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Tomohiko (TOMO) Hayashi
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出版学会プレゼンアップ用(PDF版)
1.
メディア論から見た
「電子書籍」論 2012年日本出版学会 春季研究発表会発表資料 林 智彦 ※本スライドは一部を除いて下記URLで閲覧できます。 h&p://www.slideshare.net/tomohikohayashi 1 出版学会2012/05/16
2.
この発表でいいたいこと 「電子書籍」についての議論には、過去のメディ ア受容史において見られたのと類似の論点が、 くりかえし現れている。 議論の空転を防ぐために、過去の議論と現在 の議論の「差分」を確認する。 その「差分」が本来の意味の「電子書籍」論。
出版学会2012/05/16 2
3.
構成 1.
「電子書籍」論の趨勢 2. 「電子書籍」論、主要な論者 3. 「電子書籍」論、主要な論点と分析 4. テクノロジー受容史と電子書籍 5. 外側から見た「電子書籍」論 6. まとめ 出版学会2012/05/16 3
4.
1.「電子書籍論」の趨勢
Google Trendsで「電子書籍」を検索 検索日時:2012/04/26 12:20 検索数全体の平均を1とした場合の指数 出版学会2012/05/16 4
5.
1.「電子書籍論」の趨勢
「電子書籍」関連記事(3全国紙+NHK) 1000 900 895 800 700 644 600 500 400 300 200 157 100 74 12 3 28 38 30 26 38 47 19 47 29 33 0 0 0 0 0 0 0 8 0 0 0 ソース:@Nifty新聞・雑誌記事横断検索 検索日時:2012年4月25日6時14分 出版学会2012/05/16 5
6.
1.「電子書籍論」の趨勢
「電子書籍」関連文献(国会図書館サーチ) 350 300 298 250 234 200 150 100 50 51 34 31 13 16 17 17 7 5 10 0 1 3 3 4 4 1987 1994 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 検索日:2012/04/25 出版学会2012/05/16 6
7.
1.「電子書籍論」の趨勢
「電子書籍」関連書籍(国会図書館サーチ) 検索日 2012/5/16 出版学会2012/05/16 7
8.
1.「電子書籍論」の趨勢
Google Trendsで「電子出版」を検索 検索日 2012/5/18 出版学会2012/05/16 8
9.
1.「電子書籍論」の趨勢
「電子書籍&セミナー」で検索 「電子書籍ANDセミナー」の検索結果(NHK+3全国紙+ビジネス 雑誌) 35 30 25 20 15 10 5 0 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 ソース:@NiEy新聞・雑誌記事横断検索 検索日時:2012/05/18 検索対象:NHKニュース、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、週刊ダイヤモンド、週刊エコノミスト、週刊東洋経済、日経BP雑誌横断検索 検索対象発行日:1999年〜2012年 出版学会2012/05/16 9
10.
1.「電子書籍論」の趨勢 まとめ 1. 「電子書籍元年」が到来したかどうかは定か
ではないが、「電子書籍論元年」は2010年で あった。 2. 99年、04年にも小さな盛り上がりはあったが、 データで見る限りは、今回のピークは比較に ならないほど大きい。 3. では、その中身は? 出版学会2012/05/16 10
11.
2.「電子書籍論」の主要な論者
佐々木俊尚氏 立入勝義氏 ジャーナリスト ソーシャルメディア・プロデューサー 『電子書籍の衝撃』 『電子出版の未来図』 西田宗千佳氏 山田順氏 ジャーナリスト 元光文社社員。作家。 『電子書籍革命の真実』 『出版大崩壊 電子書籍の罠』 前田塁(市川真人)氏 日垣隆氏 批評家 作家。 『紙の本が亡びるとき?』 『電子書籍を売ってみたけれど、やっぱり本が好き。』 田代真人氏 岸博幸氏 電子書籍出版社「アゴラブッ 慶応義塾大学大学院教授 クス」取締役 『アマゾン、アップルが日本を蝕む』 『電子書籍元年』 大原ケイ氏 文芸エージェント 『電子書籍大国アメリカ』 ※画像は基本的にそれぞれ著者公式サイトなどより 出版学会2012/05/16 11
12.
2.「電子書籍論」の主要な論者
植村八潮氏 萩野正昭氏 『電子出版の構図』 『電子書籍奮戦記』 村瀬拓男氏 中西秀彦氏 『電子書籍の真実』 『我、電子書籍の抵抗勢力た らんと欲す』 歌田明弘氏 津野海太郎氏 『電子書籍の時代は本当に来るのか』 『電子本をバカにするなかれ』 出版学会2012/05/16 12
13.
