御ができないことは
爆発を起こした原発技術が端的に物語っているではないか。1:29:300という「ハインリ
ッヒの法則」をご存知であろうか。1 つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背
景には300の異常が存在するというもの。
一件の大きな事故・災害の裏には、29 件の軽微な事故・災
害、そして 300 件のヒヤリ・ハット(事故には至らなかっ
たもののヒヤリとした、ハッとした事例)があるとされる。
重大災害の防止のためには、事故や災害の発生が予測され
たヒヤリ・ハットの段階で対処していくことが必要である。
(Wikipedia より)
今回の環境省が実施している一連の「減容化事業」は、いくつもの問題点を有している。それ
は、第一に「はじめに焼却ありき!」で、代替策の提示も検討もなく、しかも、汚染原因者であ
る東京電力の責任を追及するでもなく、秘密裏に、国が肩代わりして進めてきたことである。
第二に、災害がれきの広域処理の時もそうであったが、「減容化事業」の対象物である指定廃棄
物の発生量の正確な数量把握調査を行うことなく、焼却処理量の過大予測による「水増し」を行
ってきたことである。そのため不必要な過大な設備の建設を莫大な経費をかけて推進してきてい
ることである。
今まで何兆という事業予算を手にしたことがない環境省が、金銭感覚が麻痺して金に狂ったとし
か思えない所業と言ってよい。
第三に、環境省は焼却技術についても、バグフィルターの性能についても、まったくのズブの素
人集団で、委託したメーカーまかせで万事ことを進めてきたことである。その端的な実例が、鮫
川村の仮設焼却炉の爆発事故である。私は、環境省が採用した焼却炉が、日立造船の「傾斜式回
転炉」であることを知った時点で、環境省の廃棄物・リサイクル対策部指定廃棄物対策チームの
担当者に、採用した傾斜式
回転炉と同種の炉がかつて
トラブルを起こした事例が
あることを忠告した際、そ
の担当者は、「日立造船が
実験を行って安全であるこ
とが確認されているので問
題ありません」と応対した
ことに唖然として開いた口
が塞がらなかったことを今
も鮮明に覚えている。また、
彼らは、焼却炉の現場のこ
とはまったく知らないズブ
の素人で、バグフィルター
がいとも簡単に破れること
など露知らない
「驚くべき(恐るべき)官僚集団」である。
3.既設の放射能汚染ゴミを燃やしている焼却炉を徹底的に調べよう!
環境省が現在福島県内の19市町村に設置している24基の仮設焼却炉は決して特別なもの
3
ではない。今現在福島県内で一般廃棄物に混ざって放射能汚染ゴミを焼却している既設の焼却炉
及びバグフィルター等排ガス除去設備と何ら変わるものではない。バグフィルターが一連かダブ
ルかの相違がある程度の違いであるといっても間違いではない。そこで、既設のクリーンセンタ
ーのゴミ焼却炉や下水終末処理場(浄化
センター)の焼却炉(乾燥炉)等の排ガ
ス及び焼却灰・飛灰・汚泥等の性状調査
及び精密機能検査(データの開示請求に
よる)、そして周辺環境調査(できれば敷
地内調査も)を実施することが必要であ
る。これらの施設管理者が実施している
排ガスデータは、ダイオキシン類濃度に
しても、放射性セシウム濃度にしても、
その排ガスサンプリング方法及び頻度な
どの面で、正確な実態を把握するには極
めて不適格と言わざるを得ない代物であ
る。問題なのは、煙突からだけでなく、
工場棟の建家から外部に焼却生ガスや飛
灰等が室内換気や密閉室の扉や窓の開閉等によって漏
れ出していることである。
ふくしま連絡会では、郡山市及び福島市内にあるクリ
ーンセンター(右図参照)や浄化センターの周辺土壌の
放射性セシウムと各種の重金属類等の調査を、東京農工
大の渡邉泉先生らのご協力をいただい実施しているが、
発生源近傍の土壌中からは2万~3万ベクレル/kgを
超える高濃度の放射性セシウム(Cs134+Cs137)が
検出されていることと、排ガス中の測定は実施されてい
ないので不明であるが、様々な種類の重金属類も検出さ
れている。目下、これらの詳細な解析を行っていただい
ているところである。
4.仮設焼却炉設置周辺環境影響調査の実施を!
~住民の手による自主アセスメント&リスクアセスメントの試み~
ふくしま連絡会では、高木基金による市民活動助成のご支援をいただいて、今後、環境省が実
施している仮設焼却炉設置の「減容化事業」に対するネガティブ・アセスメントを専門家のご協
力をお願いして実施することにしている。多くの皆さんのご協力をお願いします!
福島市あぶくま
クリーンセンター
Cs137

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