1. 02.10.04 EBM in Medical and Nursing
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医学教育・看護教育とEBM
名古屋大学大学院医学研究科
救急、集中治療医学
福岡敏雄
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あなた自身を振り返る
n あなたの「思い」を振り返る
n メモ用紙や資料の隅に、以下の質問に対する今
のあなたの答えを記入してください
n 「EBM教育とは、どのようなことを教えることだ
と思いますか。EBMを教えようとしている人は、
何を重要視し何を軽んじるように教えるでしょ
うか。」
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今日のメニュー
n EBMのステップを教える
n いくつかの実例
n 学生教育
n 看護婦の生涯学習
n EBMの教材と教育手法の位置づけ
n EBM cubeのどこから始めるか
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EBMの手順
5つのステップに分けられる
n 出発点:ある状況での判断に有用な情報を手に入れたい!
n Step 1:今、判断を求められている課題をまとめる。
n Step 2:その課題に基づいて最も妥当な情報を探す。
n Step 3:手に入れた情報を批判的に吟味する。
n Step 4:その吟味結果を基に判断を下す。
n Step 5:一連の作業を振り返る
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EBMの手順と教育のポイント
n 出発点:ある状況での判断に有用な情報を手に入れたい!
n Professionalism
n Step 1:今、判断を求められている課題をまとめる。
n 具体的な課題から疑問を抽出する
n Step 2:その課題に基づいて最も妥当な情報を探す。
n 具体的な疑問から検索式がたてられるか。適切なデータベースが選べるか。一
見して、どれが妥当性が高いかの見当がつけられるか
n Step 3:手に入れた情報を批判的に吟味する。
n 具体的な課題と情報を手にして吟味を行う
n Step 4:その吟味結果を基に判断を下す。
n 課題に対する判断を促す。情報だけでなく、常識や想い、願いも含めて判断す
ることを勧める。
n Step 5:一連の作業を振り返る
n 過度に結果に縛られることなく、プロセスを評価し改善する方法を勧める
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EBM教材の例
n 疑問を作るためのシナリオ
n チュートリアル教材の例
n ICUにおけるクリニカルクラークシップ
n ICU看護師のワークショップ用教材
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学生の講義資料から:疑問を作る
n 君の友人には2年前からつきあっている彼女がい
た。2人は傍から見ていて羨ましいほど仲が良く、
友人は彼女と将来結婚しても良いと言い始めて
いた。
n その友人が、突然連絡を取ってきて会ってほし
いという。会ってみると、彼は途方にくれてい
た。話を聞くと、彼女は妊娠し、しかも血液検
査の結果,彼女がHIV陽性であることも判明した
という。
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学生の講義資料から(続き)
n 彼はこう嘆いた
n 「お腹の中の子は僕の子だ。でもこのままだと彼
女はどうなる? 子どもはどうなる? 僕はどうす
ればいい?」
n 彼女は悲嘆にくれながらも、感染症専門医と相談
を始めているという
n あなたは、今の彼と彼女にどのような情報が必要
なのか考えてみよう
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最初に学生が抽出する課題
n 彼女はどこで感染したんだろう
n →確かに疑問ではあるが…
n 彼は大丈夫か
n →確かに「彼」にとっては重要
n HIVウイルスとはどんなウイルスか
n →RNAウイルスで、リンパ球などに感染して…
n →何のための疑問かにこだわる。そのために、疑問を
臨床での判断・行動に結びつけることを強調する。
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学生の抽出する課題
もう少しがんばると疑問が変わる
n 子供にHIVを感染させないようにするために何か方策はない
か?
n 具体案は?→帝王切開、抗ウイルス薬内服、母乳の制限など
n 子供がHIV陽性になる確率は? 産むべきかどうか? 感染
したらどのような経過をたどるのだろう?
n どれくらいだったら、生むのをあきらめるだろう。
n 彼女が今後AIDSを発症する確率は? 彼女の生命予後は?
n 具体的には?→血液のウイルスの量、年齢、その他の合併症など
n そもそも、彼女はHIV陽性なんだろうか? どんな検査で判
定したんだろう?それは信頼できるんだろうか?
n 検査の感度特異度は? そもそも日本人の妊婦がHIV陽性である確率
はどれくらいだろう?