2.「電子書籍論」の主要な論者 • 「古参」の論者と「新参」の著者との間の温度
差 • 「どの時間軸で現象を見るか」という差も • 99年、04年との違いは、Kindle、iPadという成 功例→「変革は近い」という点では一致 • しかし、似た論点が何度も提示されている 出版学会2012/05/16 13
14.
3.「電子書籍」論の主要な論点
Ⅰ「中抜き」仮説 メディア論・社会論・文化論的な意味の「中抜き」 ※経済的な意味の「中抜き」は後述 「電子書籍の時代になると……こういう怪しいビジネスはもう成り立たなくなる。誰でも 本を出版できるようになるからだ」(佐々木) 「(音楽でおきた)潮流は、当然のように本の世界にもやってこようとしています。 第一に、ソーシャルメディアを駆使して書き手が読者とダイレクトに接続する…… 第二に、電子ブックによってパッケージとしての紙の本は意味を失い…… 第三に、セルフパブリッシングの世界では大手出版社かどうかは意味がなくなり…… 購読空間の中で同じようにフラット化していく」(佐々木) 「電子書籍は、情報の送り手と受け手を直接つなぐことで社会 を変革する」という見方。 ※赤字部分は後述 出版学会2012/05/16 14
15.
3.「電子書籍」論の主要な論点
Ⅰ「中抜き」仮説 メディア論・社会論・文化論的な意味の「中抜き」論の検討のベース (大衆)メディア論 大衆社会論 大衆文化論 電子テクノロジー論 出版学会2012/05/16 15
16.
3.「電子書籍」論の主要な論点
Ⅰ「中抜き」仮説 テクノロジーが消費者を生産者に変え、直接民主主義の理想を実現する、という主 張はこれまでも数多くなされている(テクノ・ユートピアニズム・エンパワーメント論)。 「大衆が作家になる」(エンツェンスベルガー『メディア論のための玉手箱』) 「プロシューマー」(ダニエル・ベル『第三の波』) 「スマートモブズ」(ハワード・ラインゴールド) 「We the Media」(ダン・ギルモア) 大衆メディア、ニューメディアは常に双方向的な「誰でもメディア」幻想をかきたててき た。新しいものではない→供給側だけでなく、需要側の要因も考える必要がある(メ ディア論版「セーの法則」 ) ※「書き手と電子ブックの間に入って電子ブック化のお手伝いをするディストリビューターは、いまアメリカでいくつも現れてきています」 (佐々木)→「中抜き」論と矛盾? 出版学会2012/05/16 16
17.
3.「電子書籍」論の主要な論点
Ⅱ「電子書籍≠本」仮説 「電子書籍は本ではない」という議論。三つのタイプがある。 ①「電子書籍は紙の本の代わりではなく、別のもの。だから紙とのカニバリズムには ならない。むしろ出版社のチャンスは広がる」 ①B「電子書籍は本とは別のもの。そのため、出版社のノウハウが生きず、出版社 以外のプレイヤーが手がける」 ②「電子書籍は紙の本の代わりにならないし、そうすべきでもない、文化や文明に悪 影響を及ぼす」→Ⅳ文化破壊論へ ①、②はコンテンツとしての電子書籍の議論と、市場の議論が混在している。 コンテンツの議論としては、下記の2パターン。 「別のもの」A: マルチメディアを駆使したアプリ 「別のもの」B: レプリカであっても、目的、用途、経験が異なる 出版学会2012/05/16 17
18.
3.「電子書籍」論の主要な論点
Ⅱ「電子書籍≠本」仮説 ①②について、「市場」は、下記のどのパターンをたどるかによる パターン1:電子書籍と紙の本は パターン2:電子書籍と紙の本は一 パターン3:電子書籍と紙の本は一 完全代替=カニバリズム 部代替=カニバるが、トータルでプ 部代替だが、担い手は出版社では ラス ない 紙の本 紙の本 電子書籍 紙の本 電子書籍 電子書籍 紙の 本 パターン4:電子書籍と紙の本は 電子書 まったく別の市場 籍 出版学会2012/05/16 18
19.
