SlideShare a Scribd company logo
1 of 18
Download to read offline
卒業特別実験レポート




小胞体モデル異常タンパク質∆pro に対する

  O 型糖鎖付加の試験管内再構成




        @teapipin
1. 緒言
   小胞体(endoplasmic reticulum)は分泌経路における最初のオルガネラである。分泌
タンパク質や中央空胞系オルガネラのタンパク質は、リボソームで合成された後、小
胞体内に取り込まれる。タンパク質は小胞体内で N 型、O 型糖鎖付加、ジスルフィド
結合形成、オリゴマー形成などを経て機能状態へと成熟する。適切なプロセシングを
受けて正しい高次構造を形成したタンパク質は、小胞体からゴルジ体以降へと輸送さ
れる。しかし、タンパク質成熟化の歩留まりは必ずしもよくはなく、遺伝的変異、熱
ショック、      確率論的なミスフォールディングなどが原因で異常タンパク質が常に生じ
る。構造異常のタンパク質は一般的に疎水性残基を分子表面に露出しており、凝集し
やすい性質をもっている。このようなタンパク質の蓄積は、細胞死や神経変性疾患を
引き起こす原因となりうる。小胞体にはタンパク質の品質管理機構(ER quality
control)が存在し(Fig.1)     、正しい高次構造を獲得した正常タンパク質のみをその先
の経路に送り出す。正しい高次構造を獲得できなかった異常タンパク質については、
分子シャペロンがその凝集体形成を阻止し高次構造形成を促進する。最終的に正しい
高次構造を形成できなかった異常タンパク質は、膜透過チャネル(Sec61p 複合体)を
通じてサイトゾルへ逆向きに輸送され、プロテアソームによって分解される。この分
解系は小胞体関連分解(ER-associated degradation; ERAD)と呼ばれている。
   最近酵母で、ERAD の基質となる異常タンパク質の一部が、分解されずに小胞体内
にとどまると、O 型糖鎖付加を受けることが見いだされた(Harty et al., 2001)                 。この
修飾は、親水性残基である糖鎖を付加して可溶化することによって、凝集しやすい性
質をもつ異常タンパク質の蓄積を防ぐ、新しい対処方法である可能性が示唆された
(中務ら、投稿中)         。例えば、pro-α-factor の三つの N 型糖鎖付加部位を置換した
pro-α-factor 変異体(∆GpαF)は、in vitro ERAD アッセイ系において、ミクロソーム
の中に長時間とどめられると、O 型糖鎖付加を受ける(Harty et al., 2001)              。この現象
は in vivo でも確認された      (Harty et al., 2001) 同様の現象は、
                                           。       糸状菌(Rhizopus niveus)
由来のプロテアーゼ(aspartic proteinase-I;RNAP-I)のプロ配列を欠失させた変異体
である∆pro についても見いだされた。∆pro は小胞体内で正しい高次構造形成をでき
ない(Fukuda et al., 1996)ため、一部は ERAD の経路で分解される(Umebayashi et al.,
2001; 中務ら、投稿中)       。しかし、ERAD に関与する遺伝子の変異株中で∆pro が小胞
体内に蓄積すると、O 型糖鎖付加を受けることが in vivo で明らかにされた(中務ら、
投稿中)    。
   出芽酵母における O 型糖鎖付加は、小胞体内でタンパク質のセリン/スレオニン残
基に直接マンノース残基が付加される反応である。この反応を触媒するのは、小胞体
膜タンパク質である protein mannosyl transferase(Pmt)であり、Pmt1p~Pmt7p までの
ファミリーのメンバーが同定されている。O 型糖鎖付加の特異性については不明な点


                                  1
が多い。すなわち、authentic な基質の中でマンノースが付加される部分に明確なコン
センサス配列は存在せず、       どのような情報を標的にマンノースが付加されるのかは明
らかにされていない。     一般に ERAD や糖鎖付加のような細胞内で起こる複雑な現象を
研究するには、pulse chase 実験のような in vivo の実験と、細胞構成成分を単離し、こ
れらの現象の全体または一部を試験管内で再構成して行う in vitro の実験の 2 つのア
プローチがある。in vivo のアプローチには、細胞内の反応に必要なすべての因子がイ
ンタクトな状態で留められているため、現象を忠実に観察することができるというメ
リットがある。一方、in vitro のアプローチには、必要と考えられる物質や因子を添加
または除去することによって、       一連の反応を分割することができるというメリットが
ある。現在、ERAD、O 型糖鎖付加について in vitro でアッセイが行えるのは∆GpαF
だけであり、複数の基質について比較、解析することが重要と考えられる。そこで本
研究では、   ERAD による分解が阻害された場合に O 型糖鎖付加を受けることが既に in
vivo で明らかにされている∆pro について、酵母の系を用いた in vitro アッセイ系を構
築することを目的とした。




                         2
2. 材料と方法
2-1. 材料
(1) 酵母
SEY6210       MATα ura3 leu2 trp1 his3 lys2 suc2
RSY607        MATα ura3-52 leu2-3-112 pep4::URA3
KNY2          MATα ura3 leu2 trp1 his3 lys2 suc2 pmt2::LEU2
BJ3505        MATa pep4::HIS3 prb1 lys2 trp1 ura3 gal2 can1


(2) プライマー
delta-pro1 5’-GCGGAATTCATGAAGTTCACTTTAATC-3’
delta-pro2 5’-GCGGGATCCTTAATTGGCAACAGGTGC-3’


2-2. 方法
(1) プラスミドの作製と mRNA の調製
   pYIP3841(Umebayashi et al., 2001)から、プライマーとして delta-pro1 と delta-pro2
を用いて PCR を行った。増幅された断片を EcoRI と BamHI で切断後、pGEM4Z の
EcoRI/BamHI サイトに導入した。クローニングした約 1.0kbp の断片中に PCR エラー
が な い こ と を塩 基配 列決 定に よっ て確認 した 後、SphI で リニ アラ イ ズした 。
MEGAscript kit を用いて mRNA を調製した。


(2) p∆pro の翻訳終了後の膜透過反応
   p∆pro の in vitro での翻訳と膜透過反応は、基本的に McCracken(1996)らの方法に
従った。ミクロソームの調製は、Brodsky(1993)らの方法に従った。yeast lysate の系
を用いて p∆pro の翻訳反応を 80 µl の容量で行った。p∆pro の mRNA を、酵母ライセ
ート翻訳系(12 mM HEPES-KOH pH 7.4、2.2 mM Mg(OAc)2、2.2 mM DTT、115 mM
KOAc、 mM NH4OAc、 mM ATP pH 7、 mM GTP pH 7、 mM creatine phasphate、
        35               2               0.2              40
0.4 mg/ml creatine kinase、0.06 mM each 19AA mix(-メチオニン) 0.4 mg/ml yeast tRNA、
                                                             、
                                                       35
48 U RNase inhibitor (Promega)  、yeast lysate、83.2 KBq S メチオニン)と混合して、
20℃で 60 分間インキュベートした。SephadexG-25 を用いて、フリーの 35S メチオニ
ンを除去した。そこに ATP 再生系(40 mM creatine phoshate、0.2 mg/ml creatine
phosphokinase、1 mM ATP、50 µM GDP-mannose)と 50 µl の酵母ミクロソーム(30
OD280/ml, ~7.5 mg protein/ml)を加えて、20℃で 0、10、30、60 分間インキュベートし
膜透過反応を行った。その後各懸濁液を 3 等分し、1 つに終濃度 0.5 mg/ml トリプシ
ンを加え、もう 1 つに終濃度 0.5 mg/ml トリプシンと終濃度 1% Triton X-100 を加え、
残り 1 つに同量の B88         (20 mM HEPES-KOH pH 6.8、 mM KOAc、 mM sorbitol、
                                                    150        250
5 mM Mg (OAc)2)を加え、on ice で 30 分間静置した。トリクロロ酢酸(TCA)で沈


