1. 上杉鷹山の経営学
【研修資料】
斉藤雄三

2. 上杉鷹山が赴任した時の米沢藩
 越後の上杉謙信の養子、景勝が秀吉の時代に会
津に移封された。その際の所領高は120万石。
 その後関ヶ原で石田光成の西軍に味方し、米沢
30万石に移封される。（減封左遷の処分）
 寛文4年に藩主綱勝が死んだ時に、相続の手続き
の不備で半分の15万石に減封される。
 会津120万石の時代からは8分の1に収入が減っ
てしまったにも関わらず、家臣を一人も整理してい
ない状況であった。

3. イビツな財務構造
 上杉家の家臣の数は、藩が開かれて以来6千人
台を確保。享保10年（1725年）になっても変わらず
5千人をキープ。
 この5千人の給与は、12万9500石と記録されてい
る。つまり、収入が15万石しかないのに対して、社
員の給与が13万石という、会社に置き換えればバ
カげた財務体質であった。
 一言で集約するならば、「入るを計らず、出を制せ
ず」の経営を行っていた。

4. 当時の中央政府（幕府）
 老中：田沼意次の重商主義により、経済は活性化。
しかし、賄賂が横行し、多くの反感を買った。
 田沼失脚の後、松平定信が老中となり「寛政の改
革」を断行。田沼の時代とは一転して緊縮財政を
行い、質素倹約を奨励した。しかし、経済は停滞。
 田沼時代の高度経済成長と、定信時代の低成長
時代が続いたのが、当時の中央の状況であった。
 太田南畝（狂歌師）
「白河の清きに魚の住みかねて、もとの濁りの田
沼こひしき」

5. 鷹山の考察：改革の失敗分析
 こういった政治・経済の状況の中で、若き鷹山は
独特の改革案を考え出した。
 鷹山はかつての将軍吉宗や宰相水野忠之による
享保の改革や、最近の松平定信の改革が、なぜ
成功しなかったのかを分析し、6つの理由に集約し
た。

6. 失敗の原因
①改革の目的がよく分からないこと。
②推進者が一部の幕府エリートに限られたこと。
③改革の実行部隊となる幕府の役人にも、趣旨が徹
底されていなかったこと。
④当然、改革の目的や方法が民に知らされずに、一
方的な押し付けになっていたこと。つまり、世論を
喚起するＰＲに欠けていたこと。
⑤改革が進んで幕府が身軽になれば、民の負担は
当然軽くなるべきが、逆に幕府が増税したこと。
⑥改革を進める役人（官僚）は全てエリートであり、
部下に対して指示・命令としてのみ方法を押し付
けたこと。

7. 根本的な原因
 以上の6点の分析をした後で、もっと根本的な大き
なことに鷹山は気付いた。
「改革の根本に優しさといたわり、思いやりが全く
欠けている」
そして、鷹山はこう結論付けた。
「全て、民と藩士に対する愛情の欠如だ」
 改革は勤倹節約だけを主目標に、じめじめした暗
いものであってはならない。厳しいけれど、未来に
希望を持って行う楽しい事業でなければならない。
「その為の灯は、私がトップとして掲げなければな
らない」

8. 改革実行に際し、鷹山が示したもの
１．改革を妨げる壁は３つある
①制度の壁 ②物理的な壁 ③意識（心）の壁
２．改革とはこの3つの壁を壊すことである。
－特に壊さなければならないのは心の壁である。
３．その為に、
①情報は全て共有する
②討議を活発にする
③その合意を尊重する
④現場を重視する
⑤城中に信頼と愛の念を回復する

9. その根幹にあるものは
 「改革の目的は、領民を富ませるためである」とい
う富民の考えがあった。
 そして、政治の基本に「徳」をおき、それを経済に
結びつけた。単なる質素倹約のみを一辺倒に進め
たのではなく、「生きた金」は惜しみなく使った。
 自らを「機関」と課し、私を脇においた。
【二宮尊徳（金次郎）】
「道徳なき経済は罪悪であり、
経済なき道徳は寝言に等しい」