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課題・問題をまとめる
問題の定式化:EBM業界用語
n どんな患者に:Patient
n どんなことをすると: Exposure (Intervention)
n (何に比べて: Comparison)
n どうなるか: Outcome
n 「PECO」あるいは「PICO」とまとめられる
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学生の抽出する課題
PECOにまとめる
n 妊娠○ヶ月の妊婦に、AZTを中心とした抗ウイルス薬
を投与すると、投与しないのに比べて、子供への垂直
感染が減るか。子供や母親への悪影響はないか。
n 母児間の垂直感染を起こした子供の場合、その後の経
過の中で、AIDSの発症や日和見感染、死亡などの危険
性はどうなるか。
n HIV陽性の母親が、妊娠を継続すると、中絶するのに
比べて、AIDSへ進行する危険性が増すか。
n 日本人の妊婦で、HIVのスクリーニング検査が陽性で
あった場合、HIV陽性である確率はどれくらいか。
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問題の定式化の利点
n 問題がはっきりすれば、検索も容易になる。
n 脳卒中の患者に、発症直後からリハビリテーションを行うと、急性期
に安静にするのに比べて、ADLが改善するか。死亡率は。QOLは。患者、
家族の満足度は。などなど。
n Stroke, Rehabilitation or Physiotherapy, QOL,+質の高い研究を引く
ためのkeywordsを加える
n ぎっくり腰の患者に、安静にするよう指導すると、通常の運動を許可す
るのに比べて、痛みの期間が短くなるか。
n 問題を定式化すればどんな情報が必要かがはっきりして、その後の作
業が絞られ、結果的に求める情報を得る可能性が高まる→ステップ2
の情報検索の下準備にもなる
n さらに、質の高い情報のキーワードや、データベースを知っておけば、
効率よく質の高い情報にたどり着ける。
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チュートリアル用シナリオ
n あなたは、卒後6年目の外科医である。現在、地方の診
療所をまかされ一般的な診療を行っていた。
n あるとき52才の男性が急な腰痛を訴えて来院した。昨
日材木の運搬中に急に腰が痛くなり、一時立てなかっ
たという。本日の朝になっても腰痛が改善しないため
に来院した。診察の結果、下肢の運動や知覚に異常は
なく、両上下肢の腱反射も正常であった。異常反射は
認めなかった。
n 腰椎4方向のレントゲン写真をとったが、椎体の並び
(アラインメント)は正常、椎体の圧迫骨折や変形、
椎体間の狭小化、などの異常はなかった。
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チュートリアルの流れ
n 毎週金曜日の午後 連続3週間
n 第1週
n シナリオの提示と疑問の定式化
n 情報検索
n 第2週
n 入手した情報の紹介とその吟味と結果の解釈
n 第3週
n 入手した情報、その他に基づく判断と患者への説明
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学生の課題と情報吟味
n 「急性腰痛にコルセットは有効か」
n →やや古いRCTを見つけて吟味した
n コルセットはやや有効であるよう。もし、本人がつけてもよいという
のならつけてもらおう。いやなら、そのままでも良さそう
n 「急性腰痛にはどのような疾患があるか」
n →日本での調査から頻度を紹介
n ガンや感染症を否定する必要がありそうだが、あまり頻度は高くない。
とりあえず、痛みのコントロールをして経過を見るのがよさそう。
n 「NSAIDは有効か」「安静にさせるべきか」
n →システマティックレビューを見つけ、これを吟味
n NSAIDは経過中の活動を改善する。鎮痛効果はあまりなく鎮痛剤の方
がよい。安静の指示よりも、できれば動きなさいと言う指示の方が回
復が早そう。
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クリニカルクラークシップ
n 名古屋大学におけるクリニカルクラークシップ
n 時期:6年生の4月から7月中旬
n 期間:7週間×2科
n ICUにおけるクリニカルクラークシップ
n 第1週:オリエンテーション
n 第2,3週:患者の申し送りとサマリー記載
n 第4,5週:院外救急外来実習
n 第6,7週:課題のまとめ
n 学生の課題から情報を検索しまとめる。
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ここ5年間で私の周り(ICUで)で起
きた変化
n 栄養投与が静脈ではなく経腸栄養になった
n 抗菌薬の投与を止める症例がみられるようになった
n 手術室で抗菌薬を投与する症例が増えた
n 少しくらいの貧血は輸血しないで様子を見るようになった
n 低用量のドーパミンの使用が減った
n 心筋梗塞患者でアスピリンがほとんど投与されている
n だらだら、タンパク製剤を投与する症例が減った
n グロブリン製剤は積極的に使うようになった
n 複数の抗菌薬を同時に使う症例が減った
下線部は学生のまとめた課題に関連のあるもの
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日本集中治療医学会看護部会
EBN実践講座2000-2002
n 2000年から3年計画でのワークショップ形式
(小グループ形式、問題解決型)での文献の批
判的吟味と判断の実践
n 毎年行われる学術総会に合わせて行った。
n 前日のプレワークショップレクチャーとミーティン
グ
n 学会終了後土曜日の午後を利用した半日コース
n 2002年には文献検索演習も行った。
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日本集中治療医学会看護部会
EBN実践講座2000-2002
n 課題 いずれもランダム化比較試験
n 2000年心臓外科手術の術前剃毛はやめた方がよいか
n 2001年人工呼吸中の患者への持続鎮静剤は時々中止
した方がよいか
n 2002年抗菌薬を含む薬剤での口腔ケアは肺炎を予防
するか
n いずれも、ICUで看護師の処置や判断が関わる医療
行為を題材とした
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今日のメニュー
n EBMのステップを教える
n いくつかの実例
n 学生教育
n 看護婦の生涯学習
n EBMの教材と教育手法の位置づけ
n EBM cubeのどこから始めるか
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EBM教材開発のポイント
n 患者・課題・シナリオから始める
n 何のための疑問かを整理する
n 臨床での判断に結びつけることを強調する
n そこには、文献・情報だけではなく、様々な諸事情
や、想いや願いを含めてもよいことを勧める。
n 常に最終的な目標、A)実際の患者・課題、B)自
分での検索、C)現場の判断に反映、を念頭に置
く
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EBM教育のピットフォール
n 課題の想定も、読むべき文献もなく、教科書で
疫学・統計学を教える
n 論文・研究の良し悪しを教えるにとどまり、そ
の上でどうすればよいか考える機会を与えない
n もっとよくしたいと願って悩んでいる人に焦点
を当てず、現場での障害や不足を強調する
n 論文・研究の結果が最も重要であるというEBMへ
の誤解を広める。
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n EBM教育とは、どのようなことを教えることだと
思いますか。EBMを教えようとしている人は、何
を重要視し何を軽んじるように教えるでしょう
か。
n I can change. You can change. Everybody
can change.