                                        3
殿させた後 SDS-PAGE を行い、Storm 860 image analyzer で解析した。


(3) p∆pro の翻訳と共役した膜透過反応
   p∆pro の mRNA を、上記の酵母ライセート翻訳系と混合して 20℃で 10 分間インキ
ュベートした後、50 µl のミクロソームを加えて合計 80 µl とし、20℃で 60 分間イン
キュベートし、翻訳と膜透過を共役させた反応(co-translational translocation)を行っ
た。ミクロソームを遠心によって回収し、B88 で一度洗浄した。その後、(2)と同様に
トリプシンと、Triton X-100 処理を行い、ミクロソームに取り込まれた∆pro を確認し
た。


(4) ∆pro の ERAD assay
   上記の方法で翻訳と膜透過を共役させた反応(co-translational translocation)を行っ
た。反応終了後、ミクロソームを遠心によって回収し、B88 で一度洗浄した。BJ3505
株から調製したサイトゾル画分(終濃度 6 mg/ml)と ATP 再生系を加えた後、30℃で
0、 30、 分間インキュベートした。
   10、 60             その後、(2)と同様にトリプシンと、           Triton X-100
処理を行い、ミクロソーム内に残存する∆pro を定量した。




                               4
3. 結果
(1) p∆pro の翻訳終了後の膜透過反応
   McCracken(1996)らによって開発された、ERAD の in vitro アッセイ系では、構造
異常のモデルタンパク質として、酵母 ppαF(prepro-α−factor)の 3 つの N 型糖鎖付加
部位を置換した変異体(p∆GpαF)を用いている。すなわち、in vitro において p∆GpαF
を酵母ライセート中で翻訳し、ミクロソームに取り込ませる。そしてミクロソームを
洗浄後、サイトゾル画分と ATP 再生系を加え、チェイス反応を行うと、ERAD による
分解と O 型糖鎖付加が観察される(Harty et al., 2001)        。ppαF とその変異体は、in vitro
において翻訳終了後に膜透過しうる基質であり、酵母の系を用いた小胞体膜透過反応
の解析で汎用されている基質である。本研究では最初に、in vitro において p∆pro を酵
母ライセート中で翻訳し、p∆GpαF と同様に翻訳終了後にミクロソームへ取り込ませ
ること(co-translational translocation)を試みた。
   35
      S メチオニン存在下、p∆pro mRNA と酵母ライセート翻訳系を混合し、20℃で 60
分インキュベートした。           その結果、      p∆pro と考えられるタンパク質が合成された   (Fig.2
                                       35
レーン 3-4)   。ゲルろ過によってフリーの S メチオニンを除き、ミクロソーム、ATP
再生系と混合し、膜透過反応を 30℃で 0、10、30、60 分間行った(Fig.3 レーン 2-5)
                                                  。
その後、トリプシン消化を行い、ミクロソームに取り込まれてプロテアーゼ耐性にな
った分子種の検出を試みた(Fig.3 レーン 6-13)   。その結果、プロテアーゼ耐性になる
バンドは観察されず、p∆pro のプロ配列の切断も観察されなかった。このことから、
in vitro において p∆pro は、翻訳終了後にミクロソームへ取り込まれないと判断した。


(2) p∆pro の翻訳と共役した膜透過反応
   次に、酵母ライセートによる翻訳系にミクロソームを共存させ、翻訳と膜透過を共
役させた反応(co-translational translocation)によって、p∆pro がミクロソームに取り
込まれる可能性について調べた。
   35
      S メチオニン存在下、p∆pro mRNA と酵母ライセート翻訳系を混合し、20℃で 10
分間インキュベートした。そこへミクロソームを加えて 20℃で 0、10、30、60 分間イ
ンキュベートした(Fig.4 レーン 1-4)         。その後、トリプシンによるプロテアーゼ消化
を行い、     ミクロソームに取り込まれてプロテアーゼ耐性になった分子種の検出を試み
た。その結果、プロテアーゼ耐性になるバンドが観察され、p∆pro のプロ配列の切断
が観察された(Fig.4 レーン 5-12)     。Triton X-100 存在下でトリプシン消化を行うと、
∆pro が消化されたことから(Fig.4 レーン 9-12)         、∆pro はミクロソームの中に存在す
ると考えられた。このことから、in vitro において p∆pro は、翻訳と共役した膜透過反
応によってミクロソームに取り込まれると判断した。




                                 5
(3) 野生株由来のミクロソームを用いた∆pro の ERAD assay
次に、    ∆pro を取り込んだミクロソームに、   サイトゾル画分と ATP 再生系を加え、      30℃
で 0、10、30、60 分間チェイス反応を行った。チェイス反応後、トリプシン消化を行
い、   ミクロソーム中に残存している∆pro の量を定量した。       シグナル配列が切断された
∆pro は、  チェイス反応に従って減少していく様子が観察された        (Fig.5A レーン 1-4)。
チェイス反応後にトリプシン消化を行った場合、          ∆pro のバンドの上部にスメアバンド
が観察された(Fig.5A レーン 5-8) 。∆pro とスメアバンドの合計量は、チェイス反応
中にほとんど変化しなかった(Fig.5B)     。つまり、チェイス反応に従って∆pro は減少
するが、     そのほとんどは分解されずに、   何らかの修飾を受けていることが予想された。
Triton X-100 存在下でトリプシン消化を行うと、∆pro とスメアバンドともに消化され
たことから(Fig.5A レーン 9-12)、∆pro と何らかの修飾を受けたバンドは、ミクロソ
ームの中に存在すると考えられた。


(4) ∆pmt2 株由来のミクロソームを用いた∆pro の ERAD assay
   ∆GpαF の O 型糖鎖は、主として Pmt2p(Protein Mannosyl Transferase 2)によって付
加される(Harty et al., 2001)。∆pro が Pmt2p によって O 型糖鎖付加を受け、チェイス
反応中に高分子量側へシフトしている可能性を確かめるために、∆pmt2 株由来のミク
ロソームを用いて(3)と同様の反応を行った。
   p∆pro を∆pmt2 株由来のミクロソームに取り込ませ、サイトゾル画分と ATP 再生系
を加えて、30℃で 0、10、30、60 分間チェイス反応を行った。チェイス反応後、トリ
プシン消化を行い、        ミクロソーム中に残存している∆pro の量を定量した。                シグナル配
列が切断された∆pro は、チェイス反応に従って減少していく様子が観察された
(Fig.6A レーン 1-4)  。チェイス反応後にトリプシン消化を行った場合、∆pro のバン
ドの上部にスメアバンドは観察されなかった(Fig.6A レーン 5-8、Fig.6B)                 。チェイス
反応 60 分後に∆pro は約 20%減少したが、修飾は受けていなかった。Triton X-100 存
在下でトリプシン消化を行うと、∆pro は消化されたことから(Fig.6A レーン 9-12)                  、
∆pro は、ミクロソームの中に存在すると考えられた。このことから、野生株由来のミ
クロソームを用いた∆pro の ERAD assay では、         ∆pro は O 型糖鎖付加を受けていること
が示された。