3.「電子書籍」論の主要な論点
Ⅲ「プラットフォーム=垂直統合」仮説 左図は岸による。複数のレイヤーの 著者 コンテンツ 融合により、市場における支配力を 強 め る こ と が 、 ア マ ゾ ン や ア ッ プ ル、 編集者 グーグルの戦略であり、「垂直統合に 基づいたビジネスモデル」こそが電子 校正者 書籍事業成功のカギ」という主張が複 プラットフォーム 数の著者からされている(岸、佐々 カメラマン 木) しかし①技術的必然性からそうなっ レイアウター ているに過ぎないケースと、そうでな インフラ いケースを分けられるのか、②Apple 写植 のコンテンツでの売り上げは5%程度。 Googleはもっと少ない。コンテンツは 版下 ハードや他のサービスを売るための DTP業者 端末 エサでしかなく、Kindleの利用者も多 い。彼らの戦略をコンテンツの作り手 の見本とできるのか? 技術の進展で必 ※たとえば、iTunesには日本国内でも 要性が減少した 複 数 の デ ィ ス ト リ ビ ュ ー タ ー が あ る。 業種は多い。 「統合」していないわけである。 出版学会2012/05/16 19
20.
3.「電子書籍」論の主要な論点
Ⅳ「文化破壊」仮説 ①ナショナリズム的な意味の「文化破壊」論 コンテンツは文化を体現しています。しかし、米国ネット企業が他国の文化への愛 や理解に欠けることは、ネットの普及に伴って世界中で文化とジャーナリズムが衰 退を始めたという、これまでのネット帝国主義の経験から明らかです(岸)。 ……彼らのいう「守るべき日本の出版文化」とはなんなのだろう? 日本以外の国の 出版には文化的なものがないとでも言いたいのだろうか? それは外国仕様のガ ジェットやソフトウェアを使うと損なわれてしまう脆いものなのだろうか?……実のとこ ろは自分たちの既得権益にほかならない(大原)。 出版学会2012/05/16 20
21.
3.「電子書籍」論の主要な論点
Ⅳ「文化破壊」仮説 ①ナショナリズム的な意味の「文化破壊」論 ナショナリズム的な「文化破壊」論は、海外からのラジオ、テレビ、映画 作品の流入が、自国文化を脅かすとした「文化帝国主義」論と類似して いる。 例)ドラマ「ダラス」の輸出に対して世界中の批評家から批判 「我々はひとつの事実を受け入れなくてはならない。『ダラス』に人 気があるのは、多くの人がそれを見て楽しんでいるからであるとい う事実を」(トムリンソン) 同書は「文化帝国主義」の主張を子細に分析し、表面的な言説とは別の「意 図」が込められていることが多いことも明らかにしている。 「守る」といっても「何を」守るのか、誰が、どう決めるのか、不合理な制度も変えない ことが正義なのか、技術的変化にどう対応するのか、などの疑問が残る。 出版学会2012/05/16 21
22.
3.「電子書籍」論の主要な論点
Ⅳ「文化破壊」仮説 ②文明論的な意味の「文化破壊」論 「電子書籍が紙の本の 「人間」は……私たちの目の 出版を根絶やしにして 前で消えゆこうとしてい る……アルファベットで書か しまったら、その文化を れたテクストという支配的メ 再興することはほとん タファーが、コンピュータの ど不可能になってしまう スクリーンという別のメタ だろう」 ファーと正面衝突したので ある……罪悪感、良心、そし て自己は、識字世界におい 「紙の本が遠くない未 てのみ可能である。 来、これまで果たしてき た役割を終える」という ことだ……馬車が自動 車に置き換えられたよ りはるかに大きな質的 転換とともに 出版学会2012/05/16 22
23.
3.「電子書籍」論の主要な論点
Ⅳ「文化破壊」仮説 「本」の定義による。「字によって思考を伝える」という行為は、太古の昔から変わって いない→「人間」はそう終わらないのでは? 出版学会2012/05/16 23
24.
4.電子テクノロジー受容史と電子書籍
エーコ「黙示録派と取り込まれ派」 大衆文化の発展に対してこの世の終わりがきたかのように 言いつのる「黙示録派ApocalypUc」知識人と、批判精神を放 棄して耽溺する「取り込まれ派Integrated」知識人の両方を 批判、どちらも同じ文化現象の両面だとした。 グーテンベルク以降、本は読者を生み、読者は本を生んで きた。つまり、人間を離れたメディアはありえない。メディアと の自由なつきあい方をこそ追求すべきだとした(Eco)。 すべてのメディア、電子書籍にもあてはまる 出版学会2012/05/16 24
25.
