12. 原書版は形容詞など単語レベルで話が密接に結合されている(例1:new)
• 上表からは「0 to 1はnewなものを生み出すこと」→「過去に起きてきた発展もnewなものに
よる」→「バブルで期待されたのもnew」→「PayPalがやろうとしたのもnew」→「newによ
る独占はよいことだ」/「だけどnewなだけでは失敗することもある」/「newなものが作り
づらい分野が存在している(創薬)」という、章を越えて存在する理路の流れが明確に読み取れ
る
役割 原書版 日本語版
後の議論で用いる
二項対立の設定
(new old)
“Vertical or intensive progress means doing new things — going from
0 to 1.”
「もうひとつの垂直的進歩、または集中的進歩とは、新しい何かを行
うこと、つまりゼロから1を生み出すことだ」p.24
過去にあった
newの具体例
“They created new sources of wealth only rarely, …”
「富の源泉はめったに生み出されず、」p.27
( 原文に new があったことが読み取れない! )
newに関わる概念の
紹介
“New technology tends to come from new ventures — startups.”
「新しいテクノロジーを生み出すのは、だいたいベンチャー企業、つ
まりスタートアップだ。」 p.28 (newが1つ消えている)
歴史的な用語との
すり合わせ(二項対立
が一致すると暗示)
“By indirect proof, the New Economy of the internet was the only way
forward.”
「消去法でいくと、インターネットによるニューエコノミーに頼るし
か道はなかった。」p.35
過去にあった
newの具体例
としてPayPalを紹介
“… we wanted to create a new internet currency to replace the U.S.
dollar.”
「僕たちはドルに代わる新たなインターネット通貨を創ろうとしてい
た。」p.37
newなだけでは必ず
しも成功しないと主
張
“When you hear that most new restaurants fail within one or two years,
…”
「新しいレストランのほとんどが一,二年以内に潰れると聞けば、
…」p.50
newが0から1、即ち
ない領域を開拓する
ことを表現
“Creative monopolists give customers more choices by adding entirely
new categories of abundance to the world.”
「クリエイティブな独占企業は、まったく新しい潤沢な領域を生み出
すことで、消費者により多くの選択肢を与えている。」p.55
過去にあった
newの具体例
“Creative monopoly means new products that benefit everybody and
sustainable profits for the creator.”
「クリエイティブな独占環境では、社会に役立つ新製品が開発され、
クリエイターに持続的な利益がもたらされる。」p,58
“Zynga scored early wins with games like Farmville and claimed to have a
"psychometric engine" to rigorously gauge the appeal of new releases.”
「ファームビルなどのゲームが初期に大当たりしたジンガは、新製品の訴求
力を厳格に評価する「心理測定システム」があると吹聴した。」p.74
“In 1843, the London public was invited to make its first crossing
underneath the River Thames by a newly dug tunnel.”
「一八四三年、ロンドン市民はテムズ川の下に掘られたトンネルを初め
て渡った。」p.96 (newlyは消えている)
“ … that the number of new drugs approved per billion dollars spent
on R&D halved every nine years since 1950.”
「… 一〇億ドル単位の研究開発費に大して承認される新薬の数は、一
九五〇年依頼、九年ごとに半減しているという …」p.107
13. 章、あるいは書籍を越えてすら密接に結合されている(例2: moon)
• 本文中に単語moonは合計3度、1章と6章と8章に登場し、それらは恐らく意図的に編まれている
章 英語版 伝えたい主張
1
They looked forward to a four-day workweek,
energy too cheap to meter, and vacations on the moon.
月への旅行の一般化は(曖昧な
楽観主義の蔓延により)実現さ
れていない
6
Apollo Program began in 1961 and put 12 men on the moon
before it finished in 1972.