                                6
4. 考察
   出芽酵母において、ERAD の基質となるモデル異常タンパク質が分解されずに小胞
体内に残存した場合、 型糖鎖付加を受けるという現象が報告されている
                   O                                       (Harty et al.,
2001) 。しかし、このような O 型糖鎖付加は in vivo では∆GpαF と∆pro(中務ら、投稿
中) vitro では∆GpαF についてのみ観察されているに過ぎない。そこで本研究では
    、in
O 型糖鎖付加のメカニズムをさらに詳細に解析するために、モデル異常タンパク質で
ある∆pro を in vitro で合成し、酵母から単離したミクロソームに取り込ませ、∆pro の
O 型糖鎖付加の試験管内再構成を試みた。        ∆pro を翻訳と共役した膜透過反応によって
ミクロソームへ取り込ませることに成功し、          そこへサイトゾル画分と ATP 再生系を加
えると、∆pro は Pmt2p に依存して O 型糖鎖付加を受けた(Fig.5A レーン 5-8)              。
   サイトゾル画分と ATP 再生系を加えるチェイス反応では、少なくとも∆GpαF を基
質とした場合、Ο型糖鎖付加とともに、サイトゾル画分に含まれるプロテアソームに
よる分解も再構成される(McCracken and Brodsky, 1996; Harty et al., 2001)。Brodsky ら
によると、     ∆GpαF の分解に必要十分なサイトゾルタンパク質はプロテアソームであり、
ユビキチン化は必要ないらしい(Werner et al.,私信、1999)      。つまりサイトゾル画分に
は、∆GpαF の分解がおこるのに十分なプロテアソームが含まれていると考えられる。
それに対して∆pro を用いた今回のアッセイ系では、ミクロソーム内に存在する∆pro
と O 型糖鎖付加を受けた∆pro の総量は、チェイス反応中にほとんど変化せず、分解
は再構成されていないと考えられた(Fig.5A レーン 5-8、Fig.5B)            。この理由として次
のことが考えられる。∆pro の分解は、少なくとも in vivo では、ユビキチン・プロテ
アソーム経路に関与する因子が必要である(中務ら、投稿中)                    。ミクロソームにサイ
トゾル画分を加えた場合、プロテアソームは十分な量供給されているとしても、それ
以外の一連の因子が十分な量供給されていない可能性がある。そのため∆pro の場合、
野生株由来のミクロソームを用いているにも関わらず、                その多くが分解経路ではなく
O 型糖鎖付加を受ける経路に移行したと考えられる            (Fig.7A) このモデルでは、 vivo
                                              。                  in
では ERAD の変異株中で分解経路が遮断されると、∆pro の O 型糖鎖付加が強く観察
される(中務ら、投稿中)ことと一致する。
   N 型糖鎖付加は、小胞体膜透過と共役して、アンフォールドしたポリペプチド鎖の
Asn-X-Ser/Thr というコンセンサス配列中の Asn 残基に付加される。N 型糖鎖は、膜
透過装置(Sec61p 複合体)の近傍に存在する糖転移酵素(oligosaccharyl transferase)
の作用によって付加される。一方、O 型糖鎖付加は、膜透過と共役しておこるのか、
膜透過が完全に終了した後でおこるのかは明らかにされていない。O 型糖鎖付加を受
けた∆GpαF が Sec61p と化学架橋されることから、Pmt2p は膜透過装置の近傍に位置
する可能性が指摘されているが(Harty et al., 2001) 、Sec61p と Pmt2p が近接している
ことの直接的な証拠にはなりえない。本研究で確立した、in vitro アッセイ系を応用す
れば、Pmt2p と Sec61p の物理的な距離を推定できるかもしれない。例えば、p∆pro を


                                   7
コードする DNA の終止コドンの直前を制限酵素によって消化した直鎖状 DNA から、
転写、翻訳を行い、p∆pro、tRNA、リボソームの複合体を形成させる。この場合、翻
訳が終了しないために新生鎖の C 末端はリボソームに結合したままであり、              膜透過装
置を完全に通過することができずに膜透過中間体を形成することが期待される
(Fig.7B)。そこへサイトゾル画分と ATP 再生系を加える。もし、膜透過反応が途中
で停止した∆pro が O 型糖鎖付加を受けることができれば、膜透過装置と Pmt2p は近
傍に存在することになる(Fig.7B)    。
  糖鎖は多様な構造をもっており、       タンパク質への結合様式、結合する場所      (小胞体、
ゴルジ体など)も多様で、生物種によって様々である。出芽酵母の O 型糖鎖付加につ
いても、authentic な基質は 10 種類程度しか知られておらず(Starahl-Bolsinger et al.,
1996) 修飾の果たす役割もほとんど明らかにされていない。
     、                             本研究で取り上げた           「異
常タンパク質に対する O 型糖鎖付加」      という現象についても、 その詳しい生物学的意
義は不明である。本研究によって確立した in vitro アッセイ系と in vivo による解析の
両方を駆使し、   ∆GpαF の場合と比較することによりそのメカニズムと意義を解明して
いきたい。




                             8
5. 謝辞
   (省略)




          9
6. 参考文献


Brodsky, J.L., Hamamoto, S., Feldheim, D., and Schekman, R. (1993). Reconstitution of
protein translocation from solubilized yeast membranes reveals topologically distinct roles for
BiP and cytosolic Hsc 70. J. Cell Biol. 102, 95-102.


Fukuda, R., Umebayashi, K., Horiuchi, H., Ohta, A., and Takagi, M. (1996). Degradation of
Rhizopus niveus asparitic proteinase-I with mutated prosequences occurs in the endoplasmic
reticulum of Saccharomyces cerevisiae. J. Biol. Chem. 271, 14252-14255.


Harty, C., Strahl-Bolsinger, S., and Römisch, K. (2001). O-mannosylation protects mutant
alpha-factor precursor form endoplasmic reticulum-associated degradation. Mol. Biol. Cell 12,
1093-1101.


McCracken, A.A., and Bordsky, J.L. (1996). Assembly of ER-Associated Protein Degradation
In Vitro: Dependence on cytosol, Calnexin, and ATP. J. Cell Biol. 132, 291-298.


Starahl-Bolsinger, S., Gentzsch, M., and Tanner, W. (1996). Protein O-mannosylation.
Biochim. Biophys. Acta. 1426, 297-307.


Umebayashi, K., Fukuda, R., Hirata, A., Hirouchi H., Nakano, A., Ohta A., and Tagagi. M.
(2001). Activation of the Ras-cAMP Signal Tranduction Pathway Inhibits the
Proteasome-independent Degradation of Misfolded Protein Aggregates in the Endoplasmic
Reticulum Lumen. J. Biol. Chem. 276, 41444-41454.


Werner, E.D., Brodsky, J.L., and McCracken, A.A. (1996). Proteasome-dependent
endoplasmic reticulum-associated protein degradation: an unconventional route to a familiar
fate. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93, 13797-13801.




                                              10
リボソーム

       5' mRNA           3'                      26Sプロテアソームに
                                                 よる分解

        Sec61p                Sec61p




                                       異常タンパク質

             正常タンパク質




                                       ゴルジ体以降へ




Fig.1 小胞体品質管理機構
  
 タンパク質はリボソームで合成された後、小胞体に取り込まれる。正しい高次
 構造を形成したタンパク質は、ゴルジ体以降に輸送される。異常タンパク質に
 ついては分子シャペロンが凝集体形成を阻止し、高次構造形成を助ける。最終
 的に正しい高次構造を形成できなかった異常タンパク質はSec61p複合体を通じ
 てサイトゾルへ逆向き輸送され、プロテアソームによって分解される。
pDGpaF         Dpro

      泳動量   2 ml     4ml   2 ml        4m l   M

                                                  46.0 kDa


                                                  30.0 kDa


                                                  20.5 kDa


      レーン    1        2     3          4




Fig.2 pDproの翻訳反応
  
 35
  Sメチオニン存在下、酵母ライセートの系を用いてpDGpaF とpDproの翻訳反
 応を行った。反応は20℃で60分間行った。翻訳後の溶液をそれぞれ2 ml、4 ml
 ずつ泳動した。
-                   +               +
                  -                   -               +
          0   10 30 60        0   10 30 60       0   10 30 60




 pDpro




 レーン 1    2   3       4   5   6   7       8   9 10 11 12 13




Fig.3 pDproの翻訳終了後の膜透過反応
[35S] Met存在下、pDproをyeast lysateの系によって翻訳し、ゲルろ過によって
フリーの[35S] Metを除去した(レーン1)。ゲルろ過後の産物にRSY607由来
のミクロソームを加え、20℃で0、10、30、60分間インキュベートし、膜透過
反応を行った。その後、氷上で30分間トリプシン(終濃度0.5 mg/ml)、
Triton X-100(終濃度1 %)処理を行い、TCA沈殿をした後、電気泳動した。
トリプシン                  -                   +                    +
Triton X-100           -                   -                    +
       min     0   10 30 60        0 10 30 60          0   10       30   60




   pDpro
    Dpro




     レーン       1   2       3   4   5   6       7   8   9   10       11   12




  Fig.4 pDproの翻訳と共役した膜透過反応
     pDproのmRNAを35Sメチオニン 存在下、酵母ライセートの翻訳系と20℃で10
     分間あらかじめインキュベートした。そこへRSY607由来のミクロソームを加
     え、翻訳と膜透過を共役させた反応(co-translational translocation)を20℃で
     0、10、30、60分間行った。その後、氷上で30分間トリプシン(終濃度0.5
     mg/ml)、Triton X-100(終濃度1 %)処理を行い、TCA沈殿をした後、電気泳
     動した。
A
                                         -                           +                          +
                                         -                           -                          +
                              0     10       30       60   0    10    30      60       0   10       30    60