4.電子テクノロジー受容史と電子書籍
エンツェンスベルガー対ボードリヤール論争 電子メディアの可能性をめぐる論争。 “電子メディアには解放的ポテン “電子メディアが実現するコミュニ シャルがある。プロレタリアート ケーションはコミュニケーションなん が奪い取ればいい” てものじゃない。むしろディスコミュ ニケーション” 出版学会2012/05/16 25
26.
4.電子テクノロジー受容史と電子書籍
繰り返される構図 断絶 ボードリヤール エンツェンスベルガー 前田塁 マクルーハン ラインゴールド 佐々木俊尚 小林弘人 ギルモア 主体性論 運命論 ウンベルト・エーコ 連続 出版学会2012/05/16 26
27.
5.外側から見た「電子書籍」論
1983〜1993 AppleのCEO 著書『スカリー』(原著は1987年刊。 邦訳は早川書房)で、タブレット・コン ピューター・スマートフォンの先駆け となる「ナレッジ・ナビゲーター」のコ ンセプトを提示。 92年、Newtonを発表。Newtonのた めにARMを設立、このARM系CPUは、 スマホ、タブレット等モバイルデバイ スで圧倒的なシェアを誇っている。 「ナレッジ・ナビゲータ」が実現する世 界、それはコンテンツとデバイスが 渾然一体となった「コンバージェン ス」の世界。 「コンバージェンス」は90年代〜21世 紀初頭まで、メディア企業のコングロ マリット化を促すバズワードとなった。 出版学会2012/05/16 27
28.
5.外側から見た「電子書籍」論
出版学会2012/05/16 28
29.
5.外側から見た「電子書籍」論
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まとめ 「電子書籍」論は、「出版(界)は」「編集者は」「本は」どうする、どうなる、というように、 「既存のメディア」を主語に置きがち。→既存のプレイヤー同士をどのように合従連衡 (垂直統合を含め)させるか、という話になる。 しかし、テクノロジー企業など、外部のプレイヤーからは別の絵が見えている。「垂直 統合」は「最適な経験を届ける」サービス開発の結果でしかない。 「誰でもメディア化」という言葉は、個人がメディアになれる、という意味ではなく、メ ディアとメディア以外の境界がなくなっている、メディア業界が草刈り場になっている、 という意味に解すべき。
「電子書籍」論は、「メディア」を主語としないメディア論、「出版」を主語としない出版 論への脱皮が必要ではないか。 出版学会2012/05/16 30
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おまけ 「電子書籍」論は、なぜ居心地が悪いのか? 【答え】今まで考えなくてすんでいたことを、考え なくてはならないから
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【今後の方向性】「電子書籍論」の5つの次元
1.文化 • 理念 • コンテント • 行為としての読書 • 編集 • 「形」としての本 2.主体 • 本の定義 • 出版の本義 5.発見と評価 • 読者 • 国民文化 • ディスカバビリティー • 筆者 • 検索 • 編集者 • 評価 • 印刷会社 • 取次会社 • ランキング • 書店 • リコメンド • 評者 • 書評・レビュー • 出版社(者) • 図書館 電子書籍論 • 書誌 • 店頭ポップ • ナショナリティ 4.ビジネス 3.技術 • コンテント • プラットフォーム • 通信方式・帯域 • 流通 • デバイス • ストア • フォーマット • 価格 • プラットフォーム • 産業構造 • 書誌 • 補助金 • データ形式 • ユーザー • フォーマット
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【今後の方向性】5つの次元の相互作用
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【今後の方向性】出版のアクターの役割(これまで)
5.発見と評 アクター 1.文化 2.主体 3.技術 4.ビジネス 価 著者 ? ○ ? ○ △ 編集者 ○ ○ ? ? ○ 読者 ○ ? ? ? △ 印刷会社 ○ ? ○ ○ ? 取次会社 ? ? ? ○ ○ 書店員 ○ ○ × ○ ○ 書評者 ○ ? ? ? ○
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【今後の方向性】 コンピューター装置の特性にしたがって《書物》へと働きかけ ていったとき、私たちの愛するこれまでの書物の領域の隣に、 そういう書物とはまるでちがう何かしらが生まれて、新しい ジャンルを形成し、わたしたちの知らなかった何かしら魅力的 な効果を発揮する……。 この本には結論はない。この本はわたしたちのまだ知らぬ何 のほうへと開かれている。 『書物について』(清水徹)
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参考文献(スカリーの図)
出版学会2012/05/16 37
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