月面歩行は明確な楽観主義に基
づいた長期計画により実現され
た
8
“And take the hidden paths that run
Towards the Moon or to the Sun. “ (指輪物語からの引用)
大衆に認知されない隠れた真実
を見つければ、月面歩行クラス
の偉業ができるのではないか
• また、Googleの研究開発部門がよく使う単語としてmoonshotsがある
これもおそらくは意識している
https://www.solveforx.com/
• これらは英単語レベルや表現レベルでのレトリックであるため、日本語版だと発見しにくい
→ 原書を読もう
15. より深く読みたい人のために(1)
• Zero to One 原書版のオーディオブック
(朗読は著者であるBrake Mastersなので、強調が非常にわかりやすい)
• Internet Watchの記事 http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20150416_698116.html
ゼロトゥワンの上梓から約半年後、3章で登場したGoogleが検索分野でEU競争法(独占禁止法)に違反とEUの機関が届け出た
• 『天才!成功する人々の法則』(原著 Outliers , Malcolm Gladwell)
6章, 7章はこの本に対する書評を兼ねている気がする…読むと生年月日に対する捉え方がまるで変わる
• J.F.ケネディのスピーチ https://en.wikipedia.org/wiki/We_choose_to_go_to_the_Moon を踏まえたGoogleのCM
Moonshot thinking https://www.youtube.com/watch?v=0uaquGZKx_0 (2013年アップロード) we choose to go to
the moon in this decade and do the other things, not because they are easy, but because they are hard, … 更にCM中
にはimpossibleという語も出てきており、8章のeasy, hard, impossibleの3項対立の発想元になっている気がする
• Physical Menaces to Long Term Sustainability (地球の長期的持続可能性に対する脅威群)
http://www-formal.stanford.edu/jmc/progress/menaces.html
「人工知能」という言葉を初めて用いたとされる、楽天家の学者 J. マッカーシーの文章
ティールと違って「現状のテクノロジーでも燃料問題は解決できる」と考えており、対照的
• 『HARD THINGS -答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか-』(ベン・ホロヴィッツ)
ティールと同じくドットコムバブルで生存したスタートアップ・ラウドクラウドの物語
「ドットコム・バブルの破裂と同時にラウドクラウドの顧客の大部分は倒産し、
われわれのバランスシートは壊滅状態に陥った」
• 「おわりに」に出てくる哲学者ニック・ボストロムのTEDでの講演
http://www.aoky.net/articles/nick_bostrom/what_happens_when_our_computers_get_smarter_than_we_are.htm
• 日本語版に関する書評 http://m0ch1.hatenablog.com/entry/2015/08/02/223932
「ティールは全ての章で同じ論理構造を用いている」という視点のもとで要約しており、非常に明快
『ゼロ・トゥ・ワン』は半ば信じられないほどにハイコンテクストな文章(理解の前提となる知識が多い文章)です
16. より深く読みたい人のために(2)
• CS183のノート http://blakemasters.com/peter-thiels-cs183-startup
本の出典元となった、米国・スタンフォード大学での講義ノート
(ThielではなくBrake Mastersによるもの。書籍と比べると遥かに例が多く、詳細に説明されて
いる。たとえば6章冒頭のstrategically humbleのstrategicallyとはどういう意味か、など。また、
使っている語も書籍と異なる。曖昧な楽観主義の「曖昧」は、書籍ではindefiniteだが、ノート
ではindeterminate)
• 『綻(ほころ)びゆくアメリカ』(2014,須川綾子訳)
ティールの伝記が載っている。ゼロトゥワンだと彼は自らの挫折を「最高裁判所の面接で落ちた
こと」だとしているが、事実はもう少し長い。彼はその後の転職活動も連続で失敗し続けてい
る、就活失敗者なのである。
• Peter Thiel, technology entrepreneur and investor. AMA (『ピーター・ティールだけど
何か質問ある?』) http://www.reddit.com/r/iama/comments/2g4g95/peter_thiel_technology_entrepreneur_and_investor
In the class, I wanted to teach everything I knew about business.
In the book, the goal was to pack this three-month class into a very disciplined 200
pages. と言ったように、CS183と書籍の違いをティール自身が語っている
• 僕の書いた書評 http://windfall.hatenablog.com/entry/2015/06/16/121733
「就活失敗者としてのティール」という視点でまとめている
• 糸井重里とティールの対談録 http://www.1101.com/peter_thiel/
失敗からは学べないというティールの発想は、いちばんこれが分かりやすい