                                                                                                               ★
pDpro
 Dpro




    レーン 1                           2        3        4    5    6     7       8        9   10       11    12


B                             140
        トリプシン耐性となったDpro(スメア




                              120
        バンドも含む)の残存量(%)




                              100

                               80

                               60

                               40

                               20

                                    0            10        20        30           40       50            60
                                                                chase (min)



Fig.5 野生株由来のミクロソームを用いたDproのERAD assay
  
 A) 翻訳と膜透過の共役反応(co-translational translocation)によってpDproを
 SEY6210由来のミクロソームに取り込ませた。取り込み反応後、ミクロソー
 ムを回収し、B88で一度洗浄した。そこへ、サイトゾル画分(終濃度6 mg/ml)
 とATP再生系を加え、30℃で0、10、30、60分間インキュベートした
 (chase反応)。その後、氷上で30分間トリプシン(終濃度0.5 mg/ml)、
 Triton X-100(終濃度1 %)処理を行い、TCA沈殿をした後、電気泳動した。
 ★はDproの高分子量側でトリプシン耐性となっているスメアバンド。 

 B) AのDproと高分子量側とのスメアバンド合計を定量し(レーン5-8)、
 +トリプシン、-Triton X-100の場合でchase 0 minを100%として定量した。
A
                                               -                      +                       +
                                               -                      -                       +
                                 0     10          30 60    0    10       30   60    0   10 30          60



pDpro
Dpro




 レーン                             1         2       3    4   5     6       7    8     9   10       11    12



B                                140
        トリプシン耐性となったDproの残存量(%)




                                 120

                                 100

                                  80

                                  60

                                  40

                                  20

                                       0           10       20        30        40       50            60
                                                                 chase (min)




Fig.6 Dpmt2由来のミクロソームを用いたDproのERAD assay
  
 A) 翻訳と膜透過の共役反応(co-translational translocation)によってpDproを
 Dpmt2由来のミクロソームに取り込ませた。取り込み反応後、ミクロソームを
 回収し、B88で一度洗浄した。そこへ、サイトゾル画分(終濃度6 mg/ml)と
 ATP再生系を加え、30℃で0、10、30、60分間インキュベートした(chase反
 応)。その後、氷上で30分間トリプシン(終濃度0.5 mg/ml)、Triton X-100
 (終濃度1 %)処理を行い、TCA沈殿をした後、電気泳動した。 

 B) AのDproについて(レーン5-8)、+トリプシン、 -Triton X-100の場合で
 chase 0 minを100%として定量した。
A
サイトゾル側              リボソーム

          mRNA                   +サイトゾル画分
    5'                      3'
                                 +ATP再生系
                                                            Pmt2p
         Sec61p



                                                                MM M M
                                                           MM
小胞体内腔




                                                             M: マンノース



            ∆pro                            ∆pro



    翻訳と共役した膜透過反応                                   O型糖鎖付加


B
サイトゾル側              リボソーム

          mRNA 3'                +サイトゾル画分
    5'
                                 +ATP再生系
                                                            Pmt2p
         Sec61p



                                                           MMMMMMM

小胞体内腔              ∆pro                             ∆pro
                                                                  M: マンノース


                                                     ?
           膜透過反応中間体                                O型糖鎖付加



Fig.7
                                        
  A) 本研究で構築したDproを基質としたO型糖鎖和付加のin vitroアッセイ系
  B) in vitroアッセイ系の応用例(Pmt2pはSec61pの近傍に存在するか?)     

More Related Content

Viewers also liked

アドテク勉強会
アドテク勉強会アドテク勉強会
アドテク勉強会Shoho Kozawa
 
分かりやすく、使いやすいデザインを生み出す工夫 先生:池田 拓司
分かりやすく、使いやすいデザインを生み出す工夫 先生:池田 拓司分かりやすく、使いやすいデザインを生み出す工夫 先生:池田 拓司
分かりやすく、使いやすいデザインを生み出す工夫 先生:池田 拓司schoowebcampus
 
ビジネスマン必見!キレイな提案書を作るためのデザインの基礎知識
ビジネスマン必見!キレイな提案書を作るためのデザインの基礎知識ビジネスマン必見!キレイな提案書を作るためのデザインの基礎知識
ビジネスマン必見!キレイな提案書を作るためのデザインの基礎知識Tsutomu Sogitani
 
[AWSマイスターシリーズ] AWS CLI / AWS Tools for Windows PowerShell
[AWSマイスターシリーズ] AWS CLI / AWS Tools for Windows PowerShell[AWSマイスターシリーズ] AWS CLI / AWS Tools for Windows PowerShell
[AWSマイスターシリーズ] AWS CLI / AWS Tools for Windows PowerShellAmazon Web Services Japan
 
見やすいプレゼン資料の作り方 - リニューアル増量版
見やすいプレゼン資料の作り方 - リニューアル増量版見やすいプレゼン資料の作り方 - リニューアル増量版
見やすいプレゼン資料の作り方 - リニューアル増量版MOCKS | Yuta Morishige
 

Viewers also liked (7)

アドテク勉強会
アドテク勉強会アドテク勉強会
アドテク勉強会
 
分かりやすく、使いやすいデザインを生み出す工夫 先生:池田 拓司
分かりやすく、使いやすいデザインを生み出す工夫 先生:池田 拓司分かりやすく、使いやすいデザインを生み出す工夫 先生:池田 拓司
分かりやすく、使いやすいデザインを生み出す工夫 先生:池田 拓司
 
コンテンツ作りの三原則
コンテンツ作りの三原則コンテンツ作りの三原則
コンテンツ作りの三原則
 
カヤックコピー部のコピー講座
カヤックコピー部のコピー講座カヤックコピー部のコピー講座
カヤックコピー部のコピー講座
 
ビジネスマン必見!キレイな提案書を作るためのデザインの基礎知識
ビジネスマン必見!キレイな提案書を作るためのデザインの基礎知識ビジネスマン必見!キレイな提案書を作るためのデザインの基礎知識
ビジネスマン必見!キレイな提案書を作るためのデザインの基礎知識
 
[AWSマイスターシリーズ] AWS CLI / AWS Tools for Windows PowerShell
[AWSマイスターシリーズ] AWS CLI / AWS Tools for Windows PowerShell[AWSマイスターシリーズ] AWS CLI / AWS Tools for Windows PowerShell
[AWSマイスターシリーズ] AWS CLI / AWS Tools for Windows PowerShell
 
見やすいプレゼン資料の作り方 - リニューアル増量版
見やすいプレゼン資料の作り方 - リニューアル増量版見やすいプレゼン資料の作り方 - リニューアル増量版
見やすいプレゼン資料の作り方 - リニューアル増量版
 

More from teapipin

卒業論文:ソフトウェアの価格決定方法とその価値 #卒論
卒業論文:ソフトウェアの価格決定方法とその価値 #卒論卒業論文:ソフトウェアの価格決定方法とその価値 #卒論
卒業論文:ソフトウェアの価格決定方法とその価値 #卒論teapipin
 
“本の虫”の自分が 『人を呼ぶ部屋』を作る難しさ
“本の虫”の自分が 『人を呼ぶ部屋』を作る難しさ“本の虫”の自分が 『人を呼ぶ部屋』を作る難しさ
“本の虫”の自分が 『人を呼ぶ部屋』を作る難しさteapipin
 
これからの時代に! パソコン離れの中のパソコン選び
これからの時代に! パソコン離れの中のパソコン選びこれからの時代に! パソコン離れの中のパソコン選び
これからの時代に! パソコン離れの中のパソコン選びteapipin
 
最近気になっているホーム&キッチンのグッズ5選
最近気になっているホーム&キッチンのグッズ5選最近気になっているホーム&キッチンのグッズ5選
最近気になっているホーム&キッチンのグッズ5選teapipin
 
最近遊んだ Wii Uの 3つのソフトの感想
最近遊んだ Wii Uの 3つのソフトの感想最近遊んだ Wii Uの 3つのソフトの感想
最近遊んだ Wii Uの 3つのソフトの感想teapipin
 
スクショ撮るのに音が出るのはやめて欲しい
スクショ撮るのに音が出るのはやめて欲しいスクショ撮るのに音が出るのはやめて欲しい
スクショ撮るのに音が出るのはやめて欲しいteapipin
 
就職してからおよそ5ヵ月半
就職してからおよそ5ヵ月半就職してからおよそ5ヵ月半
就職してからおよそ5ヵ月半teapipin
 
就職して1ヶ月が経って
就職して1ヶ月が経って就職して1ヶ月が経って
就職して1ヶ月が経ってteapipin
 
明日は入社式(就職する前日)
明日は入社式(就職する前日)明日は入社式(就職する前日)
明日は入社式(就職する前日)teapipin
 
修士論文:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論
修士論文:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論修士論文:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論
修士論文:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論teapipin
 
定番アルゴリズムを徹底理解!
定番アルゴリズムを徹底理解!定番アルゴリズムを徹底理解!
定番アルゴリズムを徹底理解!teapipin
 
「生命」と「情報」の関わりについて
「生命」と「情報」の関わりについて「生命」と「情報」の関わりについて
「生命」と「情報」の関わりについてteapipin
 
細胞間コミュニケーション(細胞の分子生物学 13章)
細胞間コミュニケーション(細胞の分子生物学 13章)細胞間コミュニケーション(細胞の分子生物学 13章)
細胞間コミュニケーション(細胞の分子生物学 13章)teapipin
 
修士研究:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論
修士研究:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論修士研究:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論
修士研究:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論teapipin
 
Comprehensive Analysis of Triplet Repeats in Vertebrate Genomes
Comprehensive Analysis of Triplet Repeats in Vertebrate GenomesComprehensive Analysis of Triplet Repeats in Vertebrate Genomes
Comprehensive Analysis of Triplet Repeats in Vertebrate Genomesteapipin
 
ツイッター調査:約173万ツイートを調査して分かったTwitterの利用動向 #twtr_hack
ツイッター調査:約173万ツイートを調査して分かったTwitterの利用動向 #twtr_hackツイッター調査:約173万ツイートを調査して分かったTwitterの利用動向 #twtr_hack
ツイッター調査:約173万ツイートを調査して分かったTwitterの利用動向 #twtr_hackteapipin
 

More from teapipin (16)

卒業論文:ソフトウェアの価格決定方法とその価値 #卒論
卒業論文:ソフトウェアの価格決定方法とその価値 #卒論卒業論文:ソフトウェアの価格決定方法とその価値 #卒論
卒業論文:ソフトウェアの価格決定方法とその価値 #卒論
 
“本の虫”の自分が 『人を呼ぶ部屋』を作る難しさ
“本の虫”の自分が 『人を呼ぶ部屋』を作る難しさ“本の虫”の自分が 『人を呼ぶ部屋』を作る難しさ
“本の虫”の自分が 『人を呼ぶ部屋』を作る難しさ
 
これからの時代に! パソコン離れの中のパソコン選び
これからの時代に! パソコン離れの中のパソコン選びこれからの時代に! パソコン離れの中のパソコン選び
これからの時代に! パソコン離れの中のパソコン選び
 
最近気になっているホーム&キッチンのグッズ5選
最近気になっているホーム&キッチンのグッズ5選最近気になっているホーム&キッチンのグッズ5選
最近気になっているホーム&キッチンのグッズ5選
 
最近遊んだ Wii Uの 3つのソフトの感想
最近遊んだ Wii Uの 3つのソフトの感想最近遊んだ Wii Uの 3つのソフトの感想
最近遊んだ Wii Uの 3つのソフトの感想
 
スクショ撮るのに音が出るのはやめて欲しい
スクショ撮るのに音が出るのはやめて欲しいスクショ撮るのに音が出るのはやめて欲しい
スクショ撮るのに音が出るのはやめて欲しい
 
就職してからおよそ5ヵ月半
就職してからおよそ5ヵ月半就職してからおよそ5ヵ月半
就職してからおよそ5ヵ月半
 
就職して1ヶ月が経って
就職して1ヶ月が経って就職して1ヶ月が経って
就職して1ヶ月が経って
 
明日は入社式(就職する前日)
明日は入社式(就職する前日)明日は入社式(就職する前日)
明日は入社式(就職する前日)
 
修士論文:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論
修士論文:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論修士論文:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論
修士論文:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論
 
定番アルゴリズムを徹底理解!
定番アルゴリズムを徹底理解!定番アルゴリズムを徹底理解!
定番アルゴリズムを徹底理解!
 
「生命」と「情報」の関わりについて
「生命」と「情報」の関わりについて「生命」と「情報」の関わりについて
「生命」と「情報」の関わりについて
 
細胞間コミュニケーション(細胞の分子生物学 13章)
細胞間コミュニケーション(細胞の分子生物学 13章)細胞間コミュニケーション(細胞の分子生物学 13章)
細胞間コミュニケーション(細胞の分子生物学 13章)
 
修士研究:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論
修士研究:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論修士研究:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論
修士研究:ヒト、チンパンジー、マウスにおけるトリプレットリピートの網羅的解析 #修論
 
Comprehensive Analysis of Triplet Repeats in Vertebrate Genomes
Comprehensive Analysis of Triplet Repeats in Vertebrate GenomesComprehensive Analysis of Triplet Repeats in Vertebrate Genomes
Comprehensive Analysis of Triplet Repeats in Vertebrate Genomes
 
ツイッター調査:約173万ツイートを調査して分かったTwitterの利用動向 #twtr_hack
ツイッター調査:約173万ツイートを調査して分かったTwitterの利用動向 #twtr_hackツイッター調査:約173万ツイートを調査して分かったTwitterの利用動向 #twtr_hack
ツイッター調査:約173万ツイートを調査して分かったTwitterの利用動向 #twtr_hack
 

卒業論文:小胞体モデル異常タンパク質△proに対するO型糖鎖付加の試験管内再構成 #卒論

  • 2. 1. 緒言 小胞体(endoplasmic reticulum)は分泌経路における最初のオルガネラである。分泌 タンパク質や中央空胞系オルガネラのタンパク質は、リボソームで合成された後、小 胞体内に取り込まれる。タンパク質は小胞体内で N 型、O 型糖鎖付加、ジスルフィド 結合形成、オリゴマー形成などを経て機能状態へと成熟する。適切なプロセシングを 受けて正しい高次構造を形成したタンパク質は、小胞体からゴルジ体以降へと輸送さ れる。しかし、タンパク質成熟化の歩留まりは必ずしもよくはなく、遺伝的変異、熱 ショック、 確率論的なミスフォールディングなどが原因で異常タンパク質が常に生じ る。構造異常のタンパク質は一般的に疎水性残基を分子表面に露出しており、凝集し やすい性質をもっている。このようなタンパク質の蓄積は、細胞死や神経変性疾患を 引き起こす原因となりうる。小胞体にはタンパク質の品質管理機構(ER quality control)が存在し(Fig.1) 、正しい高次構造を獲得した正常タンパク質のみをその先 の経路に送り出す。正しい高次構造を獲得できなかった異常タンパク質については、 分子シャペロンがその凝集体形成を阻止し高次構造形成を促進する。最終的に正しい 高次構造を形成できなかった異常タンパク質は、膜透過チャネル(Sec61p 複合体)を 通じてサイトゾルへ逆向きに輸送され、プロテアソームによって分解される。この分 解系は小胞体関連分解(ER-associated degradation; ERAD)と呼ばれている。 最近酵母で、ERAD の基質となる異常タンパク質の一部が、分解されずに小胞体内 にとどまると、O 型糖鎖付加を受けることが見いだされた(Harty et al., 2001) 。この 修飾は、親水性残基である糖鎖を付加して可溶化することによって、凝集しやすい性 質をもつ異常タンパク質の蓄積を防ぐ、新しい対処方法である可能性が示唆された (中務ら、投稿中) 。例えば、pro-α-factor の三つの N 型糖鎖付加部位を置換した pro-α-factor 変異体(∆GpαF)は、in vitro ERAD アッセイ系において、ミクロソーム の中に長時間とどめられると、O 型糖鎖付加を受ける(Harty et al., 2001) 。この現象 は in vivo でも確認された (Harty et al., 2001) 同様の現象は、 。 糸状菌(Rhizopus niveus) 由来のプロテアーゼ(aspartic proteinase-I;RNAP-I)のプロ配列を欠失させた変異体 である∆pro についても見いだされた。∆pro は小胞体内で正しい高次構造形成をでき ない(Fukuda et al., 1996)ため、一部は ERAD の経路で分解される(Umebayashi et al., 2001; 中務ら、投稿中) 。しかし、ERAD に関与する遺伝子の変異株中で∆pro が小胞 体内に蓄積すると、O 型糖鎖付加を受けることが in vivo で明らかにされた(中務ら、 投稿中) 。 出芽酵母における O 型糖鎖付加は、小胞体内でタンパク質のセリン/スレオニン残 基に直接マンノース残基が付加される反応である。この反応を触媒するのは、小胞体 膜タンパク質である protein mannosyl transferase(Pmt)であり、Pmt1p~Pmt7p までの ファミリーのメンバーが同定されている。O 型糖鎖付加の特異性については不明な点 1
  • 3. が多い。すなわち、authentic な基質の中でマンノースが付加される部分に明確なコン センサス配列は存在せず、 どのような情報を標的にマンノースが付加されるのかは明 らかにされていない。 一般に ERAD や糖鎖付加のような細胞内で起こる複雑な現象を 研究するには、pulse chase 実験のような in vivo の実験と、細胞構成成分を単離し、こ れらの現象の全体または一部を試験管内で再構成して行う in vitro の実験の 2 つのア プローチがある。in vivo のアプローチには、細胞内の反応に必要なすべての因子がイ ンタクトな状態で留められているため、現象を忠実に観察することができるというメ リットがある。一方、in vitro のアプローチには、必要と考えられる物質や因子を添加 または除去することによって、 一連の反応を分割することができるというメリットが ある。現在、ERAD、O 型糖鎖付加について in vitro でアッセイが行えるのは∆GpαF だけであり、複数の基質について比較、解析することが重要と考えられる。そこで本 研究では、 ERAD による分解が阻害された場合に O 型糖鎖付加を受けることが既に in vivo で明らかにされている∆pro について、酵母の系を用いた in vitro アッセイ系を構 築することを目的とした。 2
  • 4. 2. 材料と方法 2-1. 材料 (1) 酵母 SEY6210 MATα ura3 leu2 trp1 his3 lys2 suc2 RSY607 MATα ura3-52 leu2-3-112 pep4::URA3 KNY2 MATα ura3 leu2 trp1 his3 lys2 suc2 pmt2::LEU2 BJ3505 MATa pep4::HIS3 prb1 lys2 trp1 ura3 gal2 can1 (2) プライマー delta-pro1 5’-GCGGAATTCATGAAGTTCACTTTAATC-3’ delta-pro2 5’-GCGGGATCCTTAATTGGCAACAGGTGC-3’ 2-2. 方法 (1) プラスミドの作製と mRNA の調製 pYIP3841(Umebayashi et al., 2001)から、プライマーとして delta-pro1 と delta-pro2 を用いて PCR を行った。増幅された断片を EcoRI と BamHI で切断後、pGEM4Z の EcoRI/BamHI サイトに導入した。クローニングした約 1.0kbp の断片中に PCR エラー が な い こ と を塩 基配 列決 定に よっ て確認 した 後、SphI で リニ アラ イ ズした 。 MEGAscript kit を用いて mRNA を調製した。 (2) p∆pro の翻訳終了後の膜透過反応 p∆pro の in vitro での翻訳と膜透過反応は、基本的に McCracken(1996)らの方法に 従った。ミクロソームの調製は、Brodsky(1993)らの方法に従った。yeast lysate の系 を用いて p∆pro の翻訳反応を 80 µl の容量で行った。p∆pro の mRNA を、酵母ライセ ート翻訳系(12 mM HEPES-KOH pH 7.4、2.2 mM Mg(OAc)2、2.2 mM DTT、115 mM KOAc、 mM NH4OAc、 mM ATP pH 7、 mM GTP pH 7、 mM creatine phasphate、 35 2 0.2 40 0.4 mg/ml creatine kinase、0.06 mM each 19AA mix(-メチオニン) 0.4 mg/ml yeast tRNA、 、 35 48 U RNase inhibitor (Promega) 、yeast lysate、83.2 KBq S メチオニン)と混合して、 20℃で 60 分間インキュベートした。SephadexG-25 を用いて、フリーの 35S メチオニ ンを除去した。そこに ATP 再生系(40 mM creatine phoshate、0.2 mg/ml creatine phosphokinase、1 mM ATP、50 µM GDP-mannose)と 50 µl の酵母ミクロソーム(30 OD280/ml, ~7.5 mg protein/ml)を加えて、20℃で 0、10、30、60 分間インキュベートし 膜透過反応を行った。その後各懸濁液を 3 等分し、1 つに終濃度 0.5 mg/ml トリプシ ンを加え、もう 1 つに終濃度 0.5 mg/ml トリプシンと終濃度 1% Triton X-100 を加え、 残り 1 つに同量の B88 (20 mM HEPES-KOH pH 6.8、 mM KOAc、 mM sorbitol、 150 250 5 mM Mg (OAc)2)を加え、on ice で 30 分間静置した。トリクロロ酢酸(TCA)で沈 3
  • 5. 殿させた後 SDS-PAGE を行い、Storm 860 image analyzer で解析した。 (3) p∆pro の翻訳と共役した膜透過反応 p∆pro の mRNA を、上記の酵母ライセート翻訳系と混合して 20℃で 10 分間インキ ュベートした後、50 µl のミクロソームを加えて合計 80 µl とし、20℃で 60 分間イン キュベートし、翻訳と膜透過を共役させた反応(co-translational translocation)を行っ た。ミクロソームを遠心によって回収し、B88 で一度洗浄した。その後、(2)と同様に トリプシンと、Triton X-100 処理を行い、ミクロソームに取り込まれた∆pro を確認し た。 (4) ∆pro の ERAD assay 上記の方法で翻訳と膜透過を共役させた反応(co-translational translocation)を行っ た。反応終了後、ミクロソームを遠心によって回収し、B88 で一度洗浄した。BJ3505 株から調製したサイトゾル画分(終濃度 6 mg/ml)と ATP 再生系を加えた後、30℃で 0、 30、 分間インキュベートした。 10、 60 その後、(2)と同様にトリプシンと、 Triton X-100 処理を行い、ミクロソーム内に残存する∆pro を定量した。 4
  • 6. 3. 結果 (1) p∆pro の翻訳終了後の膜透過反応 McCracken(1996)らによって開発された、ERAD の in vitro アッセイ系では、構造 異常のモデルタンパク質として、酵母 ppαF(prepro-α−factor)の 3 つの N 型糖鎖付加 部位を置換した変異体(p∆GpαF)を用いている。すなわち、in vitro において p∆GpαF を酵母ライセート中で翻訳し、ミクロソームに取り込ませる。そしてミクロソームを 洗浄後、サイトゾル画分と ATP 再生系を加え、チェイス反応を行うと、ERAD による 分解と O 型糖鎖付加が観察される(Harty et al., 2001) 。ppαF とその変異体は、in vitro において翻訳終了後に膜透過しうる基質であり、酵母の系を用いた小胞体膜透過反応 の解析で汎用されている基質である。本研究では最初に、in vitro において p∆pro を酵 母ライセート中で翻訳し、p∆GpαF と同様に翻訳終了後にミクロソームへ取り込ませ ること(co-translational translocation)を試みた。 35 S メチオニン存在下、p∆pro mRNA と酵母ライセート翻訳系を混合し、20℃で 60 分インキュベートした。 その結果、 p∆pro と考えられるタンパク質が合成された (Fig.2 35 レーン 3-4) 。ゲルろ過によってフリーの S メチオニンを除き、ミクロソーム、ATP 再生系と混合し、膜透過反応を 30℃で 0、10、30、60 分間行った(Fig.3 レーン 2-5) 。 その後、トリプシン消化を行い、ミクロソームに取り込まれてプロテアーゼ耐性にな った分子種の検出を試みた(Fig.3 レーン 6-13) 。その結果、プロテアーゼ耐性になる バンドは観察されず、p∆pro のプロ配列の切断も観察されなかった。このことから、 in vitro において p∆pro は、翻訳終了後にミクロソームへ取り込まれないと判断した。 (2) p∆pro の翻訳と共役した膜透過反応 次に、酵母ライセートによる翻訳系にミクロソームを共存させ、翻訳と膜透過を共 役させた反応(co-translational translocation)によって、p∆pro がミクロソームに取り 込まれる可能性について調べた。 35 S メチオニン存在下、p∆pro mRNA と酵母ライセート翻訳系を混合し、20℃で 10 分間インキュベートした。そこへミクロソームを加えて 20℃で 0、10、30、60 分間イ ンキュベートした(Fig.4 レーン 1-4) 。その後、トリプシンによるプロテアーゼ消化 を行い、 ミクロソームに取り込まれてプロテアーゼ耐性になった分子種の検出を試み た。その結果、プロテアーゼ耐性になるバンドが観察され、p∆pro のプロ配列の切断 が観察された(Fig.4 レーン 5-12) 。Triton X-100 存在下でトリプシン消化を行うと、 ∆pro が消化されたことから(Fig.4 レーン 9-12) 、∆pro はミクロソームの中に存在す ると考えられた。このことから、in vitro において p∆pro は、翻訳と共役した膜透過反 応によってミクロソームに取り込まれると判断した。 5
  • 7. (3) 野生株由来のミクロソームを用いた∆pro の ERAD assay 次に、 ∆pro を取り込んだミクロソームに、 サイトゾル画分と ATP 再生系を加え、 30℃ で 0、10、30、60 分間チェイス反応を行った。チェイス反応後、トリプシン消化を行 い、 ミクロソーム中に残存している∆pro の量を定量した。 シグナル配列が切断された ∆pro は、 チェイス反応に従って減少していく様子が観察された (Fig.5A レーン 1-4)。 チェイス反応後にトリプシン消化を行った場合、 ∆pro のバンドの上部にスメアバンド が観察された(Fig.5A レーン 5-8) 。∆pro とスメアバンドの合計量は、チェイス反応 中にほとんど変化しなかった(Fig.5B) 。つまり、チェイス反応に従って∆pro は減少 するが、 そのほとんどは分解されずに、 何らかの修飾を受けていることが予想された。 Triton X-100 存在下でトリプシン消化を行うと、∆pro とスメアバンドともに消化され たことから(Fig.5A レーン 9-12)、∆pro と何らかの修飾を受けたバンドは、ミクロソ ームの中に存在すると考えられた。 (4) ∆pmt2 株由来のミクロソームを用いた∆pro の ERAD assay ∆GpαF の O 型糖鎖は、主として Pmt2p(Protein Mannosyl Transferase 2)によって付 加される(Harty et al., 2001)。∆pro が Pmt2p によって O 型糖鎖付加を受け、チェイス 反応中に高分子量側へシフトしている可能性を確かめるために、∆pmt2 株由来のミク ロソームを用いて(3)と同様の反応を行った。 p∆pro を∆pmt2 株由来のミクロソームに取り込ませ、サイトゾル画分と ATP 再生系 を加えて、30℃で 0、10、30、60 分間チェイス反応を行った。チェイス反応後、トリ プシン消化を行い、 ミクロソーム中に残存している∆pro の量を定量した。 シグナル配 列が切断された∆pro は、チェイス反応に従って減少していく様子が観察された (Fig.6A レーン 1-4) 。チェイス反応後にトリプシン消化を行った場合、∆pro のバン ドの上部にスメアバンドは観察されなかった(Fig.6A レーン 5-8、Fig.6B) 。チェイス 反応 60 分後に∆pro は約 20%減少したが、修飾は受けていなかった。Triton X-100 存 在下でトリプシン消化を行うと、∆pro は消化されたことから(Fig.6A レーン 9-12) 、 ∆pro は、ミクロソームの中に存在すると考えられた。このことから、野生株由来のミ クロソームを用いた∆pro の ERAD assay では、 ∆pro は O 型糖鎖付加を受けていること が示された。 6
  • 8. 4. 考察 出芽酵母において、ERAD の基質となるモデル異常タンパク質が分解されずに小胞 体内に残存した場合、 型糖鎖付加を受けるという現象が報告されている O (Harty et al., 2001) 。しかし、このような O 型糖鎖付加は in vivo では∆GpαF と∆pro(中務ら、投稿 中) vitro では∆GpαF についてのみ観察されているに過ぎない。そこで本研究では 、in O 型糖鎖付加のメカニズムをさらに詳細に解析するために、モデル異常タンパク質で ある∆pro を in vitro で合成し、酵母から単離したミクロソームに取り込ませ、∆pro の O 型糖鎖付加の試験管内再構成を試みた。 ∆pro を翻訳と共役した膜透過反応によって ミクロソームへ取り込ませることに成功し、 そこへサイトゾル画分と ATP 再生系を加 えると、∆pro は Pmt2p に依存して O 型糖鎖付加を受けた(Fig.5A レーン 5-8) 。 サイトゾル画分と ATP 再生系を加えるチェイス反応では、少なくとも∆GpαF を基 質とした場合、Ο型糖鎖付加とともに、サイトゾル画分に含まれるプロテアソームに よる分解も再構成される(McCracken and Brodsky, 1996; Harty et al., 2001)。Brodsky ら によると、 ∆GpαF の分解に必要十分なサイトゾルタンパク質はプロテアソームであり、 ユビキチン化は必要ないらしい(Werner et al.,私信、1999) 。つまりサイトゾル画分に は、∆GpαF の分解がおこるのに十分なプロテアソームが含まれていると考えられる。 それに対して∆pro を用いた今回のアッセイ系では、ミクロソーム内に存在する∆pro と O 型糖鎖付加を受けた∆pro の総量は、チェイス反応中にほとんど変化せず、分解 は再構成されていないと考えられた(Fig.5A レーン 5-8、Fig.5B) 。この理由として次 のことが考えられる。∆pro の分解は、少なくとも in vivo では、ユビキチン・プロテ アソーム経路に関与する因子が必要である(中務ら、投稿中) 。ミクロソームにサイ トゾル画分を加えた場合、プロテアソームは十分な量供給されているとしても、それ 以外の一連の因子が十分な量供給されていない可能性がある。そのため∆pro の場合、 野生株由来のミクロソームを用いているにも関わらず、 その多くが分解経路ではなく O 型糖鎖付加を受ける経路に移行したと考えられる (Fig.7A) このモデルでは、 vivo 。 in では ERAD の変異株中で分解経路が遮断されると、∆pro の O 型糖鎖付加が強く観察 される(中務ら、投稿中)ことと一致する。 N 型糖鎖付加は、小胞体膜透過と共役して、アンフォールドしたポリペプチド鎖の Asn-X-Ser/Thr というコンセンサス配列中の Asn 残基に付加される。N 型糖鎖は、膜 透過装置(Sec61p 複合体)の近傍に存在する糖転移酵素(oligosaccharyl transferase) の作用によって付加される。一方、O 型糖鎖付加は、膜透過と共役しておこるのか、 膜透過が完全に終了した後でおこるのかは明らかにされていない。O 型糖鎖付加を受 けた∆GpαF が Sec61p と化学架橋されることから、Pmt2p は膜透過装置の近傍に位置 する可能性が指摘されているが(Harty et al., 2001) 、Sec61p と Pmt2p が近接している ことの直接的な証拠にはなりえない。本研究で確立した、in vitro アッセイ系を応用す れば、Pmt2p と Sec61p の物理的な距離を推定できるかもしれない。例えば、p∆pro を 7
  • 9. コードする DNA の終止コドンの直前を制限酵素によって消化した直鎖状 DNA から、 転写、翻訳を行い、p∆pro、tRNA、リボソームの複合体を形成させる。この場合、翻 訳が終了しないために新生鎖の C 末端はリボソームに結合したままであり、 膜透過装 置を完全に通過することができずに膜透過中間体を形成することが期待される (Fig.7B)。そこへサイトゾル画分と ATP 再生系を加える。もし、膜透過反応が途中 で停止した∆pro が O 型糖鎖付加を受けることができれば、膜透過装置と Pmt2p は近 傍に存在することになる(Fig.7B) 。 糖鎖は多様な構造をもっており、 タンパク質への結合様式、結合する場所 (小胞体、 ゴルジ体など)も多様で、生物種によって様々である。出芽酵母の O 型糖鎖付加につ いても、authentic な基質は 10 種類程度しか知られておらず(Starahl-Bolsinger et al., 1996) 修飾の果たす役割もほとんど明らかにされていない。 、 本研究で取り上げた 「異 常タンパク質に対する O 型糖鎖付加」 という現象についても、 その詳しい生物学的意 義は不明である。本研究によって確立した in vitro アッセイ系と in vivo による解析の 両方を駆使し、 ∆GpαF の場合と比較することによりそのメカニズムと意義を解明して いきたい。 8
  • 10. 5. 謝辞 (省略) 9
  • 11. 6. 参考文献 Brodsky, J.L., Hamamoto, S., Feldheim, D., and Schekman, R. (1993). Reconstitution of protein translocation from solubilized yeast membranes reveals topologically distinct roles for BiP and cytosolic Hsc 70. J. Cell Biol. 102, 95-102. Fukuda, R., Umebayashi, K., Horiuchi, H., Ohta, A., and Takagi, M. (1996). Degradation of Rhizopus niveus asparitic proteinase-I with mutated prosequences occurs in the endoplasmic reticulum of Saccharomyces cerevisiae. J. Biol. Chem. 271, 14252-14255. Harty, C., Strahl-Bolsinger, S., and Römisch, K. (2001). O-mannosylation protects mutant alpha-factor precursor form endoplasmic reticulum-associated degradation. Mol. Biol. Cell 12, 1093-1101. McCracken, A.A., and Bordsky, J.L. (1996). Assembly of ER-Associated Protein Degradation In Vitro: Dependence on cytosol, Calnexin, and ATP. J. Cell Biol. 132, 291-298. Starahl-Bolsinger, S., Gentzsch, M., and Tanner, W. (1996). Protein O-mannosylation. Biochim. Biophys. Acta. 1426, 297-307. Umebayashi, K., Fukuda, R., Hirata, A., Hirouchi H., Nakano, A., Ohta A., and Tagagi. M. (2001). Activation of the Ras-cAMP Signal Tranduction Pathway Inhibits the Proteasome-independent Degradation of Misfolded Protein Aggregates in the Endoplasmic Reticulum Lumen. J. Biol. Chem. 276, 41444-41454. Werner, E.D., Brodsky, J.L., and McCracken, A.A. (1996). Proteasome-dependent endoplasmic reticulum-associated protein degradation: an unconventional route to a familiar fate. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93, 13797-13801. 10
  • 12. リボソーム 5' mRNA 3' 26Sプロテアソームに よる分解 Sec61p Sec61p 異常タンパク質 正常タンパク質 ゴルジ体以降へ Fig.1 小胞体品質管理機構   タンパク質はリボソームで合成された後、小胞体に取り込まれる。正しい高次 構造を形成したタンパク質は、ゴルジ体以降に輸送される。異常タンパク質に ついては分子シャペロンが凝集体形成を阻止し、高次構造形成を助ける。最終 的に正しい高次構造を形成できなかった異常タンパク質はSec61p複合体を通じ てサイトゾルへ逆向き輸送され、プロテアソームによって分解される。
  • 13. pDGpaF Dpro 泳動量 2 ml 4ml 2 ml 4m l M 46.0 kDa 30.0 kDa 20.5 kDa レーン 1 2 3 4 Fig.2 pDproの翻訳反応   35 Sメチオニン存在下、酵母ライセートの系を用いてpDGpaF とpDproの翻訳反 応を行った。反応は20℃で60分間行った。翻訳後の溶液をそれぞれ2 ml、4 ml ずつ泳動した。
  • 14. - + + - - + 0 10 30 60 0 10 30 60 0 10 30 60 pDpro レーン 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 Fig.3 pDproの翻訳終了後の膜透過反応 [35S] Met存在下、pDproをyeast lysateの系によって翻訳し、ゲルろ過によって フリーの[35S] Metを除去した(レーン1)。ゲルろ過後の産物にRSY607由来 のミクロソームを加え、20℃で0、10、30、60分間インキュベートし、膜透過 反応を行った。その後、氷上で30分間トリプシン(終濃度0.5 mg/ml)、 Triton X-100(終濃度1 %)処理を行い、TCA沈殿をした後、電気泳動した。
  • 15. トリプシン - + + Triton X-100 - - + min 0 10 30 60 0 10 30 60 0 10 30 60 pDpro Dpro レーン 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 Fig.4 pDproの翻訳と共役した膜透過反応 pDproのmRNAを35Sメチオニン 存在下、酵母ライセートの翻訳系と20℃で10 分間あらかじめインキュベートした。そこへRSY607由来のミクロソームを加 え、翻訳と膜透過を共役させた反応(co-translational translocation)を20℃で 0、10、30、60分間行った。その後、氷上で30分間トリプシン(終濃度0.5 mg/ml)、Triton X-100(終濃度1 %)処理を行い、TCA沈殿をした後、電気泳 動した。
  • 16. A - + + - - + 0 10 30 60 0 10 30 60 0 10 30 60 ★ pDpro Dpro レーン 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 B 140 トリプシン耐性となったDpro(スメア 120 バンドも含む)の残存量(%) 100 80 60 40 20 0 10 20 30 40 50 60 chase (min) Fig.5 野生株由来のミクロソームを用いたDproのERAD assay   A) 翻訳と膜透過の共役反応(co-translational translocation)によってpDproを SEY6210由来のミクロソームに取り込ませた。取り込み反応後、ミクロソー ムを回収し、B88で一度洗浄した。そこへ、サイトゾル画分(終濃度6 mg/ml) とATP再生系を加え、30℃で0、10、30、60分間インキュベートした (chase反応)。その後、氷上で30分間トリプシン(終濃度0.5 mg/ml)、 Triton X-100(終濃度1 %)処理を行い、TCA沈殿をした後、電気泳動した。 ★はDproの高分子量側でトリプシン耐性となっているスメアバンド。  B) AのDproと高分子量側とのスメアバンド合計を定量し(レーン5-8)、 +トリプシン、-Triton X-100の場合でchase 0 minを100%として定量した。
  • 17. A - + + - - + 0 10 30 60 0 10 30 60 0 10 30 60 pDpro Dpro レーン 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 B 140 トリプシン耐性となったDproの残存量(%) 120 100 80 60 40 20 0 10 20 30 40 50 60 chase (min) Fig.6 Dpmt2由来のミクロソームを用いたDproのERAD assay   A) 翻訳と膜透過の共役反応(co-translational translocation)によってpDproを Dpmt2由来のミクロソームに取り込ませた。取り込み反応後、ミクロソームを 回収し、B88で一度洗浄した。そこへ、サイトゾル画分(終濃度6 mg/ml)と ATP再生系を加え、30℃で0、10、30、60分間インキュベートした(chase反 応)。その後、氷上で30分間トリプシン(終濃度0.5 mg/ml)、Triton X-100 (終濃度1 %)処理を行い、TCA沈殿をした後、電気泳動した。  B) AのDproについて(レーン5-8)、+トリプシン、 -Triton X-100の場合で chase 0 minを100%として定量した。
  • 18. A サイトゾル側 リボソーム mRNA +サイトゾル画分 5' 3' +ATP再生系 Pmt2p Sec61p MM M M MM 小胞体内腔 M: マンノース ∆pro ∆pro 翻訳と共役した膜透過反応 O型糖鎖付加 B サイトゾル側 リボソーム mRNA 3' +サイトゾル画分 5' +ATP再生系 Pmt2p Sec61p MMMMMMM 小胞体内腔 ∆pro ∆pro M: マンノース ? 膜透過反応中間体 O型糖鎖付加 Fig.7   A) 本研究で構築したDproを基質としたO型糖鎖和付加のin vitroアッセイ系 B) in vitroアッセイ系の応用例(Pmt2pはSec61pの近傍に存在